No.128124

恋姫異聞録26

絶影さん

ちょっと長いですがとりあえず
酒家潜入終了です

次は魏武の王編です

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2010-03-04 23:01:43 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:19439   閲覧ユーザー数:15576

「兄者、行きましょうか」

 

「ああ、そうだな」

 

俺達は日が落ちるのを待ち、昼と同じように商人の集まりやすい市の酒家へと入り

適当に見回し、商人の集まりを探す

 

「ここ空いてるかい?」

 

「おお、あいてるぞ!行商の方か?どこから?」

 

俺達は三人の町商人らしき人物の席へと座った。土地の情報はその土地に住み着いている者に聞くに限る

特に商いをするものにとって情報は命だ、税についても人の流れについてもだ

 

「徐州からだ、その前は豫州だ」

 

「へぇ、てことは許昌からか?あそこから来たって事は砂糖と酒を卸に来たな?」

 

「そのとおり、最近あそこは質の良い品が揃っているからな」

 

正面に座る男が顎鬚を撫でながら、俺達を見ている

探っているか?いい儲け話があるのか無いのかそういう眼だ

ここは手の内をさらしてしまった方が早い、下手にもったいぶるとややこしくなる

そう思った俺はすぐに店員を呼んだ

 

「こちらの方達に酒を、好きな食事も頼んでください。御三方」

 

「ふむ、なるほど情報が欲しいって訳か」

 

「ええ、我々商人の言葉は金と物だ」

 

そういうと三人は「違いない」と笑い出す

 

「では遠慮なく頂こう、それで聞きたいのは何だ?」

 

「税、それと最近の物の流れだ。なんでもいい」

 

俺の言葉に左の男が眉根を寄せる、何と言ってよいかというところだな

 

「うう~ん、最近の流れは変だ。鉄の税は安くなった、戦をするのかも知れんな」

 

鉄だと?まさか徐州に攻め入るつもりか?そうなると流れが変わってくる

右隣の男がその言葉に手を突き出し遮る

 

「まてまて、戦ばかりとは限らんぞ、なんせ何時もは税のかかる宝物類、壺や鏡、そして香なんてのも安い」

 

「どういうことだ?俺達は砂糖や酒を持ってきたが随分と予想違いのようだ」

 

「俺達も混乱している。いつもならこんな事はないんだが、袁紹様が居たときと比べ全体の税も上がっている」

 

どういうことだ?鉄や馬なら解るが宝物に鏡?香?自分の私腹を肥やすだけか?

すると中央の男が思い出したように

 

「そういえば・・・・・・確か木材も少しだが安くなったな。それに蝋だ」

 

「蝋か。よかったかろうじて今回の積荷にある」

 

「それは良かったな、無駄足にならずに済んだと言うわけだ」

 

俺達は笑いあう、が木材に蝋?・・・・・・船?そうか船だ!ならば海を渡り幽州か!

いや、しかし香や鏡はなんだ?北へ上がるのに何故宝物が必要だ?しかも船を多く作るわけではなさそうだし

 

「あんたら砂糖と酒なら俺達が買いとってもいいぜ。魏の酒は良い値で売れる、砂糖もだ」

 

「そうだな、砂糖は売ってもいいが酒は駄目だ、日持ちするから税が安いところで高く売るさ」

 

「ちっ!だめかぁ!だが砂糖でも良い。最近質が良いのは魏からの物が多い」

 

「気が向いたらそっちによらせてもらうよ、店を教えてくれるか?」

 

俺達はその後酒を飲み交わし交友を深めた。後々どこでこの縁が役に立つかわからないからだ

 

「ではそろそろ私達は失礼する」

 

「ああ、ぜひ店に寄ってくれ。あんたらなら歓迎するぞ!」

 

礼をすると金を多めにその場において後にする。しかしさっきの材木と蝋、宝物と香この組み合わせが

意味するものは何だ?

 

「兄者、流言は良かったのですか?」

 

「ん?ああ、さっきの情報が気になる。まだ動かない方がいい」

 

「税の安くなった物の話ですか、まるで貴族でも迎え入れるようですね。香や鏡なんて」

 

・・・・・・そうか!それだ!川を少数で上り洛陽へ入って天子様を奉戴するつもりか!

