No.152969

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(8)

駆け足投稿になってしまっている為、内容量は多く、クオリティは低下です。

どうもすいません。

2010-06-24 20:28:11 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:12419   閲覧ユーザー数:8674

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

一刀がどこかおかしい。

最初はそんな意味を持つ鉄の言葉からだった。

 

毎朝恒例の馬術並びに弓騎訓練は継続しているのだが、翠との手合わせ兼鍛錬を休むようになった。

その為、代わりを鉄が買って出、翠に完膚なきまでにボコボコにされて毎朝スッキリした表情で朝議に参加するのが変わりの恒例となり始めて、既に2週間が経とうとしていた。

 

その間、女絡みで何かあった訳でも無く。

これは蒲公英が独自に捜査(ストーキングとも言える)をした結果なので、間違い無い。

 

五胡との小競り合いに幾度も出陣し、戦果を立派に上げているのも違う。

人を斬っても、一刀は普段通りの笑顔を浮かべられるようになっていた。

だからと言って、それが平気になった訳でも無い。

だからこそ、違うと言い切れる。

 

その他に異変の原因になりそうな物と言えば。

2週間前の初陣の後、件の黄巾を見て仰天していた事位しか無い。

 

それは大乱の切欠だと、皆は一刀から聞いていたものの、ここいらではあれ以来黄巾を巻いた賊は現れていないので、考え過ぎではないかと思っているのが現状なのである。

更に言えば、中央では黄巾が現れているが、その勢力は非常に微々たるもので、諸侯に即鎮圧されていると言う事実も、その考えに拍車をかけていた。

 

だが。

一刀は現状を、嵐の前の静けさと感じ取っていた。

何か、何か切欠があれば、今の漢王朝に対する不満が大爆発する可能性が高いとも。

 

そして、その火種となりかねない事態が起こった。

漢王朝の現皇帝、霊帝―劉宏が病で倒れたという報せが、大陸中を駆け巡ったのである。

 

これは、黄天を理想に掲げる黄巾達の気概を煽る事となった。

何故ならば、自分達が旗揚げをして然程日が経っていない今、蒼天の象徴たる皇帝が倒れたという事実。

正に、天の加護が自分達にあると、錯覚するには十分過ぎる。

各地で、今までとは桁違いの蜂起が一斉に起こる。

その数、ざっと数十万。

下手をすれば、百万以上とも言われる程の大軍勢が、諸侯に、漢王朝に牙を剝いた。

 

して遂に、後世で『黄巾の乱』と語り継がれる事となる、漢王朝始まって以来の大反乱が初まったのである。

 

そしてそれは同時に、遂に北郷一刀が『天の御遣い』として名乗りを上げる要因ともなったのである。

 

 

 

 

 

真・恋姫†無双

-天遣伝-

第七話「急転」

 

 

黄巾党の大蜂起が起こってから一週間経った日の朝、西涼は極度の緊張に包まれていた。

 

統治がしっかりと成されていた西涼では、他の地域とは違って大々的な蜂起は起こらなかった。

だが、洛陽等の中枢部では、被支配民の人間全てが黄巾党に参加したのではないかと思えるほどの大軍勢に膨れ上がっている。

 

これは由々しき事態と、宦官達も余裕を無くしたのか、普段は絶対に出しはしない中央への召喚命令が、碧の下へと届いたのだ。

碧は、周りの顔をぐるりと一度見渡してから、言う。

 

 

「諸君、これは非常に良い機会だ」

 

 

周りも次々に頷く。

皆、碧が王朝の現状に嘆いている事を良く知っている。

皇帝等名ばかりであり、実際の政治は周りを取り囲む宦官。

その内で最も力のある十常侍が取り仕切っている。

 

碧は常々この宦官達を無理にでも除去したいと思っているのだが、下手に動けば自分だけでなく、西涼の民全てが逆臣扱いされかねないという事をしっかりと理解している為、動けない。

それに、西涼から洛陽では、電撃戦を仕掛けようにも遠過ぎるのだ。

 

また、同様に宦官を宮中より追い出したいと思っている、何進大将軍が最も皇帝に近い位置にいるが、これまた十常侍に遠ざけられている。

 

