桂花視点
(一刀が死ぬ。……それも私のせいで)
私は雨戸を締め切った自分の部屋で、寝台に身を任せていた。
(一刀を殺すのは華琳さま。でも、その原因は私)
華琳さまにそのことを告げられた日から数日、私はずっと部屋に籠っていた。
一刀を助けるためにはどうすればいいのか。そもそも、私は一刀を助けるべきなのか、華琳さまは、こんな私でもまだ信用してくださると言ってくださった。その華琳さまにお答えするのも、一つの選択肢なのではないのか。
(一刀を見殺しに、いえ、私自身のせいで殺しても、それでも私は華琳さまを選べるの?)
数か月前に悩んでいたことと同じ事を、また選択しなくちゃいけない。しかも、今度は“どちらも取る”なんていう逃げ道はない。
(一刀を取ったとして、私は一刀を助けられるの? 華琳さまを取ったとして、私は華琳さまに忠誠を誓えるの?)
私は結局、二兎を追って、二兎とも取れなかった愚かな猟師だったんだ。一刀を助けようとして、私は赤壁でも敗戦を選んだ。華琳さまの天下を実現しようとして、私は無理やり兵力を保った。そのどちらか片方だけであれば、きっとこんなことには成らなかったはずなのに。
(自業自得。……だけど、私の業で一刀が死ななければいけないなんて嫌。でも、私が一刀の死を受け入れれば、華琳さまからの信頼と言う得が得られる)
どうすればいいのか解らなかった。どうすれば最善なのか。そもそも最善とはなんなのか。
「華琳さま……私はどうすればいいんですか?」
暗い部屋の中でそう呟いても、答える人はいない。
「私はどうすればいいのよ。ばか一刀……」
頭の中に、私の大切な二人の顔が浮かんできたけれど、すぐに淡く消えてしまった。
「どうすればいいのよ」
もう一度そう呟いたけれど、やはり答えてくれる人はいなかった。
(どうすればいいの……)
私はどうすればいいのか。どうしたいのか。それが解らないまま、私は目を閉じた。
「桂花。早くしないと、会議に遅れるぞ! 曹操さまに怒られても知らないからな」
そう走りながら言うのは、一刀だった。
「うるさいわね! そもそもあんたが、書簡を変なところに置いとくから、こんなことになったんじゃない!」
そう言う私は、どこか楽しそうだった。
「寝る前に目を通すって言ったのは桂花だろう!? だから寝室に持って言ったんじゃないか!」
そう反論してくる一刀に、私は少し頬を染めていた。
「う、うるさい! あんたが盛りのついた犬みたいに襲って来たのがいけないんじゃない! そうじゃなかったら、ちゃんと持ってきてたわよ!」
「人を飢えた狼みたいに言うな! 俺だって桂花を愛したいんだよ! 最近お前、曹操さまのところに行ってばっかりだっただろう!」
そんな痴話げんかをしていると、私が息を切らした。
「はぁ、はぁ、はぁ……。あ、あんただけでも、さ、先に行きなさいよ! 私が、お叱りを受ければ、いいんで、しょう?」
そう息を切らせながら言う私に、一刀は少しムッとしたかと思うと、いきなり私を抱き上げた。
「そんなことをしたら、またお仕置きって言う名目で、曹操さまの閨に行くことになるだろう! 自分の嫁を、そう簡単に渡す夫がどこにいるっていうんだ」
一刀が話す言葉に、私はまた頬を染めていた。
「な、何言ってるのよ!」
そんな抵抗をしながら、会議室へと急ぐ二人。
――バタンっ
「すみません。遅くなりました!」
会議室の扉を勢いよく開けて、一刀がそう叫んだ。
「……おはよう桂花、おはよう北郷。抱きかかえての出勤なんて、朝から見せつけてくれるわね?」
そう少し刺をこめて言うのは華琳さまだった。
「えぇ。夫婦ですから」
そう華琳さまに言う一刀は、笑顔だったけど、目は笑っていなかった。
「そうね。ところで北郷、もう会議室に着いたんだから、桂花をおろしてあげたら? さっきから私の桂花が、恥ずかしそうにしていて可愛そうだわ」
華琳さまも笑っていらっしゃったけど、目が笑っていなかった。
「……それもそうですね。僕の可愛い桂花を、わざわざ他の人に見せることもないですからね」
そう言いながら、一刀は私をそっとおろした。
「やれやれ。これではいつ会議が始まるか解らんな」
「そですねー。お兄さんも華琳さまも桂花ちゃんのこと、大好きですからねー」
そう話しているのは秋蘭と風。私はそんな状況に、ただ頬を染めていた。
頬を染める私を見ながら、私は思った。
