ごきげんよう!
いやぁ、見事日本が負けた。結構惜しいとこまでいっていたと思うんですが、まぁしょうがないですね。
0-1だっただけでもましだと思います。
さて今回のヒロインは、親はツンツンなかんじでしたね、子供はどういう子になったのか。感想なんかあったらよろしくお願いします!
第四話 想華
「陽蓮たすけてくれ~。課題が終わらない~」
陽蓮と呼ばれた桃色の髪の少女は、毎度のことながらとため息をついた。
「想華。またなの?」
「だって、課題があるなんて、僕、知らなかったんだ」
陽華の自室に黒い長髪の想華と呼ばれる女の子がそんなことを言いながら、飛び込んできたのは夕食も終わらせ、しばらくたった頃のことだった。
二人の少女は、母親が異なるものの姉妹であり、母親達と同じように仲がよかった。
北郷一刀の第四子にして孫権の娘、孫登こと陽蓮、そして同じく一刀の第五子にして甘寧の娘、甘述こと想華。
陽蓮は勉強が得意だが、想華は運動のほうが得意なのである。
だからか、こうしたことがたびたび起こってしまうのであった。
「そんなこといったって、私は知っていたんだから、想華が知らないというわけにはいかないわよ」
「だから、手伝ってよ。陽蓮なら、簡単に終わるでしょ?」
「あのねぇ、毎回毎回言うようだけど、課題は自分でやらなきゃ駄目だって、父上も仰ってるじゃない」
「だけど、父さんはこうも言ってるよ。困っている人がいたら助けてやれって」
「それは困っている人が自分で言うせりふじゃないわよ、想華」
「でもこのままじゃ、僕、ほんとにまずいんだって」
「そうね、確かにあなたはまずいわね。私は何も問題ないけど……」
そう、この課題がいつもと違って問題なのは、先生に想華があることを言われたためだった。
「甘述ちゃんは~、そんなに~、私の勉強が嫌いですか~? それじゃあ、今度一度でも課題を忘れてきたら、私と一緒に書庫へ行って一日使ってお勉強しましょうねぇ~!」
のんびりとした口調だったが、それはまるで悪魔の呪文だった。
ボインボインのこの陸遜先生と二人きりで書庫に行くことがどういうことか、学校にいっているもので知らないものはいなかった。もちろん、甘述にとって恐怖であることは言うまでもなかった。
「まさか、まだこんな年で僕が貞操の危機を味わわなければいけないなんて」
「それは言いすぎじゃない?」
「言い過ぎといえる?」
「……。でも、私だけじゃ、どうしようもないし。やはり、父上に相談してみたら? さすがに事情が事情だし」
「と、父さんにいうの?」
「しょうがないじゃない。父上なら、打開策を見つけてくれるかもしれないし」
「う、うーん」
想華は迷っていた。確かに陽蓮の言うこともわかるのである。しかし、一刀に伝えるということはすなわち、母親でもある甘寧に伝わる可能性が高いということでもあるからだ。
想華にとって、何よりもそのことが怖かった。あの、鈴の甘寧にばれる。これだけは避けなければならない。
想華の頭にかつて甘寧こと思春に稽古を付けられた時のことがよぎった。
「……母さんだけは、母さんだけは、さけなければ? ん?」
そのとき想華はふと外の気が変質したのに気がついた。
そして、その気は母親である思春が嫌っている気の一つだった。
「なあ、陽蓮」
「そうね、想華。これで何とかなるかもしれないわね」
陽蓮はため息をつくと、自室の扉を開いた。
「父上。ところかまわず女官を口説く癖はお直しになったほうがいいのでは?」
「へ? ああ、陽蓮。って、俺は別に口説いてなんかいないよ。誰もいないじゃないか」
陽蓮が扉を開けると、その扉の先には、一刀が苦笑いで立っていた。
確かに先ほどまでの桃色の空気が今では消えている。しかし二人の少女は微かな女の残り香を見逃したりはしなかった。
「そうはおっしゃいますが、なにやら父上の肩にずいぶんと長い黒髪がかかっていらっしゃるではありませんか?」
と、陽蓮。
「それにこの匂い、最近流行の香水。ずいぶんと密着していないと衣服に香りが移ることはないと思いますが」
と、想華。
「いや、だからそのね、別に女性と一緒にいたわけじゃなくて……」
実際一刀は別に口説いていたわけではない。確かに女性といたが。