だが、今回は違う。

向こうから此方に「来てくれ」と頼んでいる。

隙を見て宦官達を除き、権限を皇帝に返還すれば、漢王朝は元の形に戻れる。

それに、碧には切り札がある。

 

 

「一刀、あんたには『天の御遣い』になってもらうよ」

 

 

天の御遣い。

碧が持ち、今に至るまで秘匿され続けていた切り札。

間違い無く、対宦官全般に使える最強の手札。

 

 

「! ・・・はい、わかりました!」

 

「よし! 朔夜、騎兵二万を用意!」

 

「多過ぎないかしら? 城に残せるのが三万と少しになってしまうわよ」

 

「この際目を瞑る! 最悪、五胡共に城さえ落とされなきゃいい!」

 

「・・・わかったわ」

 

 

何だかんだで、朔夜も漢王朝を憂いているのだ。

多少の無茶でも、許容する。

 

最も、朔夜には残った者達だけで勝利するだけの勝算がありもするが。

それは、一刀が発案した鐙。

その鐙を量産にまで漕ぎ付け、今では全軍馬に配備できるようになった御蔭で、唯でさえ精強な西涼兵達は更に力を付けたのだ。

これには、碧達も諸手を挙げて喜んだ。

 

その後、洛陽まで連れていく将を発表。

碧と一刀は当然として、朔夜、蒲公英、葵が同行する事になった。

当然翠は異議を唱えたが、一蹴された。

哀れ、翠。

 

出発は明朝。

 

 

 

 

 

その日の夜。

一刀は自室で鏡に向かい、久し振りに腕を通した制服姿の自分を眺めた。

感想は。

 

 

「(キツイし似合わないよなぁ・・・)」

 

 

この世界にやって来て、急速に付いた実戦用の筋肉の為に、インナーとズボンがパンパンに張り詰めている事がキツさの原因。

それだけでなく、肌が色濃く日焼けしている所為で、光を反射するとキラキラと輝く様に見えるポリエステル100%の、純白の制服はまるで似合っていないと感じた。

 

溜息を吐いて、暁を袋に仕舞い、もう寝ようと制服を脱いだ瞬間だった。

部屋の扉が控え目にノックされた。

 

何かと不思議に思って首を傾げながら、一刀は扉を開く。

して、そこにいたのは寝間着姿の翠だった。

 

顔を真っ赤にしながら、胸の前でモジモジと手を動かす様に、ハグしたい衝動を押し留めた一刀は、翠を部屋に招き入れた。

 

座る所が無いかと思って、一つしかない椅子を譲り、自分は寝台に腰掛ける一刀。

しかし、翠は何を勘違いしたのか、一刀の隣にチョコンと小さく腰掛けたのである。

当然、顔は真っ赤を通り越して最早真紅の域に至り掛けていた。

頭から比喩抜きで煙が立ち上っている。

一刀は感動を覚えた。

ああ、人は本当にこんな風に、マンガみたいに頭から煙を出せるのだな、と。

 

そんな変な処で感心している一刀とは裏腹に、翠は羞恥心と【期待感】で脳が沸騰しかかっていた。

 

 

「(は、恥ずかし過ぎて死ぬっ!!)」

 

 

実は、翠。

明日から暫く会えないであろう一刀に甘える為に、態々部屋まで来たのである。

そしてもし、一刀が求めたならば、大人の階段を昇る気満々であった。

と言うか、ぶっちゃけそう言う関係になりたいと思っていた。

 

想いを自覚して早一ヶ月。

女心に疎い一刀の所為で、フラストレーションは溜まりまくっている。

唯でさえ、朝の唯一一刀を一人占めできる時間まで、今では無くなってしまっている事も、当然原因の一つだ。

 

だが、まだ告白していない以上、一刀がそういう事に気付く可能性は無いに等しい。

何せこの野郎。

学年一モテるくせして全く理解せず、同級の早坂を羨ましいとか思っていたりするのである。

本人に言ったら、及川と共に血涙流して一刀に殴りかかるのは確定だ。

 

話を戻す。

 

とにかく、翠は閨を共にする覚悟を決めて此処に来ている。

その為に、葵に教わった『勝負下着』とやらを着用したし、風呂で丹念に体を清めて来た。

準備は万端。

なのに、話が出来ない。

糸口が無く、先に進まないのだ。

 

