「うっ・・・」
言い知れぬ恐怖感と違和感の塊のような物が頭の中で頭痛に変わり、吐き気を催す。クレイは立ち止まり必死に吐き気を抑える。冷や汗が額に溢れ目には涙が溜まっている。
「に、逃げないと・・・」
「つぅかまぁえた・・・・」
「ひっ!」
肩を掴まれ激痛が走ると同時に背中が一気に熱くなる。あいつは俺の返り血を浴びて真っ赤になりながらヒヒヒヒと気味の悪い笑い声を上げながら狂気じみた目で崩れ落ちる俺を面白そうに見るのだ。
「おい!起きろ!」
「う・・・ん」
「今日は商店街を案内するって言っただろう。ったくいつまで寝てるんだ?」
イセがふんっと鼻を鳴らして時計を見せる。
「・・・・11時。え!?もうそんな時間!?」
「そうだよ。早く着替えてこいよ。俺は一階で待ってるから」
「はい。分かりました!」
イセが出て行くとクレイは慌てて着替えを始める。ふと部屋の入り口の机を見るとイセが持ってきてくれたのか新しい騎士団の服が用意されていた。
「うぅ、汗冷たっ!嫌な夢みちゃったなぁ・・・」
クレイは新しい下着をバッグから出し、新しく用意された騎士団の服を着る。鏡に映る姿を想像しながらまだビニールの匂いがする袖に腕を通して誇らしげな様子で服のシワを伸ばして背筋を正す。
「意外と似合ってるかな・・・なんて。ってこんなことしてる暇はない!早く行かないとイセさん怒らせちゃう!」
クレイは慌てて昨日貰ったお気に入りの剣を腰に携え、鏡の前で格好いいポーズを決めると勢いよく部屋から出て行った。
「はぁ・・・お腹空いたぁ」
「お前さっきからそればっかだな・・・もうすぐ商店街に着くから我慢しろ」
「うー・・・」
地元の商店街は騎士団の本部から十数分歩いた所になる。騎士団の団員は絶対にお世話になるというほどの品揃えの良さが自慢でホテルもあればドラッグストアもあり、さらにアクセサリー用品もあるという優れものだ。
「そういえばまだこれ渡して無かったな」
「鈴?鈴にしては少し大きいですね・・・。あれ?イセさんどこに?」
『聞こえるか~?』
「イセさん!?何ですかこれ!?すっげぇ!」
『これは鈴具って言って離れた所でも会話出来る機械だ。普段は騎士団にチャンネルを合わせてあるが後ろの画面で調節すれば別の奴とも通話出来る』
「へぇ~。これで声とか変えて事件の解決とか出来ればいいですが・・・」
「何を言ってるか分からんが悪戯に使うなよ?」
「はい!使いませんって!・・・・ん?」
クレイは満面の笑みで敬礼をするがイセは疑わしそうに横目で見つめた。その時、クレイの鈴具が振動したかと思うと小さな声が聞こえてきた。何を言っているかは聞き取れなかったが『助けて』だけは聞き取れた。
「イ、イセさん!し、心霊現象でしょうか!?あわわわわ・・・」
「ちょっと貸してみな。・・・多分他のチャンネルと混線したんだな」
「さぁ、助けに行きましょう!きっと待ってますよ!」
「裏山の方みたいだな・・・・って聞けよ!おい!」
「ハァ・・・ハァ・・・もう半分くらいまで来たけど何も無いなぁ・・・」
「ぎにゃぁぁぁぁぁ!!」
「へっ?」
叫び声が聞こえたかと思った途端、前方から赤い騎士団服白い猫が傷だらけで坂道を転がり落ちてきた。白猫は立ち上がろうとするが体中が痛むようでうめき声を上げた。
「大丈夫か!ひどい傷じゃないか・・・」
「う・・・ぐ・・・・逃げろ・・・」
「ふん、まだ声を出せる力が残っていたとはな。貴様もそいつの仲間か」
「誰だ!」
クレイが振り返ると綺麗な漆黒の色をした毛並みを持つ猫が鋭い目つきでこちらを睨みつけていた。その目はとてつもない威圧感を放っておりクレイは体が硬直する。
「お前か!こんな酷いことをしたのは!」
「そいつが言うことを聞かないからだ。どかなければ貴様も斬るぞ」
「い、いやだ!放って置けるわけないだろ!」
クレイは怯えながら昨日貰ったばかりの剣を震えながら猫に向ける。黒猫は鼻で笑うとすごい剣幕で大声を上げた。
「お前みたいな素人剣士が軽々しく剣を持つな!俺に剣を向けるなど侮辱に等しい」
「し、知るか!困った人を助けるのが騎士ってもんだろ!正義は勝つんだ!」
「・・・お前もそいつと同じだ。喋っていると虫唾が走る!!」
黒猫は姿勢を低くすると一気にクレイを斬りつける。クレイは咄嗟に剣で防ぐがあまりの衝撃に後方へ尻餅をつく。体勢を立て直そうと体を起こそうとした時、胸の辺りに衝撃が走り地面へとたたきつけられた。
「うぐっ・・・」
「そんなものでよく俺と剣を交えようと思ったな。何も守れない奴が騎士道を語るな・・・何かを守るってのはお前らみたいな子供には絶対に分からない・・・・絶対にだ」
「クロ・・・そいつは関係ない・・・見逃してやってくれ・・・」
クロはチロをチラっと見ると剣先をクレイの首下に向ける。
「誰かを守るのが騎士道だと言ったな。だがどうだ?お前が非力だからこいつは死ぬことになるんだぞ?お前なんか騎士でも何でもない、ただの猫だ」
「・・・・だまれ!」
クレイの突然の言葉にクロは驚き少し目を見開いた。だがいつもの無表情に戻ると踏みつけている足に力を込め始めた。だがクレイは痛がる様子も見せず逆にクロの足を掴んで引き剥がし始めた。
「お前は悪い奴だ!人の痛みが分からない奴が誰かを守れるほうが絶対に・・・無理だ!」
「なっ・・・!」
クレイはクロの足を掴むとそのままクロを吹っ飛ばす。クロは空中でくるくると回ると地面にふわっと着地したが、掴まれた箇所が痛むようで少しぐらついた。
「クロ様!姫の移動の準備整いました!」
「分かった。今回は見逃してやる、次は容赦はしないからな」
「待て!まだ勝負はついてないぞ!」
クロは落とした剣を拾うと黒い鎧を着た兵士と共に森の中へと消え去っていった。クレイはすぐに剣を片付けると傷だらけのチロを背負い山道を下り始めた。
「すぐに病院に連れてきますからね!頑張ってください!」
「あ・・・ありがとう・・・」
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チロとクロと初対面。何だかこの話の方向性が分からなくなってきました。