No.132901

真・恋姫†無双 頑張れ一刀くん その7

虎牢関です( ゚∀゚)o彡°

明命は好評?だったようでwww

拠点っていりますー?

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2010-03-28 22:12:58 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:23953   閲覧ユーザー数:17349

 

汜水関で大活躍した孫策軍と劉備軍は後方に回されることになり、袁紹軍と曹操軍が先鋒をとることになった。

 

 

虎牢関には董卓の懐刀の軍師賈駆、そして飛将軍と呼ばれる呂布が控えており、それに加えて汜水関から落ち延びた張遼と華雄もいるので苦戦は必至だ。

 

 

その点では良かったのだが雪蓮たちにとって袁術軍が無傷なのは面白くなかった。

 

 

軍議で袁術軍を消耗させる策を考えるが、自分たちよりさらに後方の袁術軍を傷付ける策などそう簡単には浮かばない。

 

 

「……一刀。何か良い考えある?」

 

 

雪蓮に問われた一刀は、考えていた策を提案してみた。

 

 

その策とは、虎牢関を攻める袁紹軍と曹操軍の陣に割って入り、途中で大崩れをしたフリをして敗走する。そして追撃してきた敵を袁術の軍まで引っ張って行くというものだ。

 

 

危険な策だが、後方で高みの見物を決め込んでいる袁術軍を戦いの部隊に引きずりだすには現状ではそれしかないと言ったところだ。

 

 

「じゃあそれでいきましょう」

 

 

自分で出した策ながら採用されるとは思っていなかった一刀は驚嘆した。

 

 

しかし他に策がない以上仕方なかった。

 

 

「大丈夫。軍の指揮は上手くやってみせるから。一刀は後ろでうまくいくように祈ってて♪」

 

 

そう言って雪蓮は一刀の頭を撫でるが、一刀がその言葉を鵜呑みにして後ろに下がることができるはずがなかった。

 

 

一刀は責任感の強い子だった。

 

 

 

 

「……いや。俺も出るよ」

 

 

一刀がそう言うと雪蓮たちは驚いた。

 

 

「戦場に出るよ。……責任をとらなくちゃいけないからな」

 

 

目の前の結果から目を逸らさずに最後まで共に闘うことを願う一刀。

 

 

「……危険だぞ?」

 

「承知の上さ。……危険と分かっている策を発案して、自分だけ安全な後方にいるってのは……なんか違う気がするからさ」

 

 

冥琳の言葉にも臆せず答える一刀。この世界に来て一刀は精神的に大きな成長をしていた。

 

 

「正直、足手まといになるのだが? ……まあ私が守るがな」

 

 

最後の方は誰にも聞きとれない声で呟く思春。

 

 

「うっ。……それも分かっているつもりだけど」

 

 

「いいじゃない。男らしくて私は好きよ♪ 明命。一刀を守ってあげて」

 

 

「御意! 一刀様。よろしくお願いします」

 

 

笑顔で了承する明命に何故か体がぶるっと震える一刀だった。

 

 

「よし。それじゃあ作戦も決まったし。時機を見て割り込んでいきましょうか」

 

 

その言葉と同時に前線に張り付いていた斥候が帰ってきた。

 

 

袁紹軍と曹操軍が虎牢関に攻撃を開始したとの報せだった。

 

 

そして雪蓮たちも作戦を開始した。

 

 

 

前線の曹操軍は袁紹軍との連携がとれるはずもなく攻めあぐねていた。そこに伝令の兵士が駆け込んできた。

 

 

「申し上げます! 後方より砂塵! 旗印には孫一文字!」

 

「孫策の部隊だと? 奴ら、後方で待機していたはずではないのか」

 

 

いち早く反応したのは春蘭だ。

 

「……あの勢いから見るに、こちらの戦場に乱入するつもりじゃないかしら」

 

 

冷静に判断する猫耳フードは筍彧。真名を桂花という軍師だ。

 

 

「乱入、か。……なるほどね」

 

 

雪蓮たちの行動の意味を素早く察知した華琳。軍師である桂花より先に気付くのはさすがは曹操と言ったところであろう。

 

 

「孫策たちが今一番排除したがっている人間は?」

 

 

華琳が言ったこのヒントで桂花と秋蘭も気付くが、春蘭はちんぷんかんぷんだった。

 

