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『舞い踊る季節の中で』 第65話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

紀霊の出撃にの報に、やっと袁家の老人達から解放された七乃、
一人考える時間が出来た七乃は、悲願の時が近い事を実感し、
その想いを過去へと向ける。

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2010-06-27 16:58:38 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:19921   閲覧ユーザー数:12520

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -寿春城編-

   第65話 ~ 籠の鳥は、何を想い舞う ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性には危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術

  (今後順次公開)

 

七乃視点:

 

 

紀霊さん達が、やっと出撃したと聞いたのは、一刻程前、

きっと紀霊さんの事ですから、

 

『 儂の有難さを、今回を機に国中に、そして袁家の老人に知らしめてくれるわ 』

 

なんて、自意識過剰な勘違いをされているんでしょうね。

そんな事で、あの人達が、感謝する訳ないと言うのに、おめでたい人です。

きっとある意味、幸せな人ですよねぇ~。

その間、私はあの人達の追及と嫌味を右から左へと、はいはいと頷きながら、我慢していたと言うのに、

えーい、この、おちゃめさん 、孫策さんに サクッ とやられちゃってほしいです。

 

でも、やっと紀霊さんが出撃してくれたおかげで、戦やその後始末の事で考える事があるからと、

あの人達を何とか追い返す事が出来ました。

呑気なあの人達は、勝つ事に少しも疑いを持っていません。

確かに、平野においての戦で、一番ものを言うのは兵数です。

多少の策など、圧倒的な兵力の差には、大した意味は無くなります。

ですが、今回孫策さんの軍と、私達の軍の兵数差は約三倍です。

五倍とか言うならともかく、一定の条件が揃えば覆らない数ではありません。

 

見せ札とは言え、一揆を起こした十五万の農民達に遠くから見つめられる。

……これは、現場に立つ兵士達にとって、かなりの精神的脅迫を受けるはずです。

それに、見ているだけとは限りませんからねぇ。

あの人達には、それが分からないようです。

まぁ無理もありません。

あの人達にとって、農民さんは、自分を潤すための奴隷としか、思っていないでしょうね。

 

それに、我が軍の兵士と、絶えず最前線で鍛えてきた孫策さんの所の兵士を、一緒に考えるのは間違いです。

我が軍は、税金と餓えから逃れるために兵士になった者が多く、孫策さんの所とはその志から違います。

それに、あの人達の贅沢のため、調練などの金の掛る事は、最低限に抑えられています。

これが二倍の兵数差くらいだったら、真正面からでも負けてしまうでしょうね。

だから、客将に身を落とした孫策さんに対して、あの人達もそれを懸念していました。

 

 

 

 

ですから数千を残して、江東の各地に、睨みを利かせるという名目で、旧臣達を散り散りにしました。

無暗に取り上げれば、取り上げた兵が反逆しても大変ですし、少数に分けて利用した方が良いと、あの人達を納得させました。

むろん、そんな事で諦める孫策さん達ではありません。

あの人達の監視を掻い潜って、力をため機会を待ちます。

幸いな事に、跋扈する野盗、そして黄巾の騒ぎと反董卓連合、

あの人達を納得させるだけの好機を得て、孫策さん達に少しづつ力を取り戻させる事が出来ました。

 

そこへ、曹操からの張遼を引き取りたいと言う申し出、

優秀な人材を、身分問わず欲しがると言う曹操なら、そう言ってくると思い。

あの人達の目を逸らさせるための狙いもあり、張遼さんを引き取りました。

あの取引内容には、さすがに驚きましたが、私は逆に好機と思いました。

 

まだ、一大勢力とは言えない曹操さんの所にとって、その兵数は明らかに痛手。

なら、送り込んでくるのは、兵とは名ばかりの人達、

美羽様は、当初教えておいた台詞の中で、あの人達をより油断させるための物を選択しました。

ここまで数が多いとは思わなかったため、張遼さんを残すという選択は、時間が経てば孫策さん達にとって不利に働きますが、直ぐ動くならば、何の調練も受けていない二万と言う兵士は、こちらにとって厄介以外の何者でもありません。

 

そして、孫策さんがこの機会を逃す訳がありません。

なら私達は、その後押しをしてあげるだけです。

幸い、そのための下地は出来ていますし、

口実は、あの人達の更なる多額の請求があります。

もう、時間がありませんし、私達にとってもこれが最後の機会でしょう。

私と美羽様は、全てを掛ける事にしました。

 

