No.133826

こっち向いてよ!猫耳軍師様! 15

komanariさん

こんにちわ。komanariです。
なんとか投稿出来るようにまで、話しを書くことが出来ました。
今回は、華琳さまのターンです。

いつものごとく、SofTalkによるチェックをしてry

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2010-04-02 10:06:15 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:26519   閲覧ユーザー数:22931

華琳視点

 

「桂花は赤壁の戦いがどうなるかわかっていたということ?」

 私はそう呟いたあと、首を振った。

「いえ、それはあくまで仮説にすぎないわ。そう考えると筋は通るけど、確たる証拠もない……」

 そう、確たる証拠なんてない。ここにある書簡に書かれていることは、確かに常識外れだし、さもそうなることがわかっているような書かれ方がされている。けれど、これが未来の知識を使って書かれたものだと証明するほどのものではない。

「でも、少なくともこれを書いた者の思考は、私たちの常識の範囲にはない。そして、そうした思考を持つにいたったのはなぜかということを考えると、やはり未来の知識を知っていたと言うのが、一番筋が通る」

 そもそもこれを書いた者、つまりは北郷と言う男、が未来の知識を持っていたとしても、そのことが、すなわち桂花が未来の知識を持っていたということにはならない。あくまで、そう考えると筋が通ると言うだけだ。

 それに、未来の知識を持っていることと、未来から見た現在の歴史、つまりはこれから何が起こるかということを知っているということは、必ずしも同じではない。

 

 たとえば、水のろ過についての政策案に、書いてあったことを考えてみる。

“生水には不純物とともに、ほぼ間違いなく細菌、つまりは目に見えない生き物がおり、その細菌の中には、人を害するものも存在している。必ずしも危険な訳ではないが、澄んでいるからと言って、川の水や井戸の水が必ず安心であると言うわけではない。―(中略)―ただ、ろ過によって不純物をこしとっても、全ての細菌をこし取ることは不可能であり、体が弱っている人などに対しては、ろ過した水を沸騰させ、それを冷ましたものを飲ませる方が安全だろう。これは、大半の細菌が熱に弱く、水が沸騰する温度にまで達すると、大半が死滅してしまうからである。これを使い――”

 

 ここに書かれているろ過などについての話は、原理や理論としては理解できる。けれど、水の中に“細菌”がいることや、その細菌が原因で健康を害することがあること、そしてその細菌が熱に弱いことなどは、多くの研究や実験を行わなければ解りえないことだ。

 しかし、北郷はこの政策案だけでなく、その他の多くの政策案で、こうした多くの時間と努力を重ねなければ解りえないような知識を使っている。

 つまり、北郷がこうしたことを知りえるのに、自分自身で実験して知識を得たと言うことはほぼ不可能であり、書物で読むか、人から教わる他にそれらの知識を得る方法はないのだ。

 私はこの国の中で、比較的多くの本を読んでいる方だと思うし、知識人との面識もかなり多い方だと思う。けれど、その私がまったく知らないということは、少なくともこの国の中で北郷の持つ知識と同じものを持っている者はいないはずだ。

(北郷は、東の島国から来たと言っていたけれど、大陸の東にある国で、そこまで進んだ研究をしているなんて話は聞いたことがない)

 こうした諸条件から、北郷の知識が、未来のものである考えるのが、一番妥当だと思った。

 しかし、こうした知識を知っていることと、将来起こる出来事を知っていることはまた別の話だ。

 もし、この二つを同時に知っているとするなら、それは未来から来た人間だからと言うほかに説明がつかない。

 

 

 

「不確定な要素が多いけど、仮に北郷が未来から来た人間だとしましょう。そして、赤壁の戦いがどうなるかを桂花に話していたと仮定すると……ダメだわ。やっぱりなぜ桂花があんな行動をとったのかの説明が出来ない」

 赤壁で起こることを知っていたとして、なぜ桂花があんな行動をとったのかが、やはり解らなかった。

「私を裏切ろうとした……と言うのなら、あんな行動はとらなかっただろうし」

 あの行動は、私を裏切ろうとしたものではない。むしろ、私たちの被害を最小限に抑えようと言うものだった。

「では、私たちが勝てるように、行動を起こさなかったのはなぜ? それに、私になにも言わなかったのはなぜ?」

 なぜ勝てるような行動を起こさなかったかということは置いておくとしても、風向きが変わるかも知れないと言うことを、なぜ私に言わなかったのか。風向きが変わったらどう動くかということを、なぜ私に言わなかったのか。

