そのタロット大の金属製カードを見た瞬間、成熟したティアナに数々の思い出が よみがえった。青臭い思い出が。
行き詰る自分にムチャな訓練を繰り返したこと。
そのムチャを咎められて、当時の教官に完膚なきまでに叩きのめされたこと。
それでも、自分を励ましてくれる仲間や先輩がいたこと。
時が経ち、成長し、体も熟れ、百戦錬磨の強者になった自分の前に今、かつての若い自分の一部分が対峙していた。
ティアナ「クロスミラージュ……、久しぶりね」
そう言うのが精一杯だった。
ティアナ「私の手から離れて5年だっけ、もうとっくに初期化されて、別の魔導師のデバイスとして再調整されてると思ってたわ」
You alone in my master.
(私のマスターはアナタだけです)
デバイスから電子的な音声が発せられる。
AIの声に、感情の抑揚はない。しかしながら このカード型デバイスからの言葉には、長い放浪の末に母親と再会したかのような、純粋な喜びの響きがあるのは、錯覚であろうか。
クロスミラージュの語るには、ティアナが機動六課を去って以降、彼のことはスバルが ずっと保持していたらしい。5年間、片時も離さずに。それが今日マリエルの要請で、メンテナンスの名目で預けられ、ここで調整を受けていた。
そこで思いがけない、5年ぶりのマスターとの再会があるとも知らずに。
ティアナ「マリーさんめ……、明らかな確信犯ね……」
今日になって突然マリエルがクロスミラージュの調整を言い出したのは、ティアナが舞い戻ってきたことと無関係などでは まさかあるまい。
マリエルにはマリエルなりに、ティアナと機動六課メンバーを引き合わせる思惑があったのだろうが、それがまさか この状況で こんな希貨を生み出すとは……。
May I ask you a question?
(質問があります、マスター)
ティアナは不機嫌そうに「あによ?」と尋ね返す。
Why do you leave me?
(何故 私を置いていってしまったのでしょうか?)
ティアナ「アンタは機動六課の支給品でしょ? 六課を出て行くんなら返すのが筋じゃない?」
I'm device for you. master.
(私はアナタのために生まれたデバイスです)
ティアナ「なによ、機械が恨み言?」
ティアナはタバコの煙を吐き出しながら、意地悪く言った。
かつて機動六課で修行していた頃は、『デバイスは相棒。心をもったパートナーとして、二人で一緒に成長するつもりで扱え』と教わった。
その相棒と別れ、流浪の身となったティアナが新たに握ったファントムレイザーは、それ以前とは完全に違う非人格型のアームドデバイス、AIを積まれていない、パートナーになどなりえない完全な『道具』だった。
別に六課の教えに反発したかったわけじゃない。
ティアナがティアナ独自の戦歴を積むことによって、0.1秒を奪い合う実戦では、脳は二つより一つだけの方がスマートだ、という結論に達したからに過ぎない。
そして今、考えの変わってしまった彼女の前に、過去の自分そのものがいる。
クロスミラージュは、すっかり沈黙してしまった。
年下の恋人を拗ねさせてしまったようで、ティアナは説明不能な居心地悪さを感じてしまう。
ティアナ「………話は変わるけどさ」
ティアナはバツが悪そうに言った。
ティアナ「実は私、今スゲー困ってるのよね。何故か丸腰で、テロリストが徘徊するビル内で孤立中。…正直 言って大ピンチ」
デバイスは沈黙のみしか返さない。
ティアナ「もしアンタに、別れた恋人を助けてやれる甲斐性があるんなら、もう一度 私と踊ってみる?」
I'm device for you.
(私はアナタのためのデバイスです)
クロスミラージュは即座に答えた
Your safe makes me very happy.
(アナタのお役に立つことが、私の存在意義です)
ティアナ「……男前ね、アンタは」
ティアナは暖かい苦笑を漏らしながら、デバイス調整用の台座からクロスミラージュを もぎ取った。途端にカードが、山吹色の魔力光に包まれて、その形を変える。
カードだった そのフレームが、変形し、デリンジャータイプの拳銃へ。
5年間の眠りから目覚め、“交差する蜃気楼”が、その雄姿を現した。
ティアナ「さぁて……、アンタが手伝ってくれるんなら、作戦に大幅な変更が加えられるわね」
クロスミラージュの銃身にキスしながら、ティアナは思考を回転させる。
そして、思いついた必勝の策は………。
*
シャリオ「……なんですってーーッ!!?」
…と、執務官補佐シャリオが絶叫したのは、通信復旧した協力者からの、ある提案のためだった。
元々、通信途絶前にしていた話の内容は、協力者の女性に、突入作戦に戦力として協力してもらいたい、というものだった。謎の協力者は それを『今デバイスもってないから無理、テヘ☆』という理由で断ってきたけれども、通信が回復してみると一転して主張を翻し、自分も突入作戦に加わるという。
……だが、そのために考えた作戦が。
シャリオ「無理よッ! そんな方法 不可能もいいトコです! 私は反対です!」
スピーカー≪でも、成功すれば確実に、人質の安全を確保したまま犯人を全滅させることができます≫
通信機の向こうのティアナは、実に冷静に言った。
逆に説明を受けたシャリオは冷静さを保てない、それほどにティアナの言う作戦には無茶があったのか。
シャリオ「難度が高すぎるわ! 必ず失敗する、そうなったら人質の安全も何も あったもんじゃないわよ!」
スピーカー≪空間把握魔法と精密射撃を取得した私だからこそできる戦法です。自信はあります。空間把握魔法は、元々こういうことをするために覚えたスキルですから≫
シャリオ「だからって……、そんなことができるなら本当に神業よ? 狙撃系のディエチちゃんや、なのはさんだって無理、いいえ誰だって無理よ そんなこと! 数百メートル離れた針の穴に、銃弾を通すようなものよッ?」
それほどまでに、テロリストを殲滅するためにティアナが考え出した方法は難しいのか?
