華琳視点
江陵に着くまで、私はずっと桂花のことを考えていた。
桂花は、赤壁の戦いにおいて風が吹くことがわかっていたかのような指示を、私には何も言わずに、秋蘭たちに出していた。そのおかげで、敵の火計と奇襲の被害を、驚くほど低く抑えることが出来たけど、桂花は、なぜ風が吹くことがわかったのか。
そして、なぜ風が吹くとわかっていながら、敵の火計や奇襲を織り込んだ献策を出さなかったのか。
そうした考えの中で、ふと一つの考えが浮かんできた。
(桂花は、孫呉と通じて私を負けさせようとしている)
その考えは、あまりにもあり得ないけど、一つの可能性としては考えられなくもなかった。
(もしそうだとしたら、なぜ桂花は私たちの被害を最小限に抑えたの?)
桂花が私を討とうと考えれば、武将たちに風のことなど教えずに、孫呉が仕掛けてくる攻撃を、そのまま受ければいいはずだ。それが一番簡単だし、怪しまれずに済む。
(けれど、桂花は皆に風のことを教えた。そして兵の被害を最小限にとどめ、そして見事な撤退をやってのけたわ)
そう。桂花は被害を最小限に抑えるだけでなく、撤退においても敵の伏兵を看破し、逆に伏兵を壊滅させていた。
(桂花は、いったい何を考えているの?)
江陵に到着した後も、私はずっとそれを考えていた。
桂花視点
江陵まで到着した私たちは、そこで少しの間休息をとった。城にまで辿りつけた安心感からか、兵士たちの中には、倒れこんでしまう者もいたようだけど、江陵に長く留まることは出来ない。
江陵はちゃんとした城ではあるし、現に城外にいる敵軍の攻撃から私たちを守っているけど、ここで敵と決戦をするには、物資が足りなかった。赤壁からの撤退は、急を要したものであったから、物資は最低限しか持ってきていないし、江陵の城に蓄えられている物資も、これだけの大軍を支えるのには心もとなかった。
「華琳さま。兵たちの休息が終わり次第、襄陽へと移動いたしましょう」
稟がそう華琳さまに進言したけど、何かを考え込んでいらっしゃるようだった華琳さまは、話しかけられていることに気付いていないようだった。
「華琳さま?」
再度、稟がそう声をかけると、今度は華琳さまもお気づきになった。
「……え?」
「襄陽へとの移動について申し上げていたのですが……」
「あ、あぁ。そうね。襄陽に移動しましょう」
華琳さまは少し慌てた様子で、そうお答えになった。その後、ふと私の方に視線を向けたけれど、華琳さまはすぐに視線を外した。
「……」
視線を外した後、また何かを考え込むようなお顔になった。
(華琳さまは、私を疑っていらっしゃるのかも知れない)
そんな様子の華琳さまを見て、私はそう思った。
けれど、華琳さまに疑われたとしても私には守ると決意した者がいる。だから、今は私が出来る精一杯のことをしようと思った。
江陵での大休止を終えてから、私たちは襄陽へと向かうために、再び移動を開始した。
孫呉の軍勢を突破して、私たちは襄陽へと向かった。兵たちには未だに動揺が見えるし、これまでの疲れもあったけれど、それでも圧倒的に我が軍の方が多い以上、敵軍を突破することは難しくはなかった。
突破した後は、赤壁から江陵までの撤退の時と同じように、後ろから追撃してくる孫呉を抑えながら、ひたすら襄陽へと向かった。
幸い、江陵から襄陽までは伏兵という伏兵もいなかったため、後方の孫呉にだけ注意をしていればよかった。
そうしているうちに、私たちは襄陽まで辿りつくことが出来た。追いすがる孫呉の攻勢も激しかったけれど、親衛隊を含め、曹魏の最精鋭と言われる華琳さまの直属部隊や春蘭たちの奮闘によって、大きな被害を受けることもなく、全軍が入城することが出来た。
襄陽に入城したあと、私たちは今後のことを話しあうために、広間に集まった。
「ふぅ。とりあえず一区切りだな」
「あぁ、姉者の奮闘のおかげか、我が軍はそこまで大きな被害を受けずに済んだ。連戦の疲れもあるだろうから、すぐに反撃に出る訳にもいかんが、襄陽ならじっくり休むこともできよう」
春蘭と秋蘭がそう話しているのを聞いて、稟はうなずいた。
