はじめに
この作品の主人公はチート性能です。
キャラ崩壊、セリフ崩壊、世界観崩壊な部分があることも
あるとは思いますが、ご了承ください。
揚州・建業
「以上が明命からの報告です。」
そう言葉を締めるのは周瑜。その報告を聞いて難しい顔をしていたのは孫権だった。
「つまり、『魏』はすでにないも等しいと。我等の前に立ちはだかるは劉璋と北郷の2名のみということだな。」
「そうなります。」
孫権の問いに答えるのは陸遜。その報告を受け孫権は周瑜、陸遜の意見を求める。
「冥琳、穏、お前たちはどう考える?」
その問いに最初に答えたのは陸遜。
「今は北郷との同盟を結んでいる状態ですので、北郷との戦端を開くのは得策ではないかと。それよりも先の戦いで劉璋軍は荊州を追われ疲弊しております。それならば蜀と一戦交えるほうがいいかと・・・。」
陸遜の提言に周瑜も続く。
「今の北郷は荊州の半分と魏領を押さえています。劉璋と北郷、比べてみたときに勢力等は確かに劉璋陣営の方が多いかもしれませんが、将の質の面では北郷はずば抜けています。そんな連中を相手にするなら今以上に力が必要になる。それに前にも言いましたが、北郷という男は好戦的な男ではありません。故に放っておいても向こうから仕掛けてくることはまずないでしょう。それならば劉璋を先に叩き、益州を掌握してからの方が今後の我等の戦にも有利になってくるでしょう。」
「随分と弱腰な発言だな。」
周瑜の発言に異を唱えるかのように割り込んだのは甘寧だった。
「興覇、貴様何か策があるというのか?」
甘寧に対して問いかける孫権。そんな主を見ながら小さく頷くと
「確かに北郷という国にいる将は一騎当千の猛者たちだが、それを避けて進む覇道に何の意味がありますか?強いものを倒してこその天下統一ではございませんか?それとも蓮華様の歩もうとしているもの、雪蓮様が目指したものはその程度の生温いものなのですか?」
「甘寧!蓮華様になんて暴言を。口を慎め!」
甘寧の言葉に周瑜は怒声を上げる。そんなことも我関せずといった態度をとる甘寧。
「興覇、貴様の言うこともわからんではないが皆の言うとおり北郷とは同盟関係にある。お前の考えではその同盟を我らが一方的に壊すことになる。それでは我らの風評を考えても良い結果にはならんぞ。」
孫権は懸念する部分を指摘する。
「それでは北郷側から同盟の破棄に向けて動いてもらえばよいだけのこと。私たちに考えがございます。」
そういう甘寧の隣には一人の男が立っている。
「興覇、その者は何者だ?」
孫権の言葉に周瑜、陸遜もその男に視線を移す。
「我が甘寧隊で私の補佐をしてくれております。」
「私の名は松原忠司と申します。一応副長をしております。」
そう名乗る松原を見て周瑜は甘寧に問う。
「お前たちの考えとは何なのだ?そもそもさっきも言ったように北郷は好戦的ではないのだぞ。そんな相手にどうするというのだ?」
そんな周瑜の問いに甘寧ではなく松原が口を開く。
「私の調べによると、北郷という男は確かに用心深く好戦的ではありませんが、直近の部下の3人は直情的な人間です。ならば、この3人を動かしてしまえばよいだけのこと。全ては私にお任せください。こちらの風評は下げずにこちらが大義名分を手に出来る策をご覧に入れて見せましょう。」
そういうと甘寧と松原はその場を後にした。2人がいなくなった後、周瑜と陸遜は孫権に揃って提言する。
「蓮華様、私には今北郷と戦端を開くことは得策に思えません。それに北郷には小蓮様もいらっしゃるのですよ?松原とかいう男の申すとおりにことが運ぶとは思えません。」
周瑜のその言葉に陸遜も同調する。