暫し沈黙が二人の間に漂う。

気まずい雰囲気とも言い換えられる。

 

 

「あー、翠?」

 

「う、うん」

 

 

意を決して、話しかける一刀。

翠もまだまだ赤さの残る顔を上げた。

 

 

「俺、もう寝ようと思うんだけど・・・・・・」

 

「あ、そうなんだ、え~っと・・・」

 

 

また途切れた。

翠は一刀が暗に出ていって欲しいと言っていると解ったが、ここで退く訳にはいかないと、断じていた。

既に退路は自身で絶ったのである。

残るは前進玉砕のみだ。

ありったけの、それでいてなけなしの勇気を振り絞る。

 

 

「な、なあ、あたしも此処で寝ていいか?

(ヒャアアアアア!!! 言っちゃった! 言っちゃったよぉ~~~!!)」

 

「えっ!? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、別にいっか」

 

「マジで!!?(ああ・・・母様、あたし今日漸く大人になれるんだ・・・・・・)」

 

 

少々危ない方向へトリップを始めた翠を放り、一刀は寝台に上った。

翠もいそいそと、自分も寝台に上がり始めるが、そこで何かがおかしいと気付いた。

一刀が、毛布を一枚引っ張り出してから、寝台から降りようとしている。

 

 

「なあ、一刀」

 

「ん?」

 

「何でお前移動してるんだ?」

 

「そりゃ、椅子で寝るからに決まってるじゃないか」

 

「ええっ!?」

 

 

それじゃあ自分を抱けないじゃないかと考え、そこで翠は致命的な食い違いに漸く気付く。

一刀は、自分に寝台を使わせ、自身は椅子に座りながら寝るつもりだ。

つまり、最初から自分と同じ部屋では寝るけれど、同じ場所では寝る気は無いのだ。

それではいけないと、翠は思う。

翠の真の闘いが始まった。

 

まあ、結論から言えば惜敗と言ったところだろう。

何とか、同じ寝所で寝る事を承知させたのだから。

 

因みに。

 

この夜の事を、翠が唯の勘違いから『初夜』と発言してしまい、一刀が大変な事になるのはまた後の話である。

天にも昇る気持ちで床に就く事が出来た翠であった。

 

 

 

 

 

翌朝。

寝不足の為、眼の下に濃い隈を作った一刀は、白澤の上で目を擦っていた。

因みに、翠は見送りに来ていない。

未だに一刀の部屋で、夢の中で幻想の一刀とウハウハイチャイチャしている最中である。

 

碧と蒲公英はそんな一刀の姿を見てニヤニヤ笑いを向け。

朔夜は呆れ顔。

葵は顔を真っ赤にしてブツブツと独り言を呟き。

休は頻りに舌打ちを打ちながら「姉者に先を越されたか・・・」等と物騒な事を呟き。

鉄は何が何だか分からないといった様子で首を傾げていた。

 

一刀は別に翠を抱いてはいないのだ。

だが、一線を越えるまで、かなり危うかった。

想像しても貰いたい。

同じ布団で、スタイルさえも極上の美少女が無防備に眠っていて、時々自分に身体を密着させ、悩まし気に身動ぎするワンシーンを。

しかもそれが、寝付く前に間断等殆ど無く襲って来るのだ。

常にドキドキしっ放しで、眠る事等不可能だった。

 

だが、一刀も立派な青少年なのである。

溢れるリビドーを全力で抑え込む為に、翠が厠に立った隙を見計らい、暁を抱えて寝所を脱出。

寝惚けていた翠は、当然一刀のその行動に気付かずに、一人で就寝した訳だが。

 

脱出したけれども、滾るリビドーを鍛錬に向ける事しか思い付かなかった一刀は、寝る替わりに夜明けまでほぼ休みなしで暁を振るい続けた結果が、今。

確かに、性衝動は消化できたが、それ以外で鍛錬の結果は顕著に表れた。

冒頭通り、死ぬほど眠いのである。

 

今は瞼を落とさない様に集中しているから大丈夫だが、気を緩めたら眠って暫く起きない自信が一刀にはあった。

 

それでも世界は無情に進む。

碧の号令、朔夜の指示の下、軍は動き出していく。

 

