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真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第十七話

狭乃 狼さん

刀香譚の十七話です。

豫州へ賊討伐に赴いた一刀たち。

戦いの幕があがります。

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2010-07-07 11:20:03 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:22158   閲覧ユーザー数:18604

 豫州・汝南郡。

 

 北は兗州、東は徐州、西は荊州へとつながる交通の要所として栄える土地である。

 

 だが、それも八年ほど前までの話だが。

 

 もともとここは、現・長沙城主、袁術の一族が治めていた。しかし、前当主である袁術の父親が急死したことで、この土地の運命は大きく変わった。

 

 跡継ぎであった袁術は、当時まだ十歳になったばかりで、政など到底できず、現在その腹心となっている張勲にしても、袁術より二つ年上でしかなかった。

 

 彼女らにとって頼りになったのは、父親の信頼厚かった紀霊のみ。

 

 その他の者たちは、自己の保身と財産の維持しか興味がなく、瞬く間に汝南の地は衰退。袁術は張勲・紀霊とともに、南陽の地へと移り住み、他の者も、徐々に別の土地へと移っていった。

 

 現在汝南には、袁術がもともと住んでいた古城と、小さな邑がいくつか残るだけであった。

 

 

 

 その古城の近く、小高い丘の上に陣を張る一刀たち徐州軍。

 

 「五月さん、斥候からの報告は?」

 

 「・・・公務中は姓名でと言っているでしょう?」

 

 「・・・はい。すいません簡雍さん」

 

 簡雍ににらまれ、肩を落とす一刀。

 

 「まあまあ、さつ(ギロ)・・・簡雍どの。報告をお願いします」

 

 同じく真名を言いかけて睨まれ、慌てて言い直す関羽。

 

 「斥候からの報告ですが、この先にある古城を、賊たちは根城にしているそうです。率いる将は三人。戦力はおよそ五万」

 

 ざわっ。

 

 どよめく一同。

 

 「五万って、豫州全体の数字じゃなかったの?」

 

 「華雄?」

 

 一刀が華雄の顔を見る。

 

 「・・・どうやら偽報を掴まされていた様だな。すまん。われわれの落ち度だ」

 

 心底申し訳なさそうな表情で、頭を下げる華雄。

 

 「華雄おねえちゃんを責めても仕方ないのだ。現実は変わらないのだ」

 

 真剣な顔で華雄を弁護する張飛。

 

 「・・・鈴々の言うとおりだな。とりあえず、州全体にもう一度細策を放ちなおそう。華雄、頼む」

 

 「わかった」

 

 うなずく華雄。

 

 「その間に、あの城の連中を何とかしたいな。どうにかして城から引っ張り出したいんだけど」

 

 一刀がそう言うと、

 

 「なら、矢が三本もあれば十分だよ」

 

 と、笑顔で言う徐庶だった。

 

 

 汝南城の城壁。

 

 そこに立つ三人の人物がいた。

 

 「周倉よ。連中、仕掛けてこぬな」

 

 三人の中の一人が、左隣に立つ人物に声をかける。

 

 「ふん。大方こちらの数に圧倒されているのだろう」

 

 声をかけられた、棍を持った女性、周倉が言う。

 

 「油断するでないぞ二人とも。何か策でも練っているのかもしれん。・・・ん?」

 

 もう一人の大刀を背負った人物が、城を目指して駆けてくる騎馬に気付く。

 

 「なんだ?たった一騎で我らとやりあうきか?」

 

 「まさか。軍使か何かではないか?」

 

 その騎馬が城門前に辿り着く。そして、弓に矢を番え、城に向けて射た。

 

 「ふん!こんなもの!!」

 

 飛んできた矢を、棍で叩き落す周倉。

 

 よく見れば、矢にはなにやら紙が巻きつけてある。

 

 「なんだ?降伏の勧告でも書いてあるのか?」

 

 周倉がそれを矢から取り、開く。そこにはただ一言。

 

 

 

 「醜女(しこめ)の周倉」

 

 とだけ、書かれてあった。

 

 「だ・・・、誰が醜女だと!?」

 

 声を上げ、憤る周倉。

 

 そこに、次の矢が飛んできて、近くの壁に突き刺さる。

 

 「またか!今度は何が書いてある!?」

 

 大刀を持った女性が、矢から紙片を取り、中を見ると、

 

 「胸無陳到」

 

 「・・・だ・れ・が、真っ平だとう!!」

 

