No.125849

恋姫異聞録20

絶影さん

魏領土通過案内
劉備ご一行様其の①

今回は案内話です
稟がある意味やってくれました

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2010-02-21 20:31:38 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:23116   閲覧ユーザー数:17770

 

 

 

「昭、劉備殿達と共に行くのか?」

 

「ああ、すまないな秋蘭。だが警備部隊は俺の管轄だ、それに追撃を払うのに参戦しないんだ良いだろう?」

 

「・・・・・・だが・・・・・・いや、そうだな凪達も連れて行くのだろう?」

 

「そうだ、凪達とも一緒だしこの期に及んで罠なんて事はないさ、心配要らないよ」

 

「ああ、追撃は私と姉者に任せろ。無事に帰ってきてくれ昭」

 

「解った」と言って劉備軍本陣に歩を進めようとすると裾を引っ張られる

後ろを見れば顔をうつむかせた秋蘭が無言で裾を掴んでいた

 

「そんな顔をするな、俺からしたら追撃を追い払う秋蘭のほうが心配だよ」

 

振り向き秋蘭を優しく抱きしめる。隣で見ていた春蘭と眼が合い無言で頷く

私に任せろと言っているのだ、俺はその眼に安心をして秋蘭の頭を撫でて離れる

 

「私も姉者も心配はいらない、だから・・・・」

 

「ああ、早く帰ってくるよ。涼風と待っていてくれ」

 

秋蘭は矢の鏃を外し俺に渡す。そうだな、弓と矢で武器となる。俺は矢で秋蘭は弓だ

受け取った鏃を懐にしまい劉備軍へと向かう、安全な経路を策定しているはずだ

 

益州までの経路策定後、一馬と詠は趙雲を始めとする劉備の将と共に兵を連れ

国境先の土地を治めるべく先に出発をし、俺たち凪、沙和、真桜は劉備、関羽、諸葛亮と共に

行軍速度の遅い民を連れゆっくりと移動を始めた。

 

「劉備殿お疲れではないですか?馬を用意しましょうか?」

 

「いいえ、皆歩いているのに私だけってわけにはいきませんよ」

 

そういう劉備の足元はフラフラしている。どうやら体力には自信がないようだな

それなのに歩く、この姿に民は着いていこうと感じたのだろう

 

「桃香様、あまり無理をなされないでくださいね。ところで昭殿、日程はどのように?」

 

「本来なら10日ほどの日程で行けるのですがこの速度なら20日といったところですね」

 

「そうですか、では途中どこかで休憩を入れるのですね?」

 

「ええ、心配なさらずとも今は曹操様の客人ですから。劉備殿にも無理はさせませんよ」

 

俺の言葉に劉備は苦笑いを浮かべる。何と言うか頑固なのか、意固地なのか

よく解らんが、民のことを考え共に歩きたいと思っているのは良いことだ

 

「お兄さん、今回はありがとうございます。領地を通してもらうどころか、わざわざ護衛までしてもらって」

 

「いいえ、かまいませんよ・・・・・・・・・・・失礼」

 

「どうなされた昭殿?」

 

関羽が目線を俺のほうに向けると老婆が背負ってきた荷物を崩し、地面にばら撒いてしまっている。

俺は一つ一つ拾い上げ老婆の代わりにその荷物を風呂敷にまとめ背負う

 

「隊長、このような事は我らが。隊長は劉備殿の護衛を」

 

「おいおい、俺もこのくらいはするぞ」

 

「いいえ、良いのです。隊長はあちらへ」

 

「ううーん、ならあっちの荷馬車を押すよ、泥にはまってる」

 

「だめですっ!またく隊長は、おとなしくあちらで護衛をお願いします」

 

警備隊の兵達は俺が荷物を持とうとするとそれを奪い、荷馬車を押そうとすると

それも引っぺがされる。いつもそうなんだが、俺にそういった仕事をさせてくれないんだよな皆

劉備のところへ戻ると二人が俺をじっと見ている。なんだ?どうした?

