「あら、早かったわね」
「はい、詠さんと月さんが変わってくれました」
客間では涼風を膝に乗せて本を読んで上げている華琳の姿、何時もの王としての凛とした姿ではなく
柔らかさの有る一人の女の子として涼風に接している姿を見て、流琉はつい溜息を吐いてしまう
「どうしたの?」
「あ・・・い、いいえ華琳様はやっぱり綺麗な方だと」
「ありがとう、嬉しいわ」
顔を赤らめる流琉に柔らかい笑みを返す。後から着いて来た扁風は顔の赤い流琉を不思議そうに見上げた
「さて、昭の話をするのだったわね」
「はい、兄様のことを知っておけば戦で戸惑うことも無いと思いますので」
「風は軍師としてお兄さんの力を知っておく必要があります。今後の作戦の組み立てにも影響をしてきますから」
扁風も首を縦にこくこくと頷き華琳を真直ぐに見つめた。華琳はそんな三人の顔を優しく見回すと
椅子に座るように促した。流琉たちは促されるままに椅子にすわる。そんな中、華琳の膝の上で
涼風がソワソワと視線を泳がしていた
「どうしたの涼風?」
「・・・あのね、おとうさんごはんおわったのかな?」
「昭の所に行きたいのね?」
華琳の問いに頷き、服の裾を握っている涼風を膝から下ろして父の元へと連れて行こうとした時
タイミング良く茶器と菓子を持った月が部屋に入って来た
「失礼します」
「ちょうど良かったわ。涼風を昭の所へ連れて行ってくれるかしら?」
「はい、構いませんよ。では、お茶をお出ししてから・・・」
「あ、私がやります。涼風ちゃん、早く兄様の所に行きたいみたいですから」
「そうですか、ではお願いします」と言って月は涼風を抱き上げて部屋を出て行き、流琉は茶器を取り
お茶を用意し始めた。華琳は涼風が部屋から出て行ったことに少し安堵した、なぜならば小さい子供に
聞かせるような話でもないからだ
「お茶も行き渡ったようだし、何処から話そうかしら」
「何処からでも構いません、兄様の怒りとはどのようなものかが解れば」
・・・三人の目線が期待に満ちている。流琉にいたってはこの間の怒りがよほど恐ろしかったのでしょう
私が恐ろしいと言ったものは流琉が体験したものとはまったく違うものだ。それとどう違うのか、自分の中で
整理をしたいのかもしれない
「話す前に一つ、流琉に聞きたいことがあるの」
「はい、何でしょう?」
「昭の殺気が獣のようだったと言ったわね?では殺気とは、いえ覇気も同じね何故そんなものが出ると思う?」
「え?殺気は武術を身に付けていれば自然と大きく出るものですよね?覇気は・・・・・・わかりません」
やはり、殺気や覇気が何処から来るものなのか解っていなかったのね。だから武術の出来ない
昭から大きな殺気が放たれ戸惑った。そしてそれが自分に向けられているのだと勘違いしては
流琉の性格からして泣くのは無理も無い。武術をあまりやらない風や扁風が不思議に思うのも当然だ
「殺気も覇気も全ては心から、心力が強ければ大きくなる。武術をするものは自然と心も鍛えられるから
殺気も大きくなるのよ。覇気や守る者の気迫はその者の性格や気質の問題ね」
「・・・お兄さんの心力の大きさは風も良く知っています。それが全て怒りに変わったからこそ
獣の殺気になったと言うことですね?」
私は頷く、その通りだ、彼の強さはそこにある。本来彼は支えるものがあるから獣にはならない
守る為だけの気迫を、私達が決して持つことの出来ないものを纏える
「ここから話す事は昭の怒りが静かにただ守る為に発揮された話しになるわ」
「はい、その話しだけでもこの間の兄様が違うと理解できました」
風とフェイも頷き続きを期待する瞳を向けてくる。さて、ここから話す事は
私の汚点、彼を苦しめることをしてしまった、そして自分の浅はかさを呪った過去だ
「あれは、私達が旗揚げをしたばかりの時・・・」
私達は力を付けることに躍起になっていた。私財を全て投じて御祖父様の財産まで手を出し武装を整え
