「・・・・・・」
朝もやも消えきらぬ早朝、魏王”曹孟徳”こと華琳はある部屋の前に立っていた・・・
「・・・はぁ」
華琳は少し前から、この場にいる・・・
部屋のドアノブに手を掛けては何かを躊躇するようにその手をはずす・・・そんなことを繰り返していた
「・・・一刀」
そう・・・この部屋の主は北郷一刀
ここは3年前に消えた彼が、今は寝ているはずの部屋
「・・・曹孟徳ともあろうものが・・・・・・無様ね・・・」
自嘲するように薄く笑う・・・・・・
華琳がこうなってしまっている原因・・・
それは・・・
『恐怖』
一刀がいなくなってから今まで・・・一刀と再会するという夢を幾度となく見てきた・・・
その度に・・・目覚めると・・・この部屋に来ていた
しかし・・・・・・
部屋をのぞいても一刀の姿はない・・・
そんな経験があるから、部屋のドアを開けるということが恐くて仕方がない・・・
確かに人の気配らしきものはするのだ・・・
それでも・・・・・・
------また夢だったんじゃないか・・・
------部屋に入っても誰もいないのではないか・・・
そんな想いが胸を締め付ける・・・
「・・・華琳様」
「!?」
様々な感情に襲われていると急に後ろから声を掛けられる
「春蘭・・・秋蘭・・・」
愛する従姉妹・・・夏侯姉妹がいつのまにか後ろに立っていた
「「・・・おはようございます、華琳様」」
2人がそろって挨拶をしてくる
「えぇ、おはよう・・・」
できるだけいつも通りに振舞うが・・・
「「・・・・・・」」
2人には複雑な顔をさせてしまった・・・
「・・・・・・」
そんな中・・・妙な沈黙を破ったのは・・・
「・・・華琳様」
秋蘭だった
「・・何かしら?」
心の迷いを、気づかれていると分かっていても強がって答える
「・・・一刀の部屋に・・・入らないのですか?・・・」
「!?」
秋蘭が核心をついてくる・・・
「・・・・・・いのよ」
「華琳様?」
華琳がポツリともらした言葉に反応したのは春蘭・・・
「・・・恐い・・・のよ」
「「!?」」
いつになく弱気な華琳の様子に春蘭も秋蘭も驚く・・・
「・・・もし・・・昨日のことが・・・夢だったら、って・・・部屋に入っても・・・だれもいないんじゃないかって考えたら・・・」
「「・・・・・・」」
2人は華琳の独白を黙って見守る・・・
「・・・ふふ・・・情けないでしょう?・・・魏王”曹孟徳”ともあろうものが・・・震えが止まらないのよ・・・」
そう言って、華琳は自身の震える手を見つめた・・・
しかし、その手を・・・
「「・・・華琳様」」
「!?」
春蘭と秋蘭の手が・・・優しく包み込んだ
「・・・私たちも同じです、華琳様」
まず答えたのは春蘭
「・・・春蘭・・・」
「・・・私たち、だけでもありませんが・・・」
「・・・秋蘭?・・・・・・ッ!?」
華琳は秋蘭の言い方に疑問をもったが、すぐに吹き飛んだ
なぜなら、彼女たちの後ろに・・・
「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」
「・・・あなたたち・・・」
他の魏将と張3姉妹の姿を見たから・・・
「・・・華琳、ウチらも恐いんやで」
まず霞が・・・
「・・・そうやで、大将。正直・・・確かめたくないしな・・・」
「沙和もなの~。でも・・・」
「・・・少しでも早く・・・夢なんかではなかったと・・・思いたいんです・・・」
真桜、沙和、凪が・・・
「・・・ねぇ、流琉・・・兄ちゃん・・・いるよね?」
「・・・わかんないよ・・・・・・だから・・・逃げずに・・・頑張ろう?」
不安そうに手をつなぐ季衣と流琉が・・・
「・・・お兄さん」
「風・・・。大丈夫ですよ、風・・・あんな夢があって・・・たまるものですか」
「・・・ふ、ふん!べ、別にあんな奴がいようがいまいが関係ないわよ!」
強がりを見せる、風、稟、桂花が・・・