 紙片をぐしゃぐしゃに握りつぶし、叩きつける女性、陳到。

 

 さらに、三本目の矢が打ち込まれる。

 

 三人の中で唯一の男が、その矢に結ばれた紙を無言で取り、開く。

 

 「・・・周倉、陳到。討って出るぞ。ここまで愚弄されて黙っていられるか!!」

 

 紙を握りつぶし、叫ぶ男。

 

 「「応!!」」

 

 「この王子全を豚呼ばわりしたこと、死ぬほど後悔させてやるわ!!」

 

 (いや、それは別に間違ってないと思う)

 

 王双を見ながら、口には出さずに突っ込む、周倉と陳到だった。

 

 

 

 「おー、出てきた、出てきた」

 

 「さすが輝里ちゃん!よっ!この小悪魔!!」

 

 「えへへ~」

 

 ぽりぽりと頭をかいて照れる徐庶。

 

 三人の将の特徴を聞いた徐庶は、それぞれに対応した悪口を書いた紙片を、矢に結んで城に射ち込ませた。その結果はご覧のとおりである。

 

 「では義兄うえ」

 

 「ああ。愛紗は右翼の部隊を。桃香は左翼。正面の部隊は俺と鈴々があたる。各員の奮闘を期待する!!全軍、抜刀せよ!!」

 

 おおーーーーーー!!!

 

 

 

 戦闘が始まって半刻。

 

 右翼では周倉が、関の旗の部隊に翻弄されていた。

 

 「くそっ!走りながら弓を射る騎馬隊など聞いたことがない!!」

 

 そう。関羽率いる騎馬隊は、一刀の発案で編成された、全員が弓を装備した弓騎兵なのである。

 

 停止することなく敵陣の周囲を駆け回り、そのまま弓を射る。もちろん、一糸乱れぬ動きが出来るようになるまでの苦労は、並大抵のものではなかった。

 

 「愛紗なら大丈夫。がんばって」

 

 と、一刀は関羽を毎日激励した。

 

 まあ、その分、嫉妬の女帝と化した劉備に、追い掛け回されてもいたが。

 

 「そこの者!!この部隊の将だな!!われこそは劉北辰が一の太刀、関雲長!!その首、頂くぞ!!」

 

 関羽が周倉を見つけ、一騎討ちを挑む。

 

 「しゃらくさい!!わが名は周倉!!返り討ちにしてくれる!!」

 

 ぶつかる両者。

 

 

 

 一方、左翼では。

 

 「うっとうしいわ!!この胸お化け!!」

 

 「うらやましいならそう言えば?!扁平胸さん」

 

 「へんぺ・・・!!こんのおーーーー!!」

 

 激闘を演じるは劉備と陳到。

 

 まあ、低次元な口喧嘩をしながらだが。

 

 「でかければ良いって物でもなかろうが!!」

 

 「ふっふーーーんだ。ないものねだり~。って、そんなことより、ちゃんとこっちを向きなさいよ!!」

 

 「~~~~ずっと正面をむいているわーーーーーー!!!!」

 

 叫びながら劉備に斬りかかる、陳到。

 

 (会話が低次元な)戦いは続くのであった。

 

 

 

 中央では、一刀と張飛率いる五千が、王双軍一万とぶつかっていた。

 

 「くそ!!なんという長い槍だ!!これではぜんぜん前に出れん!!」

 

 そう。張飛率いる”超・鈴々隊”は、その装備が特異だった。

 

 長さが通常の倍はある槍を、使用しているのである。

 

 発案は、これも一刀。

 

 「槍だって長ければ長いほうが有利だろ」

 

 という、至って単純な発想からだった。

 

 「ええい!!このままでは埒があかん!!全軍、左右に広がれ!!側面に回れば怖いことはない!!」

 

 王双が兵に指示を出す。

 

 しかし。

 

 「よし、読みどおりに隊が割れた!!鈴々!!」

 

 「応なのだ!!みんな!お兄ちゃんの通り道を開けるのだ!!」

 

 張飛の指示を受け、兵たちが動く。

 

 そして、隊の真ん中に一本の道が出現する。

 

 そう。騎馬が通れるだけの道が、敵の本陣に向かって、まっすぐに。

 

 「よし!!さあ、往くぞ!!狙うは敵将ただ一人!!」

 

 おおーーーーーー!!