そして、思惑は今の所上手くいっています。

孫策さんは、狙い通り軍を上げ蜂起し、

そしてあの人達は、三倍という数に、安心しきっています。

紀霊さん、張遼さん、二人とも化け物じみた武をお持ちですが、

それは、孫策さん達も同じです。

三倍と言う数には、かなりの苦戦はするでしょうが、

足手纏いもいますし、優秀な将が二人だけと言う我が軍では、

孫策さん達の軍相手では、結果は見えています。

数日で、決着はつくでしょう。

その時こそ、私達の悲願を達成させる時です。

 

……長かった。。

 

その感慨深い想いは、目を瞑れば、

私に、ここまでの道のりを、脳裏に浮かび上がらせてくれます。

 

 

 

十●年前

 

 

悲鳴、

 

怒声、

 

嘆きと、絶望、

 

燃え盛る火の中、

 

父と母のまだ温もりの残る亡骸は、小さな私の体を、この家を襲った盗賊から隠していました。

でも、そんな両親の最後の想いも空しく、

息ある者をを、彼らの痕跡ごと消し去ろうと、

盗賊達は、屋敷に火をかけてゆきました。

私は小さいながらも、もう自分が助からない事を理解しました。

なら、このまま両親に抱かれて死ぬのも悪くないと、目を瞑ります。

 

目を瞑った私は、周りの音が、より鮮明に聞こえてきます。

火が燃え盛る音、屋敷が軋む音、

そして彼等が、この部屋から立ち去る前まで聞こえていた、怒声と悲鳴が聞こえます。

何やら固い金属が打ち合うような音が聞こえます。

でも、不思議です。

家の者達は、殆ど彼等に殺されてしまいました。

なら、今聞こえる音は?

……まだ、死にきれずに、その魂が、最後の瞬間を繰り返しているのかもしれません。

 

どがっ!

ばきっ!

 

激しい音が、この部屋に響きます。

とうとう私に、両親の迎えが来たのかもしれません。

そう思いました。

だけど、聞こえたのは、

 

「くっ、手遅れだったか……ん?」

 

そんな声と共に、両親の重みが無くなり、目の前が明るくなります。

そこには、火の粉の舞う屋敷の中、輝く黄金の髪をなびかせながら、

まるでお伽話に出てきそうな輝きを持った女性が、

優しい笑みを浮かべ、

 

「せめて我が子だけでもと言う訳か……、

 その想い、妾がしかと引き継ごう。 安心して逝くがよい」

 

そう、私の両親に言うと、私をその腕に抱きあげます。

嫌っ。 この人は私を両親から離そうとしている。

両親を、私から取り上げようとしている。

そう思い、必死にこの人から逃げようとしましたが、

私の体は幼く、その力は小さくて、何の役にも立ちません。

そんな私の抵抗など、この女性はお構いなしに、私を両親から引き剥がし、

この燃え盛る部屋から、走り去ります。

 

がっ

 

「う゛っ」

 

途中そんな音と、声が聞こえましたが、泣きわめく私には、それが何なのか、

その時は分かりませんでした。

 

 

 

 

時は流れ、私はあの時の女性の下で暮らしていました。

女性は性を袁、名を逢、真名を美音(みおん)、

両親の親友と言うか、両親の主であられる方でした。

普段は隠されていますが、美音様の左腕には、

あの時落ちてきた火の柱から、私を守るために出来た火傷が、醜く残っています。

私と美音様を繋ぐ絆とも言えるものです。

 

美音様は、あの時亡き両親と約束した通り、私を自分の子供のように育ててくれました。

自分の子供となんら、変わりない優しさで、抱きしめてくれました。

多くを教え、それが出来れば褒め、悪さをすれば、叱ってくれる。

そんな本当に両親と変わらない態度で接してくれました。

もっとも、たいてい怒られる時は、空羽(くう)様、

美音様の実娘である、袁基様の悪戯に巻き込まれた場合でしたけどね。

 

空羽様とは、齢が同じ事もあって、すぐに打ち解けあい。

本当の姉妹のように育ちました。

そのうち、まだ赤子だった美羽様も、よちよち歩きを始め、

私はこの恩を、空羽様と美羽様をお助けして行く事で帰して行こうと誓いました。

そのために、必死に学びました。

多くのモノを身に付けようと努力しました。

 

ですが、私に武の才はなく、褒められたのは、気配を読む力くらいなものでした。

学の方も、秀でたものはありませんでしたが、それでも筋は悪くないと言われたので、

自分の身に付けれるものを、努力し続けました。

 

そんな私を、美音様と空羽様は、時折外に連れ出し、

私を困らせながらも、私に笑顔をくれました。

そんな二人に釣られる様に、いつの間にか私も笑顔になっていました。

それを見た二人は、

 

