「ねぇ、クロ様見て」
サイが指さした先の上枝(ほつえ)から射し込む光が二人の頬を優しく撫で、空から降ってくるささめ雪はとてもきれいだった。
今までの思い出も叶わぬこころに遮られていく。
サイが下を向いて湖に手を付けると湖面に映る美しい景色が小さな波によって揺れた。
サイの頬が鴇色に染まるほどに寒い場所でしばらくいた。
だけど、ぽけっとの中で結んでいる手は暖かくてとても愛しかった。
口から吐き出される吐息は牡丹雪と一緒に昇り消えていく相思のようにも見えた。
だけど、胸に積っていくこころはとても綺麗に見えた。
時代(とき)に流されながら秘密にしていた一つになるはずの恋。
親の目を盗んで二人寄り添って愛していた。
湖面に映る月を揺らしながら二人は小舟に乗った。
絆を感じる日があればそれだけで良かった。
下枝(しずえ)の影で不思議なくらい心が落ち着いていることをクロは話した。
「そうですね」
サイも同じように答えたが、静寂(しじま)の中で彼女は泣きだした。
ぽろりぽろりと泣く彼女はこんなにも泣き虫し屋さんだったろうかと思う居ながらも、
「山紫水明だ」
とクロが言って静かに瞳を閉じた。
「・・・ここがいいですね」
サイが涙を流しながらそう言った。
降り続く雪を指に乗せればすぐに溶けて流れていった。
小夜(さよ)の時に小舟の上で抱きしめたクロが小さく頷いた。
いつも強がり屋さんのクロが彼女の前で初めて泣きだした。
そして、彼が幸せと感じた数を指折りで数えていったが彼の指では数え切れないほどに幸せがたくさんあった。
二人が頬を寄せ合う隙間を埋めるように雪が通り過ぎる。
湖のほとりで美しい雪が二人を包んでいく。
ほとりから離れて小さくなる湖の輝きに触れて映る二人の影が不思議と澄んでいった。
星 が ま わ る 。
サイの帽子が飛んでいった。
二人は光飛沫(ひかりしぶき)に消える。
小舟が揺れて湖面に映る月が波に踊った。
小さな光の湖の中を二人は沈んでいき、水脈(みお)は痛みを与えずにぼんやりと優しく包んでいった。
薄い氷が鏤(ちりば)められて光る氷がささめき、二人を湖の底へと誘う。
時代に流されながら秘密にしていた一つになるはずだった恋の芽。
それを摘んだのは剥がれ落ちきれなかった『身分の差』という偏見。
幸せと一緒に沈んでいき去っていく命の光を抱きながらこう思った。
「あなたに会えてよかった」と。
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NikQのキャラを使ったパロディ作品です。
注意点
・原曲になるべく合わせているのでキャラの設定などが多少違う場合があります。
・個人解釈も入っておりますので全てを鵜呑みにはしないでください。