「明日は七夕か……」
「七夕ってなぁに?」
隣にいる桃色の髪の少女独り言を聞かれ質問される一刀。
一刀はどう説明しようかと考えながら少女の頭を優しく撫でる。
「そうだなぁ……。簡単に言えば恋人同士が一年に一度だけ会える日かな?」
「どうして一年に一度なの?」
一刀は少し詳しく説明をする。
「でも父様には関係ないね♪」
「どうしてだい?」
桃色の髪の少女――孫登は安心したように話す。
「だって、父様は母様と毎日会ってるもん。それに他の母様達とも」
他の母様達と聞いて、何やら居たたまれない気分になった一刀だった。
「そうだな~。蓮華たちには毎日会ってるもんな……」
そこで一刀は星が瞬く夜空を見上げた。
その表情はどこか寂しげであった。
「さて、子供はそろそろ寝る時間だ」
「むう。もう子供じゃないのに~」
むくれる孫登の頭を優しく撫でると嬉しそうにニコニコとする。
それを見てまだまだ子供だなと思う一刀。
そして二人はそれぞれの部屋に戻っていった。
翌日
まだ日の出から間もない頃、一刀は寝ていた。
昨晩は一人で寝たのか、隣には誰もいなかった。
「うふふ、おじゃましま~す♪」
扉が開き部屋に何者かが侵入してきたが、一刀は気付かずに熟睡していた。
「一刀……」
その人物は一刀の寝顔を見つめながら、切なく、そして愛おしそうに名前を呟く。
そして、
「どーん♪」
一刀の上に飛び乗った。
「うおっ! なんだっ!? 敵襲か!? 身体が動かない!? 金縛りか!?」
寝起きとは思えないハイテンションで錯乱する一刀。
やがてなぜ身体が動かないのか理解すると一刀は少し落ち着いた。
「なにしてるんだ雪蓮? …………ん?」
そこで一刀は何かに気付く。
自分の上に跨っている女性は、かつて自分が愛した女性。
夢半ばにその命を散らしてしまったその人物。
「な、なんで……」
「なによー、幽霊でも見たかのような反応はー」
ぶーぶー、と文句を垂れる彼女はまさしくあの頃のまま。
「まあいいわ。それより行くわよ」
「へっ? 行くってどこに?」
「それはお楽しみー♪ さっ、早く着替えて! それとも着替えさせてあげましょうか?」
手をワキワキとさせる雪蓮をみて慌てて部屋から追い出し着替える一刀。
「夢だよな……。…………でも夢でも嬉しいな」
目の前に現れた彼女は夢の中だけ。
だから夢が覚めるまでは、おもいっきり楽しもう。
一刀はそう決意して、部屋を飛び出した。
「また釣りなのかー?」
「そうよ。この前は釣れなかったんだから今日は一刀に私の凄いところを見せてやるんだから!」
かつて二人で行った小川に来ていた。
相変わらず準備をしない雪蓮を見て、彼女が変わっていないことに安心する一刀。
「どうしたのニコニコして?」
「なんでもない。ちょっと嬉しかっただけ」
「……? 変な一刀。それより準備できたー?」
「はいはい出来ましたよお嬢様」
「うむ。大義であったぞ」
こんな些細なやりとりも幸せに感じる一刀。
そして二人は釣り糸を垂らして釣りを始める。
二人の間には言葉はなかったが安らぎの時間が流れていた。
聞きたいことはたくさんあった。
言いたいこともたくさんあった。
だが、いざ彼女の顔を見るとそんなことはどうでもよくなった。
ただ今この時を楽しもう。
「むー。全然釣れないじゃない! どうなってるのよー!」
――――あれ? なんかデジャブ。
「もう少し頑張ろうよ。かっこいいところ見せてくれるんだろ?」
「そうだけど……」
「ねっ?」
「は~い」
しぶしぶ釣りを続ける雪蓮に苦笑いをこぼす一刀だった。
それから少し経つと、雪蓮の釣り竿にあたりが来る
「きたわよー。…………それっ!」
雪蓮がタイミングよく釣り竿を引くと、そこには一匹の魚がかかっていた。
「見なさい一刀! これが私の実力よ♪」
心底嬉しそうに笑う雪蓮を見て、自然と一刀も笑顔になる。
「よーし、俺も負けないぞ!」
「ふふん♪ 私も負けないわよ!」
「くそー! 負けた!」
「私に勝とうなんて百年早いわよ一刀♪」
お昼になった時点で戦いは終了した。
雪蓮四匹、一刀三匹で雪蓮に軍配が上がった。
「私が本気を出せばこんなものよ♪ それじゃあお昼にしましょう」
一刀は魚を焼く準備をし、雪蓮は木の実などをとりに森に入っていった。
そしてあの時のように雪蓮が火をおこし、二人で魚を焼き、木の実と一緒に食べた。
「やっぱり美味しいわね~」
「うん。今回はお米はなかったんだな」
「準備する時間がなかったのよね。ごめんね」
食事を終えて二人はしばらく何気ない話をして過ごした。
「ねえ一刀」
「どうした?」
「街に行くわよ!」
「街? いいけど」
「ようし、それじゃあすぐにしゅっぱーつ!」
「うおっ!」
