No.127708

恋姫異聞録25

絶影さん

潜入青洲酒家①です
次回も酒家話です

ちょっと短いです

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2010-03-02 21:32:01 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:20407   閲覧ユーザー数:15780

「兄者、このまま青洲に入るのですか?」

 

「ああ、城陽に入る。そこの酒家で情報収集と流言を流す」

 

俺達は許昌を出発し徐州から北上、青洲は城陽へと向かい荷馬車で揺られている

宴が終えた後、俺はあわただしく準備をし二日目に出発した

目的は袁家の三人、袁満来、袁懿達、袁仁達を仲違させて争わせることだ

北の四州を支配しているのはこの三人だ、麗羽が戻っていれば彼女が頭でまた統治をするだろうが

あの三人は敗走した麗羽を受け入れないだろう。何せ自分達が実権を握りたいのだろうから

 

「そういえば兄者。出発のときに華琳様に仰った徐州に作る楽市楽座とは?」

 

「ん?ああ、それは自由取引市場ってのを作るんだ。税を軽くしてな、新興商工業者の育成と金の流れを活性化させるのさ」

 

「なるほど、自由に取引を行えるなら商いをしたい人が集まると言うことですね?」

 

「そうだ、だが狙いはそれだけではない」

 

一馬は俺の方を見て眉根を寄せる、わからないといった顔だ。まあそうだよな、こんなのは軍師でもなけりゃ思いつかない

 

「真の狙いは商戦、袁家に対する戦略さ、それをすることにより人の居なくなった税の安い土地に我先にと商人たちが集まる。商人が集まれば金が流れ、物が流れる。そして人が集まる。それこそ隣の州からもな」

 

「あ・・・つまり、人が集まるのを待つのではなくこちらからもと言うことですね?しかしそれでは豫州からも人が流れてしまうのでは?」

 

「まあな、だけどそこに永住する者や店を持つ者からは普通に税をとる。そして一定の期間を過ぎたら豫州と同じに戻す。

そうしないと流れすぎるからな」

 

実際昔の武将もこういう使い方もしたのではないのだろうか?敵を衰退させるのにこれほど効果的な事はない

何せ勝手に自分の領地を離れ、隣の敵国に民がどんどんと流れてしまうのだから

 

「もうすぐ城に着きますね。この格好本当に大丈夫なのですか?」

 

そういって一馬は自分の身にまとったボロボロの旅装束を見る、いかにも行商の商人といった風である

かく言う俺もまったく同じ、ボロボロの服を身にまとい馬車にはさまざまな商品、酒、砂糖、塩、蝋などなど

 

「大丈夫だ、心配するな。それより落ち着いて居ろよ、挙動不審にしてれば怪しまれる」

 

「ええ、それは問題ありませんが。それよりも兄者は顔が知られていると言うか、三夏の慧眼は有名ですよ?」

 

「問題ないさ、別人だと言う」

 

「それに魏に兄者が居ないのはばれてしまいますよ、兄者は有名人ですから」

 

俺はその言葉に春蘭を思い出し笑ってしまう。

 

「どうしました?兄者」

 

「大丈夫だ、身代わりを置いて来た」

 

「身代わり?」

 

そう、身代わりだ。俺と春蘭は髪型が似ている、そしていつも俺が着ている黒い外套

髪を外套内に納めた春蘭が立てば遠くから見たら区別がつかない、外套は体の形が出にくいし

背は俺と春蘭では俺が少し高いくらいだ、そう変わらない

 

「くしゅっ!・・・・・むぅ」

 

「どうした姉者?風邪か?」

 

「いや、大丈夫だ。それよりもこれは本当にばれんのか?」

 

「ああ、城壁の上に立っていれば誰も区別がつかんさ、だがそうだな昭はいつも笑っているから」

 

「む?こ、こうか?」

 

「フフッ、可愛いぞ姉者」

 

「うむぅ・・・疲れるな。帰ってきたらたっぷりと酒と食事を請求させてもらうぞ」

 

何故か俺は悪寒が走り、帰ったら財布が軽くなるような気がした。春蘭に吹っかけられるかこれは?

