桃園で結盟した俺らは、公孫賛っていう人の本拠地に向かい、街の中でしばらく情報収集を行った。
・・・というのも、相手は今の俺達より遥か上の立場にいる。そこへ、友達だからといってズガズガ行ったとしても、足元を見られるだけだ、と思ったからだ。
まず、相手が何をしようとしているのか。そして、それに対して俺達は何をどう提供できるのか。それを見極めなければ、力を利用されるだけの、ただの便利屋で終わる可能性がある。
相手の欲するものを効果的に提供する。そして結果を残して、自らの評判を高めていく。・・・それが俺達の基本方針だ。
「と、いうわけで。」
酒屋で昼食を終えた後、くつろいでいる三人に向かって今後の活動方針を伝える。
「一通りの情報を集めたところ、この辺りに巣食う盗賊の規模は、約四千人といったところだそうだ。対する公孫賛軍は三千。・・・いくら相手が雑軍だからって、この差はけっこう大きい。・・・そこでだ。最も重要になってくるのが、部隊を率いる隊長の質だと思う。」
「確かに。公孫賛殿の兵といっても、大半は農民の次男や三男ですからね。兵の質としては五分五分。となれば、兵を率いる者の質こそが最重要でしょう。」
「そうだ。・・・で、愛紗達は兵を率いてた経験はあるか?」
と聞くと三人とも首を横に振った。やっぱりそうだよな~。
「でもねでもね、愛紗ちゃんに鈴々ちゃんなら、兵隊さん達を上手く率いることができると思うよ?」
「ああ、それは俺も思うし、確信は持ってるよ。」
何たって二人は‘アノ,関羽と張飛だ。・・・なんで女の子になっているのかは、よく分からんけど。
「だけど、例え俺達がそう信じていたとしても、現状では兵隊のいない、ただの腕自慢になっちまう。」
「うう・・・それはそうだよねぇ・・・。でも、どうすれば良いんだろ?」
「簡単なのだ!公孫賛のおねーちゃんのところへ行く時に、兵隊を連れていけばいいのだ!」
「鈴々正解。・・・少数で良いんだ。とにかく兵を率いて合流するってことが重要だから。」
その兵をどう集めるのか・・・。いくつか案はあるんだけれど、時間のない俺達には金で雇うしか方法がない。
「でも鈴々達にはお金がないのだ。」
「ああ、兵隊として雇うための金はないだろうな。だけど、金はそんなに多くある必要はない。」
「どういうことです?」
「つまりだ・・・。街で半日だけ人を雇って城について来てもらえば、兵隊を率いてきたって誤解されて、うまくいけばそのまま部隊長に任命されるかもって話だ。」
この案に、愛紗はすぐに分かったが、残りの二人が分かったのは結構沈黙したあと。
「・・・・・・・・・・・あ!なるほどー!」
「お兄ちゃん、なかなかやるのだ!」
「分かってくれて助かるよ・・・。で、みんなの所持金は一体いくらなんだ?」
「ここの食事代を払ってしまえば、あとは・・・これだけです。」
愛紗の手には、硬貨が二、三枚あるだけだった。
「・・・ここまで貧乏だとは思わなかったよ。」
「まぁ・・・約一名、大飯食らいが居ますからね。」
「うぐぅ。鈴々のせいなのか・・・。」
「仕方ないってば。でも・・・さて、どうやってお金を調達しようか・・・」
売って金になりそうなものといえば、俺の持ち物くらいか?