 

曹操軍は雪蓮たちの策に乗じることにし、軍を動かし始めた。

 

 

 

孫策軍が乱入したという報せは、袁紹軍にも入ってきていた。

 

 

しかし袁紹軍には雪蓮たちの狙いに気づく者がいなかったので総大将である袁紹を後ろに下がらせるだけに止まった。

 

 

 

曹操軍の動きを見ていた雪蓮たちは改めて、曹操の恐ろしさを認識した。

 

 

 

 

 

「連合軍後方に砂塵あり! どうやら後曲の部隊が進出してきたようです!」

 

 

雪蓮たちの動きは董卓軍側にも報せが入っていた。

 

これを見た董卓軍の兵士は今が好機だと赤髪の少女、呂布にとその横に侍る軍師、陳宮に進言する。

 

 

「……ちんきゅ」

 

ボソッと小さな声で陳宮に呼び掛ける呂布。

 

「ここにおりますぞ!」

 

「……出る」

 

 

呂布も何かを感じ取ったのか、出撃することとなった。

 

 

「呂布将軍ご出陣! 深紅の呂旗をあげますぞー!」

 

 

おおおおーーーーーーーーーーーーーーっ!

 

 

天下無双の呂布が出陣することにより、兵たちの士気はあっという間に最高潮に達する。

 

 

 

 

しかしその報告を聞いた筆頭軍師の賈駆と神速の張遼はあきれ果てていた。

 

 

「アカン……こりゃ汜水関の二の舞になる。……なんでウチらの陣営には猪しかおらんのや……」

 

 

それに追い打ちをかけるように凶報が舞い込んできた。

 

「申し上げます! 呂布将軍に続き、華雄将軍も討って出られました!」

 

「ああもう! 霞!」

 

霞とは張遼の真名である。

 

賈駆は自分の思い通りにいかないことにはがゆい思いをしていたが、今できる策を張遼に伝える。

 

 

今、二人を失えば董卓軍は瓦解してしまうので、助けざるを得ない。

 

 

「手綱が甘かったのはボクの責任。……だけど霞。ボクを助けて」

 

「分かっとる。……やったるわい!」

 

「ありがとう。……総員戦闘準備! 城門から討って出て、敵を押し返すわよ!」

 

 

 

こうして董卓軍は、虎牢関でも全軍が討って出ることになってしまった。

 

 

 

「城門が開きました! 旗印は漆黒の華一文字! その横には深紅の呂旗です!」

 

 

敵軍が討って出てきたことを確信した雪蓮は素早く指示を出す。

 

 

全軍を反転させ後退を始めた孫策軍に次いで曹操軍も反転し、袁紹軍に殿を任せて後退を始めた。

 

 

孫策軍と曹操軍が後退すると袁紹軍は浮足立った。

 

 

「文ちゃん! 孫策さんと曹操さんの部隊が反転している!」

 

「うっそ!? このままじゃあたいらが殿になっちまうじゃん!」

 

 

最悪だと嘆く袁紹軍の将、顔良と文醜にさらなる報せが舞い込んでくる。

 

 

それは賈駆隊と張遼隊も出撃してきたという報告だ。

 

 

さらに危機感を募らせる袁紹軍も退却を始めた。

 

 

これを好機と見た、呂布隊と華雄隊は追撃を始めた。

 

 

 

 

 

「ゆゆゆゆゆ、揺れる~~~~!」

 

 

退却する一刀は明命の馬に二人乗りをしている。

 

 

「ち、力が入らなくなってきた」

 

 

激しく揺れる馬上で後ろから明命にしがみついている一刀の腕は限界に近かった。

 

 

「頑張ってください一刀様!」

 

 

明命はそんな一刀をもふもふしたい衝動に駆られながらも必死に一刀を励ます。

 

 

 

なぜ前に乗らないのかと言うと、明命はそこまで馬を操ることに長けていないので前にいられると非常に邪魔になってしまうからだ。なので一刀は後ろに乗り、明命は手綱を握ることに集中したのだ。

 

 

しかしそれが仇となった。

 

 

混戦の中を退却する一刀の腕を矢がかすめた。すでに限界に達していた一刀は明命から手を離し、地面に投げ出されてしまった。

 