 

「兄者はそのようなことをよく考え付きますね。しかし姉様の眼帯はどうなされるのですか?」

 

「義眼を作った。それを着けているから問題ない」

 

「義眼ですか?」

 

そう義眼だ、華佗に頼んで監修してもらい真桜と共に作った。

赤水晶を使用した燃えるような赤く美しい義眼、俺にはこれくらいしか出来ないからな。

 

「そろそろ城門に着きますね。国境はさほど問題なく通れましたがここは」

 

「まあ俺に任せておけ」

 

 

城門に着くと税を納め、兵による身体検査が一人一人行われる

 

「税は金か?物か?」

 

「物で、金などありませんからね」

 

「フンッ!貴様ら商人が金が無いなど嘘だろう」

 

俺達の荷を検査に来た兵士が納税方法を聞くと卑下したように鼻で笑う

まぁどこでも同じようなものだ、商人は金を多く扱う。下手すればそこらの下級な将よりも金を持っている

だからなのか商人はどこに行ってもこのように、貴様らは金ばかり追っている亡者だと侮蔑される

理由はただ単に自分らより金を持っていることが気に入らないからだろう

 

「さすが、袁家の兵士様は見る目が違いますね」

 

「商人などに褒められても嬉しくも無い、ところで貴様どこかで見たことがあるな?」

 

その言葉で一馬がゆっくりと腰の剣に手を滑らせていく。俺はそれを後ろ手で押さえ、話を続けた

 

「ええ、その通りです。私はどうやら天の御使い様に似ているようなので、それで大もうけをさせていただいてます」

 

「む?確かにそっくりだな。まさか本人ではあるまいな?」

 

そういって兵士は槍を俺達に向けて構える。俺は冷静に、笑みを絶やさず淡々と語りかけた

 

「めっそうもございません、それで魏を逃げてきたのですから」

 

「なに?どういうことだ?」

 

「良くぞ聞いてくださいました。私はこの顔が似ていることを使い魏で商いをして回っておりました。

私の売るものを全て天からのものだと偽って、ですから皆天のものだとこぞって私の品を買っていくわけです」

 

「なるほど、つまりはそれをやりすぎたと言う訳か、だがそれは嘘かもしれん」

 

「確かに、それならば後から来る方に聞いていただければ解ります。」

 

そういって俺は後ろから馬に乗って城に駆け込んでくる兵士を指差した。

あれは袁家が斥候に出した兵士、魏が攻め落とした徐州の様子を探りに来ていた

俺達は斥候の動きを掴み、わざと俺の変装をした春蘭を見せて先回りしたと言うことだ

 

「ちょっと待ってろ!」

 

俺達の検査をしていた兵士は今戻ってきたばかりの斥候に駆け寄り、おれ達のほうを見て確認している

それを見た俺は二人に笑いかけ手を軽く振った。こういうときは堂々としているに限る

確認が済んだのか俺達の方にやれやれといった風に歩み寄ってくる。どうやら成功したようだ

 

「どうやら本当のようだ、城壁に立つ御使いを見たそうだ。確かにこのようなところにたった二人で来るわけなど無いからな」

 

「さすが袁家に御使えする兵士様はご理解が早い、どうですか?お近づきのしるしに酒の試飲など?」

 

俺は酒を荷馬車から取り出し、杯に並々と注ぐ。酒は高級品だ、そうそう飲めるものではない。

兵士の喉がなる

 

「む?い、いきなりなんだ!それに私は職務中だ、酒など・・・・・・」

 

「良いではありませんか、私達商人どもは貴方のような理解のある方に御近づきになっておけば何かと徳なのですよ。

それにこれは兵士様が私どもの荷物を検査されるために飲まれるのです」

 

俺の言葉に後ろの斥候が居なくなることを確認して「仕方が無いな。」「これは検査だからな。」

などとブツブツと言いながら俺から杯を受け取り酒を飲み干した。これでこの兵士とは共犯となる。

兵士は職務中に酒をあおり、俺は酒を進め大した検査も無く中に入ってしまうのだから、

共犯になった俺をそうそう売ったりはしない

 

「うむ、問題は・・・ないな」

 

「それは安心しました。こちらは貴方様に御譲りいたしましょう、せっかく良い酒なのですから

貴方様のような方に飲まれるのが運命と言うものです」

 

「そ・・・そうか、頂こう。では検査は終わりだ、中へ進め」

 

「失礼します」と言い残しその場を後にする。うまくいった、無事中に入ることが出来た。

後で春蘭にお礼を言わなければな

 

「ふぅ、肝を冷やしましたよ」

 

「はははははっ、一馬は小心者だな」

 

「兄者の肝が太すぎるのです。」

 

「それよりもここからはなるべく顔を隠せ」

 

「え?中に入ってしまえば問題が無いのでは?」

 

「それは違う、中に入ってからの方が厄介だ、俺の顔や一馬の顔で騒がれても困る。

動きが取れなくなるし、逃げ場が無いから最悪捕らえられる」

 

一馬は「なるほど」と一言呟くと顔を布で覆いマスクのようにする。俺もすぐさま顔を隠し宿を目指す

まずは宿に馬車を置かなければ、昼は茶屋で情報を集め夜に酒家で流言を流すといったところか

 

 

「七乃!妾は蜂蜜水が飲みたいのじゃ!」

 

「ううー、駄目ですよお嬢様。ぐずぐずしてると捕まっちゃいますよ」

 

ん?聞き覚えのある声だ・・・あれは・・・・・・袁術か?