 

「お兄さん」

 

「昭殿、貴方は、何と言うかまるで桃香様のようだ。」

 

「?劉備殿といっしょ?」

 

「ええ、皆に好かれている。貴方の負担を減らしたいと思っているのでしょう」

 

そういうと二人は感心したようにニコニコ笑って俺を見てくる。

何と言うか、そういう言い方をされると凄く恥ずかしいな、顔が赤くなってしまう

 

「えっと、ところで諸葛亮殿はどちらへ?」

 

「フフフッ、朱里ちゃんなら経路を確認してくるといって楽進さんのところへいきましたよ」

 

「凪のところへか、先頭だな・・・・・・申し訳ありませんが私も行ってきます」

 

「あ、それなら私達も行きます。ね愛紗ちゃん」

 

「かまいませんが桃香さま足元が・・・・・・」

 

「大丈夫!大丈夫!」といってはいるが無理だろうな。しかたない、

俺は中腰になりはぁはぁと肩で息をする劉備殿の前に背中を向けて立ち有無を言わせず背負う。

 

「うわっ!あ、あのっ!」

 

「行きますよ、劉備殿。貴方に倒れてもらっては曹操様に私が叱られる」

 

「え?あ、は、はいぃ」

 

「関羽殿、行きましょうか」

 

「あ、はい。もうしわけありません」

 

背中で顔を真っ赤にしてちょこんと俺の肩に手を乗せている。借りてきた猫というやつだな

関羽もなにやら柔らかい笑顔で俺のほうを見ている、劉備の様子が可愛いと思っているのか?

先頭に向かい進んでいくと俺が心配していた通りのことになっていた

諸葛亮は人の波に飲み込まれて身動きが取れなくなっていたのだ

 

「やっぱり」

 

「え?ちょっとお兄さん?うわっ!」

 

俺は劉備を背負ったまま人の波に入り込み片手で諸葛亮を抱き上げる。

このぐらいの人込みは張三姉妹の舞台でなれているからな、しかし諸葛亮は

よほど怖かったのだろう、顔が強張り涙を流していた。

 

「よしよし、大丈夫だよ」

 

「ううぅ、はうううぅ、桃香さまぁ」

 

「朱里ちゃん、怖かったんだね。ごめんね私達も一緒に行けばよかった」

 

人の波を抜け俺は背中に劉備を背負い、右手には諸葛亮といった変な形になっていた

 

「昭殿っ!申し訳ない朱里まで」

 

「いや、いいさこれだけの人込みだ。身動きが取れなくなって当たり前だよ」

 

「ありがとうございますぅ~」

 

諸葛亮は涙ぐみ変な声でお礼を言ってくる。さて先頭までもう少しだこのままいってしまうか

二人にこの人の波は抜けられないし。しかたない、そう思いまた人の波に入っていく

 

 

「あ、昭殿っ?」

 

「関羽殿、着いてきてください。一気に先頭にでます」

 

背中と腕から変な声が聞こえるが仕方ない、関羽は何とか着いてきてるな

人と人の間にうまく体を入り込ませて抜けていく、この感じは舞を舞っている時の様な

感じに似てる、だがあまり早すぎると関羽が追いつかないか

速度を少し落とし、進むと人がまばらになっていく。もうすぐ先頭だな

 

「隊長、どうなされたのですかその格好は!」

 

「ん?ああ、お二人が先頭に行きたいと言っていたんでな」

 

先頭に着くなり凪に驚かれ背中の劉備を見て見ると眼を回しているちょっとやりすぎたか?

腕の中の諸葛亮も「はわわわわぁ~」と変な声を出している

 

「ぬぅっ!はぁっはぁっ!つ、ついた!昭殿、早すぎます」

 

「おお、関羽殿。すまない少し早すぎたようだ」

 

「あ、お兄さんもう大丈夫です」

 

「わ、わたしも」

 

そういって二人は俺から降りる。ちょっと怖がらせてしまったか?悪いことをしたなそう思い俺は諸葛亮の頭を撫でた

 

「すまない、怖い思いをさせてしまったな」

 

「あ、あのっ!いいえ、大丈夫です」

 

俺は涼風にするように優しく頭を撫でていると顔を赤くしてうつむいてしまう、そんな

やり取りを見ていた劉備が近寄ってきてニコニコしながら頭をこちらに向けてくるので

苦笑しながら劉備の頭を撫でた。甘え上手なのか?劉備は

 

「隊長、まったくなにをしてるのですか!もうすぐ予定の邑に付きますよ」

 

「ああ・・・・・・凪、木管を見せてくれ」

 

先頭に立ち見えて来た邑、ここに経路を引いたのは稟か?馬鹿なことをっ!

この邑に劉備たちを通すなど、話し合いで口を挟まなかったのはこの為か?