 

幸い、隊列の端に位置していたので後続馬に轢かれることはなかった一刀。

 

 

「一刀様!」

 

 

明命は馬ごと戻れば隊列が乱れ、最悪の場合、軍が瓦解してしまうので馬から飛び降りて一刀を助けに行こうとする。

 

 

馬に片足を掛け、飛び降りようとした明命はわずかに聞こえた声に反応しそれを中止した。

 

 

明命の耳には確かに届いた。

 

 

先に行け。という一刀の声を。

 

 

 

「かずっ、とさま……!」

 

明命は涙を堪えて馬を走らせた。

 

 

 

「なんとか大きな怪我しなかったけど、早くこの場から立ち去らないと」

 

 

一刀は落馬した時、咄嗟に受け身をとり怪我を最小限に抑えていた。

 

 

しかしここは戦場。追撃してくる呂布隊と華雄隊は目と鼻の先。

 

 

一刀は立ち上がり、どこかに逃げようとするがそれは叶わなかった。

 

 

華雄隊が一刀を発見したからだ。先頭にいた華雄は隊を止まらせ、自らは馬から降りて一刀のまえに立ちはだかった。

 

 

「貴様は孫策と居た子供だな! よくも我が誇りを傷つけてくれたな!」

 

「い、いやぁ。あの時の事は悪いと思っている。今は反省している」

 

 

逃げるのは無理だと判断した一刀は説得を試みた。説得する気があるのか分からないような内容であったが……。

 

 

「まあいい! ここで貴様の頸を飛ばし、孫策への手土産としてやろう!」

 

「お、お土産ならお酒とかが喜ぶと思うよ!?」

 

 

もはや何を言っているか分からなくなってきた一刀。

 

 

「お喋りはここまでだ。せめて楽に殺してやる」

 

 

華雄は自らの武器、金剛爆斧を振り上げた。

 

 

そこで一刀は瞑目した。

 

 

(もうダメだ。天の国の父さん、母さん、じいちゃん、ついでに及川ごめんよ。雪蓮、蓮華、冥琳、祭さん、穏、思春、明命、孫呉の独立が見れないのは残念だけど今まで楽しかったよ。……雪蓮、こんな俺を拾ってくれてありがとう。……我が生涯に一片の悔いなし!)

 

 

心の中で一刀は今までお世話になった人たちにお礼を言った。

 

 

そして無情にも華雄は一刀めがけて金剛爆斧を振り下ろした。

 

 

 

 

「……か、ずと?」

 

 

一刀の声が聞こえたような気がした雪蓮は、今一刀がいるはずであろう方向を見つめた。

 

 

「……気のせいか」

 

 

空耳かと思い気にしないことにした。

 

 

 

来るはずの衝撃の代わりに、金属同士がぶつかり合う音を聞いた一刀は目を開いた。

 

 

そこにいたのは、

 

 

「な、なぜ邪魔をする呂布!」

 

 

天下の飛将軍、呂布が一刀を守るように立っていた。

 

 

「……戦えない子供を攻撃するのは卑怯者」

 

 

なんだかよく分からないが、今自分が生きているのは子供の姿だからであるからだと理解した一刀は、子供の姿になったことに感謝した。

 

 

「その子供は私の誇りを傷つけ、しかも私の宿敵孫家に与する人間だ! だから子供であろうと容赦はしない!」

 

 

私怨で戦う華雄に対し、呂布は一刀の前から動かない。

 

 

「……そんなの関係ない。…………それでも攻撃するなら――」

 

 

 

呂布は金剛爆斧を抑えつけていた武器、方天画戟を構えた。

 

 

「恋が相手になる……!」

 

 

恋とは呂布の真名。

 

 

恋からにじみ出る殺気に気圧され華雄は怯む。

 

 

「……ちっ! 華雄隊は孫策軍を追撃する! 我が旗に続けぇ!」

 

 

諦めた華雄は馬に乗り、追撃を再開した。

 

 

 

 

 

「い、生きてた……」

 

 

力が抜けた一刀は思わず力が抜け、座り込んだ。

 

 

「……大丈夫?」

 

「へっ? あ、ああ大丈夫。怪我はたいしたことないよ」

 

 

いきなり声をかけられハッとした一刀であったが心配されていると気付くとすぐさま返事を返した。

 

