ソファで横になる律子を見下ろす。
自分の居場所が取られてしまったような苛立ちを覚えるけども、疲れた顔をして眠る彼女に文句を言い出せず、それでも納得できずに精一杯の不機嫌顔を作って彼女を見下ろすことしかできない。
後ろから彼女を起こさないようにとお願いされてしまい、それに反して叩き起こしてしまいたいという天邪鬼な気持ちが湧き上がる。
彼女を起こしたら、どんな顔をするのだろう。
まず考えられるのは、怒られる。
起こした相手が自分と気づき、いつものように怒声を浴びせられ、こちらは意気消沈してただ謝るだけ。一番ありえそうなことで、そのときの彼女の表情を想像して体に一瞬寒気のような震えが起きる。
それを振り払いたいと、試しにいい方向で考えてみる。
起こしたのが自分とわかり、すまなそうにここを空けてくれる。
そして、寝てしまった自分に落ち込んだ様子を見せる。
そんな状況になってしまったら、眠りたくても眠気が消えてしまいそうに思える。
いい方向で想像してみたかったのに、さっぱりいい方向にいかなかったことに今度は自分が落ち込んでしまいそう。
しかたなくソファの少し空いているところに腰かけ、持っていた鞄の中から丸い包みを取り出す。透明なラップに包まれた真っ白なオニギリだ。
包装を全部解き、何もまとうもののなくなったオニギリを大きく開けた口に運び、口の中いっぱい頬張る。自分で握ってみたのだが、塩梅があまりよくないものの割とうまくいったほうだと思い、少し機嫌がよくなる。
「美希ー、私にもちょうだいー」
後ろから急に突き出されてきた律子の手に驚いて、あやうくオニギリを落としそうになる。
その手の中にあったオニギリを彼女はあろうことかつかみ取り、それをそのまま自分の口に運んでいってしまった。
律子が指についたゴハン粒を口で取ってしまい、それを飲み込むまでただ呆然と見つめることしかできず、我に返っても出てきた言葉は怒りの言葉ではなく、
「味、どうだった?」
それだけだった。
「あ、これ、あんたが握ったんだ。あちゃー、お昼ごはんだったのか、ごめんね、美希。寝ぼけてたとは言え私としたことが不注意だったわ」
そんなことはどうでもいいから味についての感想が欲しくて、顔を近づける。
「ソファ、使っちゃってごめんね。もう少しだけ寝かせて」
「それはいいから。オニギリの感想、聞きたいの」
律子は何を言われたのか理解できていないのかそれともただ眠いだけなのか判断できない表情でこちらを凝視してくる。こちらも負けずに見つめ返して、彼女が何を言い出すのか待ってみる。
お互い見つめあったまま少しして、根負けしたように彼女は目をそらして小さくつぶやいた。
「まあまあ、おいしかったわ。少し塩気が強い気がしたけど、人の好みによるんじゃないかしら」
「そっか。ありがと、律子、さん」
“さん”の付け方に少し文句を言いたそうな様子の律子だったが、結局睡眠を優先してソファに横になってしまう。
こんな時くらいメガネを外せばいいのに、仰向けで寝ていて邪魔にならないせいか、彼女はもう寝息を立てていた。
寝返りを打ったときに痛い思いをしたら大変だと思うけど、手には先ほどまでオニギリを持っていたのだから、
「拭かないと、絶対怒られるの」
鞄からウェットティッシュを取り出し、手に残ったその粘りを拭き取り、乾かしてからようやく律子からメガネを取る準備ができた。
そんなことに満足していたのもつかの間、律子が寝返りを打とうとしているのが見えて、慌ててその顔に手を添えてメガネのブリッジをつまんでそれを取り上げることに成功させる。
そして、はたと、近くにメガネを置くのに適当な場所がないことに気づく。ソファの上ならば汚れなくて済むだろうが、寝返りのたびにこちらが慌てなくてはいけなくなるかもしれない。近くに適当な置き場所があると思えず、困ったままメガネに目をやる。
自分でメガネをかけてみる。鼻先に引っかけるくらいならレンズの影響を受けなくて済みそう。
これで律子は誰かが起こさないといけなくなるまで起きなくていいはず。いつまでも寝ていられるのはなんて幸せなことだろう。
自分へのご褒美として鞄からまたオニギリを取り出し、食べ始める。
塩気が少し強いのもなんのその、労働の後のオニギリはとてもおいしく思えた。
暗闇の中から浮上したかのように不意に目が開き、十分に寝たとは言いにくいが、それでもすぐに睡眠が必要なほどの眠気はもうなかった。
見覚えのある金色が見えたので、そちらに目をやると、床に座り込んでソファに頭を乗せて眠る一人の女の子の姿だった。ソファで寝たかっただろうに、こちらが占領してしまったからそんな風に寝てしまったのだろうか。
どういう顔をして寝てるのか確認をしたかったが、メガネがどこかいってしまったのか、視界が定まってくれない。なぜかはわからないけど、自分のメガネらしきものが彼女の鼻の辺りにあるような気がする。
取り上げて自分にかけてみると、本当に自分のメガネだったようで、慣れた自分の視界が戻ってきてくれた。
ソファで眠ってしまった意趣返しに取ったのだろうかと思ったが、眠る自分を気遣って持っていてくれていたのかもと思い直す。おかげでメガネを気にすることなく安眠できていたわけだし。
真相は彼女を起こして聞いてみないとわからないが、
「ありがと、美希」
なんとなくそんな言葉が口をついた。
その瞬間おだやかに寝息を立てていた顔が笑ったような表情に変わり、それに釣られるように自分の顔がほころぶのを感じた。
次のスケジュールまでもう少し時間があるのを確認し、彼女の寝顔を観察することに専念する。
可愛い顔はいつまで眺めていても飽きない、普段の苦労のご褒美に自分の一番好きなアイドルの寝顔を見続けるというのは非常にいいかもしれないと思えた。
-END-
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