「何か言えないわけでもあったと言うの?」

 桂花が、私に何も言わなかった理由。それを考えていて、浮かんできたのは北郷と言う人物の存在だった。

「北郷に脅されていた? ……いえ、脅されていたのだとしたら、あんなに必死になって北郷を探したりなんかしないはずだわ」

 先ほどの、桂花が北郷の名前を叫んでいた光景が浮かんだ。私は、桂花に名前を呼ばれる男なんて知らないし、実際に桂花が男の名前を呼んでいるのなんて、初めて見た。

「桂花に名前を呼ばれているということは、桂花からかなりの信用を得ているということよね。そうでなければ、あの桂花が自分から男を部下にするはずがない」

 桂花の信用を得ている男が、桂花を脅すようなことはないだろう。というより、自分を脅すような相手の名前を、しかも姓ではなく名を呼ぶなんて、あの桂花に限って考えられないし、そもそもあの桂花が、その辺の男に脅されて、それに屈するなんてこと自体ありえないように思えた。

「脅されたのでないとすれば、桂花はなぜあんな行動をしたのかしら」

 桂花があんな行動をとった理由は何なのか。脅しではないとしたら、やはり桂花の意思なのか。それとも北郷にだまされたのか。ここまでの思考は全て“北郷が未来から来た”と言う仮定の下で行われているのだけれど、今現在考えられる、一番妥当な説であると思った。

「どちらにしろ、北郷一刀と言う男が、今回のことの要であることは間違いないわね」

 そうだ。どんな仮定であれ、全ての始まりは北郷一刀と言う男から始まっている。そうだとしたら、まずはその要を抑えることが、この一連の出来ごとの真相を知るための最善の手のように思えた。

 

 

 

桂花視点

 

 一刀の生存を確認してから数日後、私は蜀への対応を含めた、今後の方針を協議するため、玉座の間に向かった。私自身はあれから一刀に会いに行ってはいなかったけれど、一刀は風邪が治ったようで、今日にも仕事に復帰するみたいだった。

 一刀が生きていると解った以上、これから私が考えなければならないのは、どうやって華琳さまに天下をとっていただくかと言うことだ。

(まずは蜀を落とす。それが一刀の歴史と同じ順番のはずだわ)

 定軍山での一件が、本来なら赤壁の戦いの後であると言うことを考えると、時期的な前後は、一刀が滅びる条件ではないように思えた。つまりは、魏という国が蜀を滅ぼしたと言う歴史がある以上、一刀の歴史ではそれが華琳さまよりも後の代の出来ごとだとしても、華琳さまが生きている時に蜀を滅ぼしても、歴史の大局は変わらないのではないかということだ。

(あくまで仮説である以上、慎重に進めなければいけないけど、それでも、華琳さまが天下を取ることと、一刀が生き残ることを両方実現させるって決めたんだから……)

 私はその決意を胸に、玉座の間へと急いだ。

 

「それでは、会議を始める。今後の方針を決める会議であるから、皆もそのつもりで話しあってちょうだい」

 玉座に座る華琳さまがそうおっしゃるのを聞いて、皆一様にうなずいた。

「まずは蜀の動向については稟に、続けて風に呉の動向について報告してもらうわ」

 華琳さまの言葉を受けて、稟が立ち上がった。

「はっ。まずは懸念されていた蜀軍の北進についてですが、今のところ目立った行動は起こしていないようです。ただし、水面下では、蜀の間諜の動きが活発化していたり、蜀魏の国境沿いの城に、夜な夜な物資を搬入しているなどの動きが見られます。恐らくは、時期を見計らってこちらに攻勢を仕掛けてくるつもりでしょう」

 稟は話し終わると、次に風が報告を始めた。

「続いて、呉についてですー。孫呉は江陵に一部兵力を残しつつ、本隊は建業に戻ったようですねー。これによって、襄陽にいる秋蘭ちゃんたちは、ひとまず休憩が取れるでしょうが、今度は合肥にいる霞ちゃんたちの緊張が高まりましたねー。建業と合肥はすぐ近くですしー」

 風はいつもの調子で、話しを続けた。

「ただし、呉がすぐに攻め込んでくると言う可能性は少ないかもしれませんー。赤壁での戦いは、呉の勝利だったとはいえ、国家総動員をかけての決戦でしたし、その結果として我々を追い返せたとは言っても、すぐに大規模な攻勢に転じられるほど、国力があるとも思えませんねー」

 風がそう言い終えると、華琳さまが口を開いた。

「つまりは、どちらも臨戦態勢ではあるけれど、本格的な行動を起こすまでには、しばらく時間がかかると言うことね。……さて、それではこれから私たちはどう動くべきか。桂花、あなたの意見を聞かせてちょうだい」

