No.151812

こっち向いてよ!猫耳軍師様! 21

komanariさん

お久しぶりです。
なんとか21話が出来ました。
今回は、なんというか色々すみませんな回です。
でも、クライマックスに向けて僕なりに頑張って書いた結果なので、後悔とかはしてません。

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2010-06-20 00:29:28 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:29337   閲覧ユーザー数:24117

桂花視点

 

 会議が行われている玉座の間へと向かう途中、私は陳羣に尋ねた。

「あなた一刀の、いえ北郷のことを知っている?」

 私の問いかけに、陳羣は疑問と不安が混じったような顔で答えた。

「ほ、北郷くんですか? いいえ。先日荀彧さまにお話をしてからも、お部屋に帰ってきた様子はありませんでしたし、他の場所で見たという話も聞いていません。……北郷くんに何かあったのでしょうか?」

「……」

 

 陳羣の疑問に答えずに、私は一刀の事を考えた。

(恐らく、一刀の事が一般には公表されていない。……そうね。いきなり一刀に赤壁の責任があると公表すれば、その直接の行動を行った私に対しての責任問題に発展することは目に見えている。そうなれば、私を助けようとする華琳さまのお考え通りに進まなくなるものね)

 もしかしたら、下級文官には知らされていないだけで、幹部相当の人間には知らされているのかもしれないけれど、一刀の事を伝えてしまえば、そう言った人間たちにこそ追究される可能性が高いから、恐らくそれもしていないだろう。

(華琳さま以外が一刀の事を知らない状況であるなら、本当のことを話す事によって一刀を救える可能性が上がる。けれど、それだけじゃ少し弱い……)

 一刀に罪がないことを示せたとして、それだけではあいつを完全に救えないのではないかと思った。一刀は私をかばったとはいえ、華琳さまに嘘をついた。その罪を帳消しにすることと、これから一刀が必要だと言うことを示した方が、一刀を救える可能性は上がるような気がした。

(問題は今回の事件ね。五胡の侵攻によって、一刀はどうなっているのか。もし滅んでしまっていたとしたら、今回の事件も呪いの中の大局に含まれたと言うことになるわ。でも、もし滅んでいなかったとしたら、それは呪いのいう大局からの、つまりは一刀の知る歴史からの脱線が容認されたと言うことになるのかもしれない)

 もし会議が行われていないのなら、今すぐにでも一刀の所に行って、無事かどうか確認したいけど、今私が行くべきなのは一刀の居る場所ではない。私が行くべき場所は一刀を救うことのできる場所なのだと思っていた。

(もし一刀が滅んでいなくて、一刀にかかっていた呪いが解かれたのだとしたら、一刀を有能な人材として華琳さまに売り込むこともできる。華琳さま自身も、一刀の有用性にはお気づきのはずだから、一刀に罪がないと証明されてしまえば、無下に殺す事はないはずだわ)

 

 一刀の事が解決したら、後は私自身の問題だ。

(私自身が犯した罪は、きちんと償う。それが私の責任だし、一刀を救うためには必要なことだけど、私は一刀みたいに、真っ先に自分の命を差し出したりしない。足掻いて、足掻いて、それでも駄目だった時に自分の命を差し出そう。そうじゃないと、私も一刀と同じになってしまう……)

 一刀が私を守るためにした行動で、私がいかに悲しい思いをしたのか。それをあいつに言ってやるためには、私自身が同じ行動をしてはいけないと思った。そうでないと、あいつを怒れない気がした。

(今度こそあんたを救ってあげる。だから、五胡の侵攻なんて言うつまんない理由で、滅ぶんじゃないわよ)

 私は陳羣とともに玉座の間に向かいながら、そう思っていた。

 

「……一刀は大丈夫よ。私が助けるから」

 もうすぐ玉座の間に着くというところで、私は先ほどの陳羣の問いかけにそう答えた。

 走りながらだったし、声も小さかったから、陳羣にその答えが届いたかは解らないけど、私は私自身に言い聞かせるように、そう言った。

 

 

 

―玉座の間―

 