一刀はやはり必死で意識を保ちながら、白澤に身を預けた。

白澤は主の意思を見事に汲み取り、振り落とさぬよう優しく、それでいて置いて行かれぬよう優雅に走り始めたのだった。

 

 

 

一方の西涼残留組。

 

 

「休兄、行っちゃったな、皆」

 

「ああ、これから俺達も忙しくなるだろう。

・・・取り敢えずは姉者を起こさねばな」

 

「兄貴の部屋だっけ? 姉貴も念願叶ったみたいだしな~」

 

「いや、まだと見るな」

 

「へっ?」

 

 

邪悪に笑う休に、呆けた鉄。

 

 

「姉者はあれでかなり羞恥が先に出るからな、何だかんだで一殿に股を開いてはいないだろうさ」

 

「ほー」

 

「つまり、まだ一殿の胤を受けた者はおらぬという事だ

なれば、俺にもまだ目はある・・・クックック・・・・・・」

 

「・・・兄貴が衆道ねぇ・・・ないわ~~~」

 

 

この瞬間、一刀は背筋がドライアイスになった様な錯覚を覚えたらしい・・・・・・

頑張れ一刀!

特に背後に!

 

 

 

 

 

―――陳留

 

 

「上洛命令・・・? 随分と今更ね」

 

 

玉座に座しながら呟くのは、ここ陳留の主である曹操孟徳。

今しがた王朝から齎された命令書を読み上げたのは、荀彧。

そして、曹操の両脇に並び立つのは夏候姉妹の夏候惇と夏候淵。

 

まだ主要な人間は幾人かいるが、今この場にはこの四人のみ。

 

曹操は苛立たし気に溜息を一つ吐く。

彼女がここまで苛立つ理由とは、今まで黄巾党を野放しにし続けた王朝からの命が遅過ぎる事にあった。

本来ならば、蜂起の直後には召集をかけるべきだというのに、今まで放置しておかれたのは明らかに中央の怠慢だ。

今、曹操の軍勢は徴兵を行った直後であり、これから調練を行うところだったというのに、これでは中途半端な兵を連れていく事になりかねない。

そんな事は、曹孟徳としての矜持が許さない事であった。

だからと言ってこの命に従わないのであれば、中央を牛耳る宦官達は、これ幸いと曹操を逆臣として処罰し、陳留を奪うだろう。

そうなれば、割を食うのは自分達だけでは無く、ここ陳留の民達もだ。

それだけは、曹操が避けたい事態であった。

 

 

「しょうがないわね、桂花。

私の親衛隊に加えて、既に調練が済んでいる兵、一万人分の準備を」

 

「はい、華琳様!」

 

 

曹操―華琳の命を受け、嬉しそうに玉座の間から走っていく荀彧―桂花。

華琳は微妙に痛んだ頭を少しだけ抑えてから、傍の夏候姉妹に言葉をかける。

 

 

「春蘭、秋蘭、今夜は貴方達が閨に来なさい」

 

「はい!」

 

「分かりました、華琳様」

 

 

言われ、全身から嬉しさを溢れ出させる夏候惇―春蘭。

一見クールに見えるが、しっかりと口元に笑みを浮かべる夏候淵―秋蘭。

 

曹操は、己に靡く二人を見ながら想いを馳せる。

自分の思い通りにならず、しかし尚それでも覇道を共に歩める者はいないのか、と。

 

 

「(腑抜けた考えね)」

 

 

フッ、と自嘲の息を漏らし、春蘭の美しい黒髪を指先で弄ぶ。

曹孟徳が、その価値在りと認める男と出会うまで、あと少し。

 

 

 

―――健業

 

孫呉の都。

その中庭の東屋にある机の周りに、六人の褐色肌の女性が輪を作っていた。

 

 

「さて、黄巾党退治の為に私達にも声がかかった訳なんだが、幾らなんでもこれは無いだろう・・・・・・」

 

「正直遅過ぎですね。

今の漢王朝には、まともな頭した人がいないんじゃないんでしょうか」

 

「うむ、昭殿の仰る通りじゃ。

此度の応対には一介の武人でしかない儂でさえ、呆れるしかない」

 

 

兜の様に巨大な金属板を頭に乗せた淡い桃色の長髪を持つ女性が言葉を発し。

それを黒く長いウェーブヘアーの女性が辛口で評し。

更に薄い銀髪の女性が二人に同意した。

因みに、三人ともそれなりに歳を召されている模様である。

 