一体彼女が提案した方法とは何なのか?
シャリオの隣で沈思していたフェイトも、口を挟む。
フェイト「協力者さん」
スピーカー≪なんです?≫
フェイト「もし本当に そんな戦法が遂行可能だとしたら、アナタの魔導師ランクはSSというになります。管理局始まって以来、そこまで精密な魔力制御をおこなえた魔導師はいませんから…」
スピーカー≪どうでもいいでしょう そんなことは。…必要なのは、この案を採るか採らないか、その決断はアナタが下すべきですフェイト執務官≫
現場指揮官であるフェイトに、ティアナは迫る。
耳の痛くなるような、張り詰めた沈黙が流れる。1秒、2秒、そして3秒後に、フェイトは深く頷いた。
フェイト「わかりました、その案を採用します」
シャリオ「フェイトさんッ!?」
耳を疑ったのはシャリオだけではなかった。対策本部に居合わせたスタッフ全員が、そんな作戦は不可能だと思っていたから。
フェイト「協力者さん、アナタがアクションを起こすと同時に病院内へ魔導師を突入させます。周囲を警戒しているテロリストたちは突入隊に任せて、アナタは人質に着いている犯人だけを狙撃してください。的が少ない方が、アナタへの負担も減るでしょう?」
スピーカー≪助かります≫
その遣り取りへ割って入るように、シャリオが食いかかる。
シャリオ「待ってくださいフェイトさん! 反対です、私は反対です! そんな作戦成功するとは思えないし、失敗したときの人質の安全はどうなるんですかッ? こんな、正体不明の人間が言うデタラメに惑わされないでください!」
フェイト「……デタラメじゃあ、ないと思う。この人は、きっと やってくれる」
シャリオ「何故そう言えるんですッ? この作戦を成功させるには、ウルトラCの高難度をクリアしないといけないんですよ。こんなの なのはさんにも、フェイトさんにも無理です! それは、誰にも不可能だってことじゃないんですかッ?」
フェイト「シャーリー、私にも できないことは沢山あるよ。自分の常識に囚われて、物事を見失っちゃダメ、アナタは私の補佐官でしょう?」
シャリオ「………………」
そう言われて、シャリオも引き下がるしかなかった。
スピーカー≪相談は まとまりました?≫
スピーカーの向こうから からかうような声がする。
フェイト「……失礼しました、ですが、私自身も、このプランの難度の高さには戸惑わざるをえません。コレを成功させるには私の技術では不可能ですし、それは私の知る どの魔導師でも、同じだと思います。………そこで、アナタに相談したいことがあります」
スピーカー≪なんです? 『必ず成功させます』って神に宣誓しろとでも?≫
フェイト「違います、この事件が解決した後、アナタを時空管理局 執務官にスカウトしたいんです」
*
ティアナ「はあっ???????」
*
対策本部でも、その場にいる全員が耳を疑った。
スカウト? 執務官に? この声しか知らない正体不明の女を?
フェイト「さっきも話に出てきましたが、時空管理局は今 深刻な人手不足です。ですから、有能な人材は喉から出るぐらい欲しい。アナタの能力なら、執務官の任にも充分堪えられると思います」
スピーカー≪……………≫
フェイト「アナタは元は管理局に席を置いていたようですし、だから言い直すべきですね。……管理局に戻ってきてください。お願いします」
――――私からもお願いしますッ!
スピーカを通じて鳴り響く、ティアナともフェイトとも違う声。
一体誰の声か?