(あぁ、これは夢ね)
暴れ馬にひかれた一刀が、あんなに元気に走れるわけがない。一刀が私を真名で呼ぶはずがない。死罪になろうとしている一刀が、私と夫婦になっている訳がない。華琳さまと一刀がこんな会話をしている訳がない。
(全部私の夢なのよね。こうなるはずだった、いえ、こうするはずだった私の夢)
まるで小説を読んでいるかのように、私とその光景は切り離されていて、私は幸せそうなその光景をただ眺めることしかできなかった。
(なに妄想してるのよ。自分のせいで全部めちゃくちゃにしておいて、なに夢の中に逃げ込んでるのよ)
目の前の光景と現実との差が嫌になって、逃げている自分が不甲斐なくて、私は早く夢が覚めることを願った。
(こんな夢、早く覚めればいいのに……)
そう思っていると、ふと後ろから声が聞こえた。
「荀彧」
その声に後ろを振り返ると、そこにいたのは一刀だった。
「一刀……。はぁ、どうせあんたも夢なんでしょ? だったら早く消えなさいよ」
一瞬本物の一刀かと思ったけど、これは私の夢なのだと思いだして、私はそう言った。
「そうだね。……ごめん」
一刀はそう言うと、少し悲しそうに微笑んだ。
(この表情を私は見たことがある。何かを決意したようなこの顔を……)
私がそう考えているうちに、一刀は段々と薄くなっていった。
(……あの時だ! 私が泣いてしまった日! 一刀が私に何も言わなかった日だ!)
その時の一刀は、私に何かを聞こうとしていた。後で考えれば、それは私が何のために一刀に、指示をするのかを聞きたかったのだろうと解った。けれど、その時一刀は私にそれを聞かなかった。自分の中で何かを決心して、自らの意見を下げた。
その時の感情がよみがえってきて、私は思わず声を上げた。
「ま、待って!」
けれど、一刀は先ほどと同じ表情のままで、段々と消えていった。
「待って一刀! 待てって言ってるでしょ!」
そう叫んでも、一刀が消えていくのは止まらなかった。
「一刀!」
――ガバッ
そう叫んだ私は、寝台から飛び起きていた。叫びながら伸ばしていた手は、何を掴むわけでもなく、ただ空を切った。
「夢だって解っていたのに……、こんなに必死になって、愚かよね」
空を切った手を眺めながら、私は自嘲ぎみに笑った。
(なんであんな夢を見たのよ。どれだけ一刀に会いたかったの?)
自分自身にそう問いかけても、明確な答えを出すことは出来なかった。
「……でも、一刀はあの顔をしていたのかしらね? 華琳さまに、自分に罪があると言ったときのあいつは」
そう思うと、なぜだかそれが正しい事のように思えて、その場面が目に浮かんだ。
「まったく、自分が犠牲になれば、私が喜ぶとでも思ったのかしら?」
なぜだろう。悲しいわけでも、悔しいわけでも、嬉しいわけでもないのに、涙が出てきた。
「そんなことしても、私が喜ぶ訳ないのに……。これだから男は嫌いなのよ」
笑顔なのに涙が止まらなくて、ひどくおかしな感じだった。
(でも、私も同じことをしようとしていたのだから、人の事は言えないわね)
私は一刀の事で、何度泣いているのだろうか。そう思いながら、私は涙をぬぐった。
(華琳さまか、それとも一刀か。その答えが出た訳じゃない。きっと、どれだけ考えても答えなんて出ないわ。でも、私がやりたいことは分かった)
私は一つ息をついてから、締め切っていた雨戸を開けに行った。
――ギギィー
そう音を立てながら開いた雨戸の外には、青い空のもとで太陽が輝いていた。
(この決断は華琳さまを裏切ることになるかも知れない。いえ、華琳さまを裏切ることになるわ。でも、それでもやらなきゃいけない。それが私のやりたいことだと思ったんだから)
この決断は、さっき見た夢の影響で、一次的な感情のせいなのかも知れない。
さっきの夢に出てきたのが一刀じゃなくて、華琳さまだったら、私は華琳さまを選んだかも知れない。でも、夢に出てきたのは一刀だった。どうせどちらか決められないのなら、こんな決め方でもいいと思えた。
「私をこれだけ泣かせておいて、ただで済むと思わないことね。北郷一刀」
私はそう言いながら、太陽を睨みつけた。
―視点人物不明―
蜀西部・某砦
蜀と、いや中華と蛮族を遮る長城。長城と言っても、あくまで進行を妨げるようなものでしかないそれは、遥か昔、西方の蛮族から中華の領土を守るためにつくられた障害物だった。