ゴソゴソ・・・。
「ん・・・?お、まさかこれが入っているとは。」
多分、学校で入れたままにしてたかもな。
「なに?そのほそっこいの?」
「ボールペンっていう筆記用具だよ。この世界って文字を書くとき墨を摺って、筆で書くんだよな?」
「当然なのだ!」
「だよな。だけど、俺の居た世界じゃ、こういうのを使って書くんだ。ほらこうやって____________。」
スラスラスラ・・・。
「すっごーい!文字が書けてるー!」
「すごいのだー。お兄ちゃん、それ鈴々にちょーだい!」
「ダメダメ。これ一本しか持ってないんだから。」
手を伸ばしてボールペンを取ろうとする鈴々から逃げながら、
「これを実演して売りにだせば、結構な値段で売れると思う。どうだ?」
俺は残りの二人に意見を聞いてみた。
「はい。これほどのものならば、良い値段をつける好事家もいることでしょう。」
「じゃあ私が売ってきてあげるー!」
「いえ、桃香様が行けば足元を見られるでしょう。私が行きます。」
「ま、桃香は駆け引きなんてできそうにないもんな。」
真名だけみると女の子らしいけど、この子が‘アノ,劉備だっていうのなら、駆け引きとかは不向きだろう。・・・案外強かったって説もあるが。
「なに?ご主人様、私の顔になにかついてる?」
「何でもない。・・・それじゃ愛紗。売るのは愛紗に任せるよ。頼んだぞ?」
「御意。お任せください。」
にっこりと笑ってボールペンを受け取った愛紗が、小走りに外へと出て行った。
それから数時間後・・・。
俺達の前にずらりと並ぶ人の列。
「こりゃまた・・・けっこう集まったなぁ~」
「ご主人様から預かったぼぅるぺんが、破格な値をつけてくれましたからね。百人ほど集めることができました。」
「ああ、それだけ居れば充分だろう。」
百聞は一見にしかず。百万言の言葉を費やすより、俺達の後ろに控える百人の兵士(っぽい人たち)を見たほうが、はったりの効き目も違ってくるもんだ。
言葉より実力。これはどの世界でも同じだろう。
「あとは桃香のはったり次第だ。・・・頼んだぞ、桃香。」
「まっかせーなさーい!」
えっへん!と胸を張ってる桃香は心強くもあり・・・?実のところけっこう不安であったりする。
「じゃあ、行こうか。」
何とかなるさ___________。そう自分に言い聞かせ、俺はみんなと共に公孫賛の城へと向かった。
若者たち百人を連れて城を訪ねてきた俺達は、門前でしばらく待たされたものの、ほどなくして玉座の間へと案内された。
「今のところ・・・計画通りだな。」
自分の作戦がこうも当たってくれると、すごく嬉しくはあるのだけれど。
「今の段階で喜んでいても仕方ない。・・・桃香、仕上げは頼んだぞ・・・」
心の中でそう祈りつつ、侍女らしき女性の誘導に従って、玉座の間へと足を踏み入れた。
「桃香!ひっさしぶりだなー!」
「白蓮ちゃん!きゃー!久しぶりだねー♪」
こんな風に、しばらく話し込んでいると、それまで桃香と話っぱなし公孫賛が、ようやく俺達の存在に気づく。
「桃香が言っているのはこの三人のことか?」
「そうだよ。関雲長に張翼徳、それに管路ちゃんお墨付きの天の御遣い、天城蒼介さん♪」
「管路?管路ってあの占い師のか?」
「うん。流星とともに天の御遣いがやって来るって占い、白蓮ちゃんは聞いたことない?」
「聞いたことはある。最近、この辺りでかなり噂になっていたからな。しかし、眉唾ものだとおもっていたけど・・・」
「そんなことないよ!蒼介さんは本物だよ!」
「ふーん・・・」
な、なんだ?足のつまさきから頭のてっぺんまで、ジロジロと見つめてくる公孫賛に、思わずたじたじろいでしまう。
「なんかそれっぽくないなぁ。」
「ま、疑われるのも無理はないよ。一応、桃香達と行動を共にしているんだ。天城蒼介だ。よろしく、公孫賛さん。」
「そうか。桃香が真名を許したのならば、それなりの人物なのだろう。・・・ならば私のことも白蓮でいい。友の友なら、私にとっても友だからな。よろしく頼む。」
屈託無くそう言って、公孫賛は爽やかな笑顔を俺に向けた。・・・いい人でよかった。
「・・・で、だ。桃香が私を訪ねてきたのは、親睦を深めるだけではないと思うけど・・・本当の用向きは何だ?」
改めて言いながら、桃香のほうを向き直った。
「うん。白蓮ちゃんのところで盗賊さん達を退治するために義勇兵を募ってるって話を聞いて、私達もお手伝いしょうかなぁと思って。」
「おおー!そうか。そうしてくれると助かる。兵の数はそれなりに揃っているが、指揮できる人間が少なくて、悩んでいたところなんだ。聞くところによると、結構な数の兵を引き連れてくれたらしいけど・・・」
「あ、う、うん!たくさんいるよ、兵隊さん!」
さっそくくちごもってるよ・・・。ホントに大丈夫か・・・?