転んで足首を捻挫してしまった女性をお姫様抱っこして、医務室まで連れて行っただけに過ぎないのだから。
(うん、いたって普通だ。別に口説いてなんかない)
「どちらにせよ、これは母さんに報告しないといけませんね」
しかし想華は、一気に畳み掛けに入った。
「な!? ちょっと待て。何でそこで思春に話すんだ?」
「いえ、違いますよ。もしかしたら、僕が母さんと話している最中に口を滑らせてしまうだけかもしれません」
「……それ、脅迫だぞ」
「しかし、父さんが私の願いを聞いてくれたら、僕の口はあの虎牢関より堅く閉ざされることでしょう」
芝居がかった口調がいくらか想華を大人っぽく見せた。
そう、想華には運動のほかに一つ得意なことがある。口喧嘩である。
単純に駆け引きがうまいのだ。舌戦とは異なるが、相手の弱みを掴んでこっちの意見をねじ入れるなんてことを、平気でできるのが想華であった。この点においては、神童と呼ばれている姉妹の陸延にも劣らないと自負する所があった。
そういうわけで結局、一刀はしょうがないと諦めた体で想華の願いに応じることにした。
しかしその願い事に一刀は拍子抜けする。何せ課題を手伝って、である。わざわざ、脅迫することでもないような気がしたのだ。
だから一刀は、最初から部屋に来ればいいのにといったが、それでは取引にならないと陽蓮が口添えした。
陽蓮と別れ、想華は一刀の部屋に向かう。
「それにしても、穏は教師に志願して何をしているかと思えば、そんなことしてるのか?」
「あ、ううん。私だけが特別なんです」
「特別?」
「ああっと、というかあまり勉強はしないものですから。よく、課題も出さないことが多くて」
「……想華、どこにも誉める要素がないぞ?」
「だって、勉強っていまいち何に使えるのかわからないし。話を聞いていてもちんぷんかんぷんだし」
素直に答える想華に、一刀はかつての自分たちの姿を当てはめていた。
聖フランチェスカ学園に通っていた頃の自分を。
一刀たちが一刀の部屋に到着すると、まず想華は当たり前のように、一刀の寝台に飛び込み布団へともぐりこんだ。一刀は一刀で想華の言葉に何か思う所があったのか、なにやら考え出した。
(また、想華は俺の布団にもぐりこんで。寝る前に引っ張り出さないとな。
それにしても、学校を創設したもののやっぱり、雪蓮の言うとおりでまだその段階じゃなかっただろうか?)
一刀はかつての親友でもあり恋人でもあった彼女たちの言葉を思っていた。
まだ戦乱の世にあった呉で天の知識を欲していた雪蓮や冥琳に対して学校の存在を明かしたことがあったのだ。
冥琳は一刀の案に好意的だったが、呉における古くからの豪族の離反を恐れた、というか面倒くさく思っていた雪蓮は自分たちの政治に余計な疑問を民が持つこと、正しくは持ってしまうほどの知識を持つことにに反対して難色を示したのだ。
それに一刀のいた世界でも、というより国でも実際はそうなっていた。国の政を司るものたちは人気が取れればなることができる。しかし、そこに能力があるかどうかはまた別なのである。スポーツ選手、俳優、芸能人と様々な政治家が現れる結果になってしまった。
呉の政治は中枢を良くも悪くも親族で固めている。その楔となっているのは一刀自身だということも理解していた。
かつてあった魏の曹操はそれに対しどこの人間であろうと、積極的に人材を採用した。それはつまり曹操の人材把握能力がそれだけ他の国より上を行っていたことに他ならない。登用したもの達には絶対的服従。これが覇王としての素質を持つ曹操だったからこそだ。
他の国からの将の引き抜き。そういう点においては蜀と魏はは非常に寛容だった。
そのために不安が一刀にはあったのだ。
もし自分が寿命を迎えたり事故や暗殺やらで死んだりした場合、呉の親権政治は立ち行くのかということだった。
蓮華は退位すればその椅子を陽蓮に渡すだろう。しかし、呉国内において歴史どおりことが進むなら、呉の国力の衰退は否めないのだ。内乱に次ぐ内乱。その全ては王位の継承問題に端を発する。
今後の展開がどうなるのかはわからない。しかし、これからなんとしてでも呉の政治の地盤を固めていかなければならないのだ。
考えが一段落した所で一刀は布団にもぐりこんだ想華を抱きしめにいった。
「想華、勉強始めるよ」
