北の烏桓賊を撃破し長城から追い出した霞たちは無事に帰還し、華琳は天子様を奉戴する為洛陽へ入っていた
俺と言えば帰還した稟を無理やり華佗の元へと連れて行き、診察を強制させていた
連れて行くまで鼻血は出すわ「自分には必要が無いと」駄々をこねるわで大変だったが
尻を叩く振りを見せると顔を青くして汗をたらしおとなしく着いてきた
ちょっとかわいそうなことをしたと反省した。あれはトラウマになっているんだろうな
「はぁ、ありがとうございました昭殿。まさかこの身にあのようなおぞましいものが巣食っていようとは」
「いいさ、北の風土病については聞いたことがあるからな。稟と風はあまり北のほうまで脚を伸ばしてはいなかったのだろう?」
「そうですねー、あまり北に行っても防寒服や食料と路銀が掛かるばかりですから」
やはり思っていた通り稟の身体には寄生虫が巣食っていたようだ、華佗に話をしていたので治療法は確立していたが
もし治療を受けていなければと思うとぞっとしてしまった。後で遠征に出た兵達にも検査を受けさせたほうがよさそうだ
そんなことを考えながら三人で城の中庭にと差し掛かったところで不思議な光景を目の当たりにした
庭に大量の枝が落ちているのだ、何故こんなに大量の枝が?と思い一つ手にとって見るとそれは剣の形をしていて
「おおー!来たか昭、まっとったでー!」
「霞、どうしたんだこんなに大量の木剣」
大量の木剣の中で埋もれる霞に声をかけると隣からもそもそと真桜が這い出してきた。何故木剣の下で
寝てるんだ?
「おっそいでー隊長、待ちくたびれて寝てもうた」
「お待ちしておりました隊長」
「もう木を削るのはいやなの~」
真桜の近くから木剣をどかして凪たちが顔を出す。昼間っから何をしてるんだ?寝てた?意味がわからんぞ?
「姐さんに頼まれて昨日の夕方からず~っと木剣を作ってたんや」
「なんでそんなことを?」
「もちろん、戦う為や!昭とウチがな」
霞はニヒヒと笑うと俺に木で作った偃月刀を俺に向けてくる。おいおい冗談はよしてくれ、なんで
俺が戦わなくてはいけないんだ?そもそも霞に俺が勝てるわけ・・・・・・あ!
「そうや!気がついたようやな、昭のためにわざわざ木剣なんぞこんなに作ったんや」
どうやら俺と戦いたくて昨日の夕方から今日の昼まで木剣を作り続けていたようだ、仕事をちゃんとしてきたのか
コイツラは
「・・・はぁ・・・あのな、俺の舞は秋蘭の為に作ったものだ、だからそんな事の為には・・・」
「あら、いいじゃない」
聞きなれた声に振り向くとそこには華琳が面白そうなものを見つけたといわんばかりに満面の笑顔で
こちらを見ている。後ろには春蘭、秋蘭を引き連れて、天子様の下からもう帰ってきたのか
「手合わせぐらいしてあげたら?そのためにこれほどの木剣を作ったんだから」
「おいおい、俺の舞は・・・」
「大丈夫よ、秋蘭もいいでしょう?木剣なら腕を傷つけることも無いし、それに体の具合も良くなったと華佗から聞いたわ」
秋蘭は俺のところに歩み寄るとにこやかに笑って俺の腕を握ってきた、構わないぞということか?
仕方ないな、ここまで期待されているんだ少しは付き合ってやらないと
「隊長、これもつけて」
「これは手甲か?皮で作ったのか」
「そうや隊長、思ったんやけどあの舞をするとき手甲をつければ手は怪我しないんと違うの?」
「いや、手甲を着けていると変な方向に剣が跳ね上がるんだ、それに皮の手甲が裂けると引っかかるし
鉄の手甲だと余計に変な方向に飛んでいくし腕が重くってな」
そういうと渡された手甲を着けて木剣を三本ほど試に宙に舞わせて見る。木剣はリフティングされているボールのように
腕や手、甲に跳ね上げられ宙をクルクルと回る。悪くはないな、木剣ならこれでも十分やれそうだ
「色々と試した結果が包帯と言うわけですか」
「そういうことだ、よっと」
舞わせた木剣を空中で四本一気に掴むと地面に投げつけ突き立てた。さらに脚で舞い上げ五本、十本、二十本
あっという間に出来る剣の草原その様子を見て闘志を燃やす霞と凪・・・・・・凪!?