 

「劉備殿、申し分けない。違う邑に回りましょう、それか邑の外で野営を・・・いやそれもまずいか」

 

「え?何故ですか?」

 

「次の邑はちょっとした訳があって色々な人達が居るのですよ」

 

「でも、着いてきた皆はきっと疲れてます。野営もできないなんて」

 

「昭殿、桃香さまのおっしゃるとおり着いて来た民の疲労は限界だ、野営も出来ず迂回など」

 

出る前に経路を確認しておくのだった、仕方ない俺が邑に行って話をするか

この邑にあまり踏み込んで欲しくはないんだがしかたあるまい

 

「解りました、こちらの失態ですから先に私が邑に入り長老と話してきます」

 

「それなら私も行きます!私達がお世話になるんだからちゃんと挨拶はしなくちゃ!」

 

「お気持ちだけで、ここから先は私一人で行きます。」

 

そういって邑に向かおうとすると劉備が無言で着いてくる。

まったく頑固なんだな本当に、顔は笑っているが邑に入ったら笑えなくなるぞ、仕方ない

 

「凪、真桜と沙和をよんできてくれ、関羽殿も悪いが着いてきて欲しい」

 

「解りました、桃香さま余り無茶をしないでください」

 

「えへへ、ゴメンね愛紗ちゃん。でも私ちゃんと話をすればわかってもらえると思うんだ」

 

「諸葛亮殿はここでお待ちください、皆は民を守りながらここで待機だ」

 

邑から結構な距離で皆を待機させて劉備を守りながら俺達は邑にむかう

これだけ離れていれば邑の者を刺激しないだろう、せめてあいつがいれば話が早いんだが

 

「着いたな、関羽殿は劉備殿に。凪達は後ろから来てくれ」

 

「ええ、しかし何と言うか皆こちらを見ていますが。」

 

関羽の言う通り、邑に入るなり人々は俺達を、というより関羽と劉備に視線を集め

異様な雰囲気が漂う。早いところ長老のところまで行かなければ

 

「おまえたち、何しに来た?」

 

一人の邑人がボソリと呟くように言葉を吐く、それを皮切りに周りからはボソボソと

呟く声が聞こえてくる。「また戦を持ち込みに来たのか?」「それとも俺たちを殺しに来たのか?」

そんな声がだんだんと大きくなる。

 

「愛紗ちゃん、ここの人達」

 

「くっ!近寄ってくるならば斬る!」

 

そういって武器を構えようとするのを俺は手で押さえた。そんなことをしては火に油だ

なおも呟く声が大きくなる「その刃でまた私の家族を殺すのか?」「私の子供達を返して」

そんな声が叫び声に変わり、一人が石を投げる。堰を切ったように周りの者も手に取ったものを

投げつけてくる

 

「出て行けえええええええええ!!!!!!」

 

皆が石や木片をこちらに投げつける。いやこちらというのは正確ではない

劉備と関羽に向かって投げているのだ

 

「きゃっ!」

 

「桃香様っ!」

 

ガツッ!

 

投げた石が額に当たり、そこからは真っ赤な血が流れ落ち、地面に滴り落ちる。

 

「昭殿・・・・・。」

 

「お、お兄さん」

 

俺はとっさに劉備に投げられた石の盾になっていた、そして俺から流れる血を見て周りの動きが止まる

 

「静まれ、お前達はすでに魏の民だ。ここにいらっしゃるのは曹操様の客人

その客人に手を上げれば曹操様に仇名す行為だ」

 

俺の言葉に一人の民が前に出て泣きながら劉備を睨み俺に訴えてきた

悲しみと怒り、憎しみに染めた眼、見え過ぎる俺にはきついまなざしだ

 

「私の息子は理想の為に戦いました。しかし残ったのは息子をなくし病んでしまった妻と

腕をなくした私、この怨みを晴らしてはいけないのですかっ!」

 

「そうか、俺も子を持つ身だ。気持ちは解る、いや実際にお前のようにならねば真の意味で解らないだろう

だがな、死んだ子が親の憎しみで歪む顔を見ていたら静かに眠れないだろう」

 

そういって優しくその男を抱きしめる。戦などどこまでいったって殺し合いだ、憎しみが晴れるわけがない

 

「すまない、俺もその一人だ。理想のため兵を、人を殺している。全てが終われば俺はお前達に殺されても

かまわない」

 

「な、なにをおっしゃいますかっ!貴方様はこの地に我ら傷ついたものを受け入れ、傷で腐った我らの体に

包帯を巻いてくださる。それどころか薬と医師を我らに届けて下さる。そんなお方を殺すなど」

 