「そうかそうか・・・で?」
「で、でって何かな?」
「本当の兵士は、いったい何人ぐらい引き連れているんだ?」
アチャー・・・。
「あ・・・あぅ・・・」
「ふふっ、桃香の考えてることはよく分かる。だけど私に対してそういう小細工はしてほしくないな。」
「あぅ、ばれてたんだ・・・」
苦笑する公孫賛に、
「すまん。全部俺の作戦なんだ。桃香は悪くない。」
俺は桃香を背中で庇いながら頭を下げた。
「そうか。いや、気にはしてないからいいさ。私だって、桃香と同じ状況なら、そういう作戦を立てたと思う。・・・だけど友としての信義をないがしろにする者に、人がついてくることはない。・・・気をつけろよ。」
「・・・真心が通用する相手を考えろってことか。」
公孫賛の言葉に深く頷く。
マンガじゃないんだ。真心を見せれば誰しも心を開いてくれるワケじゃない。
人には人の利益があり、人の都合がある。それを見抜き、なおかつ相手の人となりを把握しなくちゃいけない。白蓮が言おうとしていることは、きっとそうなのだろう。
「本当に・・・ありがとう。公孫賛さんがいい人でよかった。」
「ば、ばっか!そんなこと気にするな!そ、そんなことより、兵の数を聞いているんだから、教えてくれよ桃香。」
「え、えーと・・・その・・・あのね。実は、一人もいないんだ。」
「へっ!?」
「桃香と行動を共にしているのは、俺と関羽、張飛の三人なんだ。」
だから雇った人たちは、サクラみたいなもの。
「関羽、張飛って後ろの二人のことか?」
「我が名は関羽。字は雲長。桃香様の第一の矛にして、幽州の青龍刀。以後、お見知りおきを。」
「鈴々は張飛!すっごく強いのだ!」
「う、うーん・・・。よろしく頼む、と言いたいところだが、正直言うと、二人の力量が分からん。どうなんだ桃香?」
うーん、と唸りながら、愛紗達を見つめていた公孫賛の後ろから、
「人を見抜けと教えた伯珪殿が、その二人の力量を見抜けないのでは話になりませんな。」
毒を含んだような言葉と共に、一人の美少女が姿を現した。
「むぅ・・・そう言われると返す言葉も無いが、ならば趙雲はこの二人の力量が分かるというのか?」
「当然。武を志す者として、姿を見ただけで只者ではないことぐらい分かるというもの。」
「へぇ~・・・まぁ星がそういうなら、確かに腕が立つのだろう。」
余裕を感じさせる笑みを浮かべる少女の姿に、
「・・・まぁあの趙子龍なら、すぐ分かるだろうな。」
思わず、現実世界の知識が口にでた。
「・・・っ!?ほお、そういう貴方こそ、なかなか油断ならぬ人のようだ。」
「ん?俺か?」
「我が字をいつお知りになった?」
「それは・・・だな、えーっと・・・」
さすがに、未来からきたから知っているなんて言えないし、
「当然だよ!ご主人様は天の御遣いなんだから♪えっへん!」
「いやその理屈はおかしい。」
「それに威張るところでもないとおもうぞ・・・」
「ええっ!?そうかな・・・」
だけど、あながち間違えでもない。天・・・っていうのが現実世界だとすると、そこで三国志の知識を得ていたからこそ、思わず呟きがこぼれてしまったことだし。
「ほお・・・噂に聞いたときには眉に唾して聞いていたが、まさか本物の天の御遣いに出会おうとは。」
「本物かどうかは分からないさ。ただ、俺のことを信じてくれる桃香達のためにも、本物で居たいとおもう。」
「ふむ。・・・ふふっ、なかなかの器量のようだ。」
「おいおい、私を捨てて天城の下に入るというんじゃないだろうな、星?」
「さて、それはまだ分かりませんな。ただ・・・天下を憂う者として、徳ある君主に仕えてこそ喜び。・・・さて天城殿はどのような主君になるのか。」
「あまり・・・主君っていう柄じゃないよ。と、そんな話は置いておこう。」
場の話題が奇妙な方向に曲がっていることに気づき、俺は話題を戻す。
「で、どうだろう?俺達の参加を認めてもらえるか?」
「・・・ああ、桃香の力は良く知っているし、他の二人に関しても、星が認めるほどの力を持っているようだしな。私に力を貸してくれ。」
こうして____________。
公孫賛と共に戦うこととなった俺達は、陣割が決まるまで、しばしの休息を過ごした。
※どうもお米です。今回は公孫賛と星がでてくるだけの少し、味気のないものになってしまいましたね・・・。次回からはもっと味のあるものにしたと思います!それでは失礼します~。
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第五話となります。今回はどんな感じなのかな?自分で書いといてよく分かりませんww