「おいおい、凪もか?」
「はい、是非本気の隊長と手合わせをしたいので」
「しかたないな・・・っと」
ザクザクと地面に向かって更に木剣を投げつけ突き立てていく、凪は俺の返事とその光景を見てますます
闘志を燃やし、手には気が集中し始める。危ないなぁ・・・と思い後ろを向けば華琳たちは安全なところまで下がっていた
さすがだな、春蘭と秋蘭が下がらせたか。風達も一緒に下がったようだし問題ないな
「惇ちゃんもどうや?三人以上の方が良えみたいやし、こういうの好きやろ?」
「いや遠慮しておく、先に言っておくがお前達二人では絶対に勝てんぞ」
「なんやて?いくら惇ちゃんでも聞き捨てならんな、確かに恋と比べたら劣るかもしれんけどウチかて神速と呼ばれて
るんや!」
「そういう意味ではないのだがな、まぁやってみれば解るだろう」
俺はそんなやり取りを聞きながら腰の剣を鞘ごと抜き取り秋蘭に投げて渡す、さすがに刀二振りと名剣二振りを
使うわけにもいかないし、代わりに腰紐に木剣を六本挿して二人に対峙した
「さぁ・・・・・・やろうか」
「お願いします」
「手加減せんで!」
男は地面から二本木剣を抜き取りだらりと腕から力を抜くと、ゆっくりと息を吸い込んだ
「演舞壱式、戦神」
フラリと倒れ込むようにして滑り込み一気に二人との距離を詰ながら脚で木剣を舞い上げていく
あっという間に二人の目の前には数本の木剣がくるくると弧を描き舞い上がった
「はぁっ!」
凪の目の前に滑り込んだ男にカウンターを合わせるように顔面に正拳突きを放つと
男は更に姿勢を低くして地面を舐めるように足元に剣を横薙ぎに合わせてくる
「くっ!」
凪はとっさに飛び上がり回避すると、男の手は完全に薙ぎ払わず途中で止まり、手首を返すと空中の凪に目掛け
木剣を投げる、空中で逃げ場を失った凪は何とか手甲で目を狙い飛んできた木剣を防ぐといつの間にか男の姿は
消えていた
「なっ!どこにっ」
男は手甲で防ぎ視界が塞がれた瞬間、身体を回転させ凪の真横へと移動していた
「ここやっ、もろうたでっ!」
真横に移動した男に霞の偃月刀が頭上から襲い掛かるが目の前にはすでに木剣が・・・
回転と同時に霞の動きを見切り、顔に目掛け宙に舞う木剣を飛ばしてあったのだ
「うっ!このっ!」
何とか飛んでくる数本の木剣を避け、打ち落とすといつの間にか真正面に立った男に偃月刀をつかまれていた
「ちぃっ!邪魔やっ!つかむなあああぁぁぁ!!」
振り放そうとしたとき男の口から「解った、放すよ」と聞こえた瞬間、男の姿が消え男のいた場所から凪の蹴りが
霞に向かい放たれ、 霞の偃月刀は振り放そうとした勢いのまま凪を襲う
「霞様っ!くぅっ!」
凪の蹴りと霞の偃月刀がぶつかり合い二人の動きが止まるといつの間にか地面に寝そべっていた男から
剣が二人に放たれ二人はそれをはじく
カァンッ!!