「一刀は絶対いるもん!昨日、ちゃんと褒めてくれたもん!」
「そ、そうよ!一刀ならちゃんといたじゃない!」
「・・・一刀さん」
不安の中にも、願いを込める天和、地和、人和が・・・
それぞれの想いを口にする・・・
「「「「「「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」」」」」」
長い沈黙の後・・・
「・・・ふぅ」
と、華琳が息を吐いた・・・
夢か・・・現実か・・・
それは自分だけが感じてきたことではないこと・・・
なぜなら・・・
ここにいる全員が・・・
------北郷一刀を愛しているから------
「・・・・・・」
目を閉じ、心を落ち着かせる・・・
大丈夫だと、自分に言い聞かせる
ガチャ
「「「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」」」
意を決して、ドアノブに手を掛ける
「・・・・・・開けるわ」
そう言って、ドアノブに手を掛けたまま周りを見る
「「「「「「「「「「「「「「・・・(コクン)」」」」」」」」」」」」」」
全員が頷いた・・・
それを確認して・・・
キィー
開けた・・・・・・
「・・・一刀?」
「「「「「「「「「「「「「「・・・・・・ッ」」」」」」」」」」」」」」
一刀は・・・・・・
「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」
そこにいた・・・・・・
「「「「「「「「「「「「「「「・・・はぁ~~~~~~~~」」」」」」」」」」」」」」」
一刀を確認して、そろって息をはく
「・・・まったく!人騒がせな奴め!」
春蘭が毒を吐く・・・
しかし、その言葉には確かな喜びが感じられる
「ふふ、そう言うな、姉者。我らが勝手に騒いでいただけのことだ」
秋蘭も穏やかな笑顔を見せる
「ほんま心臓に悪いわぁ~」
霞は胸を押さえながら嬉しそうに・・・
「・・・ほんまに、この人を隊長にもつと苦労すんで・・・」
「・・・うぅ~、沙和なんてまだドキドキしてるの~」
「・・・隊長・・・・・・良かった・・・」
真桜、沙和、凪も安心して・・・
「うぅ・・・兄ちゃん」
「良かったです・・・兄様・・・」
季衣と流琉は今にも泣きそうになりながら・・・
「・・・風を困らせるのがそんなに好きなのですか~」
「・・・まったく、一刀殿は・・・」
「ふ、ふん!死んでれば良かったのに・・・」
風、稟、桂花も言い方こそきついものの、どこか優しさを含みつつ・・・
「かずとぉ~」
「べ、別にちぃは心配なんかしてなかったんだから!」
「・・・本当に・・・帰ってきてくれたんですね・・・」
天和、地和、人和もそれぞれに喜びを表す・・・
「・・・一刀」
そんな中・・・・・・華琳は一刀の寝台に腰掛け寝顔を見ていた
「・・・すぅ・・・・・・すぅ・・・」
まるで子供のような寝顔・・・
そしてそれは3年前と変わることがなく・・・
彼の存在を証明していた
「・・・・・・ばか」
聞こえるはずはないが、愚痴をこぼしてみる・・・
理由は2つ・・・
まず1つは・・・帰ってきたというのに、こんなにも自分の心を乱す一刀への文句・・・
もう1つ、これが一番の理由だが・・・昨夜のこと
昨夜、華琳は一刀から”誓い”をもらい、これ以上ないほど上機嫌であった・・・
一刀は民のところに行ってしまったものの、すぐに挨拶をすませて帰ってくるものだと思っていた
そしてさらに・・・
昨日は3年ぶりの再会・・・
もちろん”そういうこと”を期待したし、そのつもりで早めに湯浴みをすませていた・・・
が・・・・・・
民たちの元から戻った一刀は、兵に肩を貸され、傍らにいた季衣や流琉に心配されるほどに酔いつぶれていた・・・
もちろん一刀はそのまま部屋に運ばれ、そのまま就寝・・・
そんなことがあって、華琳は行き場のない気持ちを抱えたまま、今に至るのだ