反董卓連合以来、不可侵の地と化した司隷に入るつもりだ!そうすれば勅命で他の二人を楽に消せる。

それどころか周りの諸侯の力も借りられる。なんてこと考えやがる、三公を輩出した袁家の者なら奉戴が可能だ、

それよりも川を他の二人と我らに気づかれないように上るなど誰が考え付くか

 

「一馬、流言よりも魏に戻る方が先かも知れん」

 

「え?兄者なぜです?」

 

そのとき背後から女性の叫び声が聞こえた。なんだ?どこからだ?・・・・・・あれは

 

「袁術」

 

「追われているようですね。どうしたのでしょう」

 

「一馬っ!二人を助けるぞっ!」

 

「えっ!あ、はいっ!」

 

突然の俺の言葉に驚きを見せたが一馬は走り出す俺の後を着いてくる

 

「一馬、俺はこのまま追いかけるお前は回り込め」

 

「はいっ!」

 

返事をすると道をそれて路地に入っていき、俺は追われている二人を真直ぐに追いかける

追ってる人数は三人、袁術と一緒にいるのは張勲だな。

 

「ひいー!七乃!なんとかするのじゃー!」

 

「無理ですー!刺客が三人もなんて!そんなことより走ってくださいー!」

 

刺客は音も無く走り二人に近づいていく、そしていつの間にか袋小路に追い詰められていた

 

「ひゃああああっ!」

 

「お嬢様ー!だから他の袁家に頼るのはやめましょうってー!」

 

「ううぅ、だってだって、蜂蜜水が飲みたかったのじゃ!仁達は甘いものが好きじゃったからきっと快く迎えてくれると!」

 

よし追いついた!もう逃げられないと悟ったのか二人は身を寄せ合ってうずくまってしまう。さて間に合うか?

 

「まてっ!お前らっ!」

 

「えっ?あーっ!御使いさんっ!」

 

「え?おおー!ほんとうじゃっ!たすけてたもっ!」

 

俺は棍を構えると刺客三人の一人が俺に短剣を向ける。

いやな目だ、久しぶりにこんな眼を見たな。無機質な殺気だけの目

 

シュッ

 

「ぐうっ」

 

不意に空気を切り裂くような音が聞こえ俺に白刃が襲い掛かる。

何とか棍で防ぐと強烈な蹴りを喰らい吹き飛ばされた

 

「弱い!弱すぎますよ!御使いさん!」

 

「その通りじゃっ!死ぬなら妾を守ってからにするのじゃっ!」

 

まったく、勝手なことを言ってくれるな。俺は戦うのが苦手なのに、だけど防ぐだけならっ

 

「くっ!」

 

刺客が連続で突きを繰り出してくる、全て喉や心臓、急所ばかりだ

後ろでは一人の刺客が両方を見張り後一人が袁術達に剣を振り下ろそうとしている

 

「兄者っ!」

 

間に合ったか!回り込んだ一馬が屋根から飛び降り見張りの刺客を一閃

返す刀で袁術に切りかかろうとするもう一人を切り捨てる

 

「ぐはっ!」

 

一馬をみて一人では無理だと思ったのかせめて俺だけでも殺そうと向かってくる

そして拳が俺の鳩尾にめり込み膝を着く

 

「貴様ぁああああ!!」

 

ドンッ

 

一馬の横へなぎ払う剣撃が刺客の首を飛ばし地面に転がりおちた

 

「兄者っ!大丈夫ですかっ!」

 

「ああ、助かったぞ一馬」

 

駆け寄ってきた一馬は心配そうに俺を見て抱える。とりあえずは上手く行ったようだ

 

 

「弱いですねー!私でも勝てちゃいますよ」

 

「そうなのじゃ!それに助けるならもう少し早く助けるのじゃ!」

 

ははは、助けてもらってこの態度か。ちと早まったかな?

 

「貴様らっ!助けてもらってっ・・・・・・」

 

「まて一馬、お前達これからどうするんだ?」

 

俺の突然の質問に張勲は目を丸くして驚き、袁術は頭に疑問符を浮かべている

袁術は何にも考えていないか、よく領主をやっていたものだ

 

「刺客に狙われているって事は袁仁達のところに行ってきたのだろう?今は身内争いの真っ最中だ」

 

「えっとですね、ということは私達はここに居たら確実に消されるということですか?」

 

俺が頷くと二人は震えだし、また地面に座り込んでしまった

 

「邪魔な袁を名乗る者を消すだろうな。それでだ、どうだ?俺たちに降らないか?」

 

二人はまた突然の話に驚くだけだ、まぁそうだないきなり降れなんて言われたら

驚くだけだ、しかしこの二人が生き残る術はこれしかない

 

「だれが曹操なんぞにっ!」

 

「お、お嬢様っ!待ってくださいー!」

 

「別に嫌ならいいんだ、お前らここで死ぬだけだからな」

 