――ギギィー

 私が扉を開けると、一瞬中に居る人たちが私の方をみた。

「っ!……」

 華琳さまは私の方を見て、一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに横に居る稟に話しかけた。

「稟、蜀の動きは?」

 華琳さまが私に何も言わなかったから、私は議場の末席に座った。

「……荀彧さま。お席でしたらもっと上座に」

 そう小さな声で陳羣が勧めて来たけど、私は首を振ってそれを断った。陳羣も何度も勧めることをしないで、スッと後ろに下がった。

「現在、蜀の方から侵攻の気配は伺えません。ただ、国境の砦には関をはじめとして、趙、馬、龐の旗があるとのことです」

 華琳さまは私が末席に座ったのをみて、少し悲しそうな表情をしたけれど、すぐに表情を戻した。

「そう。兵数は解らないの?」

「……申し訳ありません。なにぶん五胡の侵攻があったため、兵数の確認までは出来ていません。風が蜀に出していた間諜も、漢中ではなく洛陽まで移動しなければならなくなりましたから、その分情報が遅れています」

 稟が少し悔しそうにそう答えると、華琳さまが少し考え込んだ。

「第一の問題は、五胡20万をどうするかね。春蘭たちが抑えているとは言っても、20万対3万ではたかが知れているわ。それに10万の援軍が到着したとしても13万。相手は騎馬隊が中心でしょうから、いかに春蘭たちと言っても撃退に至るまではいかないか……」

 華琳さまが一人そう呟くのを、聞くと稟が言った。

「はい。現在はより多くの援軍を送り、一部を漢中に置き蜀に睨みを効かせつつ、五胡を撃退することが第一かと思います」

 私はそんなやり取りを聞きながら、自分がいつ話を切り出そうかと機会をうかがっていた。

(どうしよう。一刀の事を今言うべきかしら。それとも……)

 結論から言えば、稟が言った方法が現段階ですべき最善の策だと私も思う。けれど、問題はその後どうするかなんだ。五胡を倒した勢いで、そのまま南下して蜀を平定するか、それとも五胡を撃退するにとどめ、来るべき蜀の攻勢に備えるか。

(その結論が出てから切り出した方がいいのかも知れない。いや、むしろ今から話しに参加して、一刀の事を切り出す土台を作るべきかしら)

 そう考えていると、玉座の間の扉が開いた。

 

――ギギィー

 入って来たのは、先ほど襄陽から戻ったと言う秋蘭と沙和だった。

「秋蘭、沙和。ご苦労様、予定よりも少し早かったわね」

 秋蘭たちをみて、華琳さまがそう声をおかけになった。

「「はっ」」

 二人ともそう言いながら、華琳さまに対して臣下の礼を取った。

「華琳さま、急ぎ伝えねばならぬことがございます」

 礼を取り終わると、秋蘭がそう切り出した。

 

 

 

 秋蘭の言葉を受けて、華琳さまは少し顔を強張らせた。

「なにかしら?」

「私たちが洛陽に向かう途中、襄陽より伝令が参りました。曰く、江陵に居たはずの部隊がいつの間にか居なくなっているとの事。また、周辺の村では呉の大軍勢が夜間に西に向かったと言う噂が流れているとのことでした。詳しくは、こちらの書簡に」

 秋蘭はそう言うと、書簡を華琳さまに渡した。

「……稟。呉の行動についての情報は?」

 その書簡に目を通した後、華琳さまはそう言って稟の方をみた。

「はっ。私が捉えているところまでで、蜀との連絡を密にしており、特に蜀側からの使者と思われる者が建業にまで来ていると言う報が届いております。しかし、大規模な部隊の移動に関しては、いまだ……」

 稟はそう申し訳なさそうに言った。呉の動向調査を任されていただけに、今回の情報を掴めなかったことは、悔しいのだろう。

「そう。それで、この行動はどうみているの?」

 ふぅーっと息をつきながら、華琳さまがそう尋ねた。

「……恐らく、蜀で何かあったのではないかと思います。我が方を攻めるのであれば、わざわざ行軍の難しい蜀からの道を選ぶはずがありません。また、蜀と呉は先ほどお話したとおり、綿密に連絡を取り合っています。そうであるなら、孫呉が大軍を率いて蜀に攻め込む訳もない。したがって、蜀に非常事態が発生し、それを助けるために援軍を送ったと思うのが、もっとも妥当かと思われます」

