No.138768

恋姫異聞録55

絶影さん

引き続き拠点です
しばらく拠点が続きます

次回は今回の話の続きとなります^^
ああ、メンチカツ食べたい~!!

続きを表示

2010-04-25 20:48:46 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:15295   閲覧ユーザー数:11752

「おとうさ~ん、おねえちゃんがきたよ~」

 

「解った、今行くよ」

 

自宅で秋蘭に作ってもらった作業用の蒼いツナギに着替えた俺は、飛びついてくる娘を抱き上げ

迎えに来た客へ会う為に玄関へと向かった。今日は休みだ、久しぶりに何か作ろうということで

手伝ってくれる人を我が家へ呼んだというわけだ

 

「お早うなのじゃ昭」

 

「お早う美羽、七乃はどうした?」

 

「七乃は今月分の薬草と肥料、蜂蜜を卸しているから今日は来れんぞ」

 

「そうか、それは残念だ」

 

玄関でニコニコと笑顔を見せるのは美羽、今日作るものには美羽の協力がどうしても必要だった

戦が終わって久しぶりに会う美羽はとても嬉しそうで、思わず俺は優しく頭を撫ると気持ちよさそうにされるがままに

なっていた

 

「それじゃ行こうか」

 

「秋蘭はどうしたのじゃ?」

 

「今日は兵の訓練だ、出来上がったら秋蘭にも持って行くよ」

 

「うむそれが良い、妾達だけで楽しむのは間違いじゃ」

 

俺は笑顔で頷き靴を履き替える為に腰を下ろし、紐を結んでいると美羽が背中に張り付いてくる

 

「ん?」

 

「おんぶじゃ」

 

「解った」といって靴紐を結び終えるとそのまま腕には娘を抱き上げ、背中には美羽を背負う不思議な光景が

出来上がっていた。作業場に向かう中、背中の美羽は嬉しそうにまた顔をニコニコとさせていたが腕の涼風は

少し不思議そうに美羽を見つめていた

 

「昭は御父様のようじゃの」

 

「そうか?」

 

「うむ、大きい背中に優しく妾を撫でる手は正に父親じゃ」

 

嬉しそうに笑う美羽の言葉を聞いた腕の中の涼風の顔が悲しそうになり今にも泣き出しそうになってしまう

 

「おとうさんはすずかのおとうさんだから・・・とっちゃだめなの」

 

そんな涼風を見て美羽は優しい目をして背中から涼風の頭をなでる

 

「すまんの妾にはもう父がおらん、じゃから涼風が羨ましかったんじゃ」

 

美羽の言葉を聞いて涼風は目を丸くしてしまい、俺と美羽を交互に見始める。たとえ真名に風が入っていようと

俺の娘の考えることぐらいはわかる、だから俺は柔らかく笑って涼風の頬に自分の頬を摺り寄せた

 

「あの・・・あのね、おとうさんがいないのはいやだよね・・・だから・・・」

 

「大丈夫じゃ、優しいの涼風は」

 

「ううん・・・すずかのおねえちゃんになって、そしたらおとうさんはおねえちゃんのおとうさんになるから」

 

涼風の言葉に美羽は撫でる手が止まり、ぷるぷると震えだす。背中の美羽はきっと泣いているのだろう

背中に熱いものがぽたぽたと零れ落ちるが、俺は気にする事無く歩き続ける

 

「・・・良いのか、妾が・・・姉になっても」

 

「うん、すずかおねえちゃんがほしかったから」

 

急に首に美羽の腕が巻きつき、背中で嗚咽を漏らしなく声が聞こえるが男はなおも気が付かない振りをして歩き

続けた。腕の中の娘に笑顔を向け、娘も男に笑顔を向けて美羽の頭を優しく撫で作業場へと歩いていった

 

 

 

 

 

 

「兄様、お待ちしていましたよ」

 

「ああ、待たせたな流琉」

 

着いた作業所とは城の厨房のこと、今回作るものはウスターソースだ!前に醤油と味噌は作った!

それと美羽が栽培した沢山の香辛料を混ぜ合わせソース造りに挑戦すると言うわけだ!