「今、北郷と先端を開けば劉璋に隙を見せることになります。そうなったら再び蜀が大国となってしまうことにもなりません。それに蜀を牽制できるのは最早我が『呉』と『北郷』のみ。そんな2国が争うことは蜀にとって好都合としか言えませんよ。」
陸遜の説得に周瑜も頷く。孫権は何か考えているような素振りをしたが、周瑜と陸遜に向かって話し始める。しかし、その内容は周瑜と陸遜の考えていたこととはまるで違うことだった。
「そんなに蜀が脅威なら、北郷との戦が終わるまで『不戦協定』を結べばよい。そうすれば余計な横槍も気にせずに北郷との戦に集中できるというもの。それに蜀にとっても自分たちの脅威となる北郷を我らが攻撃するのを悪いとは思うまい。違うか?冥琳、穏。」
孫権のその提案には周瑜も陸遜も真っ向から反対する。
「何を言っているのですか、蓮華様。北郷はともかく蜀の連中は信用できません。『不戦協定』など結んでも北郷との戦が始まればこれみよがしに攻めてくるに違いありません。それは絶対に止めるべきです。」
周瑜の言葉に陸遜もうんうんと頷く。そんな2人の姿を見て孫権は席を立つと
「まぁ、まずは北郷が興覇たちの策で踊らされて動くかどうか見てから考えることにするさ・・・。」
そういうとその場を後にした。残された周瑜と陸遜は互いにため息をついて孫権の後姿を見送る。その後、周瑜が手を叩くと天井から人影が現れる。明命だ。
「幼平、甘寧たちの動きを探ってくれ。奴等が何を企んでいるのかを・・・・・・。」
その指令に「御意」と答えると再び姿を消した。
冀州・鄴
蜀との戦を終えて一刀たちは鄴に戻ってきた。そこには、許昌の事後処理に残った朱里と詠を除いた北郷軍の面々、華琳たち魏軍、それに劉璋と袂をわけた黄忠たち反劉璋勢力の姿があった。一刀は、出迎えに出てきた舞華や白蓮たちに
「曹操殿たちや黄忠殿たちを客室へ案内してやってくれ。くれぐれも丁重に頼む。」
そう告げ、一刀は私室へと戻っていく。舞華は、一刃たちの姿を見つけ
「一刃、おかえりなさい。」
そう言いながら近付いていくが、一刃たちの表情はとても暗いものだった。いや、一刃たちだけではない。翠や霞、華琳たちの姿も一様に暗かった。その姿に何かを感じ取ったのか、舞華はそれ以上一刃たちに言及することはなかった。
暫くすると、長安攻略部隊の星と恋も帰って来た。その部隊の中から小さな影が黄忠に向かって走っていく。
「お母さん!」
その声に黄忠は振り返るとそこには片時も忘れることなど無かった愛しい娘の姿があった。
「璃々!」
黄忠も璃々に向かって駆けて行くとしっかりと我が子を抱きしめる。
「よかった・・・・、無事で本当によかった・・・・・。」
璃々に続くように、星たちの部隊からは人質となった者たちが家族のもとへと次々に駆け出し再会を喜ぶ。そんな光景を星も恋も嬉しそうに眺めている。
「お母さん、あのお姉ちゃんたちが璃々のこと助けてくれたの・・・・。」
璃々はそういって星たちを指差す。黄忠は星たちの所へと近付いていき
「娘を助けてくださって本当にありがとうございます。」
礼を言う黄忠に星は首を振りながら
「私は主の命に従ったまで。礼ならば主に言ってくだされ。」
そういうと星たちはその場を後にする。黄忠は去っていく星たちを見送るようにずっと頭を下げていた。
部屋に戻った一刀はずっと考え事をしていた。それは、蜀軍の敗退前に撤退したあの壬生狼の連中のことだった。
(奴らの行動を見ていると蜀の軍勢という感じがしない。劉璋に仕えているというわけではないのか。そして、壬生狼とは別に存在している神仙の連中も気になる。奴らはこれからどう動く?)