 稟がそう言うと、秋蘭の後ろに居た沙和が、少し考え込むように言った。

「蜀はどうしたんだろー。沙和たちは蜀をせめてないしー……」

 その声を聞いた華琳さまがふと呟いた。

「五胡……」

 そう華琳さまが言うと、皆がうなずいた。

 蜀と呉の敵である私たち曹魏ではない以上、蜀が大規模な援軍を必要とする事態とは、外部からの敵が現れた以外にない。その敵として上がるのは、私たち曹魏にも侵攻をしている五胡以外に考えられない。

「蜀にも五胡が侵攻してきているとして、私たちはどうすべきかしら?」

 華琳さまがそう問いかけた。それはその場に居る者全てに対しての問いかけだった。

(一刀の話をするのなら、今しかない)

 私はそう思った。ここで話さなければ、一刀の話をする時間がなくなってしまう。ここで話しをしなければ、方向性が決まり、すぐに皆が行動に移る。そうなってしまっては、一刀を救う手立てがなくなってしまう。

 私は声を出す前に、じっと華琳さまを見つめた。

(華琳さま……)

 華琳さまにかけて頂いた優しさ。それは今回だけではない。私が華琳さまにお仕えするようになってから、ずっとかけて頂いていたものだ。けれど、私はそれを裏切ってでも、やり遂げたいと思うことがある。救いたいと思うやつがいる。

(申し訳ありません。私は、いえ、私には、どうしても助けたいやつが居るんです!)

 そう心の中で華琳さまに謝りながら、私は今から助けようとしているバカの顔を思い浮かべて、一度大きく息を吸った。

 

「華琳さま!」

 そう声を上げると、その場にいるみんなが私の方を向いた。

 

 

 

「今回の、そして今後の事について、意見を聞くべき人間が一人います。その者の名は――」

 私がそう言うのを、華琳さまはじっと聞いていた。恐らくご自身でも、私がこの行動をとれば、華琳さまが行おうとした全てが瓦解することを、解っていらっしゃったのだろう。

「北郷一刀」

 私が一刀の名を口にすると、一刀を知る沙和が声を上げた。

「な、なんで一刀くん!?」

 そう驚いている沙和の横で、秋蘭も少し意外そうな顔をしていた。それに対して華琳さまは、悲しそうな、そして少し悔しそうなお顔をしていた。

(華琳さま……)

 華琳さまに対する思いが、私の頭の中に浮かんできたけれど、それと一緒に、もしかしたら、もう滅んでしまっているかも知れない一刀の事も頭に浮かんできた。けれど、どうにかその思いに蓋をして、私は口を開いた。

「今まで黙っていたけれど、北郷は今よりもずっと未来から来た人間なの。だから、私たちでは思いつかないような、色々な施策を提案することができたのよ」

 その一言ひとことで、周りの人間たちの表情が変わって行く。沙和は相変わらず驚きの顔、秋蘭は先ほどの驚きから、少し納得したような顔。稟と流琉は私の話しに聞き入っている様子だった。

 華琳さまはと言うと、依然として悲しそうな顔だった。こうして話をする私を止めないと言うことは、きっと華琳さまは私の決断を受け入れてくださるのだろうと思った。

 

「未来の知識をもつ北郷の意見は、今後の行動を決定する上で必ず役に立つはず。……ですから華琳さま、北郷を牢から出しては頂けないでしょうか?」

 