「その通りですね。襄陽は荊州の要ですし、物資も豊富にあります。追撃してきていた孫呉も、我々が入城し終えると、江陵まで軍を下げたようですし」
「とりあえずは、安心ということですね。……しかし、今後我らはどう行動すればよいのでしょうか。反撃に転じるにはまだまだ時間がかかりますし、兵数では圧倒的に有利とは言っても、先の敗戦によって下がった兵たちの士気もどうにかして回復させなければなりません」
稟の言葉に続いて、凪がそう言った。
「そですねー。ここで兵の士気が回復するのを待つのもいいですけど、決戦のことばかりを考えていると、足元をすくわれちゃうかもしれないですねー」
凪の言葉を受けて、風がそう答えた。その答えを聞いた沙和が小首を傾げた。
「あしもとー? あしもとってどこのこと?」
沙和の質問に答えたのは軍師ではなく、風の話を聞いて、少し考え込んでいた秋蘭だった。
「……洛陽か」
「そですー。赤壁から江陵までの道中に、蜀の伏兵がいたということは、孫呉と蜀は同盟か、少なくとも共通の敵である私たちを一緒にやっつけようとしていたはずなのです」
「蜀が動くってことは、うちらが孫呉とにらみあっとる間に洛陽を狙ってくるかもしれんっちゅーことやな」
霞が納得したようにそう言った。
「洛陽まで攻め込むかはわかりませんが、この機に漢中や長安、そして西涼を狙ってくる可能性は非常に高いでしょう。また、孫呉が合肥を狙ってくる可能性もあります」
稟の言葉に、私も含め多くの者がうなずいた。数名、というか約一名意味がわかっていないようだったけど。
「うん? つまりはどういうことなのだ?」
春蘭は意味がわからないというような顔でそう言った。
「ふぅ……」
そんな春蘭の様子を見て、私は少しため息をついた。
いつもなら、これは嫌みのため息なのだけど、今回は安堵のそれに近かった。赤壁から江陵、そして襄陽までの撤退中、こうして皆が私の思った通りに動くだろうかと不安だった。そんな中で、いつもの愚かさというか、物分かりの悪さをさらけ出した春蘭に、私はふと安心してしまったのかもしれない。
ただ、春蘭はそんなことは分からず、バカにされたと思ったみたいだったけど。
「け、桂花ぁ。貴様、私を愚弄したなぁ!」
そう言って今にも掴みかかろうとしている春蘭を秋蘭がなだめた。
「落ち着け姉者。今の話しの内容なら後で私が説明するから、今は少し抑えてくれ」
「ぬぅううう……」
春蘭がそう言ってうなっているのを眺めてから、私は口を開いた。
「とにかく、孫呉と蜀からの攻勢を押さえなければならないわ。幸い、我が軍には孫呉と蜀を同時に相手に出来るだけの戦力がある。今は攻勢を耐えて、しかる後に反撃するのが、最善の方法でしょう」
私がそう言うと、先ほどと同じように皆がうなずいた。
そのあと、皆が華琳さまの方を見た。
「……」
けれど、華琳さまは私たちの視線にも気付かずに、何かを考え込んでいる様子だった。
「華琳さま?」
そう私が尋ねると、華琳さまはハッとして私たちの方を見た。
「な、何かしら?」
華琳さまは慌てたような表情で私の方を見た
「いえ、今後のことについて話していたのですが、華琳さまのご判断をお聞きしたいのですが」
私がそう言うと、華琳さまは少し困ったような顔をした後、風の方を向いた。
「皆での話し合いでは、どうなったの?」
「はいー。概ね、孫呉を抑えるために襄陽と合肥、そして蜀を抑えるための洛陽への移動ということで話しはまとまりましたねー」
風がそう答えたのを聞いてから、華琳さまは少し考え込んだ。
私はそうした華琳さまの様子を見て、少しの不安を覚えた。
今までの華琳さまなら、重臣たちとの会合の間に、他のことを考えていて話しの内容を聞いていなかったなどということは、まずなかった。
それは、仮に他のことを考えていても、話しの内容をきちんと聞いていたからであり、そうした絶対的な有能性こそが、華琳さまが華琳さまである所以でもあった。
しかし、華琳さまは私たちの話を聞きなおした。それも今回だけじゃなくて、江陵から襄陽に移る時も、話しを聞いていらっしゃらないようだった。
(華琳さまは何を考えていらっしゃるのかしら?)