周りの賊を掃討しながらようやく認められ陳留の刺史になったばかり、治安を守る為に随分と無茶をやったわ
それこそ数が圧倒的に少なく、不利な状況で戦うことも多々あった。そしてなるべく帰順、もしくは降らせて
自分の力に変えていった。そんなことばかりしていたから春蘭達もボロボロになりながら戦ってくれた
そんな中、散った賊同士が裏で手を組み大規模な一つの組織として周りの邑を狙っていると言う情報が入った
一つになった賊の名前は『黒山賊』情報元は昔からの知人、呂伯奢。詳しい話をしたいとのことで、彼から
刺史になった祝いの宴を開くのでそこで話をすると
「曹操様、今回の宴、私は賛同しかねます」
「貴方の言う事は解るわ、だがこれを断ればここ一帯の豪族は私の言に耳を貸さないでしょう」
「理解しておりますが、呂伯奢殿の眼が良からぬものを写しております」
昭は彼と会うことを最後まで反対したわ。そして私も呂伯奢が腹に一物抱えているのが解っていた
斥候達の情報から、呂伯奢と組織の繋がりがあることを既に聞いていたし。彼の眼は心の色を見抜く
「昭、呂伯奢殿は華琳様の知人。しかもここ一帯の豪族と繋がる大商家の主だ、断っては我等の援助も無くなる」
「姉者の言うとおりだ、昭の眼を信じていない訳ではないが今回の宴は断れん」
「・・・・・・」
「大丈夫よ、春蘭と秋蘭を連れて行くし、兵も出来るだけ失礼に当らないように連れて行くわ」
「私も行きます。私を御連れにならないならば、この命を賭けて貴方様を御止めいたします」
その時の昭は何時もの通り強い覚悟を秘めた眼差しを私に送ってきた。連れて行かなければ
彼は本当に自分の命を賭けて私を止めるでしょう、配下であることを決して忘れることが無いから
私を守る為に即座にその身を賭けることが出来る。そんな彼を私は心から信頼していた
「ふぅっ、解ったわ。貴方を今失う事は私にとって良い選択とは言えないし、着いて来なさい」
「は、ありがとうございます」
「まったく、私達だけでは安心できんのか?」
「そ、そう言う訳じゃないさ、春蘭の強さは俺が一番良く解っている」
「姉者、あまり昭を虐めないでくれ。華琳様を心配しているのだ」
「フフッ、変わったわね秋蘭。今の貴女はとても輝いているわよ」
「有り難うございます」と頬を染める秋蘭は、昔から知っている彼女とはずいぶんと変わって
女性の柔らかさと美しさを醸し出していた。昔から恋をする女性は綺麗になると言うことが言われてきた
けれど、これほど顕著に出るのはきっと今まで彼女が全てを委ねられる相手が居なかったからかもしれない
とそう思った。その時は秋蘭が少し羨ましかったわ
昭を連れて行くことを了承した後、直ぐに護衛の兵を選抜し呂伯奢の待つ屋敷へと向かった
彼は自分の大きくなった力を誇示するように、町から離れた小さな山に不釣合いな豪邸
を立てて、そこで周りの豪族を集め宴を繰り返していた。正直、その資金が何処から来るのか
真っ当な方法ではない事は誰の眼にも明らか
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。御久しぶりでございます、最後にお会いしたのは何時だったか・・・」
「三年前よ、御祖父様のお葬式の時にあって以来ね」
「ええ、ええ、確かにそうでした。あれから随分とご立派になられて、さぞ曹騰様もお喜びになっておられるでしょう」
「どうかしら?馬鹿なことをしていると思っているかもしれないわ」
「そんな事はございませんよ、きっと褒めて下さるに違いありません。わざわざ遠くから来ていただき
こんなところで長話もなんですからどうぞこちらへお入りください」
私が呼ばれた理由は、旗揚げし刺史となった私を抱きこみ。更に私腹を肥やそうと考えているのだと言うのが解っていたわ
だけど私からすれば、罪人の罪を暴き組織との繋がりをあぶりだせる格好の機会、そして出来ることならその賊を飲み込む
これを逃しては、賊に苦しめられる人々が増え続ける。そして元は民であった多くの賊を民に戻すことが出来ないと