 

「……よかった」

 

 

優しく微笑む恋に、一刀はこれがあの天下無双の呂布だとは到底思えなかった。

 

 

「……ここ危ない」

 

 

断片的にしか話さない恋だが一刀は何とかその意思を汲み取る。

 

 

「そ、そうだね。…………ってうおぉぉぉお!!?」

 

 

いきなり一刀を抱きかかえ馬に乗る恋。そして部隊に指示を出した。

 

 

「……退く」

 

馬の扱いに長けた恋は一刀を自分の前に乗せ、虎牢関へと退いて行った。

 

 

「な、なんでぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!?」

 

「~~~~♪」

 

叫ぶ一刀とは対照的にご機嫌な恋だった。

 

 

 

 

「申し上げます! 深紅の呂旗が虎牢関へと退却を始めました!」

 

 

その報告を聞いた雪蓮たちは、なぜ呂布が退いたのか疑問だった。その理由が一刀だとは知る由もなかったのだが。

 

 

「呂布が退却……。冥琳、わかる?」

 

「いや。分からないが華雄隊は追撃しているので問題はないだろう。……雪蓮。頼んだわよ」

 

 

冥琳がそう言うと、雪蓮は素早く指示を出した。

 

 

部隊を反転させ、袁術軍を盾にしつつ敵を分断し華雄隊に横撃をかけるというものだ。

 

 

 

 

そこで明命が戻ってくる。

 

悲痛な表情で表れた明命を見て雪蓮は一刀に何かあったと察する。

 

 

「退却中、一本の矢が一刀様の腕をかすめました。そしてそのまま投げ出され現在は行方不明。この周幼平、何の申し開きもありません! どうか罰をお与えください!」

 

 

すべて自分の責任だと言う明命に思春が食ってかかる。

 

 

「貴様が付いていてどうしてこうなる! 一体何をしていたのだ!」

 

 

なおも怒声を飛ばす思春を雪蓮が止める。

 

 

「思春やめなさい」

 

「し、しかし……。申し訳ございません。出過ぎたまねを……」

 

 

雪蓮の鋭い視線に怯み、後ろに下がった。

 

 

「明命」

 

「はっ!」

 

「一刀は何か言ってた?」

 

「は、はい! 『先に行け』と仰っていました」

 

 

それを聞いた雪蓮の表情は笑顔に変わる。

 

 

「先に行け、か……。ならば明命。今回の罰は今から行う華雄隊への攻撃の時に償うようにしなさい」

 

「し、しかしそれでは……」

 

それでは自分が納得いかないと言う明命。

 

「大丈夫よ。一刀は必ず戻って来るわ。だから明命。あなたは今できることを全力でやりなさい。それが一刀のためよ」

 

「は、はいっ!」

 

一刀のためと聞いて無理やり自分に言い聞かせた。

 

 

「それはいつもの勘か?」

 

親友の冥琳が雪蓮に尋ねると、

 

「そうよ♪」

 

当たり前だと言わんばかりの答えにヤレヤレと首を振り、教え子の策を成功させるために気合いを入れた。

 

「幼平! 聞いての通り今から華雄隊に横撃を仕掛ける。部隊を率いて出陣しろ!」

 

「御意!」

 

 

 

 

 

 

「くそ! 私がついていればよかった……!」

 

思春の呟きは誰にも聞こえない。

 

 

 

 

 

もちろん戦いはここだけではない。呂布隊は退却したものの、張遼隊は袁紹軍と曹操軍、賈駆隊は劉備軍、そして華雄隊は孫策軍と袁術軍で交戦を始めた。

 

 

 

浮足立っている袁術軍を次々に削って行く華雄隊。しかし孫策軍に横撃を掛けられ兵士の数はみるみる減っていった。中でも明命の活躍は目覚ましく、何人もの兵をあの世に送った。

 

 

そんな中、華雄は雪蓮だけを探していた。そして、兵を指揮しながら自らも敵を減らしていく雪蓮を見つけた。

 

 

「見つけたぞ孫策! 子供は殺し損ねたが、お前は私が葬ってやる!」

 

 

子供と聞いて、雪蓮の体がピクっとなる。大丈夫とは口で言ってもやはり一刀のことが心配であった。

 