その長城の少し中華側にある砦、つまりは蛮族と中華の国境を守る砦に、大陸の西方に居を構える蜀の重臣たちの姿があった。
「あぁー、もう! いい加減、打って出たいのだぁー!」
小さな背丈にはどうやっても似合わない、とてつもなく大きな槍をもった少女が、自慢の蛇矛を振り回しながらそう叫んだ。
「り、鈴々、少しは落ち着けよ。 あの大軍の中に打って出ても、包囲されて潰されるのが落ちだぞ」
茶色い長髪を、馬の尻尾のように後ろで結んだ女性が、そうなだめると、鈴々と呼ばれた少女はプーっと頬を膨らませた。
「そんなこと解ってるのだ! 解ってるからこそ、余計に打って出たいのだー!」
鈴々はそう言って、眼前に広がる黒い地平線を睨みつけた。
「おやおや。いつもは一緒になって突撃をしていく翠が、鈴々をなだめているとは……。珍しいこともあるものだな」
口元に手を当てながら、少しからかうように、白い着物のような衣装を着た女性がそう言った。
「あたしだって打って出たい気持ちはあるけど、相手は五胡だ。西涼にいた時から何度も戦ってきた相手の実力を、見誤ったりはしない。それに、それがなくてもこの数を見れば、誰だって打って出れない事ぐらい解るだろ」
得物の十字槍を首の後ろに置いて、翠と呼ばれた女性はそう言った。
「確かに……」
白い服の女性は頷きながら黒い地平線を眺めた。
中華と蛮族の境界を示す長城。その長城を超えてやって来た、五胡と呼ばれる蛮族達が埋め尽くした真っ黒な地平線は、とてつもなく巨大な生き物かのように、ぞわぞわとうごめいていた。
「鈴々の気持ちは解るけど、今は耐えてちょうだい。ボクたちがここで我慢しないと、この砦の後にいる民たちを守ることができなくなる。成都にいる月を、危険にさらすわけにはいかないのよ……」
そう言うのは、眼鏡をかけた少女。軍師らしい格好の少女は、遠く成都にいる自らの主を思い、グッと唇をかみしめた。
「おや。詠が来たと言うことは、何か報せが来たのか?」
白い服の女性がそう尋ねると、先ほどの軍師、詠が答えた。
「えぇ。桃香の援軍要請にこたえて、呉の孫策が20万の将兵を引き連れ、益州に入ったわ」
「20万……か。さすがに呉全軍とはいかなかったな」
「呉も私たちと同様に、曹魏って言う敵を抱えているから、それはしょうがないでしょ。でも、呉全軍の6割強も援軍に出してくれてるんだから、感謝しなくちゃだわ。……とにかく、援軍と合わせて40万になったから、今後どうするかを決める軍議を開くそうよ」
詠がそう言うと、白い服の女性はもう一度五胡の方を見つめた。
「……それでも、ようやく五胡の半数か」
「五胡の半数でも、今の2倍だろ、星。それに、援軍が来るまでここを守り通さなきゃいけないんだから、あたしたちはより一層我慢しなきゃだな。解ってるか鈴々」
翠がそう言うと、先ほどから機嫌の悪い鈴々は、プイッとそっぽを向いた。
「翠のくせに、愛紗みたいなこと言うななのだ」
その様子を見て、星と呼ばれた女性が笑った。
「まったくだ。翠のくせに、愛紗のような事をいう」
「おーまーえーらー」
翠が二人に怒鳴りかかろうとしたところで、詠が割って入った。
「はいはい。それくらいにしときなさい。早く議場に行くわよ。紫苑たちが待ってるんだから」
詠にそう言われると、鈴々が議場へと歩き始めた。はじめ翠は、納得いかないと言った表情をしていたが、星に方を叩かれると、諦めたように歩き始めた。
「……詠よ。桃香さまはどうするおつもりなのだ?」
二人が歩き始めたのを見てから、星がそう小さな声で詠に尋ねた。
「ボクもまだはっきりとは解らない。でも、曹操に知らせることで、五胡を撃退することができても、その後どうなるかを考えると……」
「……容易には知らせられぬか」
前を行く二人の後をゆっくりと追いながら、星と詠は話した。
「えぇ。それに、知らせれば助けてくれると言う保証もないわ。だから今は、情報が伝わらないようにしているみたいよ」
「……」
詠の言葉を聞きながら、星は無言のまま空を見上げた。
桂花視点
私は一刀を助ける。
そう決めてから、私はその手段を考えた。
(脱獄させるとか、そう言った事は無理ね。あいつ自身が、私を助けようとして入ってるんだから、牢屋を開けて、逃げなさいって言ったところで逃げないだろうし。……それに、あいつの体じゃ、追手から逃げきれそうにもないわね)
