「あれ? 北郷のアニキじゃないですか。こんなところで何してるんで?」
散歩していた一刀に話しかけてきたのは黄色の頭巾に黄色の服をした黄巾党の副会長であるチビさんだった。
「天和が疲れたから今日はここで休むことにしたんだよ。そっちこそ、先に現地に向かってるんじゃなかったの?」
チビさんの所属する黄巾党は歌で大陸制覇を目指す張三姉妹の追っかけで彼女たちの夢を叶えるためには必要不可欠な存在である。だが今は次の興行の為に先に現地に向かい治安の確保をしに向かっているはずだった。
「そうなんですがね。あっちは賊が多いと聞いてたんでやすが最近めっぽう見なくなったとかで会員をいくつかの班に分けて近くの街の警備をしてまして、まぁデクと違ってあっしは戦いに向いてないんで警備はしてないっす」
骨の髄まで天和たちに忠誠を誓っているアニキはに万が一の事があってはいけないと拠点から離れた土地に向かう際には必ず斥候を行う事にしていた。
斥候が調べた結果、一刀達が興行で向かおうとしていた街は人口こそ多くて客を集めるには最適だが、その分金銭を狙う賊が多く、度々襲われ治安は良くなかったらしい。
だが賊は鳴りを潜め情報が一切届かなくなった。
街の人は一時的には賊の襲来が消えた事を喜んだが、賊を殲滅させたわけではなかったので、もしかしたら大量の援軍を連れてやってくるのではないかと怯えた。
アニキはそんな街の人の恐怖心をなくそうと黄巾党の中から警備隊を作ったうえであちこちに斥候を送り賊の手掛かりを探させておりチビさんも斥候の一人として送り込まれていたのだ。
「あの人は本当に天和達が関わると優秀だなぁ、あの時とは……はぁ」
言いながら、客席の最前列で人の高さほどのジャンプをしながら応援をしていたアニキを思い出し一刀はちょっと気分が悪くなった。
「まぁでもチビさん達が見回りをしてくれるなら安心して過ごせそうです」
「賊が来たってあっしは戦えないでげすよ?」
「そうだけど誰か居るってだけで安心できるよ」
「そんなもんか?」
「そんなもんです」
見回りを続けるというチビさんと別れ、一刀が天和達の休んでいる宿の部屋に戻ると歌の練習をしていた人和が気付き練習をやめ席に着く。一刀は人和の真正面の位置に向かい合うように座る。
「おかえりなさい。なにか面白い情報はあった?」
「特にないかな。黄巾党の人が先に街に行って街を自主的に警備してるみたいだよ」
賊が最近出てなく不安がってる話はしなかった。わざわざ確証を得てない話をする必要もなかったし興行前に不安がらせようとは思わなかった。
「そうなんですか、助かります。そういえば一刀さんは姉さんに会わなかったの?」
「姉さんってどっちの?」
「どっちもです。一刀さんが散歩に行くって出て行ったあとは三人で歌の打ち合わせをしていたけど途中で天和姉さんがお腹すいたから一刀さんに昼飯をおごってもらうんだーって意気揚々に出て行きました。それに地和姉さんも便乗して出て行きました」
「あいつら、人の事を何だと思ってるんだ……」
「財布?」
「違うよ!?」
人和のあんまりな言葉に思わず否定してしまう。俺が二人の財布なわけないじゃないか。本業はマネージャーで三人のサポートをするのが仕事なんだから。この前もライブの後の打ち上げに行ったり天和の服を買う付き合いをしたり地和の昼飯を奢ってあげたり。
あれ? もしかして財布としての機能しかしてないのか俺?