*
それは、突入隊を編成していたキャロ=ル=ルシエだった。
フェイトの養女として、機動六課のメンバーとして、フェイトを追いかけ、そしてフェイトを支えてきた少女。
そのキャロが通信に割り込み、懇願するような健気さで、スピーカーの向こうにいる『誰か』へ乞う。
キャロ「フェイトさんは、とても無理しているんです。事件は沢山起きているのに、管理局の人たちは足りなくて、たった一人で いくつも事件をかけもちしなきゃいけないって、さっきエリオ君が……!」
エリオ「キャロ……、さっきの話、聞いてたのか…?」
キャロの隣で、エリオが呆然とする。
キャロ「フェイトさんは とてもいい人なんです! 皆の幸せと安全を先に考えて、自分のことは何でも後回しにしちゃう…。本当は私がフェイトさんを助けてあげたいんですけど、私は頭が悪いから、執務官にはなれないし……。だから、お願いです! 一人で この街を守っているフェイトさんの手助けをしてください! フェイトさんと一緒に、この街を守ってください!」
*
ティアナ「……相変わらずね、キャロは」
スピーカー越しに懐かしの仲間の声を聞き、ティアナは古い記憶を呼び起こされた。
思えばキャロは、機動六課にいた頃から優しい子だった。他人の痛みがわかり自分の幸福を分け与えようとする子だった。その純朴さに、養母であるフェイトも、パートナーであるエリオも助けられてきたのだろう。そして過去のティアナも。
キャロは、キャロとしての美点を そのままに成長できたようだ。
それはとても素晴らしいことだ。
まっすぐな成長をすることができたキャロ=ル=ルシエを、ティアナは とても羨ましく思えた。……だからこそ、答えた。
*
スピーカー≪……時空管理局に戻るのは、死んでもゴメンよ≫
*
エリオ「仕方ないよキャロ、気にしないで」
キャロ「………うん」
シュンとなったキャロを励ましつつ、エリオは突入隊の準備を進める。
管理局側にとって嬉しい誤算は、機動六課の卒業生であるエリオ・キャロが飛び入りしたことで、魔導師たちの士気が大いに上がったことである。
それほどに管理局内で、スカリエッティを倒した機動六課は伝説的な存在であり、ビッグネームだった。
六課の元メンバーがいる、それなら作戦の成功は間違いなしだ、突入の準備を進めるメンバーの誰もが そう思い、心を躍進させた。
*
一方、同じ頃、敵である黄昏教団のテロリスト側でも、事態は刻々と動き続けていた。
メガイラ「管理局から連絡は まだ来ないか?」
テロリストの女リーダー・メガイラ=ニューンが言う。
日に焼けた浅黒い肌に、黒いレザーの戦闘服をまとう、黒豹のような印象をもった女性で。何かしらのトレーニングで引き締められた四肢は、ますますネコ科の猛獣そのもの。
彼女が陣取る病院一階ロビーは、本来ならば診察を受ける外来患者の待ち合いスペースで、充分に余裕をもった面積の中、障害物もなく見晴らしもよい。
そこへ集められた百人以上の人質も、ヘタな真似をすれば すぐ見つかってしまうために、身動きが取れなかった。一つの塊となった人質の群れを、取り囲むように20人ほどのテロリストが布陣し、一定の感覚でウージーの銃口をチラつかせ威嚇する。
人質の中には、子供もいれば老人もいた。
医者もいれば、重病患者もいた。
暴力の危険に晒されるというストレスのために、精神のタガが外れ恐慌を起こしそうな者もいたが、ひとたび暴れれば見せしめに射殺されるのが目に見えているため、泡を噴き出す口を閉じ、恐怖に耐えている。
そんな弱い者たちの辛苦を、魔界の女王のような悠然さで眺めつつ、テロリストの女リーダーは、……自身もまたイラついていた。
メガイラ「管理局からの人質交渉はまだ来ないのか? 思ったより反応が鈍いな、何をやっている?」
実のところ管理局側は、既にティアナのアドバイスによって突入準備を開始しているのだが、立てこもっている犯人たちに それを察知する すべはなかった。
メガイラ「このトロさを見るに、時空管理局は思ったほど優秀ではないのかもしれんな。………どう思う、シャマル女史?」
メガイラの目前には、椅子にグルグル巻きに縛り付けられ拘束されたシャマルが、表情を険しくしている。
魔法スタン弾で一度は気絶させられたものの、今は意識も回復しているようだ。対座させられている犯人リーダーに対しても、彼女なりに気丈な態度を貫いている。
だが彼女の両手には、何か機械的な手錠がはめられており、そのせいか魔法が上手く使えない。上位の魔導師であるシャマルが、ただ椅子に縛り付けられただけで無抵抗であるのは、そのような理由があった。
メガイラ「AMFを発生させる機械手錠だ。本来は、犯罪者となった魔導師を無力化するために管理局が開発したものらしいが、流出して我らの役に立っているとは、皮肉なものだな」
テロリストの女リーダーは、嘲りを含んだ表情で言う。
メガイラ「……時空管理局 医務官シャマル。魔導師ランク総合AA+の保持者にして海上警備部捜査司令・八神はやて一等陸佐の腹心でもある。………間違いないか?」
シャマル「ウソはつかないわ、正直に答えなければ人質を殺すなんて脅されればね……!」