上から順に。

孫堅文台―大蓮

張昭子布―湊

黄蓋公覆―祭。

 

孫呉そのものを創り上げた大功労者の三人だ。

それ故に、後においては絶対的な発言力を持っている。

 

 

「あの、それで私達は何を・・・?」

 

 

残る三人の内の一人、茶の短髪を持った儚げな女性が、おずおずと尋ねた。

魯粛子敬―久楽々。

この中では唯一褐色の肌を持たない人間だ。

 

大蓮は久楽々を見、言葉を発した。

 

 

「今回の上洛、私達三人と呉の兵二万五千で行く気だ。

だから、雪蓮を名代として呉の防備を頼む。

分かってくれるな? 雪蓮、冥琳、久楽々」

 

「は、はい! 恐縮です・・・」

 

「しょうがありませんね、解りました」

 

 

眼鏡に手をかけながら、大蓮の言葉に頷く黒い長髪の女性。

周瑜公瑾―冥琳。

 

だが、最後の一人、大蓮に良く似た女性。

孫策伯符―雪蓮は、首を縦には振らなかった。

その様子にピンと来た大蓮は。

 

 

「お前も今回の戦列に加わるか。

どうせ何か勘が働いたんだろう?」

 

「さっすが母様♪ うん、勘よ。

何かね、凄い出会いが待っている気がするの」

 

 

とても真剣な顔になる雪蓮。

大蓮は笑う。

祭も、湊も笑った。

ただし、冥琳と久楽々は苦笑い。

 

江東の虎、そして小覇王。

彼女達が本気で欲しいと思える男に出会うまで、あと少し。

 

 

 

 

 

―――幽州啄郡

 

四人の女性と、その後ろに追従するなけなしの装備をしただけの兵隊という、不思議な組み合わせの行列が、洛陽向けて歩んでいた。

 

 

「それにしても、義勇軍の人達が千人も私達に付いて来てくれるなんてねー♪」

 

「これも偏に桃香様の人徳故です」

 

 

呑気に言った列の先頭を歩く女性。

劉備玄徳―桃香。

大徳とも呼ばれる彼女には、自然と人を寄せ付ける何かがある。

彼女の義妹である関羽雲長―愛紗と、張飛翼徳―鈴々も、そんな桃香に惹かれたのだ。

そして、そんな彼女に追従する存在が更にもう一人。

 

 

「ふむ、しかし徳と言うのは、胸の大きさに比例する物なのだろうか。

現に桃香様は当然として、私という例もいるのだしな」

 

「お前の何処に徳があると言うのだ・・・」

 

「むむ、そうだな。

それでは愛紗にも徳が無ければおかしいという事になってしまう。

これはしまったな、許せ。

私が間違っていた」

 

「なっ! 貴様!!」

 

「にゃはは、愛紗は相変わらず星の手玉なのだ~」

 

「ぐぬぬ・・・・・・・・」

 

 

趙雲子龍―星。

飄々とした態度で愛紗をからかっているが、彼女も桃香の徳とやらを見極める為に、桃香に同行している。

 

彼女達は、元々幽州太守公孫瓉の所で世話になっていた身だったのだが、此度諸侯に送られた召集命令に呼応して、洛陽に向かうという選択肢を選んだのだ。

因みに、公孫瓉の元には件の書状は来ていない。

それが送られるには、余りにも力が弱いのだ、公孫瓉の勢力は。

少なくとも、「今はまだ」と頭に付くのが、唯一の救いだろうか。

 

洛陽に到着しても、門前払いを喰らう可能性がある。

例えそうなっても、桃香達は覚悟の上で進んでいた。

もしもの時は、他の軍に組み込んで貰ってでも。

それでも桃香は、戦わなくてもいい、争いの無い世界が欲しかった。

だから彼女は矜持を持たない。

だから彼女は理想を捨てない。

そしてそれ以上に、自身の理想が正しいと信じている。

それがどれ程脆く、危ういのかも理解しながら。

己を賭けて信じているのだ。

 

そんな彼女が心の底から共に行きたいと願う男に出会うまで、あと少し。

 

 

 

―――天水

 