その疑問も、先ほどの華琳さまの行動でなんとなく予想がついた。
先ほど、私が話しかけたのにも関わらず、華琳さまは風に話しの内容を聞いた。
それまでも、何かを考えていたかと思うと、私の方にちらりと視線を送るなどの仕草はあったけれど、ここまで露骨なものはなかった。
それらが示すもの。それは華琳さまが私に疑念を抱いているということ。
(華琳さまは私を疑っていらっしゃるんだわ。孫呉と、あるいは蜀と通じているのではないかと。そうでなければ、なぜ私があんなに完璧な撤退を準備していたのかを疑問に思っていらっしゃる)
なぜ私があそこまで完璧な撤退を準備していたかといえば、それはもちろん一刀を守るためだ。それは今となっては変えようのない事実で、あの時、一刀が私の部屋の前で私の真名を口にした時に決断したこと。
そのことに対しては一切の後悔もないし、そのことに関して自分を責める気持ちもない。けれど、そのことと華琳さまが私をお疑いになるのは、別の話だ。
私が言うのもなんだけど、華琳さまは私のことを信用してくださっていたと思う。そんな信用した相手が、自分を助けることが出来るのに、それをしなかったとなったら、その信用自体がなくなってしまうのは当たり前だ。
(たとえ信用を失ってしまったとしても、私自身の力で、必ず華琳さまに天下をとって頂くわ。それが、あの時私が決断したことなのだから……)
私はそう思いながら華琳さまを見つめていた。
その後華琳さまは、襄陽に秋蘭と沙和を残し、合肥には霞と凪と真桜を派遣、残りは華琳さまとともに洛陽へと戻ることを決定した。
兵力で言うと、襄陽に3、合肥に2、そして洛陽に5の割合で動くことになった。
私は洛陽へと戻る本隊の中で、一刀の事を考えていた。
華琳さまからの疑念をどうやって晴らすかとか、今後どうやって華琳さまに天下をとって頂くのかということも、考えなくてはいけないことだったけれど、それよりも今は一刀の事が心配だった。
赤壁の戦いは、一刀の話した歴史通り魏が負ける結果に終わったけど、兵数自体はそれほど減っていないし、厳密な意味で言えば一刀の知る歴史とは違う結果になった。それが私のできる最大限の譲歩であったし、私の出した結論であったけれど、そうすれば一刀が助かるという保証はどこにもないのだ。
そもそも、あいつが滅んでしまうという占い自体が、とてもあやふやなものであるため、正確にあいつの滅んでしまう条件を探るのは難しい。草や木と同じように、駄目だったら植え直すなどということは出来ない、あいつの人生は一度きりだし、あいつが滅んでしまうのも一度きりなのだから。
(生きていなさいよ、一刀。私の許しもなく真名を呼んだんだから、私の許しもなく滅びるなんて許さないわ。それに、あんたのせいで華琳さまに疑われてしまったんだから……)
私は一刀がいるだろう洛陽の方角を見つめながら、そう思った。
(生きていなさい。生きていて、それで私に殴られなさい。いつもならそんなものじゃ済まさないけど、今回だけはそれで許してあげるから。真名を呼んだことも、華琳さまに疑われてしまったことも)
私は必死に願った。
「だから、生きていなさい。一刀……」
そう呟く私の声は、砂塵にまぎれて空へと昇っていった。
私たちが洛陽に到着したのは、それから数日後の昼だった。
洛陽には私たちが赤壁で敗れたという報が先に届いていたらしく、町の人々は皆心配そうな顔で、帰ってきた兵士たちを見つめていた。
けれど、兵たちの中に重傷者がそれほど多くなく、負けたと言ってもそれほど悲惨な負けではなく、また兵力で言えば依然として我が軍の方が多いということを知ると、皆安心したような顔になっていった。
私はそんな様子を確認しながら、王城へと急いだ。ただし、本当に急いで王城に向かってしまうと、民たちを不安にさせてしまうので、急いだのは気持ちの中だけでだけど。
――ガチャン
「一刀!」
私がそう言いながら入ったのは、政策決定局の執務室だった。
私が王城に帰って来て一番にここに来たのは、この時間なら、一刀がここで仕事をしているはずだと思ったからだ。
けれど、その部屋に一刀の姿はなかった。
「――っ!」
執務室に一刀がいないことがわかって、私は大きな不安に襲われた。
(まさか、滅んでしまったというの!?)
私はすぐに執務室を飛び出して、北郷の部屋へと走った。
(どういうことよ! 歴史の流れは変わっていないじゃない!? なんで居ないのよ!?)
頭の中に浮かんでくる最悪の結果を否定しながら、私は走った。
「邪魔よ! どきなさい!」
廊下を歩いている文官たちにそう叫んでどかした。文官たちは驚いた顔をしながら道を開けて行く。
(これで滅んでたりなんかしたら、絶対に許してやらないんだから! 真名を呼んだことも、私にこんな決断をさせたことも!)
