「どこぉ・・・ひっく、どこなの・・・」
あぁ聞こえる聞こえる。かわいい女の子の泣き声が聞こえてくる。
どこだろう、どこなんだろう。
「お母さん・・・えっぐ、お父さん・・・」
あぁ見つけた見つけた。火のような赤い髪。泥に汚れてお肌はまっ茶色。でも、なんてすんだ蒼い目玉だろう。あぁこの子は困っている。困っているんだ。よしよし・・・・
『お嬢ちゃん、かわいらしいお嬢ちゃん。道に迷って困ってるの? お腹がすいて苦しいの? 一人で暗い暗い森の中はさびしいのかい? だったら助けてあげよう。あげようとも。』
「うっうっ・・・うん。ありがとうございます。」
『お嬢ちゃん、お嬢ちゃん。一つお約束しておくれ。これから目を閉じるんだよ。森の外まで決しておめめを開けてはいけないよ。守れない子はもう二度と出られないよ。』
「はい・・・わかりました」
あぁ!なんて素直でいい子だ。ずいぶん前のはギャーギャー騒いですぐに約束をやぶったもんだ。
『ほぅら、手を引いて行こうね♪』
「あの・・・少し待ってくれませんか」
『おやおやまぁまぁ!どうしたのだい!?』
「その・・・足を、さっき転んでしまって・・・」
『あぁ!足が真っ赤だね。よしよし、よぉっく利くお薬を塗ってあげよう。』
しみるのだろうね、痛いのだろうね。顔をくしゃくしゃにしてるよ!けど、目を開けないとは強い子だ。この間のはびっくりして目を開けたのに。
『どうだい、どうだい? スーッとしてきただろう?』
「はい・・・最初は痛かったですけど、こんなによく効くお薬をありがとうございます」
あぁ、顔いっぱいに広がる安らかな笑み。いい子だ、いい子だ。このまま約束を守れるといいのにね。
あぁ!つまらない、聞き分けがよすぎてつまらない!! 目をこじ開けてやろうにも、助けてやると約束したからできやしない。
『わー熊さんだーたすけてー』
そうだ、少し手を離してやろう♪
「ひいっ」
あぁ、良い良い! 転んで、無様な豚みたいにはいつくばるのはかわいい。あおざめる顔が愛らしい。さぁ、恐れおののき目を開けろ。開けて約束を破れ。
「目を開けなかったら助けてくれる。優しい声の人は約束してくれた。
だから、絶対に目をあけちゃいけない。開けちゃいけない、開けちゃいけない・・・」
『グングルグゴル、グガァァァッゴ!!』
グガァァッルゴってか、くっくくくく・・・真っ青になった真っ青になったよ。ほら、開けろ。やれ開けろ!
・・・・・・ちっ。目を開けやしない。
『あぁ!お嬢ちゃん!!熊さんは逃げていってしまったよ。怪我はなかったかい? 目を開けていないのかい?』
「・・・はい、大丈夫です。」
『そうか、それは良い! さぁ、出口は近いよ♪』
『お嬢さん、ここでお別れだ。』
「はい、ありがとうございます。」
『でもね、これからゆっくり10を数えるんだ。そして、もういいよと言うまで続けるんだよ。もちろん、目をつぶったままだ。』
「7・・・8・・・9・・・10」
『まぁだっだよ~』
「8・・・9・・・10」
『もう・・・ちょっとー♪』
うぷぷぷぷ、目がビクッて開きかけた♪ でも、開けない。あぁ、今まで引っかかってきたのに。
「6・・・7・・・8・・・9・・・10」
『よくやったね、お嬢ちゃん。がんばったお嬢ちゃんの望みをかなえてあげよう。』
私の頭をゆっくり撫でてくれながら、優しい声の人は『もういいよ』と言ってくれた。私は目を開けた。
空は青くどこまでもどこまでも広くひろがっている。暗い闇につつまれた森の出口で少女は立っていた。
太陽はゆっくりと地平線に落ち、周囲は深い赤と青にそまりながらも少女は森の出口に立っていた。少女はその蒼い目にいっぱいの涙をためて森を見ている。
ふいに、音一つしない森から爆発的な音が出た。
その声は人、大勢の人達の悲鳴に似ていた。
そのあと、森からはざわざわとあちこちから何かが動く音が次々と聞こえた。
涙をためつづけた少女は、ついにぼろぼろと大粒の涙を落とし心からの笑みを浮かべた。
『ちいぃぃぃっ! なんて子憎ったらしいお嬢ちゃん!!』
そんな声が聞こえたような気がした。
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不思議な森に入った人のお話