温厚なシャマルも、さすがに この黒豹の女には敵意を剥き出しにする。
敵は、辣腕の魔導師として自分たちを苦しめたシャマルを、それ相応の重要人物として認識したらしい。…人質としての価値アリ、と思ったわけだ。
メガイラ「管理局からの連絡があれば、アナタを窓口として交渉を進めたかったのだがな。音沙汰なしでは仕方ない、子供でも一人 屋上から突き落として、相手の反応を見てみるかな」
シャマル「殺すなら まず私から殺しなさい! でも、どうなろうと結果は同じよ、アナタたちが目標を達成することなどないわ!」
メガイラ「では、是非ともアナタに目標達成の協力をしていただこう。そこにいる盲目の愚民どもを、一人でも多く救いたければな」
女リーダーは、視線だけで、恐怖に震える人質を指し示すのだった。
シャマルは唇を噛む。黄昏教団という犯罪組織が蠢動し、世界各地の治安を乱しているという噂は聞いていたが、まさかこんなところで巻き込まれるとは。
知人たちは無事だろうか? とシャマルは さりげなく視線を人質の一団へ向ける。
やや手前側に弱り果てた顔のマリエル。
その右手、十数人分ほどの距離にアレクタとティアナがいた。
無事を確認できたはいいが、この修羅場で会えたことを喜ぶべきか否か。できればテロリストの網にかからず、外へ逃れ出ていてほしかった。
メガイラ「知人でも お探しか、シャマル女史?」
指摘されて、シャマルの心臓が跳ね上がる。
メガイラ「気になるのであれば、お呼びしようか? アナタも、知り合いが近くにいた方が何かと安心するだろう」
シャマル「やめて! そんなこと言って、アナタの魂胆は逆でしょう! 人質にするなら無関係な人間より知人の方が、私に言うことを聞かせやすいと思っているんでしょうッ!」
メガイラ「理解が早くて助かる。では、すぐに知人の名を教えていただこう、我が同志が丁重に ここまで案内するゆえに、な」
シャマルがテロリストに従順でいる間は、だが。
シャマル「卑怯者ッ! アナタたちの望みは何なのッ? この世界では、JS事件の傷跡も癒えてきて、世の中も よい方向へ向かい始めている。なのに一体何の不満があるっていうのッ? テロを起こしてまで、この世界の何を変えたいっていうのッ?」
メガイラ「バカな女だ、この世の真実を何もわかっていない」
黒豹の女・メガイラは、吐き捨てるように言った。
メガイラ「この世界は滅びへと向かっている。もうすぐ起こる、復活したベルカの王たちによって繰り広げられる最終戦争でミッドチルダは滅ぶのだ。我々は滅びを受け入れ、その上でよりよい未来を手に入れるために戦っている。聖王オリヴィエが世界を手にする、最悪のシナリオを阻止するためにな」
無論そんなことを言われても、シャマルには理解できようもない。
いつの世もカルトの主張は そんなものだ。狂人の言い分を理解するためには、自分も狂うしかない。
メガイラ「さて、話が それたな。シャマル女史、アナタの知り合いの名を教えてもらおうか……?」
シャマルが「くっ」と唇を噛む。そこへ………。
アレクタ「そんな必要ないッ!」
沈黙を強いられた人質たちの中で、真逆の行動に出た者があった。
肩に赤い鳥を留まらせた、車椅子の少女。幸薄い白い顔色に、気丈な意志が宿っている。
不死鳥の数奇な運命に導かれた少女・アレクタだった。
シャマル「アレクタちゃん、ダメよッ!」
メガイラ「ほう、アレがアナタの知人か、みずから名乗り出るとは、幼いながら殊勝だ」
シャマル「私の担当している患者です。お願い、あの子には 手を出さないで、あの子は命に関わる大手術を乗り越えた直後なの…!」
メガイラ「連れて来い」
非情のテロリストには何を言っても通じない。
アレクタの隣には、切迫の表情で寄り添うティアナがあったが、その正体は幻術魔法で作り出されたダミーに過ぎなかった。本物は今、電子化室で 突入作戦の打ち合わせの真っ最中だ。
メガイラ「来るがいい少女よ、どうせベルカの王らによって滅ぶ世界だ、そのときに死のうと、ここで死のうと大した変わりはないぞ」
アレクタ「愚かね、教団の大ウソを鵜呑みにして」
メガイラ「なんだと?」
予想外に噛み付かれ、女リーダーは眉をひそめる。
彼女は知るまい、目の前にいる、まだ年端もいかぬ少女が、かつては自分より遙かに高い地位を黄昏教団から与えられ、『紅の巫女』の呼び名で恐れられていたことを。
アレクタは、黒豹の女を さげすむような目で見下す。
アレクタ「……教団のトップたちにとって、世界の滅亡なんてどうでもいいのよ。欲しいのは目先の利益だけ、そのためにアナタみたいなバカを、言葉巧みに騙して操る……」
メガイラ「おい、貴様ら!」
リーダーが部下たちに指示を飛ばす。
メガイラ「ソイツを殺せ、教団への侮辱は子供であっても極刑に当たる」
アレクタ「アナタたちを見ていると心が荒むわ。教団に騙されて、いいように使われてきた昔の自分を思い出すから……!」
アレクタの周囲に、紅蓮の魔力が渦巻き始めていた。
彼女が一心同体となった幻獣フェリックスは全能だ。たとえ次元を隔てていても、本体のいる“不死鳥の祝不の地”から端末である ひなフェリを通して魔力が注がれ、ミッドチルダ全土をマグマ溜まりに変えるのに造作もない。