 

「前回の御醤油って言う調味料は吃驚しました!あれほど良い匂いで味わい深いものがあるなんて」

 

「そうだろう、俺の生まれた国を代表する調味料だ」

 

そういって顔を両手で挟みニコニコする流琉は醤油を作ってからというもの、醤油に随分とはまってしまったようで

色々な料理を作っては華琳を楽しませているようだ

 

「しかし昭は何でそんなもの知っておるのじゃ?やはり天では当たり前のように皆知っておるのか?」

 

「いいや、俺の住んでいたところは農家でな。こういうのを祖父が良く作っていたんだよ」

 

「農家?庶人であったのか?とてもそうは見えないのじゃ」

 

美羽は驚いていたがまぁ当たり前だろう、前に醤油と味噌を作るときにそのことを流琉に話したら

声を上げて驚いていたから無理もない、魏の舞王が元は庶人だというのだからな

 

「そーすと言うのも御祖父様が作っていらしたんですか?」

 

「ううん、がっこうだよね~おとうさん」

 

「学校ですか、前に仰っていた学問を習う場所でしたよね?」

 

「えっと・・・(じゆうけんきゅう)でつくったんだよね」

 

ニコニコしながら応える娘の頭を撫でながら流琉に頷く、本当に良く覚えていてくれるな俺の娘は

やはりこの子は天才なのではないだろうか?

 

「昭・・・顔が阿呆になっておるぞ」

 

「兄様・・・」

 

「あぁ~・・・すまん、それでは始めようか」

 

呆れ顔になる二人に俺は顔を赤くして謝った。さすがにさっきの顔は無防備すぎた、阿呆になっていると言われても

仕方が無い・・・

 

「まったく、さて昭に頼まれたものじゃが、洋葱(たまねぎ)、西紅柿(トマト)、月桂樹(ローリエ)、肉荳蔲(ナツメグ)

桂皮(シナモン)、丁香(クローブ)、伊吹麝香草(タイム)、蒔蘿(ディル)、茴香(フェンネル)、荷兰芹(パセリ)

で良かったじゃろうか?」

 

「ああさすが蜂王だ、よく集まったなそれだけの香辛料」

 

「感謝するが良いぞ、ほとんどの物が羅馬や南蛮から仕入れて栽培に成功したものじゃ」

 

「うわー、これって相当お金が掛かっているんじゃないんですか?」

 

「うむ、栽培に成功したがまだまだ増やすには時間が掛かる。それに全て薬になるからの

これを運ぶ時に華佗が来ておって、荷を見るなり大騒ぎしておった」

 

華佗が荷を見て大騒ぎするのも頷ける。何せ全て生薬や漢方薬の材料になるのだし、美羽から

薬草を貰うのに華佗がどれだけ苦労をしているのか・・・あとで華佗にも食わせてやろう

 

「薬草の下ごしらえは昭から指示されたとおり七乃とやっておいたのじゃ」

 

「私は西涼からの林檎と沢山の砂糖あと生姜を用意しましたよ」

 

「俺は青洲産の昆布だ、それじゃ材料を細かく切って林檎と生姜はすりおろすぞ」

 

俺と涼風は一緒に材料をすりおろす。その間に流琉は素早く材料を刻み、美羽は昆布を煮込む

 

「えいっ、えいっ」

 

「どれ涼風、姉様とやってみるかの?昭変わってくれぬか?」

 

「ああ、後は頼んだよお姉さん」

 

煮込みながら涼風を見ていた美羽がニコニコしながら近づき俺とすりおろす作業を交代してくれと

言ってきた。涼風は笑顔で頷くと美羽に台座を押さえてもらいながら一生懸命に林檎をすりおろしていく

 

「手も削ってしまうからゆっくりやるのじゃぞ」

 

「うん、おねえちゃん」

 

美羽は嬉しそうに妹と共に作業をする。俺はその光景を見て嬉しくなってしまった、美羽の心を俺の娘が

前よりも大きく救うことが出来たのだと

 

「兄様、涼風ちゃんと美羽さん仲がいいんですね」

 

「ああ、姉妹だからな」

 

「え?それって・・・」

 

「変な想像するなよ?どうもうちの連中は変な方向に想像をするのが得意だからな」

 

俺の言葉を聞いて流琉は「あはははは・・・」と苦笑いをする。やっぱり変な考えをしていたな

どうせ俺が美羽をどうにかしたと思ったのだろうが俺には秋蘭がいるし、こんな小さい子に手を出したりはしない

 

「涼風が姉になってくれと言ったんだよ」

 

「へぇー・・・いいなぁ」

 

「おいおい、流琉には親がいるだろう?」

 

「ええ、そうなんですけど兄様の子供になるって事は秋蘭様が母親になるんですよね」

 

 

 

 

 

 

そういうと流琉は恥ずかしそうに顔を赤くする。そんなに秋蘭が好きなのか、眼を通して秋蘭に対する敬愛は大きいのは

知っていたがそれほどとは

 