虎穴に入る覚悟をした。と言ってもあの時、呂伯奢に何かが出来るとは思わなかった
こちらには春蘭と秋蘭が居るし、寄せ集めの賊になど私の兵は遅れを取らないと侮っていたのね
そして昭の眼に映る良からぬものとは、そんな呂伯奢の下卑た下心だと思っていたのよ
席は中央を空けて私達が座る対面に呂伯奢と側近の男が二人、ココに『黒山賊』の首魁は居なかった
あの時は背後で話を聞いていたらしいわ
「孟徳様、今宵お呼びしたのは他でもありません。前に御話した賊の話しなのですが」
「ええ、ここら辺一帯の賊が手を組み大きな組織として成り立とうとしていると」
「その通りでございます。つきましては折り入ってお願いが・・・・・・」
「何かしら?」
「まずはこちらをお受け取りください」
そういって奥の使用人に手を叩き、呼び寄せると次々に私の目の前に置かれる大量の金
そして宝石や鏡、香など。ココまで呂伯奢が財産を溜め込んでいるとは思わなかった。そしてそれと同時に
私は相手を見誤ったと思った。財力の大きさはそのままこの男の力の大きさ、ココで罪を暴き取り押さえる事は出来ない
裏でどれだけの賊が構えているのか、これは脅迫も混じった一方的な交渉だったのよ
「どうでしょう、私と手を組んでいただけませんでしょうか?」
「・・・そうね、それも良いかもしれないわ」
「おお、それはありがたい」
ココは承諾し、切り抜けなければ。私は冷静に呂伯奢の言葉に頷きながら、どうやって脱出するかを考えていた
「貴女様に御見方になっていただければ今後も私の商家は安泰と言うものです。どうぞ時間はございますゆえ
ごゆっくりとお食事など取りながら御考え下さい」
「ええ、そうさせてもらうわ」
この男からどうやって・・・とりあえず了承した後、ココに留まらず直ぐに陳留の戻り兵を集め守りを固めなければ
おそらくココに運ばれた宝物を見る限り、呂伯奢の力は私よりも大きい、そして下手をすれば陳留を飲み込む
私が一番に考えた事は、私自身が無事に陳留に戻ること、そして兵を纏めること。
私が倒れても兵達は賊に立ち向かうだろうが守りぬく事は出来ないだろう。そう思った瞬間、昭と眼が合った。
昭の眼は語っていたわ。何があろうとも私を命を賭けて守り抜くと、それは陳留に居る涼風のため。
彼は即座に命を賭ける覚悟をしていた
「おや、御使い殿は私が用意した食事が御口に合いませんか?酒も沢山用意してございますが其方にいたしましょうか?」
「いえ、御気遣い感謝いたします。残念ながら医者から夜の食事は控えよと、薬も貰っておりまして」
「おお、それは失礼いたしました。御気の毒に、食事も取れないとはどのような病で?」
「私は御祖父様と同じく酒が好物でして、それで内臓を・・・」
昭の言葉を聞いて私は『しまった』と思った。昭が酒を飲むのは知ってはいるが身体を壊すような馬鹿な呑み方はしない
何故そんなことを言ったのか?それは手を付けた料理や酒は何か入っていてもおかしくはない、眠らせるものか
それとも毒殺か、だが毒殺はない。これだけの力があるならば自分で旗揚げをし一つの勢力として名を上げることも可能
そうしないのは安全に私を取り込み、私を通じて中央と関わりを持とうと思ったからに違いない
ならば私の身を拘束するようなもの、春蘭と秋蘭もそれに気が付いたようで、顔を気付かれないように歪めていたわ
「御身体を壊されるほど御好きとは、それではこの度の宴は御辛いでしょう、御土産に良い酒をご用意いたします」
「有り難うございます。ではお返しに私の舞を、剣舞などどうでしょうか?陛下にも好評を頂いた舞です」
剣舞と言った時に呂伯奢の顔色が微かに変わった、それを見逃す私ではない。昭の狙いは二つ、剣舞で剣を持ち
呂伯奢の頸を狙う、そうでなければ人質にして盾にして逃げる
「おお、天子様までもが!!是非お願いいたします。誰か、剣を持て」
「剣は三振りお願いいたします」
