No.156827

真・恋姫無双 EP.28 黄巾編(2)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
んー・・・。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2010-07-11 00:31:46 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4688   閲覧ユーザー数:4117

 風は迷っていた。口にはしないが、きっと稟も迷っている。何となく居心地が良くてここまで一緒に来たが、黄巾党の本拠地に向かう最後の街だった。この先の危険な戦いに付き合う理由は、二人にはない。恐らく、一刀たちもここで風と稟に別れを告げるつもりだ。

 

「どうしたらいいですかねー」

「にゃあ!」

 

 幌馬車で留守番をしていた風は、どこからか登って来た一匹の猫に問いかける。御者台には日が差して、ちょうどよくポカポカとしていたためやって来たのだろう。

 

「お兄さんは何やら、呂布ちゃんの分も用意しなくちゃいけないからと、張り切って準備をしているのです。だからここで数日の滞在となるわけですが、いったいどんな方法で本拠地に乗り込むのか、正直、興味はあるんですよねー」

「うにゃ……」

 

 体をダラーッと伸ばして眠る猫を見た風は、小さく欠伸を漏らす。

 

「何だか風も眠くなったのです……ぐう」

 

 猫に寄り添うように、風は深い眠りに落ちていった。暖かな日差しに抱かれ、心地よい。だからだろうか、とても不思議な夢を見た。

 何もない、真っ白な世界に風は一人で立っていた。

 

(ここはどこでしょうか?)

 

 キョロキョロとしていると、突然、轟音が空気を震わせた。風は音のする方に目を向ける。遙か上空から、巨大な日輪が落ちてきたのだ。

 

(すごく燃えているのに、何だかぽかぽかして暖かい光です……)

 

 まるで世界を包み込むように、日輪の光は溢れ出す。風は当然のように両手を高く上げ、落ちてきた日輪を受け止めた。なぜだかはわからないが、この日輪を地に着かせてはいけない気がした。

 

(こうして日輪を支えるのが、風の役目なのでしょうか……)

 

 だとすれば、その日輪とは誰のことなのか。見上げた日輪には、屈託のない笑みで人々と接する彼の顔が映った。

 

(そういうことですかー)

 

 納得したように風は頷き、晴れやかな心を表すように微笑んだ。

 

 

 春蘭が率いる先遣隊が近付くと、本拠地から黄巾党が出撃してきた。

 

「籠城する気はないようだな。よし! 迎え撃つぞ!」

 

 報告を聞いた春蘭は、馬上で大剣を構え速度を上げた。地鳴りが空気を震わせ、緊張感が高まってゆく。舞い上がる砂煙を視界に捉え、そして双方が何の策もなく激突した。

 

「大勢殺せば、褒美を出すぞ! 殺せ! 殺せ! 殺せー!」

 

 見るからに盗賊上がりとおぼしき、黄巾党の指揮官が叫んだ。その声を受けて野蛮な歓声が上がり、欲に眩んだ黄巾党は目の色を変えて剣を振るう。数の多さもあり、曹操軍はやや押され気味だった。しかし春蘭も、味方を鼓舞するように声を上げた。

 

「我が同胞たちよ! 奴らの薄汚い手で、家族を、友を奪われてもいいのか! その剣に託すのは、己の命のみではない! 我らの後ろに、何百万という尊い命があることを忘れるな! 我らの戦いは、その多くの命を守るための戦いなのだ! 誇りと勇気を胸に、進めー!」

「おおおおおおーーーー!!!!」

 

 最初は馬上から左右に大剣を振るっていた春蘭だが、やがて煩わしくなったように飛び降りると、演舞のように次々と襲いかかる黄巾党を打ち倒していった。

 

「てりゃあー!」

 

 軽々と振り回された大剣が、容赦なく首を、腕を、足を切り落とす。向かってくるのは、血に飢えた獣のような男たちばかりだった。

 人を殺すことに何の躊躇いもない、そんな目をした者たちだ。

 