月達一行は、碧達西涼軍に負けない程の速度で軍備を整え、洛陽への道を進んでいた。

天水自体の護りは那美那に任せ、軍の大半を洛陽へ。

その数約五万。

洛陽を目指す諸侯全てから見ても、かなりの大軍勢である。

 

これ程の軍勢を連れて行けば、変に疑われる事を詠は危惧していた。

最も、洛陽に着いた時に、袁家のバカ二人が共に十万近い兵を連れて来ていた為、その心配は杞憂に終わるのだが。

 

 

「ねぇ、詠ちゃん、碧さん達来るかな?」

 

「来るに決まってるわ。

馬騰が宦官共を根こそぎ取り除くこの絶好の機会を見逃す訳が無いじゃない」

 

 

月と詠のいる馬車の中、月の問いに詠は簡潔に答える。

それを聞いて嬉しそうに笑う月。

 

 

「そっか、一刀さんも来るのかな・・・」

 

「!? 月っ! 貴女まさか!?」

 

「へぅ・・・」

 

 

頬を赤くして顔を伏せる月に、詠は心底仰天した。

見通しが甘かったと。

予想以上に北郷一刀は、自分達に強い影響を及ぼしていた。

もう既に一月は経っているのに、その時間は印象を薄れさせるどころか、加速させていただけと、漸く気付いた。

 

 

「・・・ああもう・・・・・・」

 

「詠ちゃん?」

 

 

思わず額に手を当てて、馬車の天井を仰ぎ見る。

 

認めるしかないではないか。

存外月は気弱そうでありながら、一度決めてしまった事には非常に頑固だと、詠は知っていた。

その月が心惹かれた一刀。

詠は今まで見ぬ振りをしていたが、これでは認めざるをえない。

 

だが、気付いていない。

普段の詠ならば、月に気付かれない様に相手を排除する事さえ先に考えた筈だ。

だというのに、月の一刀への思慕を認めてしまっているのは、詠も一刀を認めている理由に他ならないという事を。

 

まだ気付かない。

少なくとも『まだ』。

 

 

 

 

 

―――洛陽

 

とある一室で銀髪の妙齢の美女が重い溜息を吐く。

その姿は、現代風に言えば花魁、だろうか。

だが、その表情は重い溜息とは違って、中々にあくどい感じが漂っている。

 

彼女は暫し洛陽より遠ざけられ、黄巾党退治に尽力させられていたが、この度何とか洛陽に戻ってこれたのだ。

そして彼女の妹婿と結託し、十常侍の目に付かぬ様に、本来彼等が送らなかった筈の諸侯にも、同じ書簡を届ける事に成功した。

 

沈んだような表情となり、その豊満な胸の谷間から、一つの袋を取り出す。

包みを開ければ、そこから眩い光を放つ代物が現れた。

伝国璽。

代々中華の皇帝が受け継ぐ、印である。

彼女はこれを、妹婿―劉宏から預かり秘匿していた。

 

劉宏から託されたからだ。

思い出すのは、託された時の言葉。

 

 

「朕は最早助からぬだろう。

だから、伝国璽はお前が認めた者に与えてくれ。

それが例え皇族で無くともよい。

この国に和を齎せる者であれば・・・それでよいのだ。

朕は無能で、暗愚であった。

このまま逝ったのであれば、よく尽くしてくれたお前や円達に申し訳が立たぬ。

頼む、朕の末期の願い、聞き届けてくれぬか!?」

 

 

縋る様に頼まれた。

彼女はその願いを聞き、頷いた。

劉宏はそれに満足し、眠りに就いた。

 

十常侍は、伝国璽は劉宏が身に付けたまま眠っていると思い込んでいる。

だから、今彼女が持っている事等、思考の外だ。

人目についてはいけないと、彼女が再び伝国璽を谷間に仕舞いこんだ直後、部屋の扉が開いた。

 

 

「何進将軍、書状を送った筈の無い西涼の田舎者達が来たのですが、何か心当たりは?」

 

「何だと? そんな事儂が知る訳無かろう。

書状を出したのは貴様等なのだから、大方気付かず送ったのだろうさ」

 

「チッ・・・・・・そうですね」

 

「(憎たらしい・・・いっそこの場で叩き殺せたらどれ程爽快か)」

 

 