 私がそう言い終えると、沙和と秋蘭の顔がまた強張った。

「ろ、牢って牢屋の事!? なんで一刀くんが!?」

 そう叫ぶ沙和に、私は答えた。

「一刀に、いえ北郷に赤壁での敗戦の原因であると言う嫌疑がかけられているからよ。けれど、それは間違いなの」

 私が静かにそう言うと、秋蘭が聞いてきた。

「それは……どういうことだ?」

 私は秋蘭の方を向いて答えた。

「さっき言った通り、一刀は未来の知識を持っているの。その知識の中には当然、この時代の戦いの事も含まれているわ。もちろん、赤壁の戦いで何が起こるかも、ね。私はその知識を一刀から聞いていた。だからこそ、赤壁の戦いで被害を最小限に抑えることができた。でも……」

 そこまで言うと、先ほどから私の話しに聞き入っていた稟が、ハッとした。

「本来は勝つことができたの。赤壁で吹いた東南の風の事が解っていれば、黄蓋の降伏が偽りのものだと解っていれば、赤壁の戦いは勝つことができた。そして私は、その両方とも一刀から聞いていたわ」

 私が話していることは、つまりは私に罪があるという告白。それはつまり、一刀に罪がないという宣言。

「それでも、私は負けを選んだ。その理由もあるけれど、今それは関係ないわ。とにかく、一刀に罪がない以上、一刀が牢に居る理由はないはず。ですから、華琳さま。一刀を牢から出してください」

 私がそう言うと、華琳さまはじっと私の目を見つめた。

 

 

 

「……桂花。あなたの言うことが正しいなら、あなたは自分の罪にふさわしい罰を受けなければならない。それは解っているのよね?」

 華琳さまはゆっくりと、そしてはっきりとそう言った。

「はい」

 私がそう答えると、華琳さまは少しやさしい表情になった。

「それがあなたの選択なのね?」

 華琳さまの問いかけに、私は一度大きく息を吸ってから答えた。

「……はい」

 華琳さまから視線をそらさずに、私はそう答えた。

 

「……沙和。北郷は重罪人用の牢獄に居るわ。悪いけど連れてきてちょうだい」

 華琳さまがゆっくりとそう言うと、沙和が驚いたように答えた。

「は、はいなのー」

 そう言って沙和が玉座の間の出て行くのを見ながら、私は華琳さまに頭を下げた。

「ありがとう、ございます」

 私がそう頭を下げるのを見ながら、華琳さまは言った。

「北郷の罪が本来あなたのものであったと言うのは解ったわ。では、あなたはその罪をどうやって償うの?」

 そう言う華琳さまの視線は、先ほどのような優しさはなく、王としての冷酷な視線だった。

「今回の危機、そしてその後の事態において、華琳さまが望む結果を必ず実現して見せます」

「それが実現できなかった時は?」

「私の命で、罪を償います」

 私は一刀を救う代わりに、自分の命を差し出したりはしない。自分の出来る事を精一杯やって、それでもだめなら、その時に責任を取るまでだと思った。

「……秋蘭、稟、流琉。桂花の言葉を聞いたわね?」

「「「はっ!」」」

 そう3人が答えると、華琳さまが私の方を向いた。

「桂花、あなたの申し出を受けましょう。私の願い事は何か解っているわね?」

「はっ。必ずや天下を華琳さまのものに……」

 私はそう答えてから、もう一度深く頭を下げた。

 

「つ、連れてきたのー」

 しばらくすると、一刀を連れた沙和が戻って来た。

(よかった! 一刀は滅んでない)

 一刀の姿を見て、私はほっとしていた。ここまでしておいて、一刀が生きていなかったら、それこそ笑い物だ。

「御苦労さま。……北郷こちらへ来なさい」

 華琳さまにそう言われると、一刀は何がなんだかわからないと言った顔で、おずおずと華琳さまの前に来た。

「北郷。あなたにかけられていた、赤壁敗戦の責は、桂花によって晴らされたわ」

 華琳さまの言葉を聞いて、一刀はかなり動揺していた。私と華琳さまを交互に見ながら、どうにか声を出そうと口をパクパクしていた。

「それと、桂花からあなたの知識が今後の戦局で必要になると聞いたわ。つい先ほどまで牢屋に入れておいてなんだけど、あなたの知識を私たちに貸してくれないかしら?」

 一刀は華琳さまの話しを聞いてから、私の方を見た。その様子を見て、私はプイッと顔を横に向けた。

(どうすればいいのか聞きたいの? ふん! 私を散々泣かせた罰よ。自分で考えなさい)

