No.131769

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第19話

第19話です

虎牢関て必殺技っぽい響きが好き

2010-03-23 00:26:59 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8727   閲覧ユーザー数:7952

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫無双もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方

 

ご注意下さい

 

 

屍がそこらに転がり

 

まだ息があるものは歓喜の叫びと苦痛の呻きを洩らす

 

その中で一人比呂は立ち尽くしていた、視線の先には馬で駆けて行く将が二人…今当に死闘を演じ

その息を止めることを躊躇した相手

やがて矢が届かぬところまで二人が遠ざかった頃

 

「見事な腕前」

 

袁紹軍と共に先陣を勤め、対する敵兵を圧倒した黒髪の少女が近くに立っていた

 

「…関羽殿か」

 

振り向き彼女の姿を確認する比呂

汜水関攻略において両軍の一番槍の任に就いた彼女だったが、傷一つ無く平然と立ち此方を見据えている

 

「名前を覚えて頂いていたとは光栄です」

 

青龍刀の柄を地に降ろしはにかむ関羽

 

「義勇軍を率いるは黒髪麗しき令嬢と耳にしていたものでな…先の黄巾の乱における働きといい、どうやら本物のようだ」

「そんな…恐れ多い」

 

面を下げる関羽を見て比呂が笑う

 

「そのように謙遜することもないだろう、此度の働き総大を勤める我が主にも進言するつもりだ…ご苦労だったな」

 

そういって立ち去ろうとする比呂に関羽が声をかける

 

「一つ…聞いても?」

「何か?」

 

関羽に再び振り向く比呂、関羽の真直ぐな視線が彼を捉えていた

 

「何故、討たなかったので?」

「…」

 

関羽の問いに比呂は目を細める

 

「…最後、張郃殿の矢は届いたようにも見受けましたが?」

 

続けざまの質問に今だ自身の手に握る矢を見つめる

ゆっくりと視線を関羽に向け

 

「矢が残り一本だったものでな…それに」

 

不意に関羽に向けて弓を構える比呂

 

「なっ!?」

 

吊られるように身構える関羽…が次の瞬間背後から「ぎゃっ」と叫び声と共にドチャリと何かが落ちた音

関羽が振り向けば其処には既に屍と化した元人間、頭から落ちたのだろう…首が有らぬ方向に曲っている、胸には一本の矢が刺さっていた

 

「……」

「先程から関の上に殺気を感じていた…ものでな」

 

口の端を吊り上げる比呂だが、関羽は動けずにいた

 

「忠告しておく此処は敵地、気を抜かぬことだ、戦場にて勝利に沸くのは…」

 

比呂が顎で促す先に視線を向ける関羽

 

「…あれが落ちた時だ」

 

見れば汜水関の旗がバタバタと音を立て落ちていくところだった

 

「どうやら抜け駆けした者がいたようだな…文字通り一本取られた訳だ」

 

肩を震わせて笑う比呂に関羽もつられる

 

「ふふふ、そのようで」

 

 

その夜、陣営に戻り自分に与えられた天幕の中で酒を注ぐ比呂

 

「まったく、物は言い様だな」

 

よくもまあ、あんな事が言えた物だ…グイっと飲み干し息を吐いたところに

 

「何が…です?」

 

かけられた声に入り口に視線を向ける

 

「…悠か」

「祝勝会にくらい出たらどうなんです?…と姫が申しております」

 

わざとらしく頭を下げる悠に今度はため息がついて出る

 

「まだ関を一つ越えただけだろう?」

「わずか半日で…ですよ?それに現に一人酒やってるじゃないですか?」

 

その手に持つのは水ですか?と笑いかけてくる悠

 

「騒ぐ気になれんだけだ」

「そうですか」

 

ふうっと息を吐き入ってくる悠、既に酒が廻っているのだろう顔が赤い

 

「水にするか?」

 

そんな彼の様子に空の杯を向けながら尋ねると

 

「そうして頂けるとありがたいです」

 

椅子を引いて腰を下ろした

 

「まだ…迷ってます?」

「正直…な」

 

自分の分と二つ杯が置かれた机を挟んで腰を下ろす比呂

 

「この戦そのもの…というよりは御知り合いが気になるようで」

「まあな」

 

時折天幕まで届いてくる「おーほっほっほ」の笑い声に渋面になる比呂

 

「らしくないですねぇ」

「??」

 

悠の笑いに眉を吊り上げる比呂

 

「比呂は守りたいものがあって弓を手に仕官したのでは?」

「……」

 

それが今回の第一級の戦果に値する物でもか?