そういって背を向けると張勲は俺の手を掴んでくる。

 

「ごめんなさいっ!待ってください!私達見捨てられたら確実にころされちゃいますよぅ!」

 

「ま、待つのじゃっ!妾はまだ死にとうないぞ」

 

「ならどうする?」

 

二人はうなり声を上げて俺をにらんでいる。俺に着いていったところで殺されるかもしれないってのは

あるだろうからな

 

「兄者、ちょっといいですか?」

 

「なんだ?」

 

二人に聞こえないように一馬が俺に耳打ちをする

 

「どうするおつもりで?」

 

「・・・それはな」

 

刺客を殺したのはどうせばれる。それならば一馬と袁術を馬で冀州に走らせる

わざと袁術の正体をさらしてだ、そうすれば袁仁達は他の二人のどちらかが袁術と組んだのかと思うだろう

そして袁術を救出して自分達の領地に逃げたと、その話は他の二人にも入るだろう、

そして井州の袁満来は中央の袁懿達が袁術と手を組んだのかと疑う

袁懿達は自分の領地を抜け袁満来の元へ行ったと疑う、袁家の名前を使って掻き乱してやるのだ

 

「なるほど、それで私は冀州へ向け走り、追っ手を振り切り魏に戻るのですね?」

 

「そうだ、袁術を使って疑心暗鬼にさせる。俺はその間に戻って川を徹底的に見張らせる」

 

「川?ですか?」

 

「ああ、袁仁達は川を上り天子様を奉戴するつもりだ」

 

俺の言葉に一馬は驚き声を出しそうになるがとっさに手で口を塞ぐ

驚くのは当たり前だ、天子様を奉戴すれば政治的に大きな力を持つ

 

「むむむむー!しかたがない!客将ならよいぞ!」

 

「さっすがお嬢様!・・・」

 

俺は何か腹黒いことを言いそうな張勲に鋭い目線を送る。

俺の眼を侮るなよ立場をわかっていないようだな

 

「ひぃっ!」

 

「行くか一馬」

 

「はい、兄者」

 

「ま、ま、ま、まってください!私なんでもしますっ!お嬢様も!だから見捨てないでくださいっ!」

 

「な、何を言うのじゃ七乃っ!」

 

「ですがお嬢様、このままじゃ御使いさんの言う通り私達は殺されてしまいますよ、だからお願いします!」

 

張勲は拝むように泣きながら懇願してくる。悪いが今の言葉聞き漏らしてないぞ

俺は二人を威嚇するように睨み付ける

 

「先に行っておく、俺に嘘は通じない。それと変なこと考えたらその場で置いてく」

 

「ぴぃっ!」

 

張勲は顔を青くして頷き、袁術も俺の眼でおとなしくなり首をカクカクと縦に振っている

 

「ではこれからのことを話す」

 

俺は重要な部分を省き、一馬と袁術が一緒に出ることと張勲が俺と一緒に出ることを伝えた

この二人は見たところ余計なことを教えるとろくなことが無いと見た

 

「張勲、一馬の旅装束を着てくれ。一馬、袁術を頼んだ」

 

「はい、ところで兄者。策なのですが」

 

「なんだ?」

 

「本当はさっき思いついたのでしょう?小さい子が襲われていて見捨てる兄者ではありませんから」

 

「フフッ、さぁな」

 

さて、準備を始めるか。馬を用意しなければならないなさっきの商人達に砂糖との交換を交渉してみるか

一馬なら並みの馬でも袁術を抱えたまま追っ手を振り切るなど造作も無いだろう

 

俺達は刺客の亡骸を片付けるとその足で宿に戻り俺は荷馬車に荷を積み先ほどの商人の元へ向かった

おそらくまだ酒家だろう

 

「先ほどはどうも」

 

「おお、どうなされた?何か良い儲け話でも?」

 

「ああ、徐州で自由に取引が出来るらしい。もしかしたら俺も店が持てるかも知れん!