少女の肩に留まる赤い鳥が、大きく翼を広げ、その身を燃え盛る炎のように揺らす。
そこまで来ると、有象無象のテロリストたちも少女の異様さに気付きはじめていた。
凶暴な感情が止まらない。
アレクタの怒りにフェリックスが応え、目の前にいる愚か者たちを一人残らず焼き殺そうとしたとき………。
ティアナ「やめなさいアレクタッ!!!!」
アレクタの隣にいる、幻影のティアナがそれを制した。映し身であっても、彼女の すべてを受け入れる深い瞳は、アレクタを真っ直ぐに見据える。その瞳に見られると、アレクタは自身のもつ負の感情を、瞳に吸い込まれるようで……。
アレクタ「お姉ちゃん……?」
ティアナ「アレクタ、アンタは もう そんなことをしなくていいでしょう」
アレクタの周囲で渦巻く炎熱魔力が、やむ。
メガイラ「一体、何なのだ……?」
凶悪なテロリストたちも、この成り行きに呆然とするしかなかった。
やがて自分たちの役目を思い出したように、二人を、銃を突きつけ取り囲む。
メガイラ「キサマら…、一体 何者だ?」
水銀の血が流れる女リーダーも警戒をあらわにする。
テロリストたちからの注目を浴びるティアナは、己の正体を隠し続けることを、潔く諦めたようだった。その虚像の表面にノイズがあまた走り、密度を薄め、透明になっていく。
メガイラ「なにっ?」
テロリストたちの見守る ただ中で、幻影のティアナは煙と消え去った。
それを見せ付けられた女リーダーは、弾かれたように無線のスイッチを入れる。
メガイラ「全員警戒ッ! 幻影を使い病院内に潜んでいるヤツがいるッ! 見つけて殺せ! すぐにだッ!」
*
ティアナ「ちっ」
*
スピーカー≪……すみませんフェイトさん、ベッドの中の ぬいぐるみがバレました、作戦を決行します≫
フェイト「ええッ?」
協力者からの通信に、フェイトやシャリオたちは驚愕する。
シャリオ「ま、待ってよ! 突入隊の準備は まだ完全に済んでない、先走ったら突入のタイミングの遅れる可能性が……ッ」
スピーカー≪筋書き通りに進むミッションなんて ありえませんよ。間に合わせてください、エリオとキャロが先頭に立ってるなら可能です≫
そうして一方的に通信が切られた。
*
ティアナが提案、実行しようとしている作戦の全容は、立てこもるテロリストへのダイレクトな狙撃作戦だった。
離れた場所から、テロリストを狙い撃ちする。
狙うのは、人質の至近にいる20人。他のテロリストは、突入したエリオたちが片付けてくれる算段になっている。
無論、口で言うほど簡単ではない。
むしろ不可能だ。
犯人たちは四方を壁に囲まれた建物内に潜伏し、しかも篭城を決め込んだ一階ロビーは、その構造上 窓すらなく、外からの狙撃が絶対不可能な立地条件にあった。
しかもティアナは、今 自分がいる電子化室から動かずに、一階ロビーにいるテロリストたちを狙い撃つつもりだった。
両者は十数メートルも離れ、しかも その間には何枚のも壁が隔たり、テロリストを遠距離攻撃から守っている。
ティアナの師・高町なのはが かつてしたように、大出力の魔力砲で壁抜きし、テロリストを一掃するという手もあろう。
しかし今回のケースでは傷つけてはいけない人質がすぐ傍にいる。そんな大味な手を使えば人質がこうむる被害は甚大なものになるだろう。
では、ティアナは一体どうするつもりなのか?
傷つけてはいけない人質を避け、いくつもの障害物の先にいるテロリストだけを狙撃するような妙手が、本当にあるのか?
ティアナ「あるのよ、私にだけできる手がね」
ティアナは、電子化室の天井を見上げた。
そこにあるのは通気口。
室内の空気を循環させるために、病院内のすべての部屋に備え付けられた通気ダクトの出入り口だった。無論その通気ダクトは、ティアナのいる電子化室と、テロリストのいる一階ロビーとも繋がっている。
遮るもの何一つなく。
*
シャリオ「協力者が、通気ダクトを通して犯人を狙撃するとか言い出したとき、耳を疑いましたよ」
対策本部でシャリオが正直な感想を述べる。
フェイト「たしかにね、魔法弾は術者の意志で、自由に軌道を変えることができるから、理論的に不可能な手じゃないけど………」
シャリオ「資料によると、病院内に設置された通気ダクトの幅は、縦横30センチ。この幅じゃあ、狙撃主が侵入して、ロビーの至近までいくことは不可能ですしね……」
*
ティアナ「特に私は、おっぱいと お尻が大きいからね」
ティアナが天井の通気口の隙間へ、クロスミラージュの銃身を捻じ込む。
針穴に糸を通すより何十倍も難しい、超精密芸の始まりだった。通気ダクトの構造、一階ロビーまでの道順は、ティアナの空間把握魔法で寸分たがわず把握してあった。だからこそ、この作戦はティアナにしか実行不可能なのだ。
インテリジェンスデバイスのクロスミラージュは『弾道操作のサポートをしますか?』という意味のことをマスターに尋ねたが、即座に却下された。
ティアナ「0.1ミリ級の制御が必要になるからね。デリケートな計算のときに考える頭を増やすと、返ってイレギュラーが生まれやすいの。船頭多くして船山登る、って言うでしょ?」
Yes. my master.