 

 一刀を先頭に、騎馬隊二百が、張飛隊の間を駆ける。

 

 左右に回り込もうと、部隊を展開し、丸裸になった、王双の本陣を目指して。

 

 

 「な!?」

 

 王双は見た。

 

 自身に向かって疾りくる、蒼い炎を。

 

 「我が名は劉翔!!字は北辰!!我こそは、悪を刈る刃なり!!」

 

 「おのれこわっぱーーーー!!!」

 

 斧を手に、一刀を迎え撃とうとする王双。

 

 だが、次の瞬間。

 

 「跳べ!!蒼炎!!その名の如く!!」

 

 ヒヒィィィーーーーーーン!!

 

 いななきとともに、地を蹴り、天へと舞う、蒼炎。

 

 「ぬお!!」

 

 驚き、頭上を見やる王双。

 

 「つああああありゃああああああ!!!!」

 

 ドガア!!

 

 一気に急降下し、王双を、馬ごと真っ二つに切断する一刀。

 

 「こんな、ばか、な・・・。ちゅ、仲達さま、もうしわけ、ありま・・・」

 

 ドサリ、と。倒れ付す王双。

 

 「・・・我が靖王に、刈れぬ悪無し」

 

 

 

 「周倉。貴様の主は死んだようだぞ。おとなしく降れ」

 

 棍を折られ、地べたに座る周倉に関羽が言う。

 

 「・・・わかったよ。あたしの負けだ。投降させてもらいますよ、アネゴ」

 

 「は?アネゴ?私のことか?」

 

 「ああ。アタイの真名は”藍”。この真名、アネゴに預けやす!」

 

 「いや、その、アネゴというのは・・・。ハア・・・まあいい。私は愛紗だ。今後は義兄上、劉北辰様のために、働いてもらうぞ」

 

 「あいよ。任しておくんな」

 

 にっこり笑顔の周倉であった。

 

 

 

 「あなたはどうするの、陳到さん」

 

 自分の膝を枕にしている、陳到に問う劉備。

 

 一応、一騎打ちは劉備が勝った。胸のことで激昂していた陳到の隙を突き、一刀直伝の背負い投げで、地面に叩きつけた。

 

 陳到は初めて受ける技に、受身を取ることも出来ず、簡単に気絶した。

 

 「・・・私は、胸のでかい女は嫌いだ。・・・けど、この膝は心地いい。・・・劉備どの、私のことは”蘭”と、お呼びください」

 

 陳到がそう言うと、劉備は

 

 「私は桃香だよ。よろしくね、蘭ちゃん」

 

 そう言って、にっこりと微笑んだ。

 

 (慈母・・・だ)

 

 劉備の笑顔を見て、そう思った陳到であった。

 

 

 

 「どうやら終わった様だ」

 

 「そのようだな」

 

 本陣で戦況を見ていた華雄と簡雍。

 

 「申し上げます。斥候がただいま戻りました」

 

 兵士の一人がそう告げる。

 

 「ご苦労、通せ」

 

 「は!」

 

 報告に来た兵が去り、入れ替わりに、斥候に出ていた兵が寄ってくる。

 

 「どうだ?」

 

 「は。どうやら許方面には、さらに五万近い兵がいる模様。ですが・・・」

 

 「なんだ、はっきり申せ」

 

 言葉を濁す兵に、簡雍が問う。

 

 「どうも賊のような感じではありませんでした。旗がないのでどこのものか判りませんが、あれは正規の軍のように見受けられました」

 

 「正規の軍だと?・・・そやつらの鎧の色は?」

 

 旗がなくても、鎧の色である程度、どこの勢力の兵か判別がつくものである。だが。

 

 「色は黒でした」

 

 「黒・・・」

 

 「黒い鎧の軍などどこかにおったか?私には記憶にないが」

 

 簡雍が華雄に問う。

 

 「私も記憶にない。・・・何か、胸騒ぎがする、な」

 

 「そうじゃな、もう一度、調べなおさせるとしよう」

 

 そう言って、その場を離れる簡雍。

 

 残った華雄は一人思う。

 

 (何があっても、一刀は私が守る。そう、私の命を賭しても)

 

 

 あとがき

 

 

 というか、皆さんに、ぜひお聞きしたいのですが、

 

 

 文中における人物表記、今回のように、台詞以外は姓名での表記の方がいいでしょうか。

 

  

 それとも、今までのように、真名表記のほうが良いでしょうか。

 

 

 ご感想とともに、ぜひ、これに関するご意見を。

 

 

 それでは。


 
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