現れた少年に敵意の籠った視線を向ける何進。

この少年、名を張譲。

十常侍の長である。

因みに、実年齢は何進と余り変わらない。

 

 

「・・・まあいいでしょう、とにかく私は田舎者の相手をしている暇等ありませんので、貴女にお願いしたい」

 

「分かった」

 

 

そう言い、スタスタと部屋を出ていく何進。

残された張譲は、ギリギリと歯軋りを立てた後、腹立たしげに傍にあった椅子を思い切り蹴飛ばしたのだった。

 

 

 

 

第七話:了

 

 

 

 

オリジナルキャラ紹介

 

 

名前:孫堅

字:文台

真名:大蓮

武器:南海覇王

設定:雪蓮、蓮華、小蓮の三児の母。

  江東の虎と呼ばれる豪傑で、湊と祭と共に呉を建国した、孫呉の現王。

  外見は雪蓮と蓮華を足して二をかけた感じ。

  雪蓮程勘は働かないが、代わりに経験量が凄まじい。

  雪蓮並のフリーダムさと、蓮華並の思慮深さを持つ。

  武の腕前は一級品。

 

 

名前:張昭

字:子布

真名:湊

設定:呉の建国の立役者の一人。

  冥琳を遙かに上回る腹黒かつ毒舌。

  全てにおいて冥琳の師匠的存在。

  祭への小言が、彼女の十八番である。

  純粋な軍師の為、個人戦闘力は皆無。

  また、類を見ない程の頑固者で、彼女と喧嘩すると大抵相手が先に折れる。

  酒に弱く、絡み上戸の泣き上戸で、飲むと萌えキャラになってしまう。

  しかも記憶はしっかりと残る為、普段から決して飲まされない様に気を付けている。

 

 

名前:魯粛

字:子敬

真名:久楽々(くらら)

設定:呉のとある豪商の一人娘で、箱入り娘。

  というか、引き籠りだった。

  気が弱くオドオドしているが、軍師としての能力は高い。

  友人である冥琳の説得で、何とか表に出てきたが、今でもかなりビクビクしている。

  思考がかなり後ろ向きで、何かある毎に部屋の隅で蹲りたがる。

  しかしこと戦になると、エグイ、容赦無、な策ばかり献策するので、実は「腹黒ではないか?」と疑われている。

  が、実際には最も相手にダメージを与える策を考えているだけなので、寧ろ性質が悪い。

 

 

名前:何進

字:遂高

真名:美里

武器:芭蕉

設定:元肉屋の店長兼看板娘で、妹が霊帝劉宏の妃として宮中に召し抱えられたのを切欠に、大将軍に任命された。

  外見はアニメを参照すると早い。

  劉弁と劉協にも良く懐かれていて、性質としては肝っ玉母さんが一番近い。

  また、劉宏とも仲が良く、よく相談役にもなっていた。

  その為、十常侍を初めとする宦官連中とは異常な程仲が悪い。

  紛れも無い良い人だが、好き嫌いをはっきりと表に出す為、敵は結構多い。

  が、同じ位友情をもって接してくれる味方も多い。

 

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

はい、今回は過去最大の容量でした。

でもやっぱり超展開にしてしまう癖が抜けない・・・どうしよう・・・・・・?

 

読み辛いかもしれません。

書き直しも視野に入れた方がいいかな?

 

宣言通り新キャララッシュです。

黄巾党編が終了するまでに、後何人でるかなぁ・・・

 

レス返し

 

 

mighty様:ありがとうございます! 今回までは翠のターン! でも次回からは西涼組は暫し出番が無いのですよ・・・

 

2828様:だから後で悶えるんです! ゲーム本編一刀との初体験時もそんな感じですし。

 

砂のお城様:翠分補給は今回までです、自分も結構口惜しいかも・・・

 

うたまる様:お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!? あ、あのうたまる様ですとぉぉぉぉぉぉぉ!!?

 き、恐縮であります!! 蒲公英フラグはこれからですよ。 請うご期待!!

 

zendoukou様:北郷一刀ですから!!

 

 

取り敢えずは、もう正史なんぞ知った事か―!

で行こうかと思ってます。

 

後、新キャラは郁さんの描いた菖蒲と悠は登場させようかと・・・

ではまた次回で!! ノシ

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
93
10

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択