付き付けられた刃に、俺は一歩も動けなかった。
「隊長っ!」
「おっと!お姉ちゃんの相手は俺だよ・・・。」
凪が助けに行こうとしたが、そこに王湾が立ち塞がる。この絶望的な状況の中、俺は刃を突き付けた相手の顔をじっと見つめていた。
「・・・な、なあ、飛鳥・・・なのか・・・?」
「・・・・・」
俺の質問に、相手は何の返事もなく、刃を向け続ける。・・・この顔立ちといい、背丈といい、飛鳥にそっくり過ぎる。だけど、あの飛鳥がこの世界にいるはずがない・・・。俺はそう強く願った。
「ああ。そいつは飛鳥だよ。お前と同じような現れた天の御遣いさ。」
「・・・っ!?おいっ!それホントなのかっ!?」
俺の質問に対して、代わりに王湾が答えてくれた。その答えに、俺は驚きの色を隠せなかった。
「ホントだよ。だけど・・・今のこいつは、只の人形とあまり変わりないかな。」
「どういう意味だっ!」
「そのままの意味さ。今のこいつは飛鳥であって、飛鳥ではない存在なんだから・・・なっ!」
「・・・くっ!」
王湾は冷酷な笑みを浮かべながら、凪に重い一撃を浴びせる。
「凪っ!」
「他人の心配より、自分の心配をしたらどうだ?天の御遣い様よぉ!」
「・・・くっ!どうしたんだよ、飛鳥!目を覚ませよ!飛鳥ぁ!」
「・・・・・」
必死に飛鳥の名前を呼び続けるが、状況は何も変わらない。ただ一歩一歩、飛鳥が鋭い槍を構え、近づいてくる。
何とかして、この状況を打開する方法はないのかっ!?俺はない頭を一生懸命振り絞る。
だが、時間はもうなかった。俺の目の前に来た飛鳥は、槍を振り上げる。・・・くそっ!ここで死ぬのか・・・っ!
俺が諦めかけたその時だった。一つの矢が、風切り音と共に構えた槍を弾いた。
「・・・っ!」
俺と飛鳥が驚き振り返って見たものは・・・。
「北郷、凪!大丈夫か!」
「今だっ!怪しい賊を捕らえよ!」
部隊を引き連れた春蘭と弓を放ってくれた秋蘭と・・・華琳の姿だった。
「春蘭、秋蘭!それに華琳も・・・!」
「大丈夫、一刀?」
「ちっ!・・・邪魔が入ったか・・・っ!おい!逃げるぞっ!」
「・・・・・っ」
「逃がすな!追え追えぇ!」
「邪魔な奴らだ・・・!はああああああああああっ!」
王湾の拳になんかオーラみたいなのが、集まってくる。・・・あれ?どっかで見た光景。
「・・・っ!隊長達、伏せてっ!」
凪の咄嗟の呼びかけに、俺達は地面へと伏せる。
「吹き飛べっ!螺旋弾っ!」
王湾の掛け声と共に、拳に集まった氣が一気に放たれる。その威力は、いくつかの隊を吹き飛ばすほど。・・・なんだがネーミングが、某忍者マンガみたいのだけど、気にしないでおこう。
「か、夏侯惇様!敵、逃亡いたしました!」
「くそっ!なんなのだ奴らは!」
「そのことは、後で城で聞きましょう。総員、城へと帰還する!」
華琳の号令に部隊は撤収していった。
城へと帰還した後、すぐさま俺達は玉座の間と集められた。
「それにしても、よく俺達が見つけられたな。」
「他の部隊がもう帰ってきているのに、いつまで経っても帰ってこないものだから、変だと思ってな。」
「さすが秋蘭。頼りになるよ。」
俺は心底、秋蘭の気転の良さに感謝するばかりだ。
「さて、本題に戻るわよ。一刀、あの者達は一体何者だったの?」
「詳細は俺にも分からない。けど、名前は確か、黒装束を着た王湾っていうやつと・・・」
続きを言おうとしたが、果たして飛鳥の事を言って良いのかと戸惑ってしまう。けど、言わなくちゃいけないと思う。本当の事を知るためにも。
「飛鳥って言うあいつらの天の御遣いだ。」