 一刀が無事だった事で安心したせいか、私はいつものような行動をしていた。

「……北郷?」

 返事をしない一刀に、華琳さまがそう問いかけた。

「は、はい」

 一刀は慌てて返事をすると、少し考え込んでから口を開いた。

「び、微力を、尽くします」

 

 

 

華琳視点

 

 桂花が北郷を助けようとする可能性があるのは、北郷の事を告げた日から解っていた。

 けれど、北郷を助けるためには、桂花自身に罪があることを認めなければならない。そうなれば、桂花は罰を受けると同時に、私から、そして他の幹部からの信頼を失うことになる。

 秋蘭たちからはそう言ったこともないだろうけど、他の文官あるいは武官たちは、あれだけの事をした桂花に対して、何かしらの不信感を覚えるだろう。

 その不信感は、例えどれだけ大きな功績を上げたとしても残る。“信賞必罰”が国是である魏において、罪に対して罰を与えないのは、すなわち国への信頼をなくす事になる。

 だから、桂花が自身の罪を告白し、それによって北郷を助けるなら、私は桂花に罪を与えなければならない。

(桂花自身もそれは解っているはず……)

 そうだ。桂花自身もその事は解っているはずだ。それでもなお、桂花が北郷を助けようとしたら、私はどうすればいいのだろうか。

(私は桂花を助けたいから、北郷を処刑することを決めた。けれど、それに対して桂花がどう行動しても、私はそれを受け止めようとも思っていたわ)

 桂花を助けようとしたのは私個人の気持ち。罰を与えるのは王としての責務。色んなものを捻じ曲げて、私は個人としての気持ちを押し通した。だからこそ、私の下した決定は、桂花自身が行動すればたやすく壊れてしまう。

(決定を下してから、北郷をすぐに処刑してしまえば、こんなことも起こらなかった。……でも、それはしたくなかった。桂花の選択を聞いて、それを受け入れたかったのかしら)

 桂花の選択を受け入れたいと思ったのは、私個人の感情としてだけではなくて、王としての感情もあったのかもしれない。

 桂花が負けを演出した赤壁の戦い、今回の問題はその負けの責任を問うためのもの。けれど赤壁において、桂花が負けを演出しようとしている事に、気が付けなかったのは私の責任だ。

 それが、王としての私が桂花の選択を受け入れることを望んだ理由。王である私を欺いた桂花に、処罰を与える事が私の責任であると同時に、桂花の行動を受け入れることも私の責任であると思った。

 

 だからこそ、桂花が北郷の事を切り出した時、私はそれを止めなかった。桂花が考えて、決断したことを受け入れる。それが私の望みであり、責務であると思ったからだ。

 けれど、桂花が自分の罪を話す事を望んだ訳ではなかった。だから、少し悲しさと、そうした受け入れることしかできない私自身に、悔しさを覚えた。

(桂花……。あなたにとって、北郷はそこまで大切なのね)

 そのことも、少し悔しかった。あの桂花が私以外の、しかも男のために、ここまで必死になっていることが。

 

「それがあなたの選択なのね?」

 

 私がそう尋ねたのに対して、桂花が“はい”と答えた時、私は全ての覚悟を決めた。

 桂花が自分の罪を償うためには、それこそ私に天下を取らせるぐらいの事をしなければならない。

 けれど、現状を見るに、私が天下を取ることは恐らく無理だろう。

 そうなれば、桂花が何かしらの処罰を受けることは免れない。それだけ、赤壁の敗戦は大きかった。

(それでも、あなたがやり遂げると言うのなら、私はそれを受け入れる。そして、桂花が残した結果を見定めて、きちんと判断を下すわ。今度こそ、あなたが理想としてくれる君主として)

 そう思った私は、沙和に北郷を呼んでくるように伝えた。

 

 

 

桂花視点

 

