ここ数日、街が騒がしかった。
何故なら、今までも十二分に多かった賊がさらに増したからである。
彼等の名は黄巾党。
そんな中、館に袁術からの使者が訪れた。内容は、漢王朝から大陸各地の諸侯に黄巾党の討伐命令が下されたと言う事。
しかし、それは同時に漢王朝が黄巾党を鎮圧するほどの力があらず、衰退しているという事実でもあった。
<一刀side>
「ん~・・・」
え~と、この構築で・・・駄目だな・・・。あ~、どうにも大佐の炎の錬金術は再現できんな・・・。かっこいいし、ここは火とか点けるのにも一苦労だから何とかして成功させたいんだけど・・・。
「一刀さ~ん」
「ん、穏? どうしたんだよ?」
「冥琳様が呼んでます~。軍議だそうですよ~」
「・・・何?」
なんで俺が?
「ほらほら~、もう祭様も待ってますし、行きますよ~」
「あ、あぁ・・・って、そんな引っ張らなくても行くから!」
やれやれ・・・しかし、いよいよ荒事が起きようとしてるな・・・。
覚悟を決めないとな・・・色々と・・・。
「遅いぞ、北郷」
「これでも急いで来たんだけど、祭さん」
「ふん、女を待たせるとは・・・罪な男になるぞ、お主」
「なんだそれ」
「コホン。さて、そろそろ始めるとするか・・・」
冥琳は咳払いそして、軍議の開始を宣言した。
「それにしても、いいのか?俺は別に、アメストリスで軍人だった訳でも、国家錬金術師でもなかったぞ?」
国家錬金術師と一緒に行動してたけどさ。
「お前を客扱いする道理も無ければ、そんな余裕も無い。それに初めに説明した契約の中に、知恵を貸すと言う条件が入っていただろう?」
別に客ではないだろ?こっそり武器練成してるんだから。まだ、目立たないように少量限定だけど。
「軍なぁ・・・。確かに俺の国は、ほとんど軍事国家みたいなもんだったけど、俺自身は一介の錬金術師。軍を動かす事に関してはバリバリの素人だぞ?」
「構わん、気付いた事を言ってくれればよい。お前の発想は、私達には無い物がいくつも含まれている」
「了解・・・」
ったく、軍の狗と呼ばれる国家錬金術師のエドじゃなくて、何で俺がこんな事になるのやら・・・嘆いても変わらんか。
しかし、なんでこんな庭で・・・いや、監視対策ってのは分かったるんだけど・・・なんか、場所が場違いな気がする・・・。あ~、だからこそか?
「それで、雪蓮は?」
「袁術に呼ばれて荊州の本城に向かっている。用件は十中八九、黄巾党討伐のことだろう」
黄巾党か・・・最初聞いた時は、抗菌党と間違えたっけ。綺麗好きの集団?と聞いたら祭さんに引っ叩かれた。
「それを見越して、儂らは準備ができ次第、この館を出発し、策殿と合流を果たす。」
「そしてそのまま討伐・・・と?」
「そうだ。さて、状況の説明を終えたところで、発生したいくつかの問題について意見を聞かせて欲しい。問題は三点。兵糧の問題と軍資金の問題。そして最後に兵数の問題。まず最初に兵数の問題だが・・・」
あれ? 最後の問題が、何故か最初の問題に・・・。
そんなくだらない事を、考えている内に話は進む。兵数はどうあがいても足らず、策を用いて対抗するしかないようだ。必要最低限と言う結果になった。
そして、軍資金の話となる。
「金の事は分からん、二人に任す」
祭さん、いきなり丸投げであった。
「現在、館にある金子は多くない。北郷にいくつか武器を作ってもらっても、補えたのは少量。しっかりと、武器や兵糧を揃えるためにも、集めないといけないが・・・」
「なんなら、もっと武器練成しようか?いっそのこと金塊でも・・・」
「駄目だ。何の前触れも無く増やせば、必ず袁術の目に付く。そうなればお前は、十中八九袁術に引渡しとなる」
それは困るな。
「逃げたら?」
「それを理由に、私達は踏み潰される」
よもや、実行しないよな? と目線が言ってるな、ありゃ。
「ったく、袁術ってのも我侭だよな~」
「ですね~」
「そうでなければ、毎回策殿が不機嫌な顔をせんさ」
本当に厄介な奴だな・・・。
「いっその事、そいつに出させれたら良いのにな。こっちも客将なんだし、命令するなら出す物を出せってさ・・・」
「ふん、あの我侭小娘がそんな奇特な事をするはずも無い」
祭さんはそう言う。
「だよなぁ・・・話で聞いただけだけど、そんな人間には・・・」
「・・・いや、いけるかもしれない」
へ?