「……」
「想華? どうかしたか?」
布団から返事はない。まるで寝てしまったかのようだった。
「想華?」
「……すぅ、……すぅ」
というか可愛い寝息を立て天使のような寝顔だった。
起こすのは忍びないと思いしばらく、想華の頬をゆっくりと撫で続ける。
「ん、ん、うん」
くすぐったかったのか、身をよじるように想華は布団にもぐりこもうとしてしまった。
一刀は仕方がないか、と想華の課題に取り掛かった。
これでも一刀は学生だった時間が呉のどんな学生よりも長いのである。
たとえ穏であろうと、先生をやり過ごす技術はお手の物であった。
想華が目を覚ますとそこは、見慣れた天井だった。
「あれ、なんで私ここに?」
「おはよう、想華」
「ふぇ、はわぁ!!!」
「はわって、孔明じゃないんだから」
そういって枕元で一緒に横になりながら笑っているのは一刀だった。
「とうさん、ど、どうなってるの?」
「うーん、なんていうのかな。とりあえず、起きようか」
「はい」
想華は、寝巻きから一刀が用意してくれていた普段着に着替えると、髪を梳いてもらいはじめた。
一刀はこの手のことがとてもうまい。想華は気持ちよさそうに身だしなみを整えられていた。
「父さん、あの、すごい聞きにくいんだけど、課題って」
「ああ、やっておいたよ」
「え? でも、課題は自分の力でやらないといけないって」
「そりゃあね、課題は自分の力でやらなきゃいけない。でもさすがに自分の娘に、あの状態の穏と一緒に一日を過ごさせるほど意地悪なつもりもないよ」
「ありがとう、父さん」
にっこり笑う想華。そんな想華に今度は諭すような声で一刀は言葉を続けた。
「でもな、想華。なんで勉強が楽しくないと思うんだ?」
「だって、何で勉強する必要があるのかわからないんだもん」
想華が渋面する。
「それなら何で運動するのかわからないから、学校に行く必要もないだろ」
「でも、みんないってるし。姉さんや妹だって」
「ああ、そうだな。それが学校の役割の一つだ」
「学校の役割?」
一刀は学校を作る際に考えていた理念を教えていく。
「学校というのはね、いろんな人たちが集まる場所だ。もちろん、そこには想華のように王族の子供もいれば、商家の子供、農民の子供、貴族の子供もいる。だけど、これからの呉という国が発展していくためには、その中で意見をより交換していかなければいけない」
「うーんと、よく陽蓮が言っている為政者のための在り方、ってやつ?」
「そうだね、人は一人じゃ生きていけない。そのことを教えてくれるのが学校手いう場所の役割の一つなんだよ」
「一つってことは他にもあるの?」
「もちろん。想華はまだわからないかもしれないけど、想華が大人になってその子供が学校に通うようになっているときには、きっと呉の人たちはほとんどが読み書きをできるようになっているよ」
「え!?」
「俺がもといた天の国ではね、特に俺の国ではそれが当たり前だったんだ。今呉では試しの制度として三年間読み書きと算術と運動を主に教えているよね、でも、俺の国では三年じゃなくて九年間は学校に通って、残りの七年間も、学校に通っていたんだよ」
「えっとえっと、九の七だから、十六年間も通うの!?」
想華は唖然とした顔になっていた。
「うん、でもそれくらい勉強しないと社会に出るために必要な知識が身につかないというのも事実だったんだ」
「だけど、そんなに勉強してたら、働く時間がなくなっちゃうよ」
この時代と俺のいた時代では学生と社会は同じ時間を共有しない。
学生はあくまでも学生の時間を謳歌していたんだから。
「そうだね、国のために働く人たちはどうしても必要だ。だけど、識者と呼ばれる人たちはどうかな? 働いているかい?」
「うーんと、みんな、なんか本ばっかり読んでる。少しは農作業とか手伝えばいいのにって思う」
「何で本ばっかり読むのかっていうとね、そこにある知識をどうやったら活かせるのかというのを考えているからなんだ」
「知識を活かす?」
「そう、想華は赤壁の戦いを知っているだろう?」
「そりゃあ、知らない人なんていないよ。父さんたちが英雄になった戦いだもん」
「それじゃあ、どうして俺達呉蜀の連合軍は、当時最強といわれた曹操の軍に勝てたのかな?」