「一刀は生きてるの?」

 

「ああ。寸前で呂布に止められなければ貴様への手土産になっていたところだったがな!」

 

 

一刀が生きていると知りホッとするが、殺されかけたと言うのは聞き捨てならなかった。

 

 

雪蓮は普段見せないような冷たい目をして、華雄と向き合う。

 

 

将同士の一騎打ちを邪魔しまいと兵は近づかない。

 

 

先に動いたのは華雄だ。

 

 

「私の武を貶したことを、あの世で悔しがれ!」

 

 

金剛爆斧を横薙ぎに放つが雪蓮は後ろに下がり、軽くかわした。

 

 

「くっ」

 

「殺してあげる!」

 

 

雪蓮は殺気と共に南海覇王で華雄に斬りかかった。華雄はそれを受け止めるが、凄まじい威力に押され大きく後ろに吹っ飛ばされてしまった。

 

 

華雄は兵士の頭上を越え運悪くそこにあった岩に頭をぶつけ、意識を失った。

 

 

雪蓮は兵たちで見えなくなった華雄に追撃をしなかった。

 

 

華雄を失った部隊は投降する者や、逃げ出す者が続出し、完全に崩壊した。

 

 

 

 

「恋殿~~~~!」

 

虎牢関にて恋を迎えたのは陳宮。真名を音々音という。言いにくいので「ねね」と呼ばれることが多い。

 

「なぜなにもせず帰ってきたのですか?」

 

「……拾った」

 

ねねの質問に恋は一刀を抱っこしまま答えた。一刀は、俺はモノか! と叫びたかったが今は胸に留めた。

 

 

「だ、誰ですかその子供は?」

 

 

一刀が口を開こうとすると兵から情報が入った。

 

 

「賈駆様ご帰還です!」

 

 

賈駆、真名は詠という。

 

 

詠は戻ってくると兵からの報告を聞きながら恋たちのいる部屋に向かった。

 

 

「ちょっと恋! 勝手に飛び出して何もしないでーーーーってその子供は誰?」

 

「……………………わからない」

 

扉を開けるや否や怒鳴り散らす詠だが、恋に抱っこされた謎の少年を見て思わず突っ込んだ。分からないと答える恋にずっこけそうになる詠だった。

 

 

そして一旦落ち着いてから自己紹介をすることになった。

 

 

「っで、あんたは誰なの?」

 

 

落ち着いた詠は、一刀を椅子に座らせて質問をする。

 

 

「俺は、北郷 一刀。天の御遣いって言われてる者だよ」

 

 

一刀は正体を明かすか迷ったが、命の恩人に対して正体を隠すのは嫌だった。

 

 

天の御遣いと聞いて、詠とねねが驚く。恋はよく分からないようだった。

 

 

「本当にアンタみたいな子供が天の御遣いなの?」

 

「ああ。今は証明するモノは持ってないけど嘘はつかないよ」

 

 

詠は堂々と受け答えする一刀を見て、天の御遣いかは分からないが、少なくともただの子供でないと判断した。

 

 

「じゃあ次の質問。なぜ天の御遣いのアンタがここにいるの?」

 

 

一刀はチラッと恋を見てから答える。

 

 

「落馬した俺が華雄に殺されそうになっていたところを、そこにいる呂布さんに助けられてそのまま連れて来られたんだ。あの時はありがとう呂布さん」

 

 

詠はこんな子供を殺そうとする華雄に呆れ、恋に真偽を確かめる。

 

 

「…………(コクコク)」

 

 

頷く恋を見て嘘は言っていないと分かる。

 

 

「さすが恋殿! 強さだけでなく優しさも天下無双ですぞ!」

 

 

よく分からないねねの言葉が部屋に響いていた。

 

 

 

 

「こっちも質問していいかな?」

 

「……いいわよ」

 

 

詠から許可が出ると、一刀は反董卓連合の檄文が各地に出回っていたころから疑問に思っていたことを質問した。

 

 

「董卓さんって本当に洛陽で暴政をしているの?」

 

 

元々、檄文が届くまで洛陽で暴政をしているという噂などは全く聞いたことがなかった。一刀の知る歴史上の董卓は確かに暴政をしていたが、この世界の董卓もそうとは限らない。それに一刀を助けた恋がそんなひどい人物の下にいるとは考えられなかった。もし暴政を行っていなかったのなら偽善かもしれないが一刀は董卓を助けたかったのである。