 一刀が華琳さまに微力を尽くすと答えたあと、玉座の間では、今後の事が話しあわれた。

 一刀の知る歴史で、五胡が中華に侵攻してくるのは、三国が魏の後継である晋と言う国によって統一された後で、五胡十六国時代と言われる時期であると言う。一刀の歴史では、それ以降数百年、華北一帯は異民族による支配が続くようになったらしい。

 一刀にかけられた呪いが解けたところから推測するに、必ずしも一刀の知る歴史通りに進むとは限らない。現に、侵攻してくるはずのない五胡が、大軍で侵攻してきている以上、一刀の歴史とは違う道筋をたどる可能性が高い。

 けれど、これまでの大陸で起きて来た戦いが、一刀の知る歴史通りだった事を考えると、今回の侵攻を防げなければ、中華の中に五胡の国ができる可能性も大きいと思われた。

 五胡の目的が単なる略奪ではなく、侵略した土地に国を築く事にあるなら、今回の侵攻を絶対に許すわけにはいかない。そうでなければ、今だけでなく今後生まれてくる中華の民を苦しめ続ける事になってしまう。

 

 問題は、蜀に侵攻していると思われる五胡の数だ。魏に侵攻している五胡の部隊であれば、援軍として漢中に向かった10万に加えて、現在洛陽に控えている27万の兵力を全てつぎ込み、勝つこともできるだろう。

 では、蜀に侵攻している部隊は、いったいどれほどの数なのか。蜀の総兵力が20万として、それでも耐えきれないほどの大軍。いや、もしかしたら国境沿いに我らの侵攻に備えて兵を置きつつ、五胡を迎撃しなければならないから、孫呉に援軍を頼んだのか。

「……北郷はそれについてどう思うの?」

 蜀がどういった状況なのかについて、華琳さまが一刀に意見を求めた。

「わ、私は蜀について、現在どういった状況に――」

「前置きはいいから、あなたの知る歴史を考慮に入れるとどうなの?」

 おずおずと話そうとした一刀に、華琳さまがそう言った。それに少し驚いた様子の一刀は、一度大きく息を吸ってから、口を開いた。

「正直に申し上げて、私の知る歴史から現状を判断するのは難しいと思われます。しかし、私の知る歴史との相違点。つまりは、曹魏の兵力が未だに絶対的であること、荊州の領有問題が未だに発生していないことなどから、現状で呉と蜀が同盟関係を強めている事言うことは、まず間違いないかと思います」

 一刀はそこまで言ってから、一度呼吸を置いた。

「しかし、両国が荊州で問題を抱えているのは事実。それを含めて、蜀が呉に援軍を要請したとすれば、それは蜀が手に負える兵数を超えた敵が、攻めて来たと言うことではないかと思います」

 一刀がそう言い終えると、華琳さまがうなずいた。

「ふむ、私たちの考えとある程度同じね。私たちに対して備えているのか、それとも全兵力を五胡に向けているのか。それは解らないけど、少なくとも10万、恐らくは20万以上でしょう」

 

 

 

 華琳さまがそう言うと、その場にいた皆がうなずいた。

「……華琳さま。どうなさいますか?」

 稟がそう華琳さまに尋ねた。それはつまり、蜀に対してどういった対応を取るかと言うことだ。五胡の侵攻に対してどうするのか。もし蜀を助けるならば、その後はどうするのか。

「……」

 華琳さまは少し黙って考え込むと、私と一刀の方に一度視線を送った。私たちを見た後に軽く微笑むと、華琳さまは玉座から立ち上がった。

「先ずは我が国を犯す愚かな五胡を倒す。その後どうするかは、直接蜀に問いただす事にするわ。五胡を倒した後、私たちに攻撃を仕掛けてくるのなら、その時はそれなりの代償を払ってもらう。そうでないときは、それなりの対応をしてあげるけどね」

