はじめに
「あやかしびと」のBGM、「五位鷲」を聞いてたらこんな感じのが書きたくなりました。
ギャグなし、自己満足気味の内容なんで、
それを踏まえても読みたい方は是非読んで下さると嬉しいです。
内容は題名でわかるかもしれませんが魏のラストシーンです。
なんだか切ないBGMと共に読むとつたない文が際立ちます。
おもしろいかおもしろくないかは……当然アナタしだいです。
――――この世のすべては巡る。
生と死、始まりと終わり……出会いと別れ
行き着く先にはきっとどちらかがあり、どちらかがなくなる。
……なら、行き着く先がわかっているなら、何かを目指しがんばる必要なんかないんじゃないか?
少し世界が見え始めた子供の頃にそう思い、成長するにつれてそういう考えになる。
そしてそれはきっと普通の事だと俺は思っていた。
「曹孟徳。 誇り高き、魏……いや大陸の覇王」
しかし目の前の女性は違った。
例え行き着く先がわかっててもあきらめる事も投げ出す事もせず目指すものへとがんばり続けた。
終着がわかっていても、ただ懸命に自らが選んだ道を歩き続けるその姿……
「そうよ。それでいいわ」
きっと知っていたのだろう。
永遠に続くものはない。 けど一瞬一瞬がかけがえない時間で、それを繋げればそれが「永遠」だという事に。
……だから俺もそう気付けた、ここでずっと君を見てきたから……
……………
青い暗闇に、束の間の安らぎを得た森の中
完全なる闇の支配は、素顔を晒す月のせいで果たされる事は無いだろう。
そこに映る彼女を俺は見ていた。
語らない、けれど悟らせてくれたその背中を……俺は、「ここ」で見て来た。
変わらなかった光景、 いつもの立ち位置、 彼女の信念、 俺の誇り、
楽しい思い出、 悲しい記憶、 共に駆け抜けた日々、 隣で過ごした日常……
そしてそのどれもが残していく想いへと変わっていくこれからがある。
「華琳。 これからは俺の代わりに劉備や孫策がいる。 皆で力を合わせて、俺の知ってる歴史にない……もっと素晴らしい国を作ってくれ」
遠く、かすかに耳に届く……賑やかな喧騒達。
そこにはみんなで共にたどり着いた夢のカタチがある
「君になら、それが出来るだろ……?」
互いに譲れぬモノを賭けてぶつかりあい、互いの憎しみを捨てて手を取り合った
「ええ……あなたがその場にいないことを死ぬほどくやしがる様な国を作ってあげる」
望まれない、だけどすごく大切な経過を経て俺達はここまでやって来れた。
だから自然、 その場所はだれもが喜んで、みんなが笑う希望に溢れた場所……
「はは……そう聞くと、帰りたくなくなるな」
だけど、あぁ……俺がそこへ届く事はもう無いんだろう……
「そう……そんなに言うならずっと私のそばにいなさい」
人の一生は短く、その夢は儚い。
だったら一瞬でも辛い事は無い方がいいし、楽しく幸せに毎日を過ごせれば最高だろう けど……
「そうしたいけど……もう無理……かな?」
きっと、そんな平坦な道のりに価値はないんだ。
「……どうして?」
辛い坂道を登ればその先には楽な下り坂があり、
先の見えない迷路を辿ればその先にはきっと見晴らしのいい一本道に出る。
だから人は昨日よりも今日、今日よりも明日へと前に進めるんだって…………そう、今なら思える
「もう……俺の役目はこれでお終いだろうから」
だったら……進むと決めた道があるのなら、せめて後悔はしたくない
「……おしまいにしなければいいじゃない」
それがどんな終りを辿ったとしても、引き返す事なんて出来ないから……
「それは無理だよ、華琳の夢が叶ったことで華琳の物語は終端を迎えたんだ……
その物語を見ていた俺も、終端を迎えなくちゃいけない…………」
そう、例え望まぬものであろうと胸を張って受け入れるしかない
「……駄目よ。 そんなの認めないわ」
……だというのに、そんな事はおかまいなしで背を向けたまま喋り続ける彼女。
こんな時まで自分勝手な彼女だから、俺は心を揺さぶられてしまう……
「認めたくないよ、俺も……」
……しかし、全ては君こそが教えてくれた事、 だから君の言葉で俺が歩みを止めることは出来ない。
「どうしても……行くの?」
「ああ……もう終わりみたいだからね……」
気がつくと心地よく頬を撫でていた風が止んでいた。
月明かりが照らす幻想を、視界の端から徐々に白い何かが浸食していく……
「そう…………恨んでやるから」
無音の中、彼女の声だけが鮮明に聞こえる……
「ははっ、それは怖いな……。 けど、少し嬉しいって思える……」
……言葉だけが彼女に伝わる……口からはわずかな見得がでる……
「……いかないで」
……後悔はしない……けど、どうしよう ……切なくて、苦しくて心が破裂しそうだ……
「ごめんよ……華琳」
……でもそう……人は特別になれても……特別な事は出来ないから……
「一刀……」
…………だから……ありふれた言葉なんだけど……
「さよなら……誇り高き王……」
……精一杯の感謝と…………
「一刀……」
「さよなら……さびしがり屋の女の子」
……ありったけの謝罪と……
「一刀……!」
…………たった一つの気持ちを込めて……
「さよなら……愛していたよ、華琳――――」
……この物語の終わりを告げよう。 な、華琳………
………
「……一刀?」
……視界一面が白く塗りつぶされる。 もう何も見えない……何も感じない。
上下左右も前後もなく、自分がどこに居たのかさえわからなくなってきた……
「一刀……? 一刀……!」
自らを呼ぶ声が聞こえる……ははっ……最後の最後、素直に後ろを振り向いてくれたのかな…………だったらすごくうれしい……
「……ばか。 ばかぁ…………っ!」
……でも、そこにはもう……きっと俺はいないんだよ……華琳。
「本当に消えるなんて……なんで、私のそばにいてくれないの……っ!」
……けど大丈夫……君の周りにはたくさんの共に歩む人たちが居るんだから……
「ずっといるって……言ったじゃない…………! ばか……ぁ……!…………」
……
………唯一彼女の存在を知らせていた声もやがて儚く消えていく。
―――夢の終わり
未練がないといえば嘘になる
強がりだといえば本当の事
仕方が無かったといえば……それが真実だ
共に後悔しない道を選び、共に悲しい結末を迎えただけ
でも終わりを迎えれば、その次には始まりが訪れる
その華琳の新しい物語に俺はいないけど……
けど必ず、彼女は言ったとおりの俺が羨む道を歩いていく事だろう
……だから
だから俺もがんばれる、君に負けないように……この先で待っている俺の新しい物語を歩んでいく
せめてもの救いに、その先にまた二人の物語があると信じて……
俺は、俺たちは、違う明日を迎えよう………新たな始まりの為に
「ありがとう、忘れないよ華琳。 ……後馬鹿って言ったやつが馬鹿なんだぞ! ば~か」
目を閉じれば、彼方にある面影を頼りに…………
終幕
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ちょっとシリアス挟みたかったので。
すいません、本当すいません。
でも後悔はしません。