「五斗米道?」
「うむ。漢中を拠点にし、張魯という者を教祖とする、一種の宗教団体みたいな組織なんだが、彼らは医者の集団でもあるんだ」
華雄の言葉を静かに聴く、一同。
ななしが死んで、并州の乱を収めた一刀たちは、すぐに晋陽へと入城し、丁原を医者に見せた。
しかし、その医者の答えは絶望的なものであった。
ななしが使った薬はケシの一種と思しきものに、様々な薬草を混ぜ合わせた、新種の薬であるらしく、普通の医術では、延命が精一杯だということだった。
それを聞いた呂布の落胆は相当なものだった。
寝台に横になる母の手をしっかりと握り締め、涙を流すその姿に、皆言葉を失った。
そのとき、華雄がふと思い出した。
以前、華雄の主君である董卓の父親が重い病にかかったとき、それを助けた医者が話していたことを。
それが五斗米道である。
「彼らならば、もしかしたら丁原殿を救えるかもしれん」
「・・・おかあさん、助かる?」
母の手を握っていた呂布が、華雄の言葉に反応し、振り向く。
「・・・可能性、というだけだが。どうだろう、劉翔。よければ私が使者を務めようか。どのみち雍州へ向かうのだし、少し遠回りになるだけだしな」
「そうだね。・・・それなら、丁原さんを長安に連れて行ってくれないか?」
「長安に?わざわざ病人をか?」
「うん。ここでは満足に薬も手に入らないし、何より、漢中にも近いしね。あそこで太守をしている櫨植先生なら、良くしてくれる筈だよ」
「なるほど、櫨植先生なら、頼りになるはずだな」
一刀の言葉に同調する白蓮。
「うん。どうだろう、頼めるかな、華雄さん」
「むろんだ。私に任せておけ。無事に長安まで送り届けて見せよう」
胸を張る華雄。
「呂布さんも、もちろんお母さんについて行くだろ?」
こく、と。うなづく呂布。
そして、じ、と。一刀を見つめる。
「何?」
「・・・恋、でいい」
「え?それって・・・。いいの?真名だろ?それ」
「・・・ん。劉翔、おかあさんのこと、本気で悲しんでくれた。劉翔、いい人。だから、恋の真名、呼んで良い」
「そっか。・・・なら、俺のことも一刀って、呼んでくれて良いよ」
「・・・ん、一刀」
ぴこぴこと、なぜか動く頭の触覚?のような髪。そして、満面の笑顔。
(か、かわいい・・・///)
その場の全員が、一瞬で堕ちた瞬間だった。
その翌日、丁原と呂布を乗せた馬車とともに、華雄は旅立っていった。
一刀たちは、とりあえずの代理ということで、都から新しい太守が来るまでの間、白蓮の妹である公孫越、水蓮に晋陽を任せ、幽州へと帰還の途についた。
一刀たちが幽州に戻って来たその日。
「じゃあ、荊州に戻るんだ」
「うん。黙って出てきちゃったらちょっと怖いけど、今はあそこが私の家だもん」
輝里はにこやかに言う。
輝里の処遇については、晋陽にいた時にすでに決していた。つまり、
無罪放免。
実際に乱を仕切っていたのは、あのななしであるし、劉虞を斬ったのもななしだ。輝里自身は、結局何もしていないのである。
罪に問う理由がなかった。
これは全員が一致した見解であった。
ただし、それを言い渡したとき、喜びのあまり、輝里が一刀に思い切り抱きついたのだが、その瞬間、桃香と愛紗が凄い顔をしてはいたが。
輝里がそれを見て舌を出していたのは、さすがに誰も気づいていなかった。
「先生のところに帰ったら、もっともっと勉強して、いつか必ずカズくんの力になりに来るよ。だから、それまで待っててね」
「ああ、もちろん待ってるさ。次に会うときまで、元気でな」
「うん!!・・・で、カズくんにお願いなんだけど」
「なに?」
一刀の顔を見上げ、輝里の口から出た言葉は、
「今度会ったら、輝里をカズくんのお嫁さんにしてね」
爆弾発言。
さらに、一刀に近づいた輝里は一刀のほほに、
ちゅっ!
と、口付けをした。
「んな?!」
「ふえ?!」
「な!!」
「はにゃ!!」
「なんだと?!」
それぞれの反応。
「えへへ。約束だよ!じゃあね!!カズくん!!みんな!!元気でね!!」
そう言って、走り去る輝里。
後に残されたのは、呆然とする一刀、鈴々、白蓮、そして。
「・・・おにいちゃん」
「義兄上・・・・・」
背中に何かを背負った桃香と愛紗。
「ま、待てこら輝里!!おまえ!!なんて置き土産を!!」
はた、と一刀が背後の気配に気づく。
ぎぎぎぎぎぎ、と。首を後ろに回す一刀。そこにいたのは。
「グオンノスエッスオナシガーーーーーーーー!!!!!」
「ドゥウェンヂュウーーーーーーーーーーーー!!!!」
「ぎゃああああああああああああ!!!!!」
「・・・・一刀、ご愁傷様。安らかに眠れ」
走り去る一刀と桃香、愛紗を手を合わせて見送る、白蓮と鈴々であった。
それから、約半年後。
久々に北平に集まった一刀たちは、長安の恋から送られてきた手紙に目を通していた。
「よかった。丁原さん、少し持ち直したそうだよ」
「ほんとに?!よかったあ」
「呂布も元気でやってるようだな」
「また手合わせしたいのだ」
手紙の内容に、皆がほっと、胸をなでおろした、そのときだった。
「一刀!!桃香!!公孫賛殿!!大変です!!」
突然部屋に飛び込んでくる、女性。
「五月さん、どうしたんですか?楼桑村にいたんじゃあ」
それは、楼桑村で留守番をしているはずの五月、簡雍だった。
「それどころではありません!!都からの急使です!!」
それは、驚天動地の知らせだった。
漢、十二代皇帝・劉宏、崩御。
大陸は、動乱の時へと、確実に歩み出し始めていた。
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刀香譚、第八話です。
少し短いですが。
恋と輝里のその後のお話です。
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