 その言葉を受けて、私は立ち上がった。

 

 

 

「はい。まず、呉と蜀が攻勢を仕掛けてくるとすれば、それが同時である可能性が高いと思われます。先の戦いにおいて、呉と蜀が同盟を組んでいたことは明らかです。と、なれば、片方が単独で侵攻をするのではなく、何かしらの連携を取りながら行動を起こすと考えて、まず間違いないでしょう」

 私は現状への考察を述べて、一度話を切り、軽く息を吸った。

「私の意見としては、まずは蜀を叩くべきだと思います。孫呉は先の戦いで、少なからず被害を受けましたし、混乱した経済を立て直すのにも、多少の時間がかかるでしょう。それに対して蜀は、先の戦いでは伏兵を仕掛けたのみで、大きな動きをして来なかったため、軍事と経済において、ある程度の余裕があるはずです」

 先ほどから春蘭が良くわからないと言う顔をしているけど、私は気にせずに話をつづけた。

「つまり、蜀と呉が足並みをそろえようと思った場合、蜀が呉に合わせると言う方法しかなく、呉が体勢を整えるまでの間、蜀としては時間稼ぎをしようとするはずです。そこで、私たちの方から、先に蜀に戦闘を仕掛け、蜀と呉の足並みをそろわせないようにして、しかる後に大攻勢をかけるべきかと思います」

「蜀に主導権を握られる前に、私たちから動いて、逆に主導権を握ってしまえ、ということね」

 私が意見を言い終えると、華琳さまが意見を吟味するかのように、そうおっしゃった。

 先日までの撤退においては、どこか上の空だった華琳さまが、しっかりと私の方を見ながらお話になる姿は、覇気が戻られたようで、その雰囲気からは一種の恐ろしさすら感じるほどだった。

(私への疑念が晴れた? ……いえ、晴れるような要素はなかったはずよ。だとしたら、何が……?)

 華琳さまのご様子に、何ともいえない不安感が私を襲った。

「しかし桂花の策の場合、我が軍は蜀以上に早く動かなければなりません。先ほども言ったように水面下で準備を始めている蜀に対して、我らは先の敗戦から完全に立ち直った訳ではありません。むしろ、呉と蜀が攻勢をかけてくる前に、我々も一度軍の再編を行うべきでしょう」

 私が不安感を感じていると、稟がそう主張した。

(……今は、華琳さまの中で何が起きたのかを考える時ではないわね。とにかく、蜀を先に打ち倒すように、話しの流れを持っていかなくては)

 私はそう思い、不安感を心の奥の方にしまい、稟の主張に対抗した。

「確かに、完全に立ち直った訳ではないわ。けれど、我が軍は依然として蜀と呉が合わさったものよりも、多数の兵数を有している。そして、現在洛陽まで来ている軍勢と蜀の総兵力の差は倍以上あるわ。多少の混乱があったとしても、今この機会に蜀を叩いておくことによって、蜀と呉による同時攻勢と言う事態を回避するべきよ」

「確かに、早い段階で蜀を叩くことが出来れば、今度の戦いにおいて我らが主導権を握ることが出来るでしょう。しかし、それはあくまで蜀に勝利出来た時のみです。我らの兵力が蜀を圧倒しているとは言っても、蜀には一騎当千の将が多くいます。また、先の定軍山での策略を弄するほどの軍師もいるのです。無理に攻勢に出るよりも、今は体勢を整えることを優先し、敵軍が無理に攻勢に出られないような状況をつくりあげてしまえば、必然的に主導権は我が方に回ってきます」

 私の意見に対して、稟がまた意見を返し、議論が段々と熱くなっていった。

 

 

 

「おー。稟ちゃんと桂花ちゃんの議論が白熱してきましたねー」

 私と稟が議論をしているのを眺めながら、風が少し眠たそうにそう言った。

「華琳さまー。結局どういうことなんですか?」

 私と稟は依然として議論を続けているのに、季衣が華琳さまにそう尋ねた。

「つまりは、準備が整わないままでも強引に先手を取るか、準備を整えてから敵の攻勢に耐えるかということよ。どちらも今後の戦いの主導権を取ろうと言うのが目的だけど、その方法が違うのよ」

 華琳さまの説明を聞いて、季衣がポンっと手を叩いた。

「山に山菜を取りに行くときに、準備が出来ていないけど、とにかく早く行こうって言うのと、山菜を取りに行くのが夜になっちゃうかもしれないけど、しっかり準備をしようって言うのと同じってこと……ですよね?」