「三つも使われるのですか?ああ、どのような舞になるのか予想が付かない、楽しみですよ」
呂伯奢の顔は平然としていたが、昭の顔を通して呂伯奢があせっている。もしくは警戒していると言うことが
解った。剣を三つ、私と春蘭と秋蘭に投げて渡せば呂伯奢の頸は簡単に取れるだろうし、下手をすれば
自分を人質に使われるかもしれないと
侍女は主人に言われたとおり剣を用意し、三振り昭に手渡し部屋から出て行った。部屋から出る戸の隙間から
賊の影が数人みえたわ。私は気付かれないよう視線を昭に移し、私の考えを読み取ってもらうことにした
敵は既に周りを囲んでいる。人質にするほうが良いだろうと
昭は無言で頭を下げ、宴の席中央へ歩を進めると
剣を鞘から抜き出し二振りを手に持ち、一振りをキン、キンと音を奏でながら
剣で打ち上げ宙を回せる。剣が音楽のない部屋に音楽をかなで、宙を舞う剣が灯の光に照らされ
美しく光る。そして昭は身体を大きくゆっくりと動かし、まるで女性のように妖艶に舞い始めた
「おお・・・・・・」
呂伯奢は昭の舞に言葉を失っていたわ。その妖艶な舞はそこら辺の下手な女舞士よりも数段に
美しいものだったから無理もないわね。けれど呂伯奢はその途中途中で顔を酷くおびえさせた
何故ならば、昭は妖艶に舞いながら守る者の気迫を鋭くぶつけていたから。流琉が感じた殺気とは似て
非なるもの、覆いかぶさる壁のような重圧をそのたびに感じていたはずよ
「・・・う・・・・・・ぁ・・・」
舞踊りながら剣を私達の前を通り、顔の近くに剣をちらつかせる。危うさと美しさを持ちながら
そして今度は呂伯奢達の目の前を通る。ゆっくりと通った後、呂伯奢の顔はその心を隠すことが出きず
蒼白になっていたわ。この舞は昭からの警告『下手な動きをすればお前の頸を切り落とす』と
「有り難うございました」
彼は舞を一通り終えると、剣を鞘に収め頭を下げて席へと戻った。席に着いた瞬間に呂伯奢の額からは
プツプツと汗が湧き流れ落ち、側近の者達からも同様に汗が流れ落ちていた。その姿はとても滑稽だったけれど
何故彼が呂伯奢を捕らえなかったのか解らなかった。これでは私達は逃げることが出来ない
「い・・・いやぁ、素晴らしい舞でございました。これは天子様も絶賛されるわけです」
「いえ、そんな事はございません。所で呂伯奢殿、我々は明日中央へ出頭しなければいけませんので」
「おお、そ、そうでしたか、返事は後日でも結構です。どうかごゆっくり御考え下さい」
「曹操様よろしいですか?」
この場から帰さず、そして私達を捉えようとしている呂伯奢の返答に驚いたが、それ以上に驚いたのは
私に向けた昭の顔。彼の顔は強張り、焦っていた。『この場から早く去ろう』と彼の前が私に訴えていたの
「ええ、申し訳ないけれどこれで失礼するわ。返事は明日にでも」
「良い返事を期待しております。おい、孟徳様がお帰りになられる。土産を用意しろ」
すんなりと私達がこの屋敷を去ることを了承したこの男の返事にも私は驚いた、それほど昭の気迫は恐ろしかったのかと
素早く土産を用意し、私達に渡すと何を仕掛けてくることもなく、不気味に思いながらも足早に屋敷を後にした
「お体に異変はありませんか?」
「ええ、何故あのような行動をしたの?」
「あの男は捨て駒、人質にとっても価値はありません。あの男の目がそう言っていました。恐ろしいのは
後ろに控えている者達、恐らくは『張牛角』賊の中でも統率力に長け、名も知れ渡っている」
「張牛角、報告にあったわね。戦い方が従来のものと違う、奇襲を得意とした戦い方」
「はい、急ぎましょう。わざわざこんな所に屋敷を立てたのは自分の得意な場所に敵を引き込む為
呂伯奢を表の顔とし、裏から操り勢力を大きくしていたのが奴でしょう」
だからこそ町から離れた場所に屋敷を立て、周りの豪族を宴に招き、脅し自分達の手中へと治めていった
表面はやり手の大商家からの誘い、裏は賊の首魁からの脅しと脅迫。自分の有利な場所へ次々と引き込み
