呉軍 呂蒙隊
「敵は崩れかかっています!!急ぎこれを破り、雪蓮様と祭様のお二人の救援に向かいます!!皆奮戦してください!!」
呂蒙が兵に激を飛ばす
実際、二人との間を隔てている北郷、陳宮、于禁隊は数は多いものの、黄蓋隊を抑える為に北郷、陳宮隊の大半が背を向けている為、于禁の隊だけで呉軍の兵を抑えているのが現状だった
いくら守りに徹しているからといってその一隊に対し、呂蒙隊、穏様の陸遜隊、明命の周泰隊がかかっていっているのだから于禁隊が壊滅するのも時間の問題だった
「呂蒙様!!敵の中軍より騎馬の部隊がこちらに向かっているとの報が入りました!!」
その伝令の報を聞き、そちらを見ると少し離れた所に砂塵が上がっているのが見えた
これだけ距離があれば十分対応できると判断した呂蒙は自分の軍に指示を出す為、敵の来る方向に背を向け、兵達に指示を出す
「穏様と明命に伝令を出してください!!私の隊はあの騎馬隊に…」
「呂蒙様!!て、敵の速度が尋常ではありません!!まもなく我々の隊の後方とぶつかります!!」
「え…!?そんなはずは…!!」
驚愕しつつ呂蒙が振り向くと先ほどまではかなりあった距離が一気に詰められていた
「敵が後ろの兵に当たっているうちに残りの兵は反転!!敵を…。…え?」
そこまで言って呂蒙は絶句してしまう
なんと敵の騎馬はこちらの兵を文字通り蹴散らして、なお速度を上げて突撃してきていた
兵達が束になって立ち向かっていき、決死の覚悟で止めに入るのだがそれさえも物の数ではないというかのようにただただ真っ直ぐにこちらに向かってくる
「おらおらぁー!!死にたくなかったら退かんかい!!邪魔やぁーーー!!!」
「進め!!進め!!ただひたすらに前へと進めぇーーー!!!」
「「「「「遼来々!!!遼来々!!!」」」
その騎馬はとうとう呂蒙の目の前まで到達してしまう
呂蒙が最後に見た光景は、紺碧の旗を翻す鬼神の姿だった…
呉軍 周泰隊
「周泰様!!大変でございます!!敵の騎馬隊による急襲によって呂蒙様の隊に甚大な被害が出ております!!その騎馬隊は一向に速度を緩ませず我々周泰隊、陸遜隊へと直進してきております!!!」
「なっ!!亞莎の隊がですか!?」
その伝令に驚き、周泰が呂蒙隊の方向を見ると呂蒙隊を真っ二つに切り裂くように一直線に走る一団が見えた
「周泰隊!!急ぎあの部隊を止めます!!全軍転進!!」
そう兵達に指示を出す…その瞬間、于禁隊と戦っている兵達から悲鳴が上がる
「姐さんだけやないでぇ!!お前等、気張れやぁ!!」
「真桜ちゃん、いつもと迫力が違うの…。でも、沙和も頑張るの!!全軍、かかれぇー!!」
「「「「「遼来々!!!遼来々!!!」」」」」
「う、うわぁーー!!」「ぎゃぁぁー!!」
「なっ…!!」
声の上がる方を見ると、いつの間にか于禁隊に合流していた李典隊が揃ってこちらの兵達を散々に打ちのめしていた
「周泰様!!いかがいたしましょう!?」
いきなり前後から猛攻をうけて動転した兵達が指示を仰いでくる
「…兵の皆は後ろの李典、于禁を止めて下さい!!私は張遼を止めます!!」
「そんな!!周泰様お一人では無茶です!!」
「無茶は承知!!でも、今張遼を止めねば蓮華様にまで危険が及ぶんです!!貴方達は絶対に李典達を抑えなさい!!」
そういって周泰は単騎で張遼へ向かって切り込んでいくのだった…
呉軍 陸遜隊
「あれが…、張遼…」
陸遜は地面にへたり込みつつ呟いていた
張遼率いる騎馬隊は呂蒙隊を切り裂いただけに終わらず、明命さえも一合の元に叩き伏せ、周泰、陸遜隊をも真っ二つに切り裂いていったのだった
(でも、なんで私は討たれなかったんでしょうか…?私が武官ではなく、軍師だから…?)