男は二人の動きが止まるなり、飛び起きて二人から距離を開けると同時に宙に浮いた剣を更に撃ち飛ばし
矢のような剣の雨に二人の動きは釘付けにされてしまう
「こうなったら凪、武器を破壊するで!」
「はいっ!」
二人は飛んでくる木剣を破壊し始めると男は剣を打ち出すのをやめてしまう
「よっしゃ!自分で作ったものを壊すんは嫌な気持ちがするがしゃあない!」
「はぁっ!!!」
更に二人は回りに刺さる木剣を壊し始める、すると男はニヤリと笑うと壊された破片を撃ち飛ばしてきた
「なにっ!話と違うやんかっ!昭は武器を壊されると駄目なんと違うんかっ!」
「誰に聞いたか知らないが、確かに全部やられたら駄目だ。だがまだまだ残っているし、破片は有効に使うさ」
更に細かい破片が襲い掛かり、辛抱の出来なくなった凪は拳に気をため気弾で一気に男への道を切り開こうする
「はぁぁぁぁぁっ!・・・なっ!うっ!」
「ためが長いんだよ凪の気弾は」
気を溜めることで動きの止まった凪に一瞬で間合いを詰めた男は腕を掴むと背後に回り、腰の木剣を抜くと首に押し当てた
「一人目」
「うぅ、申し訳ありません霞様」
「凪っ!くそ、なんちゅう動きするねん!」
男は凪を放すと後ろにとび、脚で跳ね上げた剣を更に空高く跳ね上げると、刺さる木剣に脚をかけて霞の頭上高くから
木剣を飛ばし、最後には男自身が霞に切りかかった
「なんやっ!全然ウチにあたっとらんぞ!ヘタクソが!」
飛ばした木剣は霞の周りに刺さり、男の剣撃を防いだ霞は余裕の顔で反撃にでようとしたが男の口がゆっくりと釣りあがり笑みを浮かべると
「演舞弐式、剣帝」
男の体が捻られ、左右からの剣撃が襲い掛かる。脚を小刻みに動かし、右左と小さくステップを繰り返す
左右の剣撃は横薙ぎに加えて横からの突きまで入り、霞はあまりの手数に捌くのがおいつかなくなっていく
「なっ、なっ!こ、これはっ!」
さすがにこのままではまずいと思ったのか後ろに飛びのこうとしたが、後ろには先ほど飛ばした木剣が行く手を塞ぐように
立ち並び、いつの間にか霞は剣の檻に閉じ込められていた
「うああああああああああああああ!!!!!!」
男の叫び声と共に防いでいた偃月刀がガリガリといやな音を立てて削られていく、逃げる 場も無く木剣であるのに
あまりの暴風のような剣撃になすすべなく手を放すと偃月刀は宙で固定されたまま剣撃を受け続けた
「霞っ!」
「惇ちゃん!」
急に霞の後ろから声が聞こえたかと思うと春蘭が背後の木剣を払いのけ霞を掴みその場から引きずり出していた
少し離れたところまで引きずられていく霞の目にはその場に留まり剣を打ち続ける男の姿があった
「ふぅ、昭め剣帝まで出す事はなかろう」
「な、なんなんあれ!聞いていた話と違うやんっ!!」
「当たり前だ、あの時の話で舞はまだ未完成だと言っただろう、あれから昭の舞がどれだけ増えていると思っているんだ」
「あ・・・・・・そういえばそんなこと言っとった」
「しかし剣帝とは随分と二人の為にしてやったものだ」
「剣帝・・・」そう呟きながら霞が視線を男に戻すと男の動きは止まり、偃月刀は地面に落ちると木で叩かれたと思えないほど
ボロボロになり折れてしまった。それを見て霞と凪は青ざめてしまう
「昭、大丈夫か?」
「ヒュー、ヒュー・・・あ、ああ・・・ヒュー・・・ヒュー」
「ふむ、本気でやったわけではないから大丈夫そうだな」
「本気じゃないってっ!!!あれでかっ!!」
「そうだ、本気でやったら前に話したように腕がどうなるか解らん」
そういうと華琳のそばで見ていた秋蘭が走り出して男の身体を支えると、心配そうな顔をして腕の包帯を取り
男の腕を確認し始めた
「馬鹿者、剣帝を使うなど」
「ご、ごめん・・・はぁっはぁっ・・・どこまで、出来るか・・・試したかった」
「あまり心配させないでくれ」
秋蘭は悲しそうに目を伏せると男は申し訳なさそうに秋蘭を抱きよせて「ごめん」と一言
「確かにありゃ無理や、剣帝っての使う前は何とかいけそうやったけどな。ただ戦場では使えんな
なんたって動けないし使った後はあれやろ?」
「そうだ、疲れきって動けんからな。しかし勝てないと言うのはそういう意味ではないし剣帝を使わずとも
昭は勝てた、凪がそうだったろう?」
「わからん、どういう意味や?」
「私が教えてあげるわ」
近くで話を聞いていた華琳はにこりと笑いそういうと、落ちている木剣を風に渡し息の落ち着いた男を手招きで呼び寄せた