「お前らは、黄巾党の前も多くの命を奪ったのだろう!」

「それがどうしたってんだ!」

 

 春蘭の言葉に、彼らは下卑た笑いを漏らした。

 

「ならば、遠慮はいらぬな!」

 

 カッと両目を見開いた春蘭が、荒々しいほどに敵を蹂躙する。その姿は、敵に恐怖を抱かせるのに十分すぎるほどだった。

 

 

 黄巾党の指揮官は、焦っていた。最初はこちらが優勢だったが、あの黒髪の女が暴れ出してから味方の腰が引けている。

 

「くそっ!」

 

 せっかく任された部隊が、このままでは全滅してしまう。いや、それは別に構わない。

 

(ここで手柄をたてれば、あの女たちを抱かせてもらえるんだ)

 

 彼は盗賊を率いていた。その彼の前に現れたのが、黄巾党の参謀だという黒装束の男だった。男は黄巾党に入れば、好きなものをやると言った。だから彼は、男の連れていた三人の女を抱かせて欲しいと願ったのだ。

 最初は隙をみて、奪い取ってやろうかと思った。しかし男はいつも、オークの護衛部隊を付けていたため迂闊に近寄れなかった。

 諦め掛けていた時、ようやく巡ってきたのがこの機会だったのだ。

 

(このまま諦められるかよ。仕方ねえ、切り札だったがアレを使うか――)

 

 指揮を任された時、もらったものがあった。

 

「心に鎖を付けてある。お前の言う通りになるはずだ。万が一の時は、使うといい」

 

 そう言って渡されたのが、この奴隷だった。まだ幼い子供のようではあるが、その力は黄巾党の中でも飛び抜けている。

 

「おい、あいつらを連れてこい」

「へい!」

 

 部下に命じ、戦況を見る。かなりの混戦だが、明らかにこちらが少ない。

 

「ちっ! 使えねえ奴らだぜ」

 

 倍以上いたはずの部下は、半分近くがやられていた。

 

「連れてきました!」

 

 部下が縄で縛って引っ張って来たのは、二人の少女だった。

 

「よし! 深追いはしなくていい。とりあえず、奴らを追っ払え! 行け、許緒、典韋!」

「はい……」

「わかりました……」

 

 門が開き、二人の少女はゆっくりと歩き出した。

 

 

 春蘭の大剣が宙を切り裂いた。

 

「どうした! かかってこい!」

 

 遠巻きに見ている敵に、春蘭は叫んだ。

 

「先程までの威勢はどこにいったのだ!」

 

 だが、向かってゆく者はない。春蘭の強さを、彼らは身に染みて知ったのだ。

 油断なく構えながら、春蘭は考える。

 

(まだ初戦……どうしたものか)

 

 以前、軽くぶつかって様子をみるだけのつもりが、熱くなってしまい敵を深追いした事があった。華琳や秋蘭にこっぴどく怒られ、お仕置きをされたのだ。

 

(怒られるのは……だがお仕置きは)

 

 思わずお仕置きを思い出し、春蘭はうっとりとする。

 

(前は私や秋蘭がお相手をしていたが、いつの間にか桂花が華琳様の閨に呼ばれていた)

 

 最近は色々と忙しかった。だから代わりに桂花を相手に選んだのだろう。わかってはいるのだが、華琳を取られたようで何か腹立たしい。

 

(ああっ! 何だか興ざめした。やはりもう、戻ろう。本隊もそろそろ到着するだろうしな)

 

 そう思って踵を返した春蘭は、何かを感じて振り返った。強い殺気と、今までとは違う雰囲気を感じる。混戦の中、不意にそこが割れて二人の少女が歩いて来た。皆も、異様な雰囲気を感じ取っているのだろう。戦いを止めて、固唾を飲む者もいる。

 

「ただ者ではなさそうだな……」

 

 再び戦闘態勢に入り、春蘭は大剣を構えた。


 
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