(了解しました)
ティアナ「それよりアンタは、全21発の軌道操作型魔力弾、その初速誤差を±0.3km/秒に押さえるようにしといて。それ以上はどんなに がんばっても弾速にバラつきが出るから」
Y... Yes.
精密計算の得意なAIですら鼻白むような要求を さらっと出しながら、ティアナは表情を少しも変えない。
ここで、ティアナは一つの奇妙な行動をとった。
ポケットからゴソゴソと ある物を取り出す。それはピルケースだった、薬を携帯するためのプラスチックケースだ。
ティアナは そこから一錠のカプセルを取り出すと、口の中に放り込んだ。そして飲み込む。
――― Power charge!!
(パワー チャージ!!)
その瞬間、薬の服用に呼応したようにティアナのリンカーコアが爆発的に魔力を生成し、彼女の五体隅々にまでいきわたる。体に、力が漲る。
ティアナ「……やるわよ、クロスミラージュ」
精神を集中させ、針のように細め、水のように鎮める。
己を無にする。自分の中に心はなく、自分の中に脈動はなく、ただ正確に弾丸を撃ちだす機構だけが己の中に在ると、そう夢想する。
自分は、ただ弾丸を撃ちだすだけの、機械。
ティアナ「アクセルシューター………」
―――ファイアッ!
それは、テロリストたちへの反撃の合図だった。
堰は切られた。もはや後戻りはできないとクロスミラージュから放たれた山吹色の魔力弾が、サーキットを駆けるF1カーの集団のように、狭い通気ダクトの中を激走する。
魔力弾は、全21発。
そのすべてが、一階ロビーに立てこもるテロリスト20人、その一人一人をゴールとして群れとなって駆け上っていく。
通気ダクトの幅は、縦横30センチ、それを21発の魔力弾が集団となって駆けていくのだから、互いの魔法弾の間隔は数ミリ程度のものだった。この魔力弾が互いに接触したり、ダクトの内壁に触れただけでも すべての弾が連鎖爆発し、作戦は失敗してしまう。
だからこそ この作戦には、魔導師ランクSSに匹敵する魔法制御能力が必要だった。
人間の中には、機械ですら感知できない1/100000ミリの差を、センスだけで見分ける職人技の持ち主がいるが、ティアナが今していることも その域にあった。
通気ダクトが一階ロビーへ行き着くまでには、いくつもの曲がり角があったが、それを魔法操作でカーブしきるときも、魔力弾の弾道はまったくブレない、各弾の間隔も数ミリのまま変わらなかった。
それなのに弾丸のスピードは、通常の銃弾と遜色ない。
ティアナが今実現していることは、まさに一種の魔法による奇跡だった。
*
テロリストの立てこもる一階ロビー。
メガイラ「言えッ、あの幻影の本体は何処にいるッ?」
テロリストの女リーダーは、アレクタの胸倉を掴み乱暴に迫る。
これまで彼女らの計画は、完璧に近い形で進んでいた。無防備な病院を占拠し、人質をとり、管理局との有利な交渉を進める。その成功の見通しがつき始めたそのとき、無抵抗なはずの人質が一人消えた。自分を出し抜く誰かがいたのだ。
なんという屈辱だろうか。
黄昏教団の面子を守るためにも、計画を成功させるためにも。
あの幻影の本体を生かしておくわけにはいかない! と黒豹は怒りをあらわにした。
メガイラ「私が優しいうちに話せ小娘! でないとキサマはアイツを おびき寄せる道具として、世にも おぞましい悲鳴を上げることになるぞ!」
無論そんな脅しにアレクタが動じるわけがなかった。
何なんだ? 一体何なんだコイツらは、メガイラの苛立ちが絶頂へ達しようとした、そのときだった。
奇跡の魔法弾が、通気ダクトを経て、一階ロビーへ到達した。
テロリスト「なんだッ?」
通気口の隙間を通って次々と流れ込んでくる山吹色の光球。シャリオが絶対無理と言い切った超人技が、今ここに実現された。
窮屈なダクトの小川を抜けて、大海のごときロビー内に出た21発の魔力弾たちは、自由に泳ぎまわる回遊魚のごとしだった。それぞれが割り当てられた標的目掛けて突進する。
ロビーに布陣した、20人のテロリストへ向けて。
テロリスト1「ぐわっ?」
テロリスト2「ぶへっ!」
テロリスト3「ぎゃあああッ!」
テロリスト4「がはッ?」
当たる、当たる、魔力弾は犯罪者へ。魔力弾のタイプは、標的の意識を奪い無力化させるだけのスタン弾だ。それでもテロリストたちは突然のことに反応できず、次々と命中しては床に崩れ落ちていく。
テロリスト5「げっ」
テロリスト6「ぐひゃッ」
テロリスト7「がおっ」
テロリスト8「逃げ、ががッ?」
テロリスト9「ご」
テロリスト10「が」
テロリスト11「げ」
テロリスト12「ぐるおッ!!」
テロリスト13「ぎゃんッ?」
一人も外してはならない。一人でも外せば、生き残ったテロリストは、どんなヤケクソを起こすかわからない。危険の矛先を人質へ向けられないためにも、一瞬で犯人を全滅させる必要があった。
しかし、数ミリの妙技で通気ダクトを通過したティアナの魔力弾、今さら人間のような大きな的を外すわけがない。
テロリスト14「やめぇぇぇっ!」
テロリスト15「ぎゃあああああッ!」
テロリスト16「メガイラさッ…!」
テロリスト17「げふッ」
テロリスト18「ぐえッ!」
テロリスト19「ごおッ?」
そして最後の一人―――。
*
