扉が開き声をかけられる。
「いらっしゃい。」
文の顔を見る。この間とは違いといい笑顔をしている。やっぱり文はこの表情が一番いいそんなことを思って見惚れていた。
「どうしたの?」
文の声に 何やら見惚れていたのを見透かされたみたいで恥ずかしかったが何事もなかったかのように一言、そっけなく返した。
「何が?」
そう言うと文は少しだけ笑い答えた。
「うん、何か表情が柔らかいなって。」
そうですかポーカーフェイスできてませんでしたか、すごく恥ずかしいな。こうなりゃ道連れだ。
「まぁな、文が笑顔で迎えてくれたからな」
「……。」
あぁ言っちゃった。言ってからものすごく恥ずかしくなってきた。そこで黙られるともっと恥ずかしい。失敗だったな。そんなアホを脳内でしているうちにリビングに案内された。
ソファーに座ると文はキッチンに向かいカチャカチャと食器を準備していた。そういえば、ここに来て部屋に入ったのは、初めてかなそう言えば。
なんてことを考えていたらキッチンから文がカップを二つもってやってきた。
「良はブラックでよかったよね?」
そう言いながら文がカップを渡してくれた。
「そう。ブラックで良いよ。コーヒーはブラック限る。」
「体に悪いよ。ミルクぐらいは入れたら?」
文は自分の分をテーブルに置き前に座る。
「今のところ異常はない。」
時たま胃が痛い時もあるが、それはストレスだろうしコーヒーは無罪だ。そう思い答えつつ文のカップに注がれている物がコーヒーであることに気づいた。
あれ、妊婦ってコーヒーとか飲んでよかったけ。確かダメだったような。
「って文、お前はコーヒーはダメでしょう。」
「えっ、何で?」
予想もしない返事が返ってきた。てっきり「あっ」とか「そっか」とかそんな返事が来る物だと思っていた。あれもしかして、俺勘違いしている。そう思いちょっぴり勇気を継ぎ足し言葉にしてみた。
「お腹の子に良くないだろ。もしかして……。」
その先を言葉にすることはできなかったが、昨日言ったことを思いだした。
「ごめんな。文が決めたことなんだから俺は何も言わない。どちらでも連絡もらう約束だったな。」
今俺はどんな顔しているんだろうか。ポーカフェイスできないのは先ほど証明されているのでひどい顔しているんだろうな。そんなことを考えていら文がすごい勢いで話し始めた。
「ねぇ、良は生まないことに協力はしないと言ったよね。でもそれ以外は何でもするって言ったよね。良を信じていいんだよね。あのね、私お腹の子おろしたくない。ちゃんと生んであげたいだから、」
文は一気にそこまで言うと、一息つき次の言葉を紡いだ
「あのね、良。この子の父親になってくれないかな。」
なんだか思考がフリーズして強制終了しかけられた。本当今日は、予想しないことばかりが起きる。なんかすごく顔が暑い、きっと鏡でみたらゆでダコだな。
文の視線に耐えきれず目をそらす。文の手がお腹にゆっくりと添えられ優しく触るその動作をみて再び視線を文の顔に戻す。いい顔をしていた。
「でも、これってちょっと、いやいやちょっとどころじゃないな。すごく格好わるい。」
文に聞こえないようにひとりごちった。ちょっとだけ自己嫌悪に蝕まれそうだ。これそう、受け取っていいんだよな。気持ちを伝えるのは、まだ時期じゃないと思っていた。
そんなことしたら俺はただの卑怯者だと思ったから、先延ばしにしていた。けど順番をいくつか飛び越してないか文。
「わかったよ、文。何でもするっていったんだよな俺。けどまさか先こされるとは。俺って奴はしょうがないよな。」
出来れば、自分からしたかったな、そう思い文の顔をみる何やら、じっと見つめられていたみたいだ。
「とりあえずなにからすればいい?」
文はキョトンとしていた。何かすることがあるのと言わないばかりに。
「えっと、まだ何も考えてない。良、何すれば良いのかな」
俺はあれこれ色々考えた。まずはちゃんと病院にいって書類をもらって役所に持っていって母子手帳をもらって……その前にやることがあったな。避けて通れない試練だな。
「さぁ、まぁ、文の両親の説得だろ」
生まずにあきらめる。そう助言していた両親が生みますと言って、そうですかどうぞなんてことはありえないしな。
「大丈夫だよ。たぶん賛成してくれる。」
文は両親が自分を応援してくれると思っていたらしい。
「そうかな。たぶん反対されると思うぞ。文の話聞く限りじゃ。」
「そんなことないよ。わかってくれる。」
そこまで物わかりのいい人はそうはいない。俺の両親ならともかくまともな思考をもった大人なら反対する。
「まぁここで、話してもしかたないよ。文の両親に会いにいこう。話はそれから。」
「今から?」
「今からがいいけど、文の両親は今家にいる?」
「お母さんはいると思うけど、お父さんはわかんない。」
「電話してみなよ。いるなら、今から行こう。」
「電話じゃダメかな。生むことにしたからって」
「ダメだよ。大事なことなんだから。向き合って話さないと。大丈夫、一緒にいくからそれに挨拶しな……。」
文は携帯を手に取り、家に電話をした。
「もしも、お母さん。あのね大切な話があるの。お父さんはいる。」
たぶん今日は長い1日になる。そんなことを思いながら冷めてしまったコーヒーを口に含んだ。
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どこかで起きていそうで、でも身近に遭遇する事のない出来事。限りなく現実味があり、どことなく非現実的な物語。そんな物語の中で様々な人々がおりなす人間模様ドラマ。