 

口には出せない比呂、彼女の…月の首にはそれだけの価値が出来てしまっている

 

「…まあ、大いに悩んで下さい」

 

立ち上がる悠の言葉に比呂は首を傾げる

 

「…何も、言わないのか?」

「俺は比呂の味方であるが故に…ですよ」

 

ふと入り口で立ち止まり

 

「姫には具合が悪くて寝てると伝えておきます、どうせ明日は一日動けませんし」

「動けない?」

 

入り口の幕を広げ

 

「雨が降ってきました」

 

悠が出て行って間もなく、比呂は布団に入り目を閉じた

 

・・・朝が来たのだろう

 

外に響く雨の音に耳を傾けながら比呂は目を覚ます

天幕の中からも解るほどに土砂降りのようだ、バタバタと天幕を叩く雨の音が煩い

どうやら今日は此処で足止めのようだ、悠が言っていたように

 

一つ、解らないのは

 

 

 

 

「…何をしておられるのですか」

 

「あっ起きた?」

 

実は目を覚ます少し前から身体に違和感を感じていた比呂だが、目を開けてみれば其処には雪蓮が馬乗りのように比呂の身体に跨り、じぃっと此方をガン見していた

 

「おっはよう♪」

「…おはようございます」

 

にこにこと笑みを浮かべて朝の挨拶をしてくる雪蓮に思わず返事を返してしまう

 

「随分と南方の作法は変わっているのですな」

「あら?朝の挨拶はどこも『おはよう』だと思うけど~?」

「…いやそうじゃなくて」

 

この方は天然なのだろうかと一瞬考えるが…否、彼女に限ってそれはない

つまる処、遊んでいるのだろう

 

「で…何か御用件でしょうか?」

「いや~朝の挨拶に♪」

「態々…他陣営のしかも将の天幕にですか?」

「袁本初御自慢の懐刀の寝顔を見てみたくてね♪って、あら~?」

 

後ろを振り向きかける雪蓮、顔がにやけている

 

「唯の生理現象です、お気遣いなく」

 

自分でもその言い方はどうかと思わないでもないが、彼女の脇に手をやり…彼女の身体を一瞬浮かばせて起き上がる

 

「外の者…入ってきていいぞ」

 

雪蓮を寝台の淵に腰掛けさせ天幕の入り口に声をかければ、はっと息を呑む気配

 

「明命、入っていらっしゃい」

「はうぅ、終わりましたか?雪蓮様」

「…何がだ?」

 

雪蓮の声におずおずと顔を覗かせてくる少女に比呂は先日の事を思い出す

 

「孫呉には優秀な隠密がいるようですな…昨日に汜水関の旗を落としたのも彼女というわけか」

「はうあっ!?」

「あら気づいてたの?」

 

二人の視線に比呂は自分の目を指し

 

「弓使いといものは此処が肝要なもので」

 

汜水関の旗が落ちる直前、彼女の姿を捕らえていた比呂だった

 

 

二人を椅子に座らせコポコポを茶を入れる比呂

 

「ありがとう」

「頂きます!」

 

そう言ってふーっと湯呑からたつ湯気に息を吹きかける明命を見て比呂は幼馴染を思い出していた

 

「水菓子もあるぞ、食べるか?」

「はうあ!よよよろしいのでしょうか?」

 

瞳を見開いて此方を見上げてくる明命に思わず笑みが浮かぶ

 

「なあに?比呂はこういう子が好みなの?」

「し…雪蓮様!?」

 

雪蓮の発言に慌てふためく明命の頭を撫でながら

 

「自分の『妹』を思い出していたのですよ、ちょうど同い年くらいのね…尤もこんなに可愛げのある奴じゃないですが」

 

時を同じくして別の天幕でどこかの軍師がくしゃみをしたのは別の話

 

「…で、今日はどういったお話で?」

「ん?」

「態々隠密を連れて朝の挨拶に来たわけでもないでしょう?」

 

比呂の真直ぐな視線にあ~と一指し指を立てる雪蓮

 

「何を悩んでいるのかな~?って」

「……」

 

昨夜親友に言われたそれと同じ事を聞かれ視線を落とす比呂

 

「お気づきでしたか」

「てゆうかウチの連中皆気づいているわよ」

 

雪蓮の言葉に思わずうっと止まる

 

「あんな迷いのある戦い方じゃ、この先躓くんじゃないかしら?」

「……」

 

じぃっと比呂の目を見つめる雪蓮に返す言葉が見つからない

 

「…どうしたら、良いものかと」

 

ようやく突いて出た言葉に雪蓮が立ち上がる、彼女を見やると

 

「自分のしたいこと、思い通りに…動けば良いんじゃない?」

 

満面の笑みの雪蓮、その瞳には揺るがない意思が宿っている

 

 

-比呂には守りたいものがあるんじゃないかな?-

 

 

昨夜、そしていつかの親友の言葉が響く

 

 

・・・・・

 

 

「んじゃご馳走様」

「ご馳走様でした、比呂様」

 

二人が帰る頃にはすっかり懐かれた明命とも真名を交換し

 

「本当にもらっていいの?これ」

 

雪蓮の手には一本の酒瓶

 

「御礼です、今度は返さなくてもいいですと黄蓋殿にもお伝え下さい」

「ありがと♪」

 

去り際に比呂の頬に口付けをして天幕を出て行く雪蓮、明命は耳を真っ赤にしながら彼女の後に続いて出て行った

 

 

「自分が…したいこと…か」

 

 

 

あの日決めたのだ

 

 

守ると

 

 

決意しよう…もう一度

 

 

 

「「…で?」」

 

 

腰に手をあて仁王立ちする冥琳と蓮華の前で、ずぶ濡れのまま正座させられている雪蓮と明命

 

その日

 

日が暮れるまで

 

二人がかりによる説教は続いたという

 

 

あとがき

 

ここまでお読みいただきありがとうございます

 

ねこじゃらしです

 

というわけで虎牢関編…あれ?

 

虎牢関に着いてねぇな

 

・・・

 

それでは次の講釈で

 

 

 


 
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