「何っ!?それは本当なのか、北郷?」
「ああ・・・」
信じたくは、なかった・・・。けど、あの飛鳥は俺の知る飛鳥と一緒だと、雰囲気で感じられた。
「なるほど・・・。これで天の御遣いは三人いるということになりましたね。一人はこの北郷一刀。二人目は、劉備達のところにいる天城蒼介。そして三人目は・・・五胡にいる飛鳥。占い通り三人揃いました。」
桂花がしっかりと情報を整理してくれた。
「あの王湾という者・・・さすがは、あの大部隊の上だけはあります。かなりの強さでした。」
「凪が認めるほどの者なのか。それがあと三人もいるとなると・・・」
春蘭の顔が少し不安げに曇る。
「少々厄介ね。・・・その者達、なぜか一刀だけを狙ったのよね?」
「はい。北郷一刀を渡しな、と。」
「・・・多分、あの者達の目的は一刀。あなただと思うわ。」
「・・・俺、なのか。」
一体、俺なんかを捕まえて何をしようとしてるのか、見当も付かない。俺は急に怖くなってしまった。
「・・・ちょっと、外に行って来る・・・」
「あっ!ほんご_______________。」
春蘭が呼び止めようとしたが、秋蘭に肩を掴まれ、止められてしまった。
俺が来たのは城壁の上。そこから見える景色と吹いてくる風は、いつもと何ら変わりはなかった。
「・・・・・」
俺は一人、城壁にもたれこむ。上を見上げると、空は雲一つもない青空だった。
「・・・飛鳥・・・」
五胡の狙いも気になるが、何より飛鳥のことが気になって仕方がなかった。あの飛鳥が俺を刃を付きつけた・・・。その事実が深く胸に刺さる。
「一刀。」
「ん?ああ、華琳か・・・」
「大丈夫?なんだか顔色が悪いみたいだけれど・・・」
「平気だよ。ちょっと疲れただけ。」
俺は心配させまいと、軽く作り笑いをみせる。その笑いはすぐにバレた。
「・・・バカ・・・」
その一言を告げた瞬間、俺は華琳に抱き締められていた。
「どうして、そんなに強がるのよ・・・。気になって、しょうがないじゃない。・・・あの飛鳥っていうの、あなたの知り合いでしょ?」
「っ!・・・何で分かったの?」
「あなたの態度と顔を見れば、すぐに分かるわよ。あなた分かりやすいもの。」
「ははっ。何でもお見通しなんだな・・・。あいつは・・・飛鳥は、俺の大切な友達なんだ。とても。」
「・・・その親友に刃を向けられて、どう感じたの?」
「・・・たまらなく怖かった。そして、何より・・・何も信じたくなかった。」
これが現実なのか、夢なのか・・・。できれば悪い夢であって欲しかった。けど、現実だった。辛く受け入れ難い現実だった。
「けどね、一刀。今のあなたには、あなたを信じてくれる人はたくさんいるわ。春蘭や秋蘭、季衣に桂花にあの三人組。それに・・・私だって。・・・だから、無理に何でも一人で背負い込もうとするんじゃないわよ。私達が、いるんだから・・・」
「・・・っ!」
俺はその言葉に、涙が止め処なく溢れた。全部、吐き出すくらいに。そして決意した。必ず飛鳥を助けてやると。そう決心した。
※どうもお米です。なんか作品違くね?と思ってしまうくらいごちゃごちゃになってしまいました。すみません。・・・なんだか切ない・・・。そんな風に感じてくれたら僥倖です。さて、次回は蒼介√になると思います。次回も頑張りたいと思います。それでは失礼します~。
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第十七話となります。みなさんからのご指摘、ご感想ドンドン募集中です。