雪蓮は一刀の手をとり走り出した。
そして一刀は確かに感じていた。
雪蓮の温もりを。
「人が多いし賑わってるわねー」
「蓮華やみんなが頑張ってるからね」
「そっか……蓮華もちゃんと頑張ってるのね」
「子育てには苦労してるようだけどね」
「あ~、あの子ならそんな感じするわね」
蓮華が子供に振り回されるのが容易に想像出来た雪蓮は苦笑いをこぼす。
しばらく二人で街を歩いて回っていると、雪蓮がピタリと足を止めた。
何かを見つめる雪蓮の視線の先には、雪蓮が仲良くしていた老夫婦がいた。
「元気だよあの二人」
「えっ?」
「完成した絵も見せてもらったけど幸せそうに写っていたよ」
「そう……」
しばらく二人を見つめていた雪蓮。
そして満足したのか背を向けて歩き出す。
一刀もそれを追いかけた。
「会って行かないのか?」
「ええ」
「そうか……」
それ以降は何も聞かなかった。
二人が城に戻った頃にはすでに日は落ちて、空は満点の星空だった。
「なんでこんな侵入者っぽいんだ?」
「だってばれると面倒じゃない」
二人は裏道を使って城に侵入していた。
そして雪蓮がよくサボって酒を飲んでいた木の下に座っていた。
「今日は楽しかったわ~。ありがとう一刀」
「いや、俺の方こそ楽しかったよ。ありがとう雪蓮」
二人は言葉少なく、手を繋ぎながら空を見上げていた。
「雪蓮」
「んー?」
「安心してくれた?」
「なにが?」
「この街の事や蓮華たちの事」
「……うん。ちゃんと私との約束を守ってくれて一刀には感謝してるわ」
「そっか……」
雪蓮の期待に応えることが出来たことにホッとする一刀。
そして、何かを悟ったかのように口を開く。
「もう行くのか?」
「……ええ。そろそろ時間が来たみたい」
「そっか……。夢じゃなかったんだな」
一刀は気付いていた。
雪蓮の温もりが夢なんかじゃないと。
「そうね。私は曹操が攻めて来たあの日に確かに死んだわ」
「………………………………」
「気がついたらね、この世に戻ってきてたの。そしたらとにかく一刀に会いたくて仕方なかったわ」
「……うん」
「一刀の顔を見た時、嬉しくて胸が張り裂けそうになったわ。そしたら一刀と釣りに行く約束してたのを思い出したの」
「……うん」
「みんなで行こうって言ってたのに、一刀を見てたら誰にも渡したくなかったの」
「ははっ。俺なん……かでよかったら……いつ…………でも、付き合うのに」
「うふふ。それが出来たら毎日楽しいのにねー」
一刀は心なしか雪蓮の存在が希薄になっていくように感じた。
「私は冥琳と一緒にあの世でのんびりしてるわ」
「雪蓮……」
「ごめんね一刀」
「な、なにが……だよ?」
「また泣かせちゃったわね」
「ははっ。こんな時……なのに……!」
一刀は涙が視界を埋め尽くし雪蓮の顔を確認出来なかった。
「一刀、愛してるわ」
「お、俺も雪蓮が大好きだ……!」
「ありがとう。私幸せだったわ」
「雪蓮……」
「さようなら一刀」
「しぇれん!」
最後に唇に優しい感触を残し雪蓮は消えて行った……。
「――っていう夢を見たんだ」
中庭で妻や子供たちともに短冊に願いを書いている一刀。
「なんだか凄い夢ね……。一刀は大きいし、私も冥琳も死んじゃってるし、私生き返ったのに冥琳名前しか出て来ないし」
「まあ夢だからね。……でもなんだか夢って気がしなかったんだけどね」
なんとなく別の自分ではないかと思ってしまう一刀。
それは雪蓮も同様だったようだ。
「私は一刀が助けてくれなければ死んでいたわ」
「………………………………」
「でもその夢の私は死んでしまった。……けどね、きっと幸せだったと思うわ」
「そうかな?」
「きっとそうよ。だって私の幸せは――――」
「おとーしゃまー! おかーしゃまー! 紹、ちゃんと書けたにょー!」
「おお、えらいぞ紹!」
孫紹に言葉を遮られた雪蓮は、心の中で呟く。
――――北郷一刀に出会えたことなんだから。
<おまけ>
「一刀くんが言うてた短冊、何書けばええやろー?」
「ええやろー?」
「おお、虎も悩んどんか?」
「どんやー!」
「そうかそうか。母親になったし酒が欲しいってのもな~」
「な~!」
「そういえば白蓮は何書くんや?」
「わ、私は秘密だ!」
「『子供が欲しい』」
「おお虎、それ誰の短冊や?」
「ぱい」
「なんでもってるんだ!?」
「なんや白蓮、自分も子供欲しかったんやなー」
「うぅ」
「まあ白蓮なら普通の良い人が見つかるわ」
「見つかるわ~」
「く、くそー! 私にも手をだせー!」
完。
時間過ぎちまったぜ(^ω^;)
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七夕は過ぎちゃってたよー(´;д;`)