脳裏に、あの時の悲しそうな笑顔が浮かんだ。私が泣いてしまった日に見せたあの笑顔は、何か嫌なものを思い出させるようで、私は頭を振ってそれをその笑顔を振り払った。
(私はあんたにそんな顔をしてほしいんじゃないの! 私はあんたに……)
角を曲がって、やっと一刀の部屋が見えた。
(あんたに笑ってほしいのよ! 恥ずかしそうな顔で、私のことが好きだって言って、それで笑っていてほしいのよ!)
――ガチャン
「一刀!」
私が部屋に入ると、寝台の上で横になっている一刀の姿が見えた。
その姿は一枚の絵画のようで、まるで時が止まっているかのように、何も動いてないかのようだった。
その時私は思った。“一刀は死んでしまったのだ”と。
「……一刀っ!」
私は思わず一刀のもとへ駆け寄った。
(何よ! ちゃんと負けたじゃない! なんで……、なんで……)
あふれ出る思いが涙になってこぼれ落ちて、私は寝台の横で崩れ落ちた。
「バカ! せっかく変えないように頑張ったのにっ!」
そう言いながら私は寝台を叩いた。
「一刀を守るって決めたのに……。ずっと私のそばにいてほしかったのに……」
涙が床に落ちて、一つ、また一つとしみになっていった。
「あんたになら、真名を許してあげたのに。あんたになら、抱きしめられてもよかったのに……」
言葉を口にする度に、胸が締め付けられて、余計に涙が出た。
そうして泣いていると、ふと声が聞こえてきた。
「けい……ふぁ……」
幻聴が聞こえたのかと思った。あまりにも一刀の事を思いすぎて、聞こえるはずのない声を聞いたのかと。
「桂……花ぁ……」
けれど、先ほどと同じ声がもう一度聞こえてきた。今度ははっきりと。
「……へ?」
私は思わずそんな声を上げてしまったあと、ハッとなって立ち上がった。
「桂花……」
三度目に聞こえた声は、確かに一刀のもので、しかも、今目の前にいる北郷一刀から発せられているものだった。
「……」
私は思わず茫然としてしまった。
先ほどまで死んだと思っていた男が、寝言で私の真名を呼んでいるのだ。
「お、落ち着きなさい、私! えぇっと、つまり……」
私は一度大きく息を吸ってから、状況を整理した。
「洛陽に帰ってきた。城に戻った。執務室に行った。一刀が居なかった。一刀の部屋に行った。死んでいた。泣いた。一刀が寝言を言った……?」
私はおそるおそる一刀の額に手を置いてみた。
(あつい……。風邪をひいているみたいね)
そっと、一刀の額から手をはなして、私はもう一度状況を整理した。
「執務室に居なかった。風邪をひいて寝込んでいた」
そこまで来て、全てが線につながった。
――ポン
私は手を叩いた。
「あぁ、なるほど。そう言うことね。…………ってバカぁぁ!」
私は思わず叫んだ。
(全て私の早とちりで、勝手に勘違いして、勝手に独白していたんだ!)
そう思うと、顔から火が出るかと思うほど恥ずかしくなった。
「うぅーん……」
私の声がうるさかったのか、一刀がそう唸った。
そんな様子の一刀を見て、ふっと力が抜けた。
「まったく……、紛らわしいことしてるんじゃないわよ」
そう言いながら、私は一刀の枕元に腰を下ろした。
「ふぅ」
そう一息ついてから、一刀の方を眺めると、熱で寝苦しいのか、少し苦しそうな顔をしていた。
「私にあんな恥ずかしい思いをさせた罰よ。存分に苦しみなさい」
私はそう言いながら、一刀の頭をそっとなでた。
「ただ今、一刀……」
私の手が一刀の頭をそっとなでると、さっきまで少し苦しそうだった一刀が、スッと落ち着いた寝顔になった。
私は、しばらくその寝顔を眺めていた。
「ふふ。案外可愛いじゃない」
その時の私は、なぜかとても幸せな気分だった。
華琳視点
桂花は何を考えているのか。
その答えは、ずっと出ないままだった。
答えが出ないままで、私の中には桂花に対する疑念が渦巻いていた。
そんな中、私たちは洛陽へと帰還した。
道中の桂花は、何かを悩んでいるような、心配しているような雰囲気で、そのことがより一層、私の疑念を大きくさせた。
(桂花は何を悩んでいるの?)