そんな考えに没頭している一刀の部屋の扉がノックされた。その音に考え事をやめて、扉をあけるとそこには黄忠と張任の姿があった。部屋に入ると黄忠、張任とも跪き臣下の礼を取ると
「北郷様、この度は娘を救出していただきありがとうございます。」
頭を下げる。そんな姿に一刀は首を振って
「いやいや、俺は何もしてないよ。救出したのは趙雲と呂布の2人だから・・・。礼なら2人に。」
そういう一刀の言葉に黄忠は口を押さえて笑う。その姿に一刀は「??」と首を傾げるが
「いえ、趙雲様にも同じように言われたものですから、可笑しくて・・・・。」
そう笑う黄忠とは別に、張任の視線は一刀を見据えたままだ。そんな張任が口を開く。
「北郷殿、一つお聞きしたい。何故我らを助けたのか?」
そんな張任の問いに一刀は以前黄忠に話したことと同じ事を話す。
「他の皆には言っていないが、俺は昔『天の御使い』と呼ばれていた時があった。その天の知識で、黄忠殿が暗殺をするような武将ではないことを俺は知っていたんだ。だから、曹操の暗殺、そして俺を暗殺しようとした黄忠殿には何か事情があるに違いないと思い話を聞き、その不安事の解消に力を貸したに過ぎない。まぁ、黄忠殿と戦いたくないってのが一番の理由なんだろうが・・・・。」
その言葉に張任も黄忠も目を丸くした。しかし、次の瞬間2人は一刀に跪き、
「北郷様、是非我等を北郷様の家臣にしてくださいませんか?」
そう願い出る。その姿に一刀は笑顔で
「それはこちらからお願いしたいこと。黄忠殿、張任殿、我等に力を貸してはくださらんか?」
そっと差し出される一刀の手を2人は握った。
「臣下の証として我が真名を北郷様にお預けします。我が名は黄忠、真名は紫苑です。」
「私は張任、真名は槐(えんじゅ)と申します。」
「俺は真名がないから北郷と呼んでくれ。」
互いの名前を交換し終わった頃、再び部屋の扉が叩かれた。
開かれた扉には舞華に連れられた華琳たちの姿があった。一刀は華琳たちを部屋に招き入れると黄忠たちは席をはずす。
「曹操殿、まだ傷は癒えていないのだろう?あまり無理をされるものではないぞ。」
一刀の忠告にも華琳は何も答えず、一刀に視線をやると
「北郷、あなたにどうしても言っておきたいことがあってね・・・・。」
そういうと華琳は跪き頭を下げた。
「今回は貴方にたくさん助けられたわ。なんと言っていいか・・・・。」
「気にするな。それに俺は連合解散の時に言ったはずだ、『何かあれば俺を頼って欲しい』と。だから今回のことに関して曹操殿が頭を下げることではない。俺のただのお節介だ。」
「それでも・・・・、私たちが泣くしか出来なかったときに、あなたは春蘭を弔って戦ってくれた。その事がすごく嬉しかった。有難かった。だから王としてお礼を言わせて頂戴。・・・・本当にありがとう。」
そういって頭を下げる華琳のもとに一刀が近寄る。華琳を立たせると、そっと抱きしめてこう言った。
「曹操、魏の王としての振る舞いも大切だが、今日くらいは亡き友のために一人の『女の子』として泣いてあげたらどうかな?今は魏の王ではなく、一人の女の子『曹孟徳』として彼女を弔ってあげなよ。」
そんな一刀の言葉に華琳は涙を流して泣く。亡くなった友を思って、いつも傍で見守ってくれた大切な人を思って。一刀の胸の中で華琳はずっと泣き続けたのだった。
ひとしきり泣いた後、華琳は顔を上げると一刀に問う。
「北郷、あなたはこれからどうするの?」
華琳の問いに一刀は即答で
「とりあえずは蜀と戦うよ。孫呉とは今は同盟状態にあるからね。蜀さえ倒してしまえば孫呉とは同盟を強化して仲良くやれたらと考えている。」
そんな一刀の答えを聞いて、華琳は
