No.106362

桜雨天風(おううあめのかぜ)その15〜二人〜

華詩さん

どこかで起きていそうで、でも身近に遭遇する事のない出来事。限りなく現実味があり、どことなく非現実的な物語。そんな物語の中で様々な人々がおりなす人間模様ドラマ。

2009-11-10 20:21:22 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:810   閲覧ユーザー数:794

 扉を開き声をかける。

 

「いらっしゃい。」

 

 良司はなぜかホッとしたような表情をしていた。なぜそんな表情をするのかわからなかったから聞いた。

 

「どうしたの?」

「何が?」

「うん、何か表情が柔らかいなって」

「まぁな、文が笑顔で迎えてくれたからな」

「……。」

 

 私は何だか恥ずかしく言葉でなかった。良司をリビングに案内しテーブルに付いてもらい、私はキッチンでコーヒーをいれる。二人分のカップをもってリビングにいき良司にコーヒーを渡す。

 

「良はブラックでよかったよね?」

 

 聞きながら良司にカップを渡す。

 

「そう。ブラックで良いよ。コーヒーはブラック限る。」

「体に悪いよ。ミルクぐらいは入れたら?」

 私は良司にそう言いながら、自分の分のコーヒーをテーブルに置き良司の対面に座った。

 

「今のところ異常ないし。」

 

そう答え私を見て何かに気づいたように言った。

 

「って文、お前はコーヒーはダメでしょう。」

「えっ、何で?」

 

 良司が言う意味が今イチわからず聞き返してしまった。良司の表情はなんだかしまったって感じになっていた。

 

「お腹の子に良くないだろ。もしかして……。」

 

 良司が申し訳なさそうに言った。もしかしてのあと何を言おうとしたのかわかった。大丈夫だよ良、私ねちゃんと決めたから心配しないで。

 

「ごめんな。文が決めたことなんだから俺は何も言わない。どちらでも連絡もらう約束だったな。」

 

 良司は誤解している。だから私は切り出した。

 

「ねぇ、良は生まないことに協力はしないと言ったよね。でもそれ以外は何でもするって言ったよね。良を信じていいんだよね。あのね、私お腹の子おろしたくない。ちゃんと生んであげたいだから、」

 

 わたしはいったん言葉を区切り良司に言った。

 

「あのね、良。この子の父親になってくれないかな。」

 

 いいよねこれでってお腹の子に伝えるように私はお腹に手を当てる。

 そして、良司の目を見つめる。なぜか良司は真っ赤になっている。あれ私何か変な事言ったかな。良司は私から目線をずらし何やらぶつぶつと言っていた。そして何やら納得したような表情に落ち着いていた。

 

「わかったよ、文。何でもするっていったんだよな俺。けどまさか先こされるとは。俺って奴はしょうがないよな。」

 

 良司が何の事を言っているのかよくわからなかったけど、一緒にこの子を守ってくれる事はよくわかった。シングルマザーになるのはとっても不安だった。けど理解して支えてくれる人がいる限り大丈夫。

 けどそこまで迷惑をかけてもいいのかな。良司の表情をじっと見る。良司は慌てたように聞いてきた。

 

「とりあえずなにからすればいい?」

 

そう言われても私はまだ何も考えてなかった。

 

「えっと、まだ何も考えてない。良、何すれば良いのかな」

 

 良司はアレとコレと、指を折り始めた。そんなにしないといけないことがあるのかな。

 

「まぁ、文の両親の説得だろ」

 

 私は良司に言われて、初めて気づいた確かに生むことには賛成していない。でもわかってくれるはず。そう信じたい。

 

「大丈夫だよ。たぶん賛成してくれる。」

 

 私は良司にそう答えた。そんな私に良司は苦笑いして答えた。

 

「そうかな。たぶん反対されると思うぞ。文の話聞く限りじゃ。」

「そんなことないよ。わかってくれる。」

 

 私は少しむっとして良司に反論する

 

「まぁここで、話してもしかたないよ。文の両親に会いにいこう。話はそれから。」

「今から?」

「今からがいいけど、文の両親は今家にいる?」

「お母さんはいると思うけど、お父さんはわかんない。」

「電話してみなよ。いるなら、今から行こう。」

「電話じゃダメかな。生むことにしたからって」

 

 私は少しだけ怖かった。両親に反対されたら生めなくなるような気がした。

 

「ダメだよ。大事なことなんだから。向き合って話さないと。大丈夫、一緒にいくからそれに……。」

 

 最後のほうはよく聞こえなかったが、良司がいてくれるなら大丈夫だと思った。私は携帯をとり実家に電話をした。

 

「もしも、お母さん。あのね大切な話があるの。お父さんは……。」


 
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