赤壁での桂花の行動の意図もわからないのに、今桂花が何を悩んでいるかなんて、わかるわけがなかった。
王城についた後、桂花はすぐさまどこかに走っていった。
私はどこに行くのか気になって、そっと後をつけて行った。
(もしかしたら、桂花が何を考えていたのかが、わかるかも知れない)
そう思いながら、私は走る桂花を追いかけた。
「一刀!」
どこかの執務室に来た桂花は、そう言って扉を開けた。
しかし、中を見渡したかと思うと、またどこかに走って行ってしまった。
(……一刀というのは、この前の渡来人のことかしら?)
そう思いながら、私は先ほど桂花が明け放った執務室の前に立った。
“政策決定局”
そう書かれた看板が横にかけられているところから、ここは桂花が自分の直属の機関として作り、先ほど桂花が呼んでいた、北郷という男が所属する部署であることがわかった。
(そう言えば、ここでどんなことをしているのかは聞いていなかったわね)
この部署を設置した時の桂花に対する信頼は、特に高かったから、内容にまで口を出さなかったのだ。
――ギィィ
桂花が閉め忘れた扉をそっと開くと、少し音がしながら開いた。
「……」
中には大きめの机と椅子が二組置いてあり、片方の机の上には多くの書簡が乗っていた。
私は何気なく、そのうちの一つの書簡を手に取った。
「情報伝達の高速化について? 何が書いてあるのかしら……」
見覚えのない字であったから、恐らくは北郷という男が書いた書簡なのだろう。それに、どんな内容なのかが気になったので、私はその書簡を読み進めた。
「……っ!」
読み進めて行くほどに、私はその書簡の異様さに驚いた。
(これはどういうこと? 狼煙の使用は分かるにしても、短距離間での手旗信号……。それに、郵便事業の公共事業化って……)
一通りその内容を読んでから、私は次の書簡に手を伸ばした。
「……っ!」
そうして読んで行く書簡のどれもが、皆今までに見たこと、聞いたこともないような内容が含まれていた。
消費税、民への無償での学校教育、議会の設置、文民統制、三権分立、ろ過による浄水……その他にも多くの政策案が私を驚かせた。
そうした政策案を読んでいるうちに、私はあることに気がついた。
(……これらはみな、実際に行ったことがあるかのような書き方をしているわね。しかも、技術の面で、私たちのそれとは比べ物にならないほど高度なことであっても、さもそれが実在していたかのような書き方だわ)
そのことを考えていると、ふとある考えが浮かんできた。
(まさか、これは未来の知識を使って書かれたと言うの?)
高度な技術でも、今よりもずっと未来の世界であれば、実在することは不思議ではないだろう。実際、私たちも始皇帝が生きていた時代よりも、進歩した技術を使っている。
それに、もし未来の知識を使って書かれたと仮定すれば、その他の政策案の突飛さや、先進性も理解できる。
(これを書いたのが北郷という男だということは、北郷は未来の知識を持っている可能性があるということね……)
そこまで考えてから、私の頭にまたあることが浮かんだ。
(未来の知識があるということは、当然過去の歴史も知っているはず。もしそうなら……)
私の中で、何かがつながった。
「桂花は赤壁の戦いがどうなるかわかっていたということ?」
その問いかけに答える者はなく、ただ多くの書簡が、私の声を聞いていただけだった。
あとがき
どうもお久しぶりです。komanariです。
就活やらなんやらで色々していたら、いつの間にか前回の投稿から1カ月以上経ってしまっていました。お待ち頂いていた皆さまには本当に申し訳なく思います。
本当は、もう少し頑張って、TINAMI様に初めてSSを投稿した3月18日に合わせて、一周年記念みたいな感じで投稿できればなぁ……。などと考えていたのですが、どうやら僕の妄想のようでした。
何はともあれ、SSを書き始めて1年経ちましたが、ここまで続けてこれたのも、こんな僕を応援してくださる皆さまおかげです。本当にありがとうございます。
これからも頑張って行こうと思っています。
さて、今回のお話についてですが、今回は桂花さんをキャラ崩壊させすぎたような気がします。
原作の桂花さんは、絶対一刀くんの頭をなでたりしないだろうなぁ……などと思いながら書きました。
でも、前回のコメントなどで、僕の思ったように書いていいという素敵なコメントをいただいたので、少し暴走気味で僕の思ったように書いてみました。
ご覧になった皆さまには、どのように映ったでしょうか?
お話の流れ的には、とうとう華琳さま再始動って感じですね。
次のお話も桂花さん、一刀くん、華琳さまの3人のターンの予定です。
そんな感じのお話ですが、今回もご覧いただき、ありがとうございました。
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またもお久しぶりです。
やっと14話目が出来ました。
今回こそは、キャラ崩壊な可能性大です。
あえて、そのタグはつけませんが、もし不快に思った方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
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