 華琳さまがそう言うと、皆が少し驚いたような顔をした。

「稟」

「はっ」

「合肥と襄陽に早馬を出しなさい。合肥には、全兵力16万を率いて南下、呉に入った後、自分たちが蜀に向かうことを喧伝しつつ江陵へと移動するように伝えなさい。襄陽の部隊は江陵の前で陣を敷き、霞達が来るまで待機。その間呉の内部に蜀に五胡が侵攻しているだろうこと、並びに私たちは五胡を倒しに行くのだと言うことを広めさせなさい」

 そこまで言うのを聞いた稟が華琳さまに尋ねた。

「江陵で合流した後は、どうなさいますか?」

「正々堂々と蜀に入りなさい。途中の関所や砦では、五胡を倒しに来たと伝え、それでも抵抗してくるとうのなら、そこを打ち破って進むように言いなさい。もし後ろから呉が襲ってくるのなら、それは霞の判断に任せるわ。五胡との戦場で会おう、と伝えておいて」

 稟は華琳さまがそう言うのを聞き終えてから、一度うなずくと、玉座の間に居る文官を引き連れて出て行った。

「流琉」

「はい」

「兵たちに出立の準備をさせて。現在洛陽に残っているのは、休暇中も含めて27万、その全てを出立出来るように準備させなさい。出立は3日後、いいわね?」

 流琉は華琳さまの言葉を聞いてから、すぐに玉座の間を出て行った。その場に居た武官たちも、それに続いて出て行った。

「秋蘭、沙和」

「はっ」

「はいなのー」

「あなた達は今日ゆっくり休んで、沙和は明日から流琉と一緒に兵の準備をしなさい。秋蘭は、全軍の指揮計画を作成して。今回の前線指揮は秋蘭に任せるから、それも含めて準備しておいてちょうだい」

 華琳さまがそう言うと秋蘭たちはゆっくりと玉座の間から出て行った。途中沙和は一刀の方を見て、何か色々と聞きたそうな顔をしていたけれど、秋蘭に連れられてそのまま玉座の間を出て行った。

 

 

 

「……桂花、北郷」

 秋蘭たちが出て行き、玉座の間に残ったのが、私と一刀だけになると、華琳さまそう声を出した。

「はっ」

「は、はいぃ!」

 私がそう答えるのを聞いた一刀は、少し慌てたのか、声を裏返しながら答えた。

「あなた達には、対五胡、並びにその後場合によっては対蜀の策をつくってもらうわ。北郷は、自分のもつ知識を使って策をつくりなさい」

 華琳さまの言葉に、一刀は先ほどの動揺が収まらないのか、おどおどしながら答えた。

「は、はい」

 華琳さまはそう答える一刀から、私の方に視線を移した。

「桂花、あなたに細かい指示は出さない。あなたがやってみせると言ったことを、実現できるように、最善を尽くしなさい。……いいわね?」

 そう尋ねる華琳さまに私は大きな声で答えた。

「はっ!」

 

(例え、華琳さまが大陸を統一する可能性が低くても。私は私のできることをするまでよ。それが私の決断なんだから)

 その思いを胸に、私はじっと華琳さまを見ていた。

 

 

 

あとがき

 

 

 どうも、komanariです。

 前回から2週間ぐらい開いてしまいました。お待ち頂いていた方には、本当に申し訳なく思います。

 

 

 さて、今回のお話ですが、いかがでしたでしょうか。

 

 華琳さまの行動、桂花さんの行動、など色々とおかしいところが多かったかと思います。

 違和感だけでなく、矛盾や、嫌悪感を抱かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、そう言った方々には本当に申し訳なく思います。

 

 でも、少しでも楽しんで頂けたのなら、とても嬉しいです。

 あと、意見やお叱りなども、ショートメールで頂けると嬉しいです。

 

 

 えっと、今後の予定としては、最終話まであと3話,4話ぐらいの予定です。

 それと、僕が明日から少しの間ちょいと遠くに行かねばならないので、22話を投稿するまでにまた間が開いてしまいそうです。

 

 

 ここまで長かった話も、あと少しで終わりますが、読んでくださる皆さまに、少しでも「面白かったな」と思って頂けるように、残りの話も頑張って書いていこうと思います。

 それでは、失礼いたします。

 

 


 
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