「勉強に励むのも構わぬが、せっかくじゃ、楽しまなければ損じゃぞ」

「七乃は、笑っていた方が絶対に合うと思うんだけどな」

 

そう、私に笑顔でいる事を進めます。

美音様など、

 

「無理でもにこにこ笑っとれ、お前は、それが一番の才能じゃ」

 

等と、笑いながら言うんですよ。

まったく酷い事を言います。

でも、今思えば、それが美音様のこの地に住む人達への、心からの想いだったのでしょう。

 

 

 

 

更に時は流れ、

成人の儀を済ませた頃には、地道に努力し続けてきた事が、それなりに力になりはじめ、

美音様の力になれるようになり、全てが上手くいっていました。

 

『 民に苦しくても、笑顔を作れるだけの世の中を 』

 

それが、美音様の願いでした。

そして、その願いと努力が実り、街には少しづつ笑顔が増えて行きました。

美羽様も大きくなり、拙いながらも、その歌声で、偶の休みの美音様の心と体を癒やします。

興が乗れば、四人で合奏を楽しむ事もありました。

美音様が仕事を放り出して、四人で祭りに出かける事もありました。

そんな幸せな時が、ずっと続くと思っていました。

 

ですが、ある時を境に美音様は体を崩され、回復する事無く、その生涯を閉ざしてしまわれました。

過労で体が弱った所に、流行病が襲ったのだろうと言う事でしたが、私にとって、そんな理由より、恩を返すべき相手が突然いなくなってしまった事に、…二度目の親の死に、私は悲しみ、無気力に日々を過ごしていました。……ですが、そんな私を叱り、そして励ましてくれたのが、空羽様と美羽様の御二人のお嬢様でした。

母様の想いを無駄にする気なのかと、

姉様を助けて欲しいと、

あの御二方らしい、呆れるような、そして賑やかなやり方で、

部屋に閉じ籠る私を、引っ張り出してくれました。

私は本当にこの人達に、助けられてばかりだと思い知らされました。

 

美音様、お嬢様方はとても優しく、そして強い方です。

それに比べ私は、弱いです。

ですが、そんな弱い自分とは、今日で別れを告げます。

美音様は、言っていましたね。

苦しくても笑える強さを身に付けなさいと、

笑顔が周りの者を力付けると、

笑顔が周りの者を安心させると、

なら私は、そうして見せます。

その上で、御二方をお守りする力をつけてみせます。

この掛け替えのない家族を守るために、

 

 

 

 

ですが、そんな私達の想いとは逆に、民からは笑顔が少しづつ消えて行きます。

不作続きなのは分かりますが、それだけではないようです。

私と空羽様は、理由を捜しているのですが、上手くいきません。

それに、妙な気配も気のせいかと思うほど多く感じます。

 

幾つかの方策を考えるのですが、どれも上手く言っていないようです。

方策が現状とあっていない?

そう思い至り、私と空羽様は、視察を小まめに繰り返す事にしました。

そして、いくつかの村や荘園を見回った結果、私達の行ったはずの方策が、

ほとんど行われていない事に気が付きました。

やはり、方策に問題があるのかも?

それとも何か他に理由が?

 

そう思っていた時でした。

空羽様が荘園へ視察した帰り道、崖崩れに巻き込まれ、亡くなられました。

その最後の姿は、とても美羽様にお見せできるものではなく、美羽様は姉である空羽様の最期の顔を見る事無く、見送る事になってしまいました。

 

私は、片腕をもがれた様な失意に落とされながらも、

美音様と空羽様の意志を無駄にしないためにも、まだ幼い美羽様の代わりに執務に励みました。

他の高官の方も、特に異議を出す事は無く、私の良い様にさせてくれました。

そして、空羽様が亡くなられて二か月が経った頃でしょう。

美羽様が、泣きながら執務室に駆け込まれてきました。

そして、

 

「えぐっ・七乃…七乃…うぐっ…、こっち来てたもれ…」

 

私の袖を引っ張りながら、庭の真ん中まで連れ出します。

涙を堪えるものの、堪えきれず、

それでも、なんとか我慢しようと、頑張りながら、

小さな手で、私を引っ張っていきます。

 

そして、聞かされました。

美音様と空羽様の死が、作為的であった事を、 …それが、御二人の民を想う政策が、己の私腹を肥やす邪魔になる袁家の老人と呼ばれる、高官達の仕業である事を、

そして、私達の政策が上手くいかない理由も、庭の真ん中に連れ出された理由も、

美羽様は、酔っぱらって、面白げに口を滑らせた高官の話を立ち聞きした事を、

泣いてしまえば大声が出てしまうから、涙を必死に堪え、

悔しげに、小さな嗚咽交じりに、私に話して聞かせてくれました。

 

私は信じられない思いで、目を瞑り考えます。

あの人の好い笑顔を浮かべる人達が、本当にそんな事をするのか?