 

「兄者、どうしました?」

 

「ああ、そこに袁術が」

 

そういって指を指すとそこに袁術?の姿は無かった。どういうことだ?

孫策に滅ぼされ同じ袁家に保護してもらおうとでもしたのか?

だとしたら馬鹿なことだ、実権を握ることで御互いの出方を見ている三人に

下手をすれば殺されてしまう。これ以上袁を名乗るものが現れるのは邪魔なだけだ

 

「袁術?どこにですか?」

 

「いや、見間違いかも知れん。それよりも宿に行こう、時間が惜しい」

 

袁術の事は頭の片隅に入れておこう、それよりも任務を完遂しなければ

俺達は宿に入り手続きを済ませ、部屋に荷物をおくとそのまま茶屋へと足を向けた

 

「しかし随分と立派な宿でしたね」

 

「そうだな、宿は外から来る者達に自分の国がいかに富んでいるかを示すいい場所だからな」

 

「たしかに、あれだけを見ればこの国が豊かであると理解してしまいそうです」

 

人はまず視覚から入る、見た目と言うのは大事なことだ。人などそれ一つで

性格まで勝手に予想されてしまうからな。俺達は適当に商人や職人が多そうな市の茶屋に入った

 

「いらっしゃいお客さん!お二人さんは見たところ行商人のようだけど」

 

「ああ、徐州から来た。あそこは最近になって良い品質の砂糖と酒が安く手に入るからな」

 

「なるほど、こっちに卸に着たんだね。でもあいにくだけど今はやめた方がいいよ」

 

「どういうことだ?」

 

店員は親指を背後の厨房の方に指し笑っている。俺は頷き茶を二人分と菓子を頼んだ

 

「フフフッ、ここだけの話だけどね。うちのとこの州と冀州の半分は袁仁達様が仕切っていて

ここのところ少しづつ税が上がって来てるのよ」

 

「なるほどね、戦か。それは随分と間の悪いところに来てしまったな」

 

「そういうこと!でも砂糖なら税はそんなにとられないかも、袁仁達様は甘いものが好きだから

蜂蜜とかも流通しやすいように税を下げているわよ」

 

茶屋の店員は俺の方を見ながらニコニコと笑っている。俺は財布から小銭を取り出すと

ゆっくりと机に置く、それを見た店員は小銭を拾い上げ、指の間に挟むとぱっと消して見せた

ちょっとした手品のようだ。一馬は驚いて店員の指をまじまじと見ている

 

「ではごゆっくり!」

 

そういってくるりと回るとすたすたと厨房のほうに入ってしまう

商人相手に小銭を稼いでいるのだろう、他の者にも言っている情報だな

 

「兄者、今の話は・・・」

 

「話半分といった所だな、だが税の話を酒家でも集めた方が良い。

戦の準備をしているなら攻める方向も知っていた方が良い」

 

「税のかけ方で戦の方向がわかるのですか?」

 

「ああ、北に攻めるなら防寒具や食料に気をつける。ならばそこに重い税は置かないだろう」

 

「そうか、幽州攻ですね?ならば馬もありますね。あそこは五胡との戦いで騎馬が強い」

 

「そうだ、冀州に攻めるなら平均に税をかけるな」

 

そして徐州ならば騎馬も鎧も万全に調えるつまりは鉄だ、麗羽のことで警戒をしているだろうからな

しかしこちらは攻めまい、背中を狙うものが居るからな

 

「しかし兄者はどこでそんな知識を?これも天の知識ですか?」

 

「違うよ、鳳に教えてもらった。あの子は面白いことを色々知ってるんだ、それこそ作物の育て方から

井戸の掘り方までな」

 

「凄いですね、鳳さんにそんな知識があったとは、内政の手腕は魏一ではないでしょうか」

 

確かに、まさか鳳がここまで多方面に知識を持っているとは俺も思わなかった

さすが、わずか数日で許昌の地盤を作った者だ。桂花と仲が良いわけだな

 

「さて、ここで得るものはもう無い。宿で夜を待つ」

 

「はい」

 

夜こそが本番だ、商人達の口も軽ければ流言も流れやすい。

しかし話が本当ならば他の袁家に攻め入ろうとしているのか

それとも攻められるのを見越して武装を整えているのか?

とにかく情報を集めるか、それによって流言を変えなければなるまい

 

 

 


 
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