すまないが砂糖を馬に変えてもらえないか?」

 

「なんと!自由に取引を?!詳しく聞かせてくれ!」

 

俺は楽市楽座を詳しく話し、それを聞いた商人達は色めき立った

そして周りで聞き耳を立てていた商人達もがたがたと席を立つ

 

「なるほど、俺達この地に生きる商人に取ったらうらやましい話だ。俺達はこの地を離れられん

わかった、それならば馬を手に入れ、より多く商品を運ぼうというわけだな」

 

「そうだ、話が早くて助かるよ。なんなら少し酒もつけようか?」

 

「それはありがたい、では早速馬と交換しようか。時間が惜しいだろう?」

 

よし、うまく行った。後は徐州に移動する商人たちに俺と張勲は道中紛れればいい

それに一馬が城を出るのが合わさればよいだけだ。

 

 

「張勲、しゃべるなよ。下手にしゃべるとボロがでる」

 

張勲は無言で頷き旅装束に顔を埋め、荷馬車に揺られながら俺達は城門に向かう

昨日の門番と同じだったら良いが

 

城門に近づくと門の前は少し多めの人の列が出来てしまっている。昨日の話しを聞いた商人達だろう

列に並びしばらく待つと、一人の兵士が近寄ってきた

 

「とまれっ!荷を確認する」

 

「昨日はどうも」

 

「む?貴様は・・・早いなもう移動するのか?」

 

「ええ、徐州でよい儲け話があると聞いたものですから」

 

「ふむ、それでか。朝から城門を通る者が多いのだ、それも商人ばかり」

 

「皆考える事は一緒ですね。私も早く向かわねば」

 

俺がそう答えると兵士は張勲の方を向きいぶかしげに眺める。

昨日とは違って顔を布の中に隠しているからだ

 

「そこの者は昨日は顔を隠していなかったがどうした?」

 

「ええ、ちょっと訳がありまして。」

 

「顔を確認させてもらう、昨日曲者が侵入して人がやられたそうだからな」

 

「そうだったのですか!それは困りましたね」

 

俺の言葉に兵士は眉根を寄せる。まさかこいつらが?と疑っているなこの眼は

俺は兵士を手招きし、耳を寄せるようにしてもらい囁いた

 

「実は女を買いましてね、隣に居るのは商品です。どうでしょう見逃していただけませんか?」

 

「な、なんだと!それなら男の方は」

 

「ええ、売りました。やはり女の方が良い金になります。」

 

「なんて奴だ、人買いもするのか」

 

「はい、そうですね。ただとは言いませんどうでしょう?売れ残りの酒と交換というわけには?」

 

その言葉に兵士の眼がゆれる。昨日ので味を占めたようだ、利用してやろう。もっと要求してやろう

そういった心情が眼に表れる。だがそれは俺も同じだ

 

「そうだな、酒だけでは足りんなそこの女の味見はどうだ?」

 

「なるほど、なるほど、では私も貴方様が私の酒を職務中にあおっていたという情報はいくらで買って

いただけますかな?」

 

「な、き、貴様っ!」

 

「私を殺そうとしても無駄ですよ。この情報は先ほど街の商人に話しておきました。私に何かあったら

このことを将のどなたかに報告するとね」

 

俺の言葉に見る見る顔が青ざめ脂汗を垂れ流し始める。無料より高いものは無いとはよく言ったものだ

 

「さて、どうしますかな?」

 

「う、ううぅむ」

 

兵士が思考の渦に陥ろうとした一瞬の隙を突き、布を纏い顔を隠した一馬が袁術を抱え城門を一直線に

外へと走り抜ける

 

「なっ!と、とまれっ!くそっ!誰かっ!追え!追うんだー!」

 

一馬を見てあわてて追いかけようとする兵士に俺は叫んだ

 

「兵士様っ!門を通ってもよろしいかっ?!」

 

「かっ、勝手にしろっ!」

 

「ありがたく」そういうと俺は悠々と馬を進め門をくぐった。

 

さて全ては整った、後は魏に許昌に帰るだけだ。

 

報告で袁術を我が軍に迎えたことをどう仰るだろう、怒るか?いや、笑うだろうな。今から楽しみだ

俺は頭の中で想像をすると笑ってしまった

 

「あ、あのもう大丈夫ですかー?」

 

「いいぞ、袁術は一馬に任せておけ」

 

「はい、あれだけ早ければお嬢様も安心です。それで思ったんですが御使いさんは何と言うか

腹黒・・・」

 

「アイアンクロー」

 

「ひゃぁーーーーーーーー!!!!」

 

ギリギリと頭を鷲掴みにすると張勲がばたばたと暴れだす

まったく、こいつらは腹黒いだと?俺が?そんな事はないぞ、ホントはこんな事はしたくないんだからな。

それもこれも全ては曹操様のため、そして愛する者の元へ帰るためだ

 

手を離すと張勲はクタッと荷馬車に倒れこむ、少しやりすぎたか。

早く帰ろう、砂糖を交換する際に商人のところで秋蘭に似合う服と涼風に人形を買っておいた

二人は喜んでくれるだろうか?二人の笑顔を思い浮かべて俺は気持ちも軽く許昌へと馬を進めた

 


 
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