まるで蜘蛛のように相手を絡め取る、実に効率よく巧いやり方だ。敵に感心したのは久しぶりだったわ
「賊はいったいどれだけ大きいのだ?」
「解らん、だが今の春蘭と秋蘭、そして俺たち三十の兵ではとても足りない」
「姉者、囲まれる前に華琳様だけは脱出させるぞ」
「ああ、もちろんだ。昭は華琳様を」
「いや、もう囲まれている。来るぞ方円陣を引け、曹操様を守るんだっ!!」
敵の動きをその眼で捉えながら昭は即座に兵を動かした。その声に反応し、私を円を描き囲むように兵は
動き、春蘭と秋蘭は私を挟むように武器を構え、昭は辺りを鋭く見回し始めた。この時の彼の役割は
軍師のような役割だったわ。その眼を使い敵の動きを把握し私に伝える、武力のない彼の戦い方は
これしかなかったし、演舞もまだその真価を見出されていなかった
「良いか、華琳様だけは守り抜くぞ」
「ああ、わが身を盾にしても守り抜く」
「・・・槍を構えよ、皆回りに眼を凝らせ。お前達の動きから敵を見極める」
後から解った事だけれど敵は森の中に身を隠し、装備も黒で統一していた。闇に乗じて戦力を削り
最後は敵の将を取る。戦い方はまるで狼の如き戦い方、私達はあのままだったら確実に殺されていた
だが私達が警戒し武器を構えても敵は一向に攻撃をしてこない、ただ静まりかえる森
しかし森の中にはその存在を感じられるただ私達を観察しているように、じっと動かずに
そんな静寂を破ったのは意外なことに敵の首魁『張牛角』、彼は一人森の中を出てきたのだ
「フフフッ、先ほどの見事な舞。我が心に感じ入った、どうだ俺の仲間になる気は?」
「やはり後ろで見ていたか・・・・・・貴様っ!」
張牛角の言葉に彼は酷く怒りを露にした顔になった。そして手に握り締める棍はギリギリと音を立て
相手を射殺すように睨み付けていた。それは私に一つの答えを真の狙いを導くものとなった
「最初から昭を狙っていたのね?」
「その通りだ、天御使いが居れば天下に名を示す大義名分となる。そして夏候昭、貴様の眼は俺にとって
重要な道具になる。本来は曹操を捕らえ手に入れようと思っていたのだがな」
「俺を利用するか、貴様の器に俺は収まらん。俺を扱えるのは我が主君だけだ」
「クククッ、道具だと言っただろう。使えなければ殺すだけだ」
昭に向けられた言葉は今まで彼を苦しめてきた言葉、生きる意味も存在する理由も解らずただ生きてきた
昔から彼を見る周りの眼は彼を道具として利用しようとする目、出る言葉も同じもの。秋蘭との間に
涼風が出来てようやく彼は救われたと言うのに、こんなことを言ったら
「・・・・・・」
彼の瞳が怒りで濁り始めるのを秋蘭がそっと手を握り押し止めていた。私はそれに安堵しながら
周りの状況を見ていた、突破口はあるかと。しかし相手は一切動きを見せず、不気味に闇の森に潜むだけ
今の状況は八方塞、それを敵は十分にわかっているだろうし、次に出てくる言葉もわかりきっていた
「貴様は食さなかったようだがあの食事は混ぜ物があってな。そろそろ時間だ」
「なっ・・・うぐっ・・・」
最初に膝を着いたのは春蘭、つづいて秋蘭と私が身体の痺れで立つことが出来なくなっていた
混ぜられたのは痺れ薬、元々私達を捕らえてどうにかしようと思っていたのだから
「どうする?その兵数で身体の動かない主君は守れんぞ」
「・・・」
「助けたければ俺のところに来い、そうしたら曹操たちは見逃してやろう」
私はこの時自分の浅はかさを呪ったわ、昭の眼はきっとこういったことを見ていたのだろう
だが、はっきりと何をたくらんでいるのか解らなかったから私と来ることを望んだのだ、私を守る為に
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定軍山扁は一度はずれます^^
過去話行きますのでしばし御付き合いください
何時も読んでくださる方感謝しております><
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