「はぁ・・・やっぱり疲れるなあれは」
「次は風と戦いなさい、ただし舞は使用禁止、木剣も一本だけよ」
華琳の言葉に華琳と春蘭、秋蘭以外が驚き声を上げた、木剣を渡された風は何か少し考えると華琳の考えを
察したようで男に剣を構える、その構えは人目で素人と解り握る手も両手で順手ではなく逆手で頭の上に振りかざしているだけ
「おやめなさい風!たとえ舞を使わなくとも貴方が昭殿に敵うはずが無いでしょう!」
「大丈夫よ稟、昭も良いわね?」
「華琳さまっ!?」
みなは風を心配して華琳に何かを言おうとしたが華琳は一切聞き入れないと言った空気を出してしまう
当の風はと言うとボーっと男の方に剣を構えて?いるだけであった
「それでは、はじめっ!」
華琳の無情ともいえる開始の声が響くと風は一生懸命木剣を持って突進していく
「やー!」
テクテクテクテク
走っているのか歩いているのか解らない突進をしてくる風に男は剣を構え
困惑しているよな顔になり接近している風に対して微動だにしない
「う、ううううぅぅぅぅ~」
ぽくっ
「いたっ!」
唸り声を上げながらそのまま動かず風の木剣を頭から受けるとその場に頭を抱えてうずくまってしまう
「・・・・・・はぁ?」
霞はその光景を見て盛大に首を捻り、何してるんだ?遊んでいるのか?と言わんばかりである
しかし男は相変わらず風の攻撃を避けるどころか、まったく見当違いのところを防ごうとしたり
攻撃したりで一方的に叩かれるだけとなっていた
「ふむふむなるほど、やはりそうだったのですか」
「ど、どういうことです風」
「お兄さんは一度戦う姿を見た相手じゃないとうまく戦えないようですね」
「そうよ、それと真名に風を持つものは慧眼で性格も癖も見抜けないから攻撃が予測できないのよ。
脚の動きと予測した動きが一致しなくて混乱していたでしょう」
そういうと華琳は男が風にいいように攻撃されたボロボロの姿を見て笑っていた。始めからこの姿を
見たくて風と無理やり戦わせたようで、男はその意図が解っていたのか不満顔を華琳に返した
「ふっふっふ、にいちゃん俺様の剣を受けてまだ生きていられるとはなかなかだな、だが次はどうかな?」
「ぐはっ!」
くっそ、風め!俺が避けられないと解って調子に乗ってきたな。いくら武の才能が無いからって風に負けるなんて
一撃ぐらいは返さないと
「どこを狙っているんだ兄ちゃん、そんなんじゃ俺様にかすりもしないぜ」
「ううぅ~!」
ぶんぶんと剣を振り回すがさっきと別人のように動きが悪く、風の剣を受け続け最後は
体力を使いきったのか地面に寝そべってしまった
「宝譿に馬鹿にされた。というか勝てないよ」
「おおー!風の完全勝利なのですよ」
風はよほど嬉しかったのだろう両腕を上げて喜んでいた。無理も無い、文官が武官?に勝てることなど
無いのが当然。しかも相手は蜀の将四人を翻弄した相手なのだから
「そんなあほな・・・・・・なぁ惇ちゃん、もしかして恋たちの動きって」
「そうだ、反董卓連合でずっと見ていたからな、多少の変化はあっても修正するのに時間はかからんだろう」
「てことはウチら魏の武官は誰も昭に勝てへんのに文官は昭に勝てるし風はずっと勝てるってことか?」
春蘭が頷くと霞はなんともいえないといった感じで溜息を吐く、なんと極端で使えない舞なのだろうかと
地面に寝そべる男の側に秋蘭が歩み寄り、頭の横に座ると静かに自分の膝の上に乗せた
「痛かったか?」
「大丈夫、風はそれほど力があるわけじゃないからな。ところで華琳、天子様はどうなった?」
「ええ、無事奉戴に成功したわよ。桂花の進言通りに月と詠を連れて行ったし、後で昭の舞を見せると
約束したからすんなりと承諾してくれたわ」
元々天子様たちを守っていた月達だ、話を進めるためにも連れて行った事は正解だったな
さすがは桂花だ。いよいよ俺たちは西涼の馬騰と戦うことになる、天子様を奉戴したことを
黙ってみていられるわけが無い、また戦が始まるか・・・・・・
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戦前天子様奉戴終了です
次からは戦に向けて準備をしていきます
進みはゆっくりですが許してください
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