 そう季衣が自信なさげにいると、華琳さまは優しく微笑んだ。

「えぇ。良くわかったわね、季衣」

「えへへぇー」

 華琳さまにほめられた季衣が、恥ずかしそうに頭をかいていると、華琳さまが議論を続けている私たちに声をかけた。

「桂花。稟。二人の意見は解ったわ」

 華琳さまのお言葉を聞いて、私と稟は議論を戦わせるのをやめた。

「風、あなたはどう思うの?」

 私たちが席に着くと、華琳さまは風に話を振った。

「そですねー。風としては、現段階で守勢あるいは攻勢のどちらにするかを決めるのではなく、柔軟な対応が出来るようにすることが肝要かと思いますねー。ですので、まずは蜀に対応するために漢中に部隊を派遣し、その後で、攻勢にでるか、守勢にでるか。蜀を攻めるか、それとも再度呉を攻めるのかを決めても、間に合うのではないかと思いますねー」

 風がそう言い終わると、華琳さまは少し考えた後、私たちを見回した。

 

「攻勢に出るにしろ、守勢に回るにしろ、私たちが最終的に目指すのは天下を統一することよ」

 華琳さまの言葉に、春蘭がひと際大きくうなずいた。

「そのための行動として、まずは差し迫った脅威に対応するわ」

 華琳さまはスッと息を吸ってから、春蘭の方を向いた。

「春蘭」

「はい!」

 華琳さまに呼ばれて、うれしそうに春蘭が答えた。

「季衣と風と共に兵3万を率い、漢中に向かいなさい」

「御意!」

 春蘭が手を合わせて礼をすると、華琳さまは風と季衣の方を見た。

「風、漢中での行動の判断はあなたに任せるわ。状況に応じて、あなたが最善と思う行動をしなさい。ただし、必要と思った情報については、順次洛陽に知らせること。季衣は春蘭と風を助けてあげて」

「御意なのですー」

「はーい」

 二人の返事を聞いた後、華琳さまは稟と流琉の方を見た。

「稟、あなたは孫呉の動向を詳しく調べなさい。それと、襄陽にいる秋蘭と沙和を洛陽に戻すために、代わりとして派遣する将を選んでおいて。流琉は稟の補助と、沙和が戻って来るまで、洛陽に残る部隊の調練を担当して」

「御意」

「わかりました」

 稟と流琉の答えを聞いて、軽くうなずいた華琳さまは、ゆっくりと私の方を向いた。

「桂花……」

 華琳さまは私の真名を呼んだあと、じっと私を見つめた。

「桂花、あなたは風と稟からの情報をもとに今後の戦局の予想を立てなさい。……いいわね?」

 そう言いながら私をしっかりと見つめる華琳さまの瞳の奥に、先ほど私が感じた不安の答えを探ろうとしたけれど、空よりも深い青色をした華琳さまの瞳の中から、その答えを探り当てることは出来なかった。

「御意……」

 私がそう答えると、華琳さまはその場にいる皆をもう一度見回した。

「今後の方針としては、二正面作戦も視野に入れながら、基本的には蜀の攻勢を抑え込むことを第一の目的として動く。その際、先手を打つか、それとも守勢に回るかは、今後の情勢をギリギリまで見極めてから決める。皆、いかなる作戦にも瞬時に対応できるように、常に心がけておくように」

「御意!」

 華琳さまの言葉に、皆が声をそろえて答えた。

 

 

 

一刀視点

 

 赤壁で曹魏が負けたと言う報を聞いた時、俺は他の人が感じている混乱とは違う意味で、とても混乱した。

「魏が負けた!? ど、どうして……」

 俺に魏が負けたことを教えてくれた文官仲間は、赤壁で負けた原因を教えてくれたけど、俺が聞きたかったのは、そんなことじゃなかった。

(何が起こるかわかっていたはずなのに、荀彧はなんで……)

 大局が変わり、自分自身が滅んでしまうことを覚悟していた俺は、荀彧がなぜ行動を起こさなかったのかが解らず、ただただ茫然としてしまっていた。

 その数日後、新たな報が洛陽にもたらされた。

 

“曹魏は赤壁では負けたが、撤退を指揮した荀彧様が伏兵の位置を看破し、的確な指示を出したことにより、我が軍に大きな損害はなく、曹魏の兵力は依然として他の二国を合わせたそれよりも多い”

 

 正式な報せではなく、その他数多くある噂話の内の一つだったが、襄陽から曹操さまが率いる本隊25万が、洛陽に向けて出発したと言う正式な伝令が届いたことで、ただの噂話から確かな情報として扱われるようになった。