そう思うと涙がこみ上げてきた。うわぁ、新事実発見だよ。最近は黄巾党の人達が何でもしてくれちゃうからなぁ。
「……ま、まぁそれは冗談にして一刀さんは居てくれるだけで私たちの支えになるから」
少し間が空いてから人和がフォローをしてくれた。半分ぐらいは本気だったのかもしれない。それでも今の俺にはそのフォローが嬉しかった。つくづく単純な男である。
「ありがとう。でも確かに三人を大陸一にするとか言ってた割には努力が足りなかった。何をするのが正しいのかは分からないけど精進しないと、ね?」
満面の笑みを人和に向ける。逸らされた……。ガクリ。
「そ、それよりも、姉さんたちがいなかったのなら探してきてください。姉さんたちだけで街をうろつかせるのは色々な意味で危険です」
二人が街をうろつく様子を思い浮かべてみた。
片っ端から服を手に取り欲しいものを買いまくる二人(請求書は俺宛)とストップ役がいないのをこれ幸いとご飯を持ちかえりつきで購入しまくる二人(もちろん請求は俺)。
今までの行動から考えるとそれしか考えられない。額から嫌な汗が流れるのを感じる。止めなくては。
「行ってくる!!」
何があっても止めなくては。これ以上二人の財布になってたまるものか。
と意気込んで宿から飛び出したもののどこから探すべきか。とりあえず二人がいそうな場所を探すか。まずは服屋か。
「天和ちゃん? 天和ちゃんがこんな街に来るわけないだろ。もし来るならタダで服をあげてもいいぐらいだぜ」
「あの方の名前を呼ぶなんて君は何様のつもりだい? 出て行ってくれたまえ」
「ほああああ? ほああああ! ほわあああああああああああああああああああああああ!?」
……
…………
………………
何軒か服屋を回ってみたが二人の目撃情報は手に入れることはできなかった。その後露店や料理店を探してみたが見つからない。どこに行ったんだろう。その時背後から声が聞こえてきた。
「あー! やっと見つけた!」
振り返るとそこに居たのは今まで必死になって探していた地和と天和がいた。天和は少しふてくされた様子で地和は苛々した表情でこっちに近寄ってくる。さすがに街中で目立つ格好はせず普通の女の子が着る服に変装をしていた。
「マネージャーなのに私たちが探さなきゃいけないってどういう事よ!? もう疲れちゃったよ」
「そうだそうだー」
「勝手に探してたのはそっちじゃないか。こっちも探してたんだからお互い様だよ」
「探してくれてたの?」
「人和から二人が俺を探して出て行ったって聞いててね。結構探してたんだよ?」
奢り云々の話は省き街中を歩き回った事を説明する。それで地和は納得して苛々を抑えてくれたが天和はそうはいかなかった。頬を膨らませ可愛い顔でぶーぶーと文句を言う。そしてとんでもない事を言い出す。
「一刀は天和の夫なんだから勝手にどこか行ったちゃダメー」
「え?」
ポカンとする地和。気持ちは良く分かる。
「……ちょっと待って。もう一回言って」
「だからー、一刀はわたしの夫だから。妻の言う事は聞くの」
いかにも当たり前のように言う天和。だから脳の回転が追いつかなく目で地和に助けを求める。まさか自分に話題が飛んでくると思ってなかった地和は挙動不審になりながら
「私に振るの!? えっと、おっとおっとおっとおとこおとう、ごめん無理」
何とかしてくれなかった。出来るとも思わなかったけど。
「まぁとりあえず落ちつこう。なにゆえ手紙を交換するとか隠れて逢引をするとかそういった過程をすっ飛ばして最終段階を通過した人に許される呼び方をしてるのかは分からないんだけど」
「手紙って……古い」と茶々を入れる地和。
「放っといて。それで?」
「嫌なの?」
「嫌とかそういう問題じゃって何でそんな上目遣いでこっちを見る。ウルウルしない」
「可愛くない?」
「可愛いけど! 今はそういう問題じゃないよね。誤魔化そうとしても無駄だよ。だから涙目でこっちを見ない!」
「ぶーぶー」
「話が進まないから! あのなぁ、天和が夫とか妻とか言うと冗談に聞こえないから、いい?」
「はーい」
まったく、無駄に疲れるよ。はぁとため息をついて視線を下に落とすと天和が手に何かを持っている事に気付いた。
「天和それ何を持ってるんだ」
指摘を受け天和は持っていたそれを一刀に見せた。
「本?」
天和が持っていたのはやけに古びた本で見事なまでに天和とはミスマッチしていてそこだけ異質な空間があるように感じた。
「うん、さっきちぃちゃんと本屋に行ったんだけど」
俺にとってはわたしはあなたの嫁発言よりもそっちの方が驚きだな。どおりで見つからないわけだ。怖い顔はやめてください地和さん。
「その時にわたしたちのファンだーって人がくれたの。代々伝わる大切なものなんだって」
「正直こんな古いのいらなかったんだけどね。何書いてあるのか分かんないし」
「へー」
代々伝わる大事なものをそんなに簡単にあげちゃっていいものなのかね。
「一刀が欲しいならこれあげる。というより貰ってー」
と言われたので本を受け取り表紙を見る。そこにはこう書いてあった。
『太平要術の書』
あとがき
大分間が空いてしまいましたが一応出来ました。短くてごめんなさい。
面接の結果? 聞かないでください。
やっと今日一日が空いた(WEBテストは受けてましたが)ので一気に作りました。
今回の話ですが早く黄巾の乱にもっていきたくてフルスロットルで進行してしまいました。チビとデク、特にデクの性格が固定されてなくて出しづらくてしょうがないのです。アニキはそれなりに固まってるのですが……
何か良い案があれば遠慮なく言ってください。今後の展開についてでもよいです。むしろ下さい(笑)。
何があっても完成はさせ
ようと思いますので気長に次の話が出るのを待っていてください。
では明日も面接なので寝ますzzz
お疲れ様でした。
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眠気と戦いながら作りました。
でも書き終えると清々しいです。