夕焼け空。空に薄い橙色を着色したような広大な空だ。
何もない…とは言い難いが、ちらほら烏が飛んでいる。
町の雰囲気もどこかしらそれと似ていた。
普段は活気づいているが、少し物静かになった気がする。
この時間帯にしては早く店じまいをする者が多かった。
「今日は何の日だか…知ってる?」
大体こんな質問をされれば、こう答えるのがよい。
「華琳の生まれた日。」
町が少しだけ賑やかになった。
「いててて…。えぇーわかりません。」
金髪の少女はため息まじりに手を離した。
少年より二歩先に出て、手を後ろで結び、振り向かずに答えた。
「……追悼式…よ。」
――――目的地である墓場についた。
閑散としているわけではなかった。
なにしろ今日は追悼式なのだからもっと人がいてもよい筈なのだが…。
「………ほら。一刀も祈りなさい。」
少女…もとい華琳に続いて手を合わせる。
ここは誰の墓場なのだろうか…。
そして二人は墓場の周りを歩き始めた。
その間俺は、疑問に思ってることを言ってみた。
「なぁ華琳。今日は追悼式だよな。なんで人がこんなにも少ないんだ?
っていうか、俺も含めて城内の奴らは追悼式の話なんて誰もしてなかったぞ…?」
最もな質問。
必要分だけ端的にまとめた質問に、華琳は振り向きざまに答えた。
「…今日の追悼式は、戦死者じゃなくて、病死した人のための式よ。
墓場の数を見ればわかるでしょ?…一刀。」
華琳の話によれば、数年前にある伝染病が流行ったらしい。
その伝染病で亡くなった方々がこの墓場に埋葬されている。
だから今日は店じまいや人が少なかったのか。
「…それに城内でも私以外に追悼式の話をしたものがいるけどね…」
華琳の目線の先には俺のよく知ってる人物がいた。
よく知ってると言ってもあまり話さないので、今日の話など知る由もなかったな。
そいつは華琳の視線に気づくと、すぐさまこっちへ駆けてきた。
おきまりの愛情たっぷりの愛称を叫びながら…。
「おい!あんまり大きい声出すなよ。ったく少しは場所ぐらいわきまえろよな。桂ふ」
「華琳様ぁ~~~~~~!」
俺がこいつとあまり話さないのは、よくこいつに無視されるからだ。
「華琳様!…華琳様どこかお怪我は?具合はよろしいですか?
お一人で来るなんて…。私をお供に誘ってくれれば命にかけてもお守りいたしますのに…。」
もはや空気化!?
「それは当然のことでしょう?あと、一刀も言ったように、場所をわきまえなさい。
貴方をそんな娘に調きょ…育てた覚えはないわよ。」
「あぁ。申し訳ございません。
この罰ならいくらでもお受けいたします。なんなら今この場所で…いたぁ!」
華琳に代わって俺がチョップをくらわせといた。
――――墓場に一人の声が響く。
ひたすら罵声とひたすら愚痴。
仕事が溜まってる――なんて言いながら俺の会話を回避する。
それに対して、軽く流した感じでなんとか会話になりそうな話題を探す。
「お前がお参りしてた人って…肉親?」
「…あんたそんなに私と話したいわけ?
………まぁどーでもいいわ。…違うわよ。」
肉親じゃないのにお参りする理由なんて…。
それも一瞬だけしか見えなかったけど、
墓の前にいる桂花は、かなり神妙な…泣きそうな…そんな顔つきだった。
ずんずんと先を歩いていた桂花だったがこの時だけ足を止めた。
そしてさっきとは裏腹に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言った。
――友達よ――
また早歩きで先を行く桂花。
「友達…」
確かにそう聞こえた。
だが俺は半信半疑であった。
そんなことをするのは華琳の時くらいだろうと俺は思っていたからだ。
それにあいつは、あんな性格だから友達なんていたのか…。
墓参りなんて来る余裕がないほど仕事が溜まってるはずなのに…。
そんなに大事な…そんなに泣きそうになるくらい大事な人がいたのか…。
そして…俺に桂花の…何がわかるんだよ…。
華琳は俺達に「まだ周るところがあるから。」と城へ帰るように催促した。
もちろん華琳ラブの桂花は「お供しますっ。」と意気ごのんで嘆願したが
「仕事は?」というたった一言でそれは却下された。
―そして俺たちは今、周りは田や畑の何も無い小さな小道を歩いている。
なにやらこの道のほうが城までに近いらしい。
相変わらず俺達の間の距離は人10人分くらいのスペースがあった。
「…何距離縮めてんのよ。それ以上近づいたら宦官にしてやるわよ。」
「近づいただけで股間切り落とされるのかよ…。
いちよう華琳にお前の護衛頼まれてんだけど?」
「なら近づかないで。それが護衛になるわ。」
…こんな奴に友達なんてできるかぁ?
冗談で言ってるようには見えないし、口が悪いにもほどがある。
時折、俺にも聞こえるような大きなため息を吐き、
俺への悪口を俺に聞こえるように言うのであった。
程なくして俺も同じようなことをしてやろうかと思った矢先、
桂花が二度目の足止めをしていた。…というより硬直していた。
「おいおい。お前が足止めてると、俺が先に進めないんだけど?」
「…ほ、北郷?距離縮めていいからこっち来て…!」
ということで隣に来た。
「馬鹿!近すぎ!妊娠したらどーすんのよ!?」
「…いいのかぁ~そんなこと言ってぇ~。」
桂花の隣に来て、桂花の容態が変化した原因を知ると急に強気になった。
「ぅ…。いいからこの前にあるやつをどうにかしなさいよっ。」
げこーげこーと鳴くその物体に怯えている桂花を眺めているのもよかったが
さすがに哀れになってきたので足で退けてやった。
「…はい。どーぞ。」
「…ふんっ。」
礼もなしに先ほどの距離まで猛競歩する桂花。
「まったく。ありがたみってのをわかってないなぁ。」
憎まれ口を聞こえるように言ってやった。
すぐさま桂花は反論するが、同時にまたあの物体に遭遇し、顔を赤らめるのであった――。
――途中途中で口喧嘩や、物体との戦いでかなりの時間を浪費してしまい
もうすっかり夜に入ってしまった。
夕暮れ時はあまり寒さを感じなかったが、今はとても肌寒い。
前のほうでかろうじて桂花が身を震わせているのが見えた。
それほど寒く、暗いのだ。
「…もうっ。あんたのせいで城はおろか町にも入れないじゃないっ!」
「はぁ?お前が何かと言ってくるから俺が反論しているだけだろ?
ちょっとでも近づいたらうるさいし…。」
「そんなの当然でしょ!?あんたが近くにいるだけで、鳥肌が立つのよっ。
いらいらするし…気分も悪くなるし……寒いし…」
暗くてよく見えないが、桂花の震えが増してきている。
うずくまり、やがては大きく息を漏らし始めた。
「…それはさすがに、大丈夫か?」
「だ、だからあんたが…はぁ、はぁ。近づく…から…ぁ。」
桂花が倒れる前に、その身をしかと支えて自らも屈む。
手を額に置き、その熱さに驚く暇もなく、目を精一杯凝らし、建物を探した。
…一つだけ、屋根が壊れている小屋を発見し、桂花を運び入れた――。
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主に桂花メインの話です。