「それは、……父さんがいたから」
臆面なく答える想華の笑顔がまぶしかった。あながち間違いじゃないけど、正しいのは彼女達がいたからこそだ。
「違うよ、それはね、知識を持ち、活かせるものがいたからだよ」
「えっと、それって前の大都督の周喩さんのこと?」
「それと、蜀の諸葛と鳳統のことだね」
「そうなんだ」
「特に諸葛孔明の知識は凄いよ。あの一時だけ赤壁では東南の風が吹く。そのことを知らなければ、俺達の火計が成功することもなかった。他にも過去の戦を調べれば、そういった知識を活かし生き抜いてきたものたちの足跡がよくわかるはずだよ」
「でも、父さん。僕は武官になりたいんだ」
「思春には言ったのかい?」
「うん、でも、お前はまだ武官にはなれない。それどころか一兵卒にすらなれないかもしれない、とかいわれちゃってさ」
「どうしてだと思う?」
「それは……、僕が、弱いから」
「違うよ、想華」
「え?」
一刀は梳いた髪を編みこみ始めた。
「思春がね、想華に、そういう風に厳しく言うのは、本当に武官になったときに何も知らない将になってほしくないからだよ」
「どういうこと?」
「思春はもともと江賊の出なのは知ってるよね」
「うん、でもそのことに誇りも持ってる」
一刀はその答えに頷いた。
「文官の馬鹿の中には、その身分の差から思春を軽く扱う連中がいるけど、どんな組織でも組織のトップに立つということは、並大抵のことじゃないんだよ」
「組織のとっぷ?」
「ああ、組織の一番偉い人ってこと」
一刀は話を続けた。
「それに、思春は何度か呉と戦もしている。それが思春にとって仲間を守るために必要なことだったからね」
「うん、何度か聞いた」
「だから、思春はいろいろ学んでいるはずだよ。兵法書だって、読んでいるはずだ」
「うん」
「だから武官になりたいからって、勉強をおろそかにしちゃいけない。思春の言いたいことっていうのは、人の命を預かるものは、その分の責を果たさなきゃいけないってことだよ。わかるかい?」
「……うん」
想華は深い面持ちで鏡の中の自分を見つめていた。
「はい、終わり。編みこんだよ。これで綺麗なお姫様の出来上がりだ」
「ありがとう、父さん」
「想華、まずは孫子を読んでみなさい。これは父さんからの課題だ」
「え?」
「昨日あれだけの課題をやっておいてあげたんだ。もちろん、やらないなんていわないよな」
「えぇ、でも、学校の課題もあるし」
「そぉか、じゃあ、もし思春と話しているときにうっかり言葉が漏れてしまっても、それはしょうがないよな」
「なっ、なっ!」
瞬間、想華の顔が真っ赤になる。
確かに、このことが思春にばれたら、一刀ともども想華は説教を食らうことになるだろう。
だから、裏の意味も一言一刀は想華に伝えるのだった。
「好きなときに俺の部屋に来ていいから。ちゃんと勉強するんだよ」
「あ、うん……。えへへ」
一刀の言葉の裏の意味も伝わったようで、想華は嬉しそうに今度は頬を緩ませた。
しかし、その後想華だけでなく陽蓮もこれに加わり最終的には姉妹全員が顔を合わせ、一刀先生の孫子講座が毎晩開かれることになったのはまた別のお話。
あとがき
ふぇえ、思ったよりも長くなったよぉ。
ごきげんよう、米野です。
うぅ、連続投下しようと思ったけど、だめです。もう眠いので寝ます。
今回は甘述ちゃんの話でした。
いかがでしたでしょうか、キャラのつくり込みが甘いかな、と思ったのですが、僕っこになったのは少し自分の中でも意外な感じです。
今回はシリアス度を低めにしたのにギャグ度や甘さ成分が上がっていないので、なんとも中途半端かもしれません。
でもいいんです。
それではまた来週お会いしましょう。
もしかしたらはやまるかもしれませんが。
ではでは~!
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呉アフター第四弾投稿です。
タグに次世代編と打っておきましたこれからは使ってみてください。
それではコメント、ご意見お待ちしております。
第三話へhttp://www.tinami.com/view/150367
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