 

 

そしてそれは、詠たちによって完全に否定された。

 

 

「月がそんなことするわけないでしょっ! 権力争いに巻き込まれて知らないうちにこんなことになってたのよ!」

 

「月は悪くない……!」

 

「そうですぞ! 袁紹の馬鹿が月殿に嫉妬したせいで悪者にされてしまったのですぞ!」

 

 

異口同音に言葉を並べる三人を見た一刀は、董卓が暴政をしていないと確信した。そして一刀は自分の気持ちを素直に話した。

 

 

「俺は、君たちを助けたい!」

 

 

それを聞いた詠は詰め寄る。

 

 

「今さらどうやって助けるって言うのよ! 霞は曹操軍に投降してしまったし、華雄も行方不明になった。それに兵だって半分以下になったのよ!」

 

 

詠は報告で張遼隊が曹操軍に投降したことを聞いた。華雄は討ち取られたという報告は聞いていないが華雄隊は瓦解し、華雄はここには戻ってきていなかった。そんな絶望的な状況では助かるわけないと思っていた。  

 

 

だが一刀は、

 

 

「策はある」

 

 

と言った。

 

「でも、少し賭けになる部分もあるから絶対とは言えない」

 

 

自信なさそうな一刀だがそれに賛同する者もいた。

 

 

「……恋は一刀信じる」

 

「呂布さん……」

 

「……恋でいい」

 

恋があっさりと真名を許すと、陳宮も恋が許すなら自分も許すと言って真名を預けた。

 

 

「ちょ、アンタたち! そんな簡単に真名を許すなんて……」

 

「……一刀の目、嘘言ってない。……だから信じる」

 

「ねねは、恋殿言うことを信じますぞ!」

 

 

完全に一刀を信じきっている恋とそれに従うねね。その二人に気圧され、詠は諦めたような声を出す。

 

 

「ああもう! 分かったわよ! ボクの名前は詠。真名を預けたんだから絶対助けなさいよ!」

 

 

そんな三人を見て必ず成功させると決意する一刀。

 

 

 

 

「……作戦が成功しても董卓さんはもう権力者にはなれない。それでもいいかな?」

 

 

一刀の言葉の裏には、董卓と言う名を公に出すことは出来ないと言っている。それを理解した詠は頷く。

 

 

「構わないわ。……月が生きていてくれるなら権力なんかいらないわ」

 

 

それを聞いた一刀は作戦を説明する。

 

 

「まず詠には洛陽に行ってもらいたい」

 

「なんで洛陽なの?」

 

「董卓さんと合流してどこかに隠れていて欲しいんだ」

 

 

一刀が言うには、まず董卓を城から逃がさなくてはならない。なぜなら洛陽に乗り込んだ諸侯は反董卓連合の正当さを訴えるために董卓の頸が必要になるからだ。それを回避するためにどこかに逃がさなくてはいけないのだ。

 

 

そして隠れる場所は恋の家ということになった。恋の家は城にはなく借り家だからだ。

 

 

「次に恋とねねは劉備軍と戦ってわざと負けてほしいんだ」

 

その策にねねが食いつく。

 

 

「恋殿が義勇軍からのし上がった連中に負けるはずないのですぞ!」

 

そんなねねを恋が小突く。

 

「恋殿~~」

 

「……ちゃんと話聞く」

 

 

恋に諌められしぶしぶ話を聞くねね。

 

 

「一対一じゃなくて三対一くらいで戦ってもらう。それでも恋なら負けないと思うけど、恋の本当の実力を知っている者がいない連合軍なら負けても不思議ではないって思うはずだ」

 

「なるほどね。……でもなんでアンタの軍じゃだめなの?」

 

 

一刀はその理由を隠さず答える。

 

 

一つは袁術の目があるから。孫策軍に飛将軍呂布がいるとなれば警戒され、独立に向けて動きにくくなるから。そしてもう一つは連合軍で劉備軍が一番親交があるから、頼みやすいのだ。桃香の人となりもある程度分かっているので大丈夫だと思っている。

 

 

「でもアンタって天の御遣いでしょ? 袁術軍に目をつけられなかったの?」

 