…その偶然を説明するために、時間を数秒ほど遡る必要があった。
最後の20人目、テロリストのリーダー・メガイラは、幻影の本体であるティアナの居場所を聞き出すために、アレクタの胸倉を掴んで尋問していた。
その目をまっすぐに睨みつける。
するとどうだろう、アレクタの瞳がキラリと光った。否、何かの発光体が、アレクタの瞳に反射したのだ。
それによってメガイラは、背後に高速の危機が迫っていることに、他のテロリストより いち早く気づくことができた。
そして―――、
*
メガイラ「ぢぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
突き出される、グローブ型の魔法デバイス。
ギリギリで展開されたシールドが、必殺のはずの魔力弾を阻んだ。
絶対に討ち漏らしてはいけない一人が、生まれてしまった。
ティアナは それを、持ち前の空間把握魔法によって離れながらにして即座に知る。
*
スピーカー≪フェイトさん すいません! 一人討ち漏らしました!≫
その報告に、対策本部一同に冷たい緊張が走った。
フェイト「シャーリーッ! 突入隊はッ?」
シャリオ「既に突入を開始しています! エリオ君に最優先でロビーに向かってもらってますが、到達までに最短10秒!」
10秒。
間に合うか?
スピーカー≪まあ、保険はかけときましたんで大丈夫でしょうけど≫
通信の向こうの声が、のんびりと そう言った。
*
メガイラ「おのれ……、おのれ………ッ!」
からくも危機を回避したテロリストのリーダーは、怒りで人相までが変わるほどだった。
彼女の周囲には、魔力弾の直撃を受けて煙を上げながら転がっている部下たち、あの様子では しばらく目覚めまい。
メガイラ「こういうことか…、こういう魂胆か時空管理局めッ!!」
あちら側に交渉の意志などなかったのだ。即座に武力に訴え、こちら側を殲滅するという腹積もりだった。だからこそ一切連絡をよこす気配もなかったのだ。
メガイラ「そういうつもりなら、こちらも残忍になるしかないな!」
メガイラが、レザー製のジャケットの内側から、数珠繋ぎになった手榴弾を取り出す。ロビーにいる人質すべてを殺すに、充分な数だ。
メガイラ「これは、話し合いの言葉をもたない時空管理局への罰だ! 罪もない市民を殺した悪しき庁として、百年の批判に晒されるがいい!」
手榴弾を、人質目掛けて投げつけようとした、そのときだった。メガイラの その身が、若草色のバインド魔法によって拘束される。
メガイラ「なにッ?」
シャマル「そこまでよ、犯罪者さん」
いつの間にかシャマルが、テロリストに掛けられた拘束から脱していた。
持ち前の高等魔法で、今度は逆にテロリストの方を拘束する。
メガイラ「何故だッ? お前には、魔力結合を阻害させるAMFを発生させる特殊手錠を掛けておいた…ッ。アレを外すことなど……?」
そのAMF発生機能をもつ手錠は、粉々の残骸となってシャマルの足元に転がっていた。
ここで思い出すべきことがある。
ティアナは作戦結構時、21発の魔力弾を通気ダクトに放った。しかしロビー内のテロリストの総数は20人。標的よりも、弾丸の方が一発多い。その余分な一発は、何を狙っていたのか。
シャマル「ティアナちゃんが、保険のつもりで私の拘束を解いてくれたみたいね」
メガイラ「魔力弾で、手錠を狙い撃ったというのかッ?」
神業に次ぐ神業。
ヴォルゲンリッターの一人として名を馳せる湖の騎士も、解放された以上は黙っているつもりはない。
人質をとらずに相対する黒豹の女は、シャマルにとってそれほどの脅威には映らなかった。バインド魔法を破ろうとして もがき苦しむ黒豹。しかしシャマルは絶妙の魔力操作で逃がさない。
そうしているうちに、突入隊のエリオがロビーへ到達する。
エリオ「シャマル先生ッ? なんでここにッ?」
シャマル「あら、エリオ君 久しぶりー♪」
これで詰みかと思われた、そのときだった。
メガイラ「舐めるなァァァァァァァッ!!」
テロリストの女リーダーから噴き出す、暗黒の魔力光。
その魔力によって巻き上がるように、メガイラが所持していた手榴弾が舞い上がる。その過程で、数珠繋ぎの十数個が、互いに分かれて散らばる。安全装置であるピンが、手も触れていないのに ひとりでに外れながら。
エリオ&シャマル「「ッッ!!?」」
十数個の手榴弾は それぞれ別の方向へ散らばって、恐れおののく人質たちの頭上へ降り注がんとする。これほど人が密集した中に対人用の手榴弾が爆発すれば、被害は甚大なものとなる。
アレクタ「フェリッ!」
意外にも真っ先に動いたのは、一般市民であるはずのアレクタだった。彼女の指示で、ニワトリ大の ひなフェリが猛禽のごとき素早さで、飛び交う手榴弾をクチバシで咥えては、タマゴのようにゴクリと飲み込む、何個も連続で。
シャマル「エリオ君ッ! 私たちも」
エリオ「はいッ!」
それに追随し、本職の管理局員であるエリオとシャマルもプロの行動に出た。シャマルは得意の結界術で手榴弾を、小さなバリアの中に封印する。エリオは愛用の騎槍アームドデバイス・ストラーダで、千本ノックでもするかのように手榴弾を連続で、被害の及ばない地帯まで叩き出す。
そして―――――、
ドンッ! ドンッ! ドドドドドドドドンッ!