「・・・一刀の・・・ばか」
「?・・・華琳様、どうかされたのですか?」
華琳の呟きを聞いた秋蘭が話し掛けてくる
「なんでもないわ・・・ただ・・・この馬鹿な男にね・・・」
皆も一刀の寝台のすぐ傍に近づいてくる
「しっかし・・・ほんま暢気やなぁ、一刀は・・・」
一刀の寝顔を見た霞の一言に何名かが頷く
「でも、なんだか可愛いの~」
沙和の一言にも顔を赤くして頷く者が何名か・・・
「ど、どこがよ!ただ気持ち悪いだけじゃない!」
ただ、桂花だけは赤くなった顔を誤魔化すように喚く
「桂花・・・いい加減に素直になりぃ?」
「な、何がよ!わ、私は別に・・・」
しかし、真桜の一言に動揺したのか、すぐに視線をさまよわせる
その様子を見て、皆の間で少しずつ、笑いが起こる
華琳もそんな桂花の様子を見て、苦笑しつつ、一刀の異変に気づく
「・・・一刀?」
「・・・すぅ・・・」
しかし、寝ている”はず”の一刀が答えるわけがない
だが・・・・・・
華琳は気づいた
寝ている”はず”なのに、時折こめかみをピクピクと動かす様子に・・・
「・・・あなた・・・起きているでしょう?」
「・・・・・・」
一瞬の沈黙の後・・・
「・・・・・・ばれたか」
「「「「「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」」」」」
苦笑しつつ、一刀は体を起こした
~一刀~
ガチャ
「(・・・すぅ・・・すぅ・・んっ?)」
何かを開ける物音で意識が引き戻される
キィー
「(・・・誰か来たのか?)」
カツ、カツ、カツ・・・・・・・・・
部屋に入ってくるいくつかの足音が聞こえた
「(お、多いなぁ~)」
足音の多さに吃驚しつつも耳をすませる
と、次の瞬間・・・
「「「「「「「「「「「「「「「・・・はぁ~~~~~~~~」」」」」」」」」」」」」」」
いくつにも重なるため息を聞いた
「(んっ?・・・華琳たち・・か?・・って、何でため息なんだよ、おい!)」
なんとなく寝たフリをしつつ、心の中で愚痴ってみる
「・・・まったく!人騒がせな奴め!」
(何が!?)
「ふふ、そう言うな、姉者。我らが勝手に騒いでいただけのことだ」
(いや、本当に何のことだよ・・・・・・)
「ほんま心臓に悪いわぁ~」
(俺・・なんかやっちゃったかな~)
「・・・ほんまに、この人を隊長にもつと苦労すんで・・・」
「・・・うぅ~、沙和なんてまだドキドキしてるの~」
「・・・隊長・・・・・・良かった・・・」
(苦労って・・・・・・んっ?・・・良かった?)
「うぅ・・・兄ちゃん」
「良かったです・・・兄様・・・」
(泣き・・・声?・・・)
「・・・風を困らせるのがそんなに好きなのですか~」
「・・・まったく、一刀殿は・・・」
「ふ、ふん!死んでれば良かったのに・・・」
(・・・・・・・・・)
「かずとぉ~」
「べ、別にちぃは心配なんかしてなかったんだから!」
「・・・本当に・・・帰ってきてくれたんですね・・・」
(・・・・・・そっか・・・)
いくら鈍感な俺でも・・・気づく
自惚れではない・・・
この娘たちは・・・
俺のことを心配してくれていたのだ・・・
そして・・・不安だったのだ・・・
昨日のことが現実だったのか・・・
「・・・・・・ばか」
耳の近くで華琳の声が聞こえる
(本当にな・・・俺・・・馬鹿過ぎだよ・・・)
華琳の言葉に妙な納得を覚える
「・・・一刀の・・・ばか」
うん・・・
「?・・・華琳様、どうかされたのですか?」
「なんでもないわ・・・ただ・・・この馬鹿な男にね・・・」
・・・あれ?・・・・・・馬鹿、馬鹿って言い過ぎじゃない?
「しっかし・・・ほんま暢気やなぁ、一刀は・・・」
(暢気って・・・そりゃ寝てるし・・・)
「でも、なんだか可愛いの~」
(いや、可愛いって言われても・・・て、照れるわッ!//////)
「ど、どこがよ!ただ気持ち悪いだけじゃない!」
(・・・おい!)