人込みの中から二人の男が一人の女性を俺の前に引きずり出す

地面に投げ出された女性は震えながら俺を見上げている

 

「昭様、コイツが貴方に石を投げた奴です。」

 

「も、もうしわけございません。そんなつもりは」

 

凪が俺の隣に立ちそっと額に包帯を巻いてくる、その顔は俺を信じている顔だ

俺は笑顔で返す、解っているよと

 

「なんのことだ?凪、真桜、沙和お前達何か見たか?」

 

「いいえ、何も見てません」

 

「見てないの~」

 

「隊長の頭にでっかい蚊がおったのはみたで~!」

 

俺達の言葉に女性は崩れ落ちみなの中から一人の男が飛び出し抱える

どうやら夫婦のようだな、よかった一人では立てないだろうからな

 

「皆は魏の民、覇王の民だ。怨む心も曹操様は解っておられる。だが誇りを忘れるな

彼女達は助けを求めこの地に来たのだ、助けを求めるものを我らは見捨てたりはしない」

 

そういうと周りの民はそれぞれ顔を見合わせて頷き地面に膝を着く

終始ずっと見ていた関羽は複雑な顔をし、劉備は顔を青くして下を向いてしまっている

やはり無理やりにでも連れて来るべきではなかった

 

「昭様、ようこそいらっしゃいました。話は詠様から聞いております」

 

「よく来たな!すまない黙って見ているつもりは無かったんだが長老がな」

 

道の前から現れたのは車椅子に乗った長老とそれを押す・・・・・華佗 !

 

「長老に華佗!久しぶりだな!しかしどういうことだ?」

 

「もうしわけありません、私も少なからず戦を起こすものに怨みを持つもの」

 

「そうでしたか、しかたがありません。しかし詠はここに寄っていてくれたのか」

 

「ええ、大変心配なされておりましたが私の我儘です。月様にも申し訳ない」

 

少しまえにこの邑の話をしたところ月は脚を運び介護をして周っているようだった

これは本当に聖女になってしまう、嬉しいことだ

 

 

「しかし華佗、本当に久しぶりだ。大陸をまわる旅は終わりか?」

 

「ああ、約束通りお前達の医師として魏に入ろう」

 

「ありがとう、すまないな」

 

「何を言う、張魯様を救いそれどころか我らの教えを認めてくれたのだ!この程度、恩を返したことにはならん!」

 

「弟子まで作らせてしまったのも、お前は本来望んでいなかっただろう?」

 

「ははははっ!かまわん!それに昭の言う通り弟子が居たほうがより多くの人々を救える!」

 

「そういってもらえると助かる。そうだ、俺の真名を受け取ってくれ真名は叢雲だ」

 

「おお!真名を授かったか!喜んで受け取ろう親友!」

 

握手を交わすと華佗はまだこの邑の人達を診終わっていないので後から許昌に向かうといって

その場を後にし、俺たちは長老の許可をもらい待機している民達をこの邑へと移動させた

 

「劉備様、湯の用意が出来ております」

 

「え?はっ、はいっ!」

 

「大丈夫ですか?隊長も心配なされていました」

 

長老の用意した部屋に案内されてからも顔をずっと青くしたままうつむいてしまっている

やはり隊長の仰られたとおり刺激が強すぎたのだろう、ここまでの怒りや恨みを受け止められるのは隊長くらいのものだ

 

「あ、あのお兄さんはいつも、あんな感じなんですか?」

 

「ええ、隊長はとてもお優しい。他人の為に涙を流す御人です」

 

「そうですか・・・・・・・・・・・」

 

「劉備殿、湯に浸かってくれば少しは気が晴れます。食事の用意もすぐに整いますので」

 

劉備殿は静かに頷くと扉の外で待機していた関羽と湯浴みに向かった。

あれが王か、華琳様と比べるとなんとか弱い王だろう。

だが劉備殿に着いていく民の気持ちが解らない訳ではない、

民と共に歩く感覚は期待をさせられる。華琳様とは違った気持ちだ

 

「なに難しい顔しとるんや凪~」

 

「ああ、真桜。なんでもないちょっと考え事をしていただけだ」

 

「そうか~?そんならいいけどあの劉備って言うの気つけた方がええな」

 

「む?何故だ?」

 

「ん~、女の感ちゅうやつや!今はまだ大丈夫みたいやけど」

 