「それは聞かないでください」

 

 

消したい過去だと嘆く一刀に、詠はそれ以上聞くことはなかった。

 

 

 

 

「確かに賭けになる部分もあるけど、今はそれしかないわね……」

 

 

作戦の全容を聞いた詠は冷静に分析していた。

 

 

「……恋、頑張る」

 

「恋殿がいれば必ず成功しますぞ!」

 

 

日は既に沈み夜を迎えていた。連合軍は大きな損害を受けた袁紹軍が後曲に下がりその隣に曹操軍、先鋒は再び劉備軍が任されていた。そして劉備軍のすぐ後ろには孫策軍となっていた。華雄隊に浅からぬ損害を受けた袁術軍は袁紹軍のさらに後ろに位置している。

 

 

連合軍は夜は何もせずに、兵たちを休めることに努めた。

 

 

 

 

夜の闇に紛れ、一刀は虎牢関を抜け出していた。そしてそのまま先鋒の劉備軍の陣に向かった。劉備軍の陣まで来ると見張りの者が灯りに照らされていた。それを見た一刀は声をかけた。

 

 

「愛紗お姉ちゃん!」

 

 

お姉ちゃんを忘れないのが一刀。

 

 

「ぬ? ……お、お主は一刀くん!」

 

 

一刀を見た愛紗は勢いよく走りだし一刀を抱きしめた。

 

 

「行方不明と聞いて、心配したのだぞ!」

 

力強く抱きしめる一刀は骨が軋む音が聞こえた。

 

 

「あ、愛紗お姉ちゃん痛い! ……それと心配掛けてごめん」

 

 

すぐに力を緩めた愛紗。

 

 

「ま、まあ無事だったから良い。だが今後はこんな無茶をするなよ」

 

 

おせっかいなお姉さんだが、心配してくれているのだと思い、嬉しい気持ちになる一刀。

 

 

「それより皆も心配しておったぞ! 雪蓮殿たちも今は我らの天幕におられるはずだ。皆を安心させに行くぞ」

 

 

雪蓮たちは軍議のために劉備軍の天幕に集まっていたのだ。

 

 

愛紗は見張りを他の兵に任せ、一刀を降ろして桃香たちのいる天幕に向かった。

 

 

 

 

「一刀っ!」

 

 

天幕に入った一刀の姿を認識した雪蓮は一目散に駆けだした。何を隠そう一番心配していたのが他でもない雪蓮だったから。

 

 

そして雪蓮は一刀を抱きしめた…………はずだった。

 

 

「あれ?」

 

 

が、雪蓮より早く動いた人物が居た。

 

 

「一刀様っ!」

 

 

今回の事で一番責任を感じていた明命だ。明命は一刀を奪い去るように抱きかかえ天幕の端に移動した。そして目に涙溜め、何度も一刀に謝った。

 

 

「気にしないで明命。あれは俺が悪かったんだから」

 

「いえ! あれは私のせいであります! どうか罰をお与えください!」

 

 

決して退こうしない明命に一刀は困る。そして仕方なく明命に罰を与えた。

 

 

「じゃあ次はしっかり守ってね」

 

 

その言葉を聞いた明命は涙が溢れるが、必死に笑顔をつくって返事をした。

 

 

「はい! この命に代えても!」

 

 

改めて一刀を守ると誓う明命だった。

 

 

そんな二人の感動シーンにそこにいた者は皆、温かい表情で見守っていた。

 

 

 

「ぶーぶー! 明命ばっかりずるいわよー! 私にも抱かせなさーい!」

 

 

ただひとり、呉の王を除いて。

 

 

 

 

一通り再会を終え、落ち着いたところで一刀は今回の事を話した。

 

 

「やはりそうだったのですね……」

 

「まあ、ある程度は予想出来たことだな」

 

「あわわ」

 

「袁家の方は何も考えていないんだと思いますけどね~」

 

 

軍師たちは冷静に一刀の話を聞いていた。

 

 

「そんなのひどいよ! 董卓さんは何もしていないのに悪者にするなんて……」

 

 

桃香は連合軍の一端を担ったことに大きなショックを受けた。

 

 