「どういうことじゃ、冥琳」
「その前に、北郷。もし拒否された場合どうする?」
「いや、そんないきなり・・・」
「さっきと同じように思いつきで良いから、言ってくれ」
んないきなり言われても・・・。ええっとたしか、俺等は本隊相手。袁術は分隊を相手するだっけ。
「俺たちに両方とも叩かせなくて、袁術が分隊を相手するってのは、面子の問題なんだよな?」
「そうだな」
「だったら、俺等が先に分隊を蹴散らせたらいいんじゃないか?そうしたら、袁術は否が応でも本隊と戦うしかないだろ?」
「ふむ・・・」
「言っとくけど、これが無理ならってのはもう無しな。流石にこれ以上は思いつかないよ」
「おぉ~、なかなか良い案ですねぇ、それ」
「そっか? ただの他力本願な気が・・・」
「そ、そこは袁術をうまく利用する策って事にしてくださいよ~。せっかく見直してたのに~」
「でも、これも一種の等価交換だよな。働かせるには金を出せってな?」
それにしても、冥琳さっきから黙って。
「よし、それで行こう」
「む、なにがじゃ?」
「祭殿、北郷の案を採用するのですよ。我等の現状、これが手一杯かと思います」
「了解した。ならば、儂は伝令を発するか・・・」
祭さんはそのまま伝令を呼び、手紙に書くべき内容を伝える。そんなとき、冥琳の目線に気付き、俺は冥琳に質問をする。
「どうしたんだ?」
「いや・・・雪蓮の言う通り、案外な拾い物だったと思ってな。洞察眼も中々な物だ」
「まぁ、それなりに奇想天外な生き方をしてるからな」
錬金術師とか、ホムンクルスとか、ホムンクルスとか、ホムンクルスとか!!
「・・・ふむ、やはりそうするか・・・悩んではいたが・・・」
「何が?」
「北郷。お前も、出陣しろ」
は?何言ってんだ?
「そんなの、俺の案が可決された時からそのつもりだったけど?」
「・・・・・・・なに?」
何か、意外そうな顔をされた。
「なんだよ、その顔」
「いや、お前の国は比較的安定していると聞いていたのでな、戦となると難色を出すと思っていたのだ・・・」
「難色ならバリバリ出してるさ・・・だけど・・・」
「だけど・・・?」
「俺は、自分の責任から逃げない・・・どんなに辛い現実があっても、知らないでいる事は出来ない。それが、今までのたびで俺が学んできた事の一つだ」
何も知らずに、賢者の石を求めて旅をして、その実態の真実を知って、俺は本当に嫌気がさした。ヒューズさんの時もそうだった・・・。自分の無知さに・・・。
「その通りだ。お前の案が採用された今、おまえは自分が示した策の責任を取らなくてはならん。勝つにしろ負けるにしろ・・・おまえの策によって多数の人が死ぬことになるのだからな。」
「・・・・・だな」
俺はまだ内心複雑ではあったが、そう返事をした。それがこの世界の現実か・・・。いや、まだ実際には見てない。俺は、戦場でその現実を本当の意味で理解しなくてはならないんだよな。
どの道、汚れ役は場合によっては、するつもりだった。そう、エド達の・・・。あいつ等は、少しでも犠牲を出さないように行動している。だけど、犠牲がゼロなんて事はありえないんだ。どっかで誰かが必ず傷つく。
だから、あいつ等がどんなに頑張っても・・・本当にどうしようもない状況が目の前で起きるかもしれない。その時は俺がするつもりだった、それがたとえ自己満足でも。
・・・つっても、あいつ等の事だし、案外そんな状況になっても切り抜けられるかもな。心配するだけ、馬鹿馬鹿しいかもしんねぇ。
そして、戦が始まろうとしていた。俺達は雪蓮と合流をし、黄巾党に向けて行軍していた。
「いよいよ戦乱の幕開けね。ふふっ、ゾクゾクしてくるわ」
「合流して早々、過激な発言ありがとう」
「どういたしまして♪」
戦いの前と言うのは、気持ちを高ぶらせなくてはならない。悩むのは全て終わってからででも出来る。戦いの最中に悩んで死んでしまっては意味が無い。爺ちゃんの教えだ。
「しかし・・・いよいよ、戦場・・・殺し合い・・・か」
奇麗事を言うつもりは無い。いや、本当は言いたいけど無駄だろう。この世界の現状・・・それから考えれば甘いことなんて言ってられないだろう。アメストリスだって、建国当初は争いの耐えないものだと聞いた。それは、どの国でも同じだろう。不安定な国は、それだけ民も揺れているのだから。
「さぁ~て、さっさと黄巾党を皆殺しにするわよ」
でも、もうちょっと発言を控えてくれるとありがたい気がする。
「待ちなさい、世間の風評を得るためには圧倒的な勝利よ。圧倒的勝利とは、敵に与える損害が大きなこと、そして人の記憶に残るほどの痛快さが必要なの。たかが盗賊だからこそ、最も大きく損害を与え、最も痛快な勝ち方をしなくてはならないわ」
話し合いの結果、火を用いた策となった。
つまり、人が炎によって死んでいくと言う事だ。たとえそれが、どうしようもない賊であっても。だけど、俺は何も言わない。言えない。言うつもりも無い。
ただ、現実を受け止め・・・これからの糧にするために・・・。
「一刀?」
「ん?どうしたんだよ、雪蓮?」
「ううん、なんていうか、さっきから黙ってるから」
「・・・学んでるんだよ、気にしなくて良いから」
「・・・けど」
「それに、今俺が発言してもきっと甘えた事しか言わない。だから、いいんだよ」
「・・・・・そう」
雪蓮はそれ以上聞こうとはしなかった。一応、心配してくれてるか・・・。
「心配すんなって、足手まといにはなんないさ。それなりに場数は踏んでるし」
「ふふ、そっか。じゃぁ、いざと言う時は守ってね?」
「了解」
そんな会話をしていると、
「孫策様! 前方一里のところに黄巾党本隊と思しき部隊の陣地を発見しました!」
とうとう、戦へのカウントダウンが始まった。
「勇敢なる孫家の兵たちよ! いよいよ我らの戦いを始める時が来た!