真桜は何を言ってるのだろう?気をつけたほうが良い?武もそれほどあるようには思えないし

関羽をけしかけるとしても領土内で何かを起こすとは思えない

 

「まあ、ええわ。それより食事の用意をするんやろ?」

 

「あ、ああ。手伝ってくれるか?」

 

しばらくして食事の用意が整い、劉備殿、関羽殿、諸葛亮殿が湯浴みから広間へと案内され

三人は用意された料理に驚きの声を上げる。一番に驚いていたのは諸葛亮だ

 

「こ、これほどの食料をどうやって、中にはこの季節では取れない作物もあるっ」

 

「それは氷室という場所で保存をしていたものです。後は二毛作など隊長の知識です」

 

「氷室、二毛作。聞いたことが無い、いったいどういうものなのですか?」

 

「申し訳ありません。天の知識でもありますので私からは教える事は」

 

諸葛亮殿はがっかりしていたが仕方が無い、説明の出来ないものもあるし二毛作など

はっきり言って考え付かない、一つの畑で二つの作物を作り翌々年は土を休ませるため

何も作らず、腐葉土と呼ばれる枯れ草やこの間できた下水路の排水などを土に混ぜる。

土を生き物だと話す隊長はどこか生き生きとしていたな。

 

「あの、そういえばお兄さんはどこへ?」

 

「そういえば昭殿の姿がさっきから見えませんね」

 

「ええ、隊長は外で劉備殿たちの民と食事を取ってらっしゃいます」

 

「外で!?我らの民とか?」

 

「はい、隊長が仰るには自分が居ればここに居る皆は襲われることがないと、まだ怨みを持つものが

周りには居ますから」

 

私の言葉に劉備達は食事も取らず外へ駆け出す、隊長の下へ行くのだろう

追いかけなくては、途中で何かあったら大変だ。劉備達に追いついたとき

三人は隊長に見惚れ止まっていた。民の中心で火を焚き、邑の楽団に音楽を奏でさせ

いつも持っている棍を美しく回し舞っている。女の私が美しいと思ってしまうのだ

三人が見惚れるのも無理は無い。

 

「わぁ・・・・・・・・・・・・・すごい綺麗」

 

「ええ、桃香様。徐州に居たときもあれ程の舞を舞える者は居りませんでした」

 

「隊長の舞は私達、魏の中では有名です。特に奥様の秋蘭様との舞は陛下も絶賛なされておりました」

 

「なんと、陛下までも」

 

私の言葉によほど驚いたようだ、天子様も認め華琳様も御二人の舞はたいそう気に入っておられる

私も隊長の舞はとても好きだ、見ていて心が落ち着く。

 

「うちはこの間の悲恋恨剣ていう隊長の創作の舞が好きやな」

 

「真桜、沙和も」

 

「うんうん、あれは見ていて涙が止まらなかったの~!」

 

「え?自分で舞を作っちゃうんですか?」

 

「はい、秋蘭様と時間があるときによく作っているようですよ」

 

この間舞った創作の舞は、親を殺され恨みを晴らすため剣を持った青年と

青年に恋をする少女の親が仇という悲しい恋の舞、物語を秋蘭様が舞いを隊長が

といった役割で作るらしい、私もこの舞は少し泣いてしまった。

 

「お?劉備殿!こちらへどうぞ一緒に踊りましょう!」

 

「え!わっ!私は踊りなんて!」

 

「大丈夫!大丈夫!踊りなんてのは楽しめばいいだけです!さあっ!」

 

隊長は手をとり劉備殿を焚き火の前へ連れて手を引きクルクルと回り

さっきまで青い顔をしていた劉備殿の顔がだんだんと笑顔になり舞に夢中になる

 

「よかった、桃香様の顔が。昭殿は凄いですね」

 

「ええ、それに気がつきませんか?」

 

私の言葉で関羽殿は辺りを見回すと、先ほどまで恨みの眼で見ていた民と劉備殿の連れてきた

民が共に食事を取り、酒を飲み、隊長の舞に手を叩き喜んでいる

 

「これは、いつの間に」

 

「すごいですね!これが天の御使いの力!」

 

「それは違いますよ諸葛亮殿、隊長の人柄です。真名の示す通りの方ですから」

 

天の力などではない、これこそが隊長が苦しみ歩んできた道の目指すもの

華琳様や我らと共に歩み手にしようとしているもの、そんな隊長だから

私達三人は命を懸けることが出来るのだ

 

 


 
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