後漢十二代皇帝劉宏が崩御した洛陽では、次期皇帝をめぐり、二つの勢力が対立していた。
長子である劉弁を推す、大将軍何進派と、次子劉協を推す十常待派である。
互いに相容れない両者であったが、その思惑だけは一致していた。
自らが朝廷を牛耳る。
故に、劉弁にも、劉協にも、皇帝としての器量があるかどうかは、何進も十常待も考えていなかった。
いや、興味すら無かった。
そして、ついに十常待が強硬手段に出た。
何進の妹である何太后の名を使い、何進を宮中に呼び出して殺害したのである。
ところが、それを聞きつけた何進派の将軍であり、長安の太守を務める櫨植の手引きで、劉弁・劉協の二人は洛陽を脱出。長安へと逃れたのである。
二人を保護した櫨植は、旧来の付き合いである涼州の董卓、馬騰の二人に援兵を以来。
これを受けた董卓と馬騰はすぐさま、長安に入り、二人の皇子を伴って、洛陽へと兵を進めた。
十常待とその一派のものたちはほとんどが、彼らによって粛清されたが、十常待の筆頭である張譲はその行方をくらませていた。
その後、十三代皇帝に即位した劉弁は、先帝である父に霊帝の号をおくり、董卓を相国、馬騰を大将軍に任じた。また、櫨植は車騎将軍に封じられた。
こうして、大陸の情勢は落ち着いた。
かに見えたのだが。
劉弁が皇帝に即位して半月ほどした頃、大陸にある噂が流れ始めた。
曰く、
「相国たる董卓と、大将軍馬騰は、皇帝を傀儡とし、洛陽にて暴政をおこなっている」
と。
この噂にすぐさま反応したのが、冀州の袁紹だった。兗州の曹操とともに各地に檄文を飛ばし、董卓、および馬騰討伐を諸侯に呼びかけたのである。
そしてその檄文は、一刀たち幽州勢にも届けられた。
「さて、と。麗羽からの檄文だが、これにどう対応するか、みなの意見を聞きたい」
北平の会議の間にて、幽州の牧に就任した白蓮が、同席する一刀たちを見渡す。
并州の乱後、朝廷から死亡した劉虞に変わって、白蓮を牧に任じるとの通達があった。
しかし、白蓮は一刀の方こそその位にふさわしいと、一度は辞退した。
だが、その一刀本人が、
「おれはそんな器じゃないよ。それにこれは勅命だろ?・・・素直に拝命しときなよ」
と、笑顔で言ったのである。
その笑顔に、逆らえるものなし。
こうして、白蓮が幽州の牧に就任した。
「・・・正直、俺も迷ってる。噂を確認するために放った細作も帰ってこないしな」
一刀が白連に言う。
「各地の諸侯の反応は?」
「南陽の袁術に、呉の孫堅、徐州の陶謙、青州の孔融といったところが、参画を決めたそうです」
そう答えるのは愛紗。
「・・・つまり、洛陽の情勢だけが、掴めないということか」
腕組みをする白蓮。
「どうするの、白蓮ちゃん」
「そうだな・・・」
「なあ、白蓮。董卓さんのところには華雄さんが居たよな?」
「ああ。・・・けど、それだけで判断するのもな・・・」
「華雄どのを信じて西涼勢に付くのは、私心でしかないと思いますが」
五月が言う。
「簡雍の言う通りだと思うが?」
「いや、ここはあえて私心優先でいいかもしれない」
「義兄上?」
「確かに私心で動くのは、将としてはあまり褒められたものじゃない。けど、それはあくまで、『普通の場合』ならだ」
「どーいうことなのだ?」
鈴々が首をかしげる。
「二つほど気になることがあるんだ。ひとつは、例の噂が流れ始めた時期と、それが大陸中に行き渡るまでの時間。・・・あまりにも早過ぎる」
「誰かが意図的に流したってこと?」
一刀の言葉に桃香が反応する。
こくりと頷く一刀。
「もう一つは?」
「・・・華琳だ」
「華琳?なんでそこで華琳の名が出てくるんだ?」
突然、一刀の口から出てきた友人の名に、困惑する白蓮。
「確かに、麗羽なら噂の真偽なんて気にもせず、自分が名声を得られると考えたら、すぐに飛びつくのは納得できる。けど」
「華琳ちゃんなら、そんなに短絡的じゃあない、ってこと?」
「ああ。・・・何か知ってるのかもな」
「噂を流した本人だったりとか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
水蓮の一言に無言になる一同。
「あ、あれ?なに?あたい、もしかして的を射ちゃった、とか?」
自身の発言の意外な結果に戸惑う水蓮。
「ごほん!!まあ、それはともかくとして、だ。白連、今回は親友を信じてみたらどうかな?」
「そうだな。・・・よし!私たちは西涼勢に付く!!兵三万でもって明朝出発。留守は水蓮と簡雍に任せる」
「あいよ」
「は。御武運を」
そろって拱手する水蓮と五月。
「一刀、桃香、愛紗と鈴々は私とともに洛陽へ。期待してるぞ、四人とも」
「了解だ」
「まっかせといて!」
「ご期待に応えましょう」
「鈴々に任せるのだ!!」
それから数日後。
汜水関近くに陣を張る、反西涼連合の本陣。
「おーほっほっほっほ!!それでは不詳この私が、連合の総大将を務めさせていただきますわ!!」
(おーおー、嬉しそうに)
赤い髪に褐色の肌の女性、孫堅が、周りに聞こえない程度の声でぽつりと言う。
「ところで華琳さん?一刀さんと白連さんはまだ到着しませんの?」
長い縦ロールの髪に、無駄に豪華な鎧の女性、この連合の発起者である袁紹が、金髪の少女、曹操に問いかける。
「・・・まだよ。そろそろだとは思うんだけど」
「本当に来るのかね?その劉翔とやらは」
水色の装束の男が曹操に問う。
「・・・来るわ、必ず、ね」
(そう、一刀は必ず来る。あの正義感の塊のような兄妹なら、民が悪政に苦しんでいると聞けば、それを捨て置く筈が無い)
曹操はそう確信していた。
(子供の頃から、あの二人はそうだった。ちょっとでも困っているものが居れば放っておけない。それで何度、人助けに付き合わされたことか)
「しかしだ。幽州の田舎軍など、居ても居なくても大して変わるまいに。とっとと汜水関攻めを開始すべきでは?」
その場に居る最後の一人、緑色の装束の男がそう意見する。
そこへ。
「申し上げます!!」
天幕の外から、兵士の声が聞こえてきた。
「何事ですの?今は軍議の最中ですわよ?」
(軍議だったのか、これ)
と、袁紹以外のものたちが思う中、兵士が報告を続ける。
そしてその報告を聞いた途端、袁紹と曹操は愕然とした。
「汜水関に新たな旗が揚がりました!!蒼地に劉の牙門旗です!!」
「・・・なんですって?」
「ど・・・どういうことですの?!」
「なんじゃ、待ち人は敵方に付いたか。・・・振られたようだな、ふたりとも」
かっかっかと、大声で笑う孫堅。
(・・・一刀。そう、そうまでして私を拒むの。・・・あの時のように)
肩を震わせる曹操。
(・・・いいわ。なら力ずくで手に入れてあげる。この曹孟徳。欲しいものは必ず手に入れて見せる。・・・必ず、ね)
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刀香譚九話をお送りします。
霊帝の死と、そこから始まる事件。
連合編の開幕です。
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