美羽様の代わりに、政を任せてくれたあの人達が、なぜそう言う事を?

私腹を肥やすならば、自ら政をした方が、私腹を肥やしやすいはずです。

ですが、もしあの人達が、美羽様の言うとおりの方であったならば、

方策が上手くいかない理由も、

民から笑顔が消えた理由も、

頻繁に感じる気配も、

そしてお二人の突然の死も、

全て辻褄が合います。

 

なら、調べる必要があります。

美羽様の言葉を疑う訳ではありませんが、

もしその通りだとしたら、迂闊に動く訳には行かないからです。

だから私は、まだ涙を浮かべる美羽様の顔をお拭きしながら、

 

「美羽様、この事は、この七乃に暫く任せてください。

 美羽様は、くれぐれも、知った事をあの人達や、他の者に悟られないようにしてください」

「ぐすっ、わ・分かったのじゃ」

 

 

美羽様に、

遺された最後の家族に、

そうお願いします。

 

 

 

 

それから、私は半年かけて調べ上げました。

此処まで時間がかかったのは、時折感じた気配の正体に気が付いたからです。

あの人達の事を調べるのには、何も気が付いていない振りをしていた方が、邪魔をされないと思ったからです。

そして、美羽様の言う事が本当である事が分かりました。

それどころか、この袁家がすでに彼等の手で支配されていた事を、

私に政を任せていた理由も、自分達が楽をするためと言う、呆れるばかりの下らない理由でした。

更に厄介なのが、味方となりえる人間が誰もいないと言う事でした。

私と美羽様は、袁家と言う鳥籠に飼われた哀れな鳥だと言う事を……、

 

許せません。

 

己の私腹を肥やしたいがため、

己の欲望を満たしたいがために、

民から笑みを奪い、

美音様を、

空羽様を、

私達の家族を奪った、あの人達が許せませんでした。

そして、その想いは美羽様も同じでした。

何としても、この人達に復讐する。

それが遺された私達二人の生き甲斐になりました。

 

 

 

 

ですが、籠の中の鳥である私達には、何もできません。

なら、恭順を示して見せ、あの人達が油断して、鳥を籠の外で遊ばせるようにするまでです。

そのためには、私はまず美羽様に、仮面を被る事を徹底させました。

無邪気で、我儘なれど、暗愚で操りやすい君主の仮面を、

 

そして、私は持てる能力を磨きつつ、あの人達に近づきます。

あの人達が望むような、都合の良い女になって見せます。

そして、空羽様が亡くなって一年、私も仕事を全て覚えた頃だろうと見計らったように、

あの人達は、その本性を出してきました。

 

私に政を任せていたのは、楽をするためだけではなく、

私に自分達の私腹を肥やすための金を捻出させる事、

自分達の都合の良いように、政を持って行かせるため、

そして、何か大きな問題があれば、私と美羽様に全てを押し付けるためでした。

私を育てる事で、何もしなくても、自分達の思い通りに行く様にするためでした。

 

その醜悪な考えには、反吐が出そうでしたが、

今は、それに従うしかありません。

あの人達は、いざとなったら、美羽様すら廃し、

正当な血筋は無くても遠縁の者を擁立するつもりでしょう。

それが何を意味するのかを、彼等は深く考えずに、

己の都合の良い者と言う条件で、選定するに違いありません。

 

なら、私はあの人達の思惑に乗って見せます。

あの人達の言う通り都合の良い女に、

美羽様のためなら、何でもする馬鹿な女を演じて見せます。

(まぁ実際、美羽様のためなら、何でもしますが)

そして、機会を伺い、攻勢に出て見せます。

 

 

 

 

そうして数年が経ちました。

ですが、思い知ったのは、あの人達の愚劣さと卑怯さでした。

袁家と言う名の巨象の前に、私達二人では何も出来ない事でした。

それでも、死に物狂いで磨いた気配を読む能力は、

せめて少しでも民を苦しめまいと、寝る間も惜しんで築き上げた政治能力は、

あの人達の油断と信頼を得る事は出来ました。

ただ、意外だったのが、あれだけ欲望に忠実なあの人達が、私を手籠めにしようとしなかった事です。

どうやら、その事が原因で、今の快適な生活が壊れる事の方を恐れたようです。

正直、あの人達の信頼を得るためなら、肌を重ねる事すら覚悟していましたが、

相手にその気がないのなら態々、こちらから誘うまでもないでしょう。

それこそ何かあるのでは、と疑われる原因になりかねません。

 