「そう・・・・。でも孫呉との同盟がいつまでも恒久的に続くとは思わないわよ。孫権たちの目的は私たちと一緒で天下統一のための覇道を歩むこと。そうなれば、いずれは戦うことになるわ。」
「そうかもしれない。しかし、覇道を歩むことが本当に孫権の目的なのかな?覇道を歩もうとしているのは亡き姉の想いを汲んでのことだと俺は思ってる。だからきっと話せば分かり合えることだって出来るさ。誰だって戦を好む者なんていないんだから・・・・。」
一刀の言葉は確かに甘い戯言のように聞こえたが、華琳は不思議と嫌な感じはしなかった。きっと一刀ならそれを実現することが出来るだろうと確信めいたものを感じたのかもしれない。
「それで、私たちの処遇はどうなるのかしら?出来れば、私の部下だけは助けて欲しいのだけれど・・。」
「特にどうこうとは考えてないけど・・・・。曹操たちはどうしたい?また『魏』を再興したいかい?」
そんな一刀の言葉に華琳たちはみんな驚いて一刀を見ていた。
「あなた正気?曲がりなりにも敵だったものに再び国を与えるというの?」
「曹操たちがそうしたいんならそれでもいいとは思ってるよ。許昌とか馴染みの深い人に治めてもらうほうが民にも余計な不安を与えることがなくていいからね。ただ、出来れば俺たちと一緒に戦って欲しいかな、とは思ってる。曹操たちの力を貸してもらえると心強いからね。」
そう微笑む一刀の顔に、華琳は思わず見惚れてしまう。
「曹操?」
「・・・・・・・・・華琳よ。」
「えっ?」
「・・・・真名、貴方に預けるわ。これからお世話になるんですもの、真名くらい預けるわ。それに貴方ならこの真名を預けるに値するもの・・・・・。」
そう照れながら答える華琳に、一刀の顔から笑みが零れた。
「ありがとう、華琳。」
そう微笑みかける一刀の顔を見て華琳はまた顔を赤くする。そんなやり取りを見ていた秋蘭たちも一刀の所へ次々とやってきて、
「私の真名は秋蘭だ。姉者を弔ってくれたこと妹として感謝する。私の真名を受け取ってくれ。」
「私は鳳統、真名は雛里と申します。私の真名、北郷様にお預けします。」
「私は荀彧、真名は桂花よ。あんたに預けるわ。」
「あたいは徐晃、真名は葵っていうんだ。よろしく、北郷様。」
「ちょっと葵ちゃん、あんまり馴れ馴れしくしたら失礼だよ。私は趙儼、真名は茜と申します。この真名、北郷様にお預けいたします。」
「我が名は曹仁、真名は柊(しゅう)と申します。以後お見知りおきを・・・・。」
「あたしは曹洪、真名は杏(きょう)といいます。よろしくお願いします。」
「儂の名は王粲、真名は紬(つむぎ)じゃ。まだ魏では新参者じゃがよろしく頼む。」
魏の面々の真名を預かる一刀。
「俺には真名というものがない。だから北郷と呼んでくれ。これから君たちの力を借りることが出てくると思う。無理にとは言わないが、協力してくれたら嬉しい。これからよろしく頼むよ。」
にこやかな笑顔で話す一刀に、魏の面々も顔を赤くして俯く。そんな様子に一刀は首を傾げるが・・・。
「北郷、あと我が軍に2名ほどいるのだけれど、春蘭の件でまだ落ち込んでいるから日を改めて挨拶させるわ。」
「あぁ、許緒と典韋だっけ?今は無理させなくていい、気が向いたときにきてくれればいいから。」
華琳の言葉にそう返した。その後、華琳たちは自分たちの部屋へと戻っていった。
揚州・建業
月を見るために散歩に出た孫権は城壁にいた。月は冷たい光を放っている。そんな夜更けの城壁で孫権に声を掛けるものがいた。
「こんばんは、呉の陛下殿。」
その声に孫権は声のした方へ素早く振り返る。そこには白衣を着た青年が立っていた。
「誰だ、貴様?私が孫仲謀と分かっての狼藉か?」
孫権は鋭い声で青年を威嚇する。青年は「フフフ」と笑いながら孫権に話しかける。