「桃香。今回の事は仕方ないことよ。あなたたちが参加する、しないにかかわらずこの連合は組まれた。もし参加しなければ朝敵として討たれ、それこそあなたの理想が潰されてしまっていたわ」

 

「でも……」

 

 

それでも納得いかない桃香に雪蓮は言葉を続ける。

 

 

「もう起こってしまったことは変えられない。ならば今できることをするのが王としての務めよ。……いつまでもうじうじしているならこの同盟、考えさせてもらうわ」

 

 

王としてあるべき姿を諭された桃香は、俯いていた顔あげた。

 

 

その表情は何かを決意した顔だった。

 

 

「私の理想は、みんなが笑顔で暮らせる大陸にすること。……だったら私は董卓さんを助けたい!」

 

 

その言葉を聞いて、劉備軍の者は、こう言うと分かっていたのか笑顔で頷くのだった。愛紗などは仕方ないといった感じだったが。

 

 

一方孫策軍は桃香が少しだけ一刀に似ていると思っていた。いくら敵であっても助けたいという気持ちを桃香同様に一刀も持っていた。一刀の場合は現代社会の影響が大きいのだが。

 

 

そういう考えが嫌いではない雪蓮は反対しなかった。

 

 

「だがどうやって助けるのですか?」

 

「う~ん。そ、それは朱里ちゃん、雛里ちゃん、冥琳さん、穏ちゃんが考えてくれるよ!」

 

 

他人に丸投げだった。

 

 

「それについては俺に考えがある」

 

 

そして一刀は今回の策を皆に話した。

 

 

 

 

話を聞いた者たちは開いた口が塞がらなかった。

 

 

「か、一刀は、飛将軍呂布に命を助けられただけじゃなく真名まで許してもらったの?」

 

「う、うん。軍師の賈駆と陳宮にも預けてもらったけど……」

 

 

さらに驚くことを言う一刀。

 

 

「……なんだか一刀がいれば、天下が簡単に手に入りそうだわ……」

 

 

その通りだと皆一斉に頷いた。

 

 

「そ、それでこの作戦はどうかな?」

 

 

居心地が悪くなった一刀は話を戻す。

 

 

「わ、悪くないと思いましゅ! 私たちは呂布さんを倒したと言う勇名が手に入りますし、雪蓮さんたちは虎牢関を落としたという栄誉が手に入りましゅ! それにほぼむきじゅで!」

 

「あわわ」

 

 

噛みまくる朱里と、あわわしか言わない雛里。

 

 

「ふむ。それに上手くいけば台帳と地図も簡単に手に入りそうだな」

 

「そうですね~。それが手に入ると呉にとって無形の財産となりますからね~」

 

 

思っていたよりすんなりと意見が通ったことに驚く一刀。

 

 

「な、なぁ雪蓮」

 

「どうしたの?」

 

 

膝の上に座っている一刀は雪蓮の顔を見上げて話す。

 

「俺がこんなこと言うのも変だけど、こんなにあっさり決めちゃっていいのか?」

 

頭上の雪蓮はニッコリ笑った。

 

「いいのよ。……さすがに無罪の相手を見殺しにするのは後味が悪いしね。…………それに一刀の命を救ってもらったのだからね。受けた恩を返さない孫家の女じゃないわよ」

 

 

「……ありがとう雪蓮」

 

 

一刀は捕まったことの罪悪感とは別に、大事に思われていることが分かり嬉しく思った。自分には大切な仲間がいる。そう思うだけで一刀はこの作戦が成功することを確信した。

 

 

 

<おまけ>

 

 

反転し、孫策軍に続いて後退している春蘭と秋蘭。

 

 

「……っむ?」

 

「どうした秋蘭?」

 

「いや、なんだか天の御遣いが見えたような……」

 

「なにぃ!? それはどこだ!?」

 

「我々のすぐ横だ」

 

「はは。そんなはずはないだろう」

 

「いや、確かに見えた。あのようなキラキラした服は見たことがないからな」

 

「おらんではないか!」

 

「姉者。我々は馬に乗っているのだからいたとしても既にはるか後ろだ」

 

「し、知っているぞ! 後ろだな!」

 

後ろを振り返った春蘭。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「姉者っ! 目に矢が!」

 

こうして春蘭は片目を失った。

 

 

 

完。

 

 

これはないな(笑)


 
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