自分達の力の無さに絶望しながらも、なんとかならないかと模索する日々を過ごす中、

いつかあの人達の指示で、兵糧を止めた孫堅さんが、あの時受けた傷が元で、力を失い。

挙句に豪雨の中、崖崩れに巻き込まれて亡くなられ、その跡を継いだ孫策さんが、広げた領土と豪族の離反から、追い詰められている事を知りました。

そこで、私達は孫策さんを利用する事を思いつきました。

 

目的をあの人達への復讐ではなく、

あの人達のような愚劣な人達を生んだ袁家を、

もうどうしようもなく腐ってしまった、袁家そのものを滅ぼす事を決意しました。

むろん、その中には、私と美羽様も含まれています。

ここ数年で、心を擦り減らしていた私と美羽様は、そこまで、思いつめるようになっていました。

 

美音様と空羽様が今の私達を見たら、きっと怒り嘆かれるでしょう。

ですが、今のまま生きていても、お二人が望んだような世の中を作る事は出来ません。

そして、孫堅さんは、私達が望んだような国を目指していましたし、

きっとその娘さんの孫策さんなら、同じ志でしょう。

なら、私達は彼女達にその志を継いで貰います。

私と美羽様は、袁家の、この地に澱む穢れた人達を全てを引き連れて、

地獄に落ちる事で、民に笑顔を取り戻させるための礎になります。

それが力無い私達が出来る、せめてもの方法です。

 

ただ気になるのが、美羽様です。

あの泣いて私の部屋に飛び込んできた日より、

美羽様の体は成長されておりません。

心も、仮面を被り続けてきた影響か、

もうどちらが自分なのか曖昧になって来ているようです。

あと一年もすれば、美羽様は成人の儀を迎えられますが、

とても、そうは見えませんし、月のモノも今だ来られていません。

きっと、美羽様にとって、御二方の死の真相が、それだけ衝撃だったのでしょう。

 

なら、ある意味、これは幸いかもしれません。

あと何年掛るか分かりませんが、これを理由に、あの方達の御子息との婚儀を伸ばせるからです。

婚儀を澄ませば、私と美羽様は引き離され、事が運びにくくなってしまいますし、最悪機会を永久に失ってしまう可能性が高いからです。

それに、上手くいけば私も美羽様も、穢れずに地獄に旅立つ事が出来ます。

もう私達の手は、直接ではありませんが、血に汚れています。

でも、願えるのならば、この身体が穢れる事無く、あの世に旅立ちたいですし、

私も美羽様も、共に地獄に旅立つことを決めた今、今更あの人達等に穢されたくはありません。

 

 

 

 

孫策さん、

 

馬鹿な願いで、

 

身勝手な事だとは分かっています。

 

でも、

 

私達には、今の状態を何とかする力は無く、

 

残された時間はあと僅かです。

 

機会は何とかして作ります。

 

だから、早く私達を殺しに来てください。

 

あの人達諸共、袁家と言う巨大な醜悪な存在を、

 

この世から消し去ってください。

 

 

 

代価は、貴女達の危機を救う事と、力を取り戻させる事。

 

そして、私達の命です。

 

足りない事は承知の上です。

 

それでも、それが私達に払える全てです。

 

そしてそれで、この地に住まう人達に、

 

笑顔を取り戻してください。

 

苦しくても、なんとか笑っていられるような、

 

生きる希望のある国に、

 

 

 

それが、私と美羽様の、私達家族の、最後の願いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

 第65話 ~ 籠の鳥は、何を想い舞う ~  を此処にお送りしました。

 

世の中、なかなか儘成らないものです。

今回の話は、当初もう少し先まで書く予定でしたが、

七乃達の過去だけで、話しを区切った方が、キリが良いので、二話に分ける事にしました。

 

さて、今回のお話で、彼女達の願いが明らかにされました。

二人の願いに関しては、きっと多くの人が予想されていた事でしょう。

ですが、こうして文章でその想いを表わし、そして、そう言う二人の想いを分かったうえで、

前回の最期の台詞を読み返すと、一味違った意味に見えると思います。

 

さて、次回はいよいよ、この戦に本当の意味で決着がつきます。

読者の皆様には、気になる事が、まだまだ残っておられるでしょうが、次回の更新をお待ちください。

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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