連続して起こる爆発音だったが。その音は人々の耳に遠かった。
手榴弾の全部、シャマルがシールドした結界の中か、エリオが叩き出した破壊圏外か、ひなフェリの腹の中で爆発したからだ。
ひなフェリが、げっぷと共に黒い煙を吐き出す。
シャマル「……皆、大丈夫?」
アレクタ「大丈夫です、手榴弾の処理漏れナシ」
エリオ「スゴイね君、管理局員でもないのに、どこの魔導師?」
三人の魔導師の迅速な活躍によって、奇跡的にも人質には何の被害もなく、ピンチを切り抜けることができたのだった。
しかし その場から、災厄を引き起こした張本人であるメガイラ=ニューンの姿は、忽然と消えていた。
*
その頃にはメガイラは既に、爆発のドサクサにまぎれて病院からの脱出に成功していた。
時空管理局の包囲網を巧みにかいくぐり、路地裏を そそくさと進む。
失敗だった。
彼女の作戦は完全に失敗となった。
37人の同志を注ぎ込み、教団の援けとなるための栄誉ある任務を、彼女は達成することなく頓挫させてしまったのだ。
どうしてこうなった? 完璧だったはずの自分の計画を、あそこまで狂わせたのは何だ?
メガイラ「狙撃、……あの狙撃だ」
通気ダクトをくぐって、一瞬にしてロビーの同志たちを全滅させた あの狙撃。あれを きっかけにして すべてが引っくり返った。
あそこまで奥まった室内の中で 狙撃を成功させるようなスナイパーがいるとは、なんという反則、なんという卑怯、こんなルール破りを持ち出す管理局に対し、メガイラの胸に怒りが燃え上がる。
メガイラ「許さんぞ あの狙撃手…! アイツだけは絶対に許さん!」
やり場のない怒りに狂いながら、逃走路をひた走る、そのときだった。
ティアナ「奇遇ね、私もアンタを許す気はないわよ」
メガイラ「なにッ?」
黒豹が急ブレーキを掛ける。
進行方向の先に、一人の女性が立ちはだかっていたからだ。
太陽に透けてオレンジ色に輝く赤毛、スラリと伸びた身長、成熟を向かえた胸や腰からは、言葉にしがたい大人の魅力を漂わせる。
そして、その手に帯びた、銃型のデバイス。
ティアナ「どこに逃げるの? アンタの行き先は絞首台って決まってるのよ?」
電子化室に待機していたティアナが、既に敵の逃走経路に先回りしていた。
逃走犯・メガイラは、立ちはだかる その女性を知っていた。彼女が立てこもる病院一階ロビーで、彼女を騙した幻影に、その姿は そっくりだった。
メガイラ「……キサマが、あの幻影の本体か?」
ティアナのもつクロスミラージュに視線が留まる。
メガイラ「その銃型デバイス……、狙撃をおこなったのもキサマかッッ!?」
ティアナ「だったら何?」
あくまで余裕のティアナを前に、メガイラは怒りに髪を逆立てる。
メガイラ「キサマだけは絶対に許さん! 教団の正義に逆らった罪を裁き、永遠の地獄に叩き落してやる!」
ミッドチルダの平穏を破るテロ事件の、最後を飾る戦いが始まる。
to be continued
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リリカルなのは のifモノ。ティアナを主人公に、strikersのラストから5年後のストーリー。ティアナが執務官の道に進まなかったとしたら? 放映当初の、他人を寄せ付けない彼女のまま成長したら? という仮定の下に妄想される話です。
…最初に白状します、学生の頃、英語のテストで40点以上取ったことはありませんでした。
そんな私がクロスミラージュの会話文をがんばって書きました。ご容赦ください。