新しい呉のためにっ!! 先王、孫文台の悲願を叶えるためにっ!
天に向かって高らかに歌い上げようでは無いか! 誇り高き我らの勇と武を!
敵は無法無体に暴れる黄巾党! 獣にも劣る賊共に、孫呉の力を見せつけよ!
剣を振るえっ! 矢を放てっ!正義は我ら孫呉にあり!」
その雪蓮の号令と共に、大きな活性を挙げる呉の兵達。その勢いは、対した動きも出来ない黄巾党達が適うものではなかった。
押されて、陣地へと戻る、黄巾党達に穏と冥琳の合図で、火矢が打ち込まれた。
当然の如く、どんなにしても減りはしない炎に慌てふためく黄巾党をさらに、畳み掛けるため総攻撃を開始した。
戦況は始めていった時のように、余りにも一方的なものであった。
燃える炎によって、焼き死んで行く黄巾党。そして、斬られて死んでいく黄巾党。そして、反撃を受け死んで行く味方の兵。
ここには、死が溢れていた。
そして思う、イシュヴァールもこんなだったのだろうか・・・。
いや、イシュヴァールの内乱はホムンクルス達によって起きた事件だ。
なら、今回の戦に当てはめるなら、黄巾党が軍で、罪も無い人達がイシュヴァール人と考えた方が良いだろう。
なら、今俺が感じている心の重さ異常の苦痛、苦悩をマスタング大佐やホークアイ中尉達は背負ったんだろう。
どこまで理解したんだろうか、俺は・・・。
そして、本当に背負いきれるんだろうか・・・。
「一刀さん・・・」
「・・・・・ん、どうした穏」
「そんなに思いつめた顔をしないでください」
穏は心配そうにそう言った。
「盗賊たちは弱い人から全てを奪いますから。お金、服は言うに及ばず、尊厳を奪い、命を奪う。餓えた獣と思わないと」
「・・・・・違うよ、穏。あそこにいるのは人間だ。人間は良くも悪くも強欲だ・・・」
―俺は強欲だからよ 金も欲しい! 女も欲しい! 地位も! 名誉も! この世のすべてが欲しい!!―
そういう意味では、グリードはれっきとした人であったよな・・・。
「あそこにいる奴等は、欲しい物の求め方を間違った人間だ。あれも人間の一面なんだ・・・」
その俺の言葉に、いつの間にか、冥琳も耳を傾けていた。
「だからって、別にあいつ等を殺すなとか、そんな甘ったるい事を言い出す気は無い・・・ただ・・・」
「ただ・・・なんだ?」
「俺は、殺した人間を獣と言って誤魔化したくない。そして、その上で前を見て責任を受け止める」
「責任を取れと私は言ったがな、北郷・・・・その責任の取り方は・・・重いぞ・・・」
「・・・かもな。ま、もし潰れそうになったら、そん時は皆が支えてくれ!」
俺は無理に笑いながら、そう言った。そして、歩き出した。
「ど、何処に行くんですか~?」
「雪蓮と祭さんの出迎え。俺何もしてないし、こんくらいな~」
俺は、片手を上げながらそういい、歩き続けた。
「やれやれ・・・吐かなかっただけマシかな?」
コレだけの大規模な争いは、初めてだったのにな。少しだけ、ホムンクルスや傷の男(スカー)との戦いに感謝しなくちゃな・・・。ほんの少しだけ・・・な・・・。
しかし・・・。
「人間相手よりも、ホムンクルス相手の方が気が楽ってのもまた変な話だ・・・・・」
まだ実際に、この手が血で染まった訳じゃない。けど、いつかは来るだろうか?その時、俺は・・・。
そんなことを考えながら、俺は歩き続けた。
―死から目を背けるな、前を見ろ。そして忘れるな―
俺の頭にはそんな言葉が浮かんでいた。
あとがき
・・・・・重!!そして、暗!!(自分的には)
一刀が厨二病的な思考をしていますが、仕方ないのです。彼のハガレン世界初期の頃は、うざい厨二キャラだったのだ!!
それにしても、戦とか・・・自分はこういう話が苦手です。日常万歳主義者です。さっさか、次ぎ行きましょうか。
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どうにも時間が取れない・・・。
なるべく、早くキャラを揃えたいんだけどな・・・。
特に亞莎は時間が掛かるかも・・・。
あと、小蓮もか。
まぁ、気長にやります。