そう考えてみるが、ふとそれは違うと考え直す
(そうじゃない…。私はたまたま、相手の前にいなかったから…)
そう考えながら、敵の通っていった地点を見る
その地面には呉の兵達の血が敵の直進した道に真っ直ぐに残っていた
(張遼さんは、将を狙うでも、兵を倒すでもなく、…ただただ真っ直ぐに突き抜けていったんですね…)
陸遜は、自分は軍略では大都督である周瑜を師として仰ぎ、呉の中でも周瑜、孫策、黄蓋についで兵法に通じていると自負していた
なのに敵の騎馬の、ただの直進に手も足も出なかった
兵を動かす暇もなく、ただただ純粋な暴力に飲まれてしまったのだ
周りを見ると、自分と同じく敵の猛攻から逸れていた兵達が多数居たが、その兵達全てがその場に立ち尽くしていた
張遼の名前を繰り返しつつ震える者、ただただ呆然とする者、中には倒れこんで泣き出してしまうものも居たが、皆一様に言えるのはその全てが戦意を失っていたことだった
本来なら五体満足な自分がその兵達を鼓舞し、纏め上げないといけないのだがその意思に反して体は全く反応してくれなかった
「あんな相手に、軍略も通じないような圧倒的な力に、敵う訳ないじゃないですかぁ~…」
腰が抜けへたり込んだ格好のまま、陸遜は誰に言うでもなくそう呟くのだった…
呉軍 本陣
「張遼、楽進率いる騎馬隊は呂蒙様の隊を破った後、李典、于禁の隊と合流!!その勢いのまま周泰様、陸遜様の隊をも破りました!!呂蒙様、周泰様はその猛攻により大怪我を負い、無事だった救護兵に連れられて戦線を離脱!!陸遜様は難を逃れたのですが、敵軍の威により戦意を喪失!!各隊で無事だった兵達も同様に茫然自失の体であり、戦線復帰は困難だと思われます!!なお、張遼はその勢いのままこの本陣に向かっているとの事です!!その武威、まさに鬼神の如し!!」
本陣にいる孫権は青ざめ、周瑜は難しい顔をしてその報せを聞いていた
「鬼神…」
青ざめた顔のまま、そう呟く孫権
隣に控える周瑜は、伝令の報を聞き考えを巡らせていた
(確かにあの猛攻は鬼神というにふさわしい…。あの猛攻は予想外だった)
張遼の行く所、向かう所に道ができる…そんな武を持っているのは呂布ぐらいのものだと思っていたが、張遼の武威はそれすらを凌ぐものだった
もはや呉軍で奴を止められるのは孫策か黄蓋ぐらいだろうが、それを最初に押さえられたのが厳しかった
「…蓮華様、最早張遼を抑えることは不可能です。一旦陣を退きましょう」
「なっ…!!いくら張遼が相手とはいえ、私に退けというのか!?」
周瑜の言葉に激昂する孫権…だが、周瑜は冷静に答える
「今の張遼の武威は異常、あれを相手にしては生きては帰れぬでしょう。孫家の血を絶やすおつもりか?」
その言葉に詰まりながらも、孫権は更に言う
「しかし、まだ姉様が…!!」
「そちらは心配ありません。私に策があります故、伯符の救援は私に任せ蓮華様は船にて建業へ…」
そういいかけたところに伝令が飛び込んでくる
「張遼が更に速度を上げ、こちらに向かっております!!お早くお逃げください!!」
「くっ!!もう来たか…!!蓮華様はお早くお逃げください!!誰かある!?」
周瑜が兵を呼ぶが、その声に答えたのは意外な声だった
「ここにいるぞーーーー!!」
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董卓IF√二十三話です
本当はクライマックスまで書く予定でしたが長くなりそうだった為、二作に分ける事にしました
今回は霞さん祭りですw
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告頂けると有難いです
追記 自分の説明不足からか最後の台詞のあの子が蜀勢力と思われている方が多数居るようです
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