 ただし、それはあくまで城内においての話で、城下の町では、少し可能性が高い噂話と言う程度の認識しかなく、依然として悲観的な噂が飛び交っている状況だった。

(荀彧が被害を出来るだけ抑える形で、赤壁の戦いでの負けを演出した? いや、もしかしたら他に何か理由があったんじゃ……)

 そんなことを考えていると、洛陽へと移動中の本隊からの伝令が、本隊よりも一足早く到着した。

 伝令は、曹操さまからの指令を伝えに来たらしく、洛陽に残っていた武官や、軍略や諜報などの軍務に関係している文官たちが、資料を集めたり、現在の状況を整理するための情報を集めたりと言った仕事に取り掛かり始めた。

 その伝令は、そうした指示だけでなく、俺たちに赤壁で起きたことの詳細も伝えた。

 

“風向きが変わる可能性があると睨んでいた荀彧様は、万一の時のために、諸将に風向きが変わった時の対応策を話していた。そのおかげもあって、火計をともなった敵の奇襲を受けても、我が軍は大きな損害を受けずに済んだ”

 

 その話を聞いたほとんどの者が、荀彧を称えた。

 けれど、俺は他の文官たちと一緒になって、荀彧を称えることが出来ず、静かに思考を巡らせていた。

(荀彧の行動がおかしすぎる。結果がわかっていながら負けるなんて。しかも、被害を最小限に抑えて……。これじゃあ、まるで負けることを演出したみたいじゃないか)

 

“負けることを演出したみたい”

 

 この言葉が、頭の中で引っかかった。

 

 

 

 あの荀彧が、天下分け目の決戦で、わざわざ負けを演出した理由。出来るだけ被害を抑えて、形だけの敗北を演出しなければならなかった理由。それはいったい何だったのだろうか。

(荀彧が曹操さまの天下統一を遅らせてまで、負けを演出した理由……)

 そのことを考えている最中に、ふと浮かんできたのは、荀彧の泣き顔だった。

(俺が泣かしてしまった荀彧。俺のことで泣いてくれた荀彧。俺のことで……っ!)

 ハッとした俺は、自分の手を見た。

(俺は今も滅んでいない! 赤壁で歴史が変わって、滅びるはずだった俺が、赤壁で曹魏が負けたことで、まだ滅びずにいる!)

 俺は開いていた手を握った。

(荀彧が負けを演出してくれたおかげで、俺はまだ滅びずにいるんだ! 荀彧は俺が滅びないように、わざわざ負けたんだ!)

 そのことに気がついた俺は、嬉しさのあまりに、“やった!”と叫んでしまい、周りにいた文官たちに不審な目で見られてしまった。

(あの荀彧が俺のために……)

 そう思うとついつい嬉しくなって、にやけそうになってしまうのを、なんとか抑えながら、俺はその日の仕事を終えた。

 その晩は、ずっと荀彧の事を考えながら、夜空を眺めていた。

(荀彧……、早く帰って来ないかな)

 そう思いながら眺める月は、いつも以上にきれいに見えて、俺は部屋の窓を開けたまま、ずっと月を眺めていた。

 

 次の日、窓を開けたまま、一晩中夜空を眺めていたせいか、俺は風邪をひいて寝込んでしまった。その日の午後に、本隊が洛陽に到着し、荀彧が俺の頭をなでてくれたことなんて露知らず、俺は夢の中で荀彧の名前を呼んでいた。

 

 

 この時の俺は、荀彧が俺のためにとった行動によって、曹操さまに疑念を持たれてしまったことや、その疑念の矛先が、すでに俺の首元にまで迫っていることなんて知る由もなかった。

 

 

 

あとがき

 

 

 どうもkomanariです。

 

 少し時間が出来たので、15話目を書いてみました。

 前回のお話では、華琳さまの思考の飛躍が、少し行きすぎてしまったようだったので、今回は出来るだけ、思考の順序が解るように心がけて見ました。

 僕としては心がけたつもりですが、違和感を感じる方もいらっしゃるかと思います。そう言った方々には、申し訳なく思っています。

 

 さて、今回は華琳さまの中の変化と、桂花の策略、それと一刀くんの喜びな回でしたが、軍師さん同士の議論を書くのがすごく疲れました。

 やっぱり足りていない脳みそを、限界以上に使うと、爆発してしまうのだと言うことが解りましたwそんな、スペック不足の脳みそで書いた議論だったの、色々と不審な点が多いかと思いますが、その辺はご容赦いただけると、うれしいです。

 

 そんな感じのお話でしたが、今回も読んでいただき、ありがとうございました。


 
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