実力行使は無理だ。私自身に力がないし、一刀もそう言った力はない。では、どうすれば一刀は助かるのか。
(軍師なんだから、ここで頭を使わなかったら意味ないわね。知恵を使って一刀を救い出す方法……)
私は考えた。一刀を助ける方法、しかも一刀は無実であることをちゃんと証明しないと、助けたとしても、また捕まってしまえば意味がなくなってしまう。
(要は、一刀に罪がないことを証明すればいいのよね。華琳さまは、一刀に罪がないことを知っているから、華琳さまに直接その事を伝えてもダメ。そうなれば、華琳さまが一刀を罰せなくしてしまうしかない)
一刀を罰することを不可能にさせるには、華琳さま以外に、秋蘭や風、稟たちなどの重臣を含め、その他の文官にも一刀に罪がないことを知らしめればいい。
(でも、私がみんなに言って回るなんてできない。そんな事をしても、信憑性がないし、第一、華琳さまを悪く言うような事を言って回るなんて私にはできない)
ではどうすればいいのか。言って回ることなく、それでいて多くの人間に一刀に罪がないことを知らせる。いや、そもそも一刀が囚われていることを、皆は知らないかもしれない。そうなれば、まずはそのことを言うのが先かも知れない。
(華琳さまは私がこうすることを予想しているかしら? もし予想していれば、私にそうした行動を取らせないはず……。でも、私が今後どうするかは私に任せるとおっしゃっていたから、ある程度の自由はあるはずね)
私が一刀を助けようと思ったら、華琳さま以外の人たちに、本当の事を伝えるしかない。それを防ごうとするならば、他の人間に会う事を禁じればいい。
(でも、私が他の人間に会うことを禁じると言うのは、他の人間に対しても不信感を与えかねない。華琳さまが私をこれからも信用してくださると言うのなら、そうした不信感を他の家臣に与えるのは、よくないと考えるかもしれない……。そもそも、私の選択を受け入れると言ってくださった華琳さまなら、私がどんな行動をとったとしても、それを受け入れてくださるかもしれないわ)
はたして、華琳さまのお考えがどこにあるのか、それは現段階では解らない。ここ数日部屋に籠っていたから、それらを判断する情報もない。
「ここを出る必要があるわね。そして、華琳さまがどう行動するのかの情報を集める必要がある。華琳さまは私が仕事をすることを拒否はしないだろうし」
今回の華琳さまの行動は、いつのも知的で、冷静で、先を読んだものではない。きっと、華琳さまの中で、なみなみならぬご決断があって、一刀の死罪と言う結論に達したのだろう。
“私を殺したくない”
その思いの中で、本来の華琳さまらしさを曲げてまで、私の命を守ろうとしてくださったんだろう。だからこそ、こんなにも覆す事がたやすく、私自身の行動にも自由を多く与えている。
無理やり私を守ろうとしたからこその論の脆弱さ。まるで、私が一刀と華琳さまの両方を取ろうとしたから生まれた、行動の不自然さのようだ。
その無理やりさに、私は華琳さまの愛を感じた。
(私を守りたいと思う華琳さまの思いが、こうした無理やりな行動となって現れたんだわ。そこまで私の事を思ってくださる華琳さまを裏切ることは、出来ればしたくない。……でも)
華琳さまの思いを裏切らなければ、一刀を助ける事は出来ない。
一刀を助けるためには、一刀に罪がないことを皆に知らせなければならない。それつまり、本当は私に罪があると皆に伝えると言うこと。
それは、私が犯した罪にふさわしい罰を受けると言うこと。それこそが、華琳さまの思いに対する一番の裏切り。
(それでも、私は決めた。そのきっかけがどんなに不安定なものでも、どんなに愚かな決め方であっても、私は一刀を救うことを選んだのよ。なら、今はそれを実現する事を考えるだけよ)
そう考えてから、私は自分の頬をパンっと叩いてから、数日ぶりに自分の部屋を出た。
「なんだか、えらく慌ただしいわね」
私が数日ぶりに部屋を出ると、文官たちだけでなく、城にいる武官たちも慌ただしく城内を走りまわっていた。
(どうしたのかしら? 呉か蜀が攻めてきた? いえ、そうなった時の準備はしていたのだから、ここまで慌てなくてもいいはず。もっと、予期していなかった事態……)
その“予期していなかった事態”がなんなのかを考えていると、見覚えのある文官が私に話しかけてきた。
「荀彧さま! もうお体のお加減は良いのですか!?」