「桂花・・・いい加減に素直になりぃ?」
「な、何がよ!わ、私は別に・・・」
そう言って、真桜が桂花に突っ込むのが聞こえると、皆の間で笑いが起こった
「(・・・ははっ、懐かしいなぁ~。やっぱりこの空気が一番いいな~)」
と、寝たフリをしつつ、雰囲気を楽しんでいると・・・
「・・・一刀?」
ピクッ
急に華琳に話しかけられ、吃驚してしまった・・・
「・・・あなた・・・起きているでしょう?」
「・・・・・・」
はい、ばれました~
「・・・・・・ばれたか」
「「「「「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」」」」」
一瞬どうしようか迷ったが、別に寝たフリを続ける理由もなかったので、とりあえず体を起こすことにした
「・・・かず・・ほ、北郷、お前起きていたのか!?」
春蘭が声を大きくして詰め寄ってくる
「えっと~・・・うん・・・まぁ・・ね?」
とりあえず、曖昧にだが答えを返す
「へぇ~、いい度胸しているわね、一刀。王がわざわざ来ているというのに体を横にしたままで、盗み聞きとは・・・」
「ひぃっ!」
華琳がもの凄くいい笑顔を向けてくる・・・
知ってますか、みなさん?・・・こういう場合の笑顔は真逆の意味なんですよ?
「い、いや、それはさ・・・こう・・・起きるタイミングを逃したというか、なんというか・・・」
「たいみ・・・?それが何なのかは知らないけど、私たちの会話を盗み聞きしたことは事実でしょ?」
「いや、だからね・・・それは・・・・・・って、そうだよ!だからこの首に掛かってる冷たいものどけて!?」
言い訳をしようとしたが、首に掛かった冷たいもの(ぶっちゃけ”絶”)から放たれている殺気に負け、認めてしまった
「・・・そう・・・ならば、覚悟はいいわね、一刀?」
「ひぃっ!」
満面の笑みのまま華琳が近づいてくる
「(キッ!)歯をくいしばりなさい、一刀!」
「ぎゃぁぁぁぁ!デジャぶぁぁッ!」
スパーーーーーーーーーーーーーン!!!!
昨日よりも強い一撃に一刀は寝台から吹き飛ばされた・・・
「うぅ~ひどい目にあった・・・」
一刀は華琳に吹き飛ばされた後、ぶたれた頬を撫でながら床に正座をしていた
「あら、何か文句があるn・・「まったくありません!」・・そう・・ならいいのだけれど」
床に正座している一刀とは対照的に華琳は寝台に腰掛けて、一刀を見下ろしていた
「・・・はぁ~・・・まったく、あなたは本当に困った男ね、一刀」
口調は困ったように・・・だが、顔には機嫌いい時の笑みを浮かべながら、華琳は言う
「・・・あはは・・・そう・・・かな?」
一刀が苦笑しつつも、聞き返すと華琳含めそこにいた全員が頷いた
それを見て“厳しいなぁ~”と、また苦笑しつつも、一刀はあることに思い至る・・・・・・
今、ここにいる娘たちに伝えるべき言葉があることに・・・・・・
「華琳」
------それは凄く簡単な言葉で・・・
「?何かしら?」
------それでも3年間、伝えれなかった言葉で・・・
「春蘭、秋蘭、桂花、季衣、流琉、風、稟、真桜、沙和、凪、霞、天和、地和、人和・・・」
------この娘たちに・・・この世界に伝えたかった言葉で・・・
「・・・・・・」
だから・・・・・・
周りにいる皆の顔を見回して伝える・・・
------「おはよう!」------
って・・・・・・
それは始まりの言葉・・・・・・
1人の少年と・・・・・・
恋姫たちが紡いでいく・・・・・・
新しい物語の・・・・・・
さぁ・・・・・・
物語を始めよう・・・・・・
“想い”のつまった”恋物語”を・・・・・・
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えぇ~、まずはごめんなさい。
祭り編を書いているのですが、その途中で話の流れ的に書きたい話ができてしまいました。それが今回の作品です。祭り編の序章ってところですね。
もちろん祭り編も執筆中なのですが、もう2、3日掛かります。ご了承ください。
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