「流琉も家族だろ、魏に住むものは皆家族だ」

 

「・・・はい、そうですよね。さすがは秋蘭様の旦那様です」

 

「それは最上級の褒め言葉だ」

 

そういって笑い合う、俺は何より秋蘭を褒められるのが嬉しいというのを皆はわかっているようで

俺を褒めたりする時は皆秋蘭を絡めて褒めるようにしているようだ

そんな話をしているうちに作業は進み、全てを煮込み煮上がるのを待つ段階まで進んでいた

 

「後はパンとメンチカツの用意だ、本当はじゃがいものコロッケが欲しいんだけどじゃがいもなんか無いからな」

 

「じゃがいもというのを私も一度食べてみたいです」

 

「まだまだ先になるだろうな、いやこの世界のことだから意外と手に入るかもしれない」

 

「そのときはまた料理を教えてください」

 

流琉と俺はそんなことを話しながらパンを焼き上げとメンチカツを油で揚げる。久しぶりに食べることになる

メンチカツパンは一体どんな味になるだろうか、この世界の時間の流れも速いようだしもしかしたら色々な

物が流通する可能性もあるかもしれない

 

「できたよおとうさ~ん」

 

「壷に移し温度もさがった、作っているときから良い匂いがしてお腹がすいてきたのじゃ」

 

「おお、こっちも出来上がったぞ。メンチカツと焼きたてのパンだ!」

 

「これだけでも美味しそうですね兄様」

 

そこに良い匂いを嗅ぎ付けたのか、珍しく一人で厨房に姿を現したのは華琳だった

 

「良い匂いね、今度は一体何を作ったの?」

 

「そうそうさまー、そーすつくったんだよ」

 

「あら涼風、偉いわねお手伝い?」

 

「良い所に来たな、一緒に食べよう。俺の故郷の味だ」

 

俺と流琉はパンに切れ目を入れてメンチをソースの海に着け挟む、たったこれだけなのに吃驚するほど

この食べ物は美味い、そのうちキャベツとか挟むのも作ろう、マヨネーズも作れるな。これから楽しみだ

 

「ぱんに挟んだのは揚げ物ね、その調味料は始めてみるわ」

 

「美味いぞ、学生の時よく食べていたものだからな」

 

「そう、なら皆一緒に食べましょう。そのほうがより美味しくいただけるしね」

 

頷いた俺は流琉と皆の分を手早く用意する。安くて簡単で早くて美味い、それが何よりの学生時代だった

食堂でパンを買うのも必死だったなぁ

 

「それでは頂きましょうか」

 

『『頂きます』』

 

皆で一斉に合掌すると出来たメンチカツパンを口に運ぶ、俺は千切ったパンを涼風の口に運ぶと

周りから溜息が漏れた

 

「美味しいです兄様っ!凄く美味しくって、なんていっていいかっ!」

 

「ええ、なんて複雑な味なのかしら。この調味料は凄いわね、ただ私には一寸漬けすぎのようだわ

次は控えめに漬けて食べさせてもらうわね」

 

「ああ、だが気に入ったようだな、良かった」

 

「色々な匂いや味が混ざってる、丁香と桂皮、茴香と伊吹麝香草は何とかわかるけど他の物は?」

 

「流石だな、普段口にする物は解るか。他のはローマや南蛮の香辛料だよ、美羽が育てたんだ」

 

俺の言葉でリスのように頬を膨らませ美味しそうにもしゃもしゃとパンを食べる美羽に視線を固定する

その視線に気がついたのか、頬にパンくずを付けたまま美羽の動きが止まり、華琳の興味深々といった

目線にたじろぎ少しずつ、ずりずりと俺の後ろに隠れていく

 

「駄目だぞ、前も言ったろう?女王蜂は巣に居るから女王蜂なんだからな」

 

「解ってるわよ。勿体無いわね、でも間接的に才能の素晴らしさを見られるから良しとしておきましょう」

 

まったく、困った悪癖だ。俺も人の事は言えないが美羽だけは駄目だ、せっかく素晴らしい才能の

広がりを止めてしまうことになる。さて味も華琳のお墨付きを貰ったし秋蘭のところに持っていくか

 

俺が昼食を涼風と一緒に持っていったらどんな顔をするだろうか、食べた時に美味しいといってくれるだろうか

今からとても楽しみだ、休みの時ぐらいこういったことをしてやっても良いだろう。そう思っていると

俺の考えが解ったのか涼風はニッコリ笑って俺に微笑んでくれた

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
91
28

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択