そう話しかけてきたのは、一刀のもと先輩だと言う陳羣だった。
「え、えぇ」
どうやら私が部屋に籠っていたのは、具合が悪かったからということになっていたようだ。
「そ、それよりも、この慌て様はどうしたの? 何かあったの?」
私がそう尋ねると、陳羣は少し困った表情になった後に答えた。
「それが、つい先ほど漢中の程昱さまからの伝令が到着いたしまして、それによると、蛮族との境である長城の向こう側から、五胡と思われる軍勢およそ20万が攻めよせて来たようなのです」
「ご、五胡ですって!?」
動揺のあまり、私はそう叫んでいた。
「は、はい。程昱さまは漢中にいる3万の兵全てを、五胡との戦闘のために西進させ、五胡の侵攻を食い止めようしていらっしゃいます」
そう話す陳羣の言葉を耳で聞きながら、私は一刀の事を考えていた。
(なんで今五胡がせめて来たの!? 一刀の話しでは、三国鼎立の時代が少なくとも数年は続くはず。それに、三国が滅んだ後に現れるのは、五胡ではなく晋という国のはずよ! どういうこと!? ……まさか、歴史が変わってしまったと言うの!?)
歴史が変われば、一刀が消えてしまう。そうなれば、私が一刀を助けることもできなくなる。
「この報を受けて、曹操さまは急遽、親衛隊を含めた10万の兵を援軍として送ることとし、現在は今後の方針を決める会議を開かれていらっしゃいます」
私が一刀の事を考えているうちに、陳羣がそこまで説明していた。耳だけは傾けていたから、どういった状況なのかは理解できた。
「と、とにかく――」
私が陳羣に話しかけようとした時、城内にひと際大きな声が響いた。
「夏侯淵さまと于禁さまがご帰還なさったぞ!」
その声を聞いた陳羣は、はっとしたかと思うと、私の手を引いた。
「荀彧さま! 病み上がりの所申し訳ありませんが、急ぎ玉座の間へとお向かいください! 夏侯淵さまたちも、恐らくそこにお向かいになるはず。今は曹操さまと郭嘉さまが中心となって、会議を進めておいでですが、荀彧さまのお力が必要なはずです!」
陳羣はそう言いながら、ぐいぐいと私を引っ張った。
引っ張られるのに身をまかせながら、一刀の事と、五胡のこと。その二つを同時に考えながら、私は自分のすべき最善を探した。
(一刀の事を助けるために必要な“舞台”はある。けれど、その一刀がどうなっているのか解らない。それに加えて、五胡20万は、我が国にとって脅威。その対応も含めて一刻も早く対処しなければならないわ……)
一刀の状況を確認し、もし無事であるなら一刀を救い、そして五胡、そしてその先の戦いにおいて適切な方針を立てる。
その全てを実現できるかは解らない。けれど、少なくともその全てを実現するべき場所が、どこであるかは解った。
「陳羣。この道を通るよりも、庭を突っ切った方が早いわ」
そう言ったあと私は、自分がなすべき全てを実現する場所へと急いだ。
あとがき
どうもkomanariです。
今回は少し時間が空いていたので、いつもより早めに投稿することが出来ました。
とりえず前回は色々とすみませんでした。
こちらの都合で、華琳さまのがだいぶキャラ崩壊してしまったようです。とは言っても、今更それを全てもと通りにはできないので、僕の中で少し折り合いをつけながら、出来るだけキャラ崩壊を少なく出来るように、頑張って行きたいと思います。
さて、今回は桂花さんの決心と、それと状況の変化と、その辺を書きました。
もっと詳しい状況は、次回とかでかければいいかな? と思っています。
そう言えば、コメントで今回、秋蘭さんたちが出てきます見たいなお返事をしたのに、出せなくてごめんなさい。
こんな感じの回でしたが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
突っ込みどころを今回も多いかと思うので、ご意見などありましたら、ご連絡至れば幸いです。
それでは、また次のお話でお会いできますことを。
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どうもkomanariです。
今回はいつもより早く、それでも間が空きましたが、20話が出来ました。
今回は、1ページの字数が多いです。なので、少し読みずらいかも知れません。
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