「おやおや、あまり驚かれないので少々吃驚しましたよ。」
「貴様のような無礼者は見飽きているからな。去れ、下郎。これ以上は衛兵を呼ぶぞ。」
孫権は青年に向かってそう強く言った。そんな孫権を宥めるようにしたあと
「まぁ、話を聞くだけでも一興ではありませんか?」
そう話すが、孫権は警戒を解かずに
「興は湧かんな。貴様のような輩と話しても時間の無駄だ。」
そう冷たく言い放つ。そんな孫権に青年は一言
「北郷のことだとしても?」
その言葉に孫権の表情は変わった。
「ふふ、どうやら興味を示されたようですね。」
「ふん、面白い。試しに言ってみるがいい。」
孫権はそう発言を促す。その言葉に青年は微かに笑みを浮かべる。
「お許しいただき光栄です。それではお話させていただきましょう、北郷の置かれている状況を・・。」
そういうと青年は語り始める。
「魏領を手に入れた北郷は、内政を重視し民草の安寧を優先する政策を実施しています。それにより魏国内の民は彼を歓迎しています。今後、国力は充実していくことでしょう。北郷が国力、軍事力を充実させてしまった場合、果たして今の呉は覇道を歩むことが出来るでしょうか?」
青年は「フフフ」と含み笑いをする。その態度に孫権は苛立ちを浮かべ
「何が言いたいのだ!」
そう声を荒げる。そんな孫権の様子をみて青年は一言
「つまり、叩くなら今ということです。」
そう告げた。その言葉に孫権は首を振り
「信用できんな。貴様が漁夫の利を狙う蜀の連中の送り込んだ者、もしくは呉併呑を狙って遣わされた間者ではないという証拠はあるまい。そのようなわけの分からぬ下郎の口車に乗せられるほど馬鹿ではない。」
きっぱりとそう言った。その言葉に青年はなお笑みを浮かべて
「用心深い方だ。すでにあなた自身が知り得ている情報を提示してなお、私のことを疑っている。」
「ほぉ、この孫仲謀を見透かすというのか・・・・、貴様は。」
「貴方ほどの人間がこの程度の情報を入手していないわけがない。あえてこの情報を提示した私を少しは信用していただきたいですなぁ・・・・。」
飄々と語る青年に孫権は警戒心を強くする。
「つまり私からの信用を得るために、既存の情報を提示して見せたと?」
「既存の情報とはいえ、この情報を知っているのは私とあなた方以外いないでしょうけどね。」
青年の言葉にさっきまでの険が取れたように孫権は話しかける。
「ふっ、よほど己の能力に自信があるのだな。」
「それは、勿論。自信がなければこんなことはしませんよ。」
そういった青年の言葉に、孫権は頷くと
「貴様、名はなんと言う?」
青年に名前を尋ねる。
「私の名は天蓬と申します。以後、お見知りおきを。」
青年はそう名乗る。
「よかろう、貴様を完全に信用したわけではないが、貴様の持つ情報全て聞かせてみろ。」
孫権の言葉に天蓬は「御意のままに」と短く応える。
「北郷がこのまま勢力を伸ばしていくのは自明の理だ。孫呉が覇道を歩むのならばこの障害を取り除かなければならない。」
「えぇ、ですから私はそのお手伝いをさせていただきたいのですよ。」
天蓬はそう言った。その言葉に孫権は
「貴様も北郷に意趣があるというのか?」
「えぇ、まぁ一つは返させてもらいましたけど・・・・。」
「どういうことだ?」
「いえ、兵たちに病を患ってもらったのです。徐州に展開している北郷軍にですが・・・・。」
天蓬はそう話す。その内容に孫権は表情を変えずに
「ということは今が好機ということか・・・・・。」
と淡々と呟く。さらに孫権は言葉を続ける。
「だが、この好機を生かすことは出来んな。」
「それは周公謹殿のことですかな?」
天蓬の言葉に孫権は思わず顔を上げる。
「あぁ、そうだ。北郷と同盟を組んで以降、北郷と争うことを極端に嫌がってな。北郷の人柄を信じているのか完全に安心しきっているようだ。」
「ふむ、それはそうでしょうな。だが、貴方は孫呉の王なのです。そんな安寧の先にあるものが貴方の姉上が望んだ覇道なんでしょうかねぇ。」
天蓬の言葉に孫権は言葉を荒げて怒鳴る。
「下郎が!姉さまのことをそれ以上囀るな!」
そんな孫権の態度に天蓬は両手を挙げて首を振り
「これは・・・・手厳しい。しかし、今の提案少しは考えてみてはいかがですかな?姉が目指した覇王への階(きざはし)を歩んでいくために・・・・・。」
そう告げた。その言葉に孫権は何も言い返さず黙っている。
「では私はこれで失礼しましょう。・・・お声掛かりお待ちしておりますよ。」
そういうと天蓬は音もなくその場を後にした。孫権は天蓬のいたところをずっと見つめている。そして見上げた空には煌々と光る月が辺りを照らしていた。
(姉さま・・・・・・私は・・・・・・・・。)
孫権の頬を撫でるかのように冷たい風が吹いていった。
鄴・城下町
愛紗は一人で城下を歩いていた。愛紗の表情はいつになく暗い。それは、先の戦での舞華との衝突の事を思い出していたからだった。自分は何であんなことを言ってしまったんだろう。そんな後悔の念にかられていたのかもしれない。だが、それと同時に、多くの命を奪った敵を今更許すことなど、武人として許せないと考える自分もいた。そんな複雑な心理状態で街を歩いていると、城門の所が騒がしいのに気付いた。近付いてみると、血塗れの兵が一人倒れていた。愛紗の姿をみた門兵が事情を説明する。
「関羽将軍、徐州国境の砦が何者かによって壊滅させられました。」
兵の報告に愛紗の表情は変わった。
「なんだと!一体誰が・・・・。」
すると血塗れで倒れている兵が
「・・・・・・南方からの襲撃でしたので、恐らく『孫呉』かと思われます。」
その報告に愛紗は驚く。
「『孫呉』だと?だが、奴らとは同盟関係にあるはずだ。何かの間違いではないのか?」
そう問いただす愛紗に兵は一本の旗を見せる。それは赤地に『孫』と書かれた孫呉の旗だった。
「まさか、奴ら本当に・・・・。我らが戦で疲弊しているところを狙ったというわけか。おのれ・・・許さんぞ。直ぐに出撃の準備をしろ。徐州まで行って事の真偽を確かめなくては。我らが先行して向かう。義叔父上にもすぐに伝令を入れろ。」
「はっ。」
そういうと兵は城へ向かって駆けて行った。
(おのれ孫権め、とうとう野心を出したか・・・。我等に牙を剥いたこと後悔させてやる)
愛紗は少数の兵たちと共に徐州国境へと赴いていった。
あとがき
飛天の御使いも第弐拾七幕を迎えました。
読んでくださった方々本当にありがとうございます。
とうとう大陸には三国だけとなってしまいました。
そして物語はいよいよクライマックスに向けて・・・・・って本当に終わるのか?
書いてる自分でも段々終わらせられるのか心配になってきましたが・・・・。
文章力が乏しいとどうしても情景を上手く表現できないのがもどかしいんですが
なんとか頑張っていきますので
拙い未熟な文章ですが、最後までお付き合いいただけたらと思います。
読んだ後で一言でもコメントをいただけると嬉しいです。
感想や指摘なども大歓迎ですのでよろしくお願いします。
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蜀との戦は北郷軍の勝利で終わった。
しかし、失われた命の重さが一刀、華琳たちを襲った。
勝利と引き換えに失ったもの、それは夏侯惇の命だった。
そんな夏侯惇の残した誇りを胸に北郷軍は
前に進んでいくのだった。
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