No.124389

輪・恋姫†無双 一話

柏木端さん

「輪・恋姫†無双」の輪は輪唱(カノン)の輪。
だけど、二話までを見直しても、カノンの祐一君を連れてくる意味がないように見える…
これまでに読んだ二次創作で、ヒロイン8人同時におとしてたり、
ファンタジーもので祐一最強ものが多かったのがこの着想の原因じゃないかと…

2010-02-14 18:05:42 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4677   閲覧ユーザー数:4049

 

本当に、危ないところだったと祐一はぼやく。

 

気を操るということにおいて、教えを請う人間が居ない相沢家という環境で育ってきた相沢祐一は、力加減というものが苦手である。

 

そもそも魑魅魍魎を相手取ることを前提とした草壁の戦闘術を常人相手に振るうこと自体、あり得ないのだ。

 

相手が明らかに素人だったから、気を込めることはしなかったが、それでも危うくバッサリいってしまいかねないとか真剣に思ったくらいだ。

 

踏み込みをギリギリで浅くして、最初の一太刀を致命傷に至らないように気をつけ、三人のバラバラの斬撃をかわし、結局峰打ちで意識を奪うにとどめた。

 

自分のこれまで生きてきた世界ではないと理解していても、相手が無抵抗の人間に刃物突き付けて金巻き上げる悪漢だったとしても、目の前に居るのは常識的な範疇におさまる人間なのだ。

 

それに対して、自らの力を使うことは自らの信念に関わる。

 

「不殺の誓い」なんて崇高なものではない。必要であればこの手で人の命を奪うことだってするだろう。だが、初めて人を殺してしまった時に、「切られる覚悟の無いものは殺さない」と誓った。

……後に、アニメで似たような台詞が出てきてからは決して、家族にも言わなくなったが。

 

なので、とりあえず先ほどの三人の武器をそこらに捨てて、上半身の衣服を脱がして、それで手を後ろに縛りつけ、後ろからせっついて歩かせている。

 

鬼丸は仕舞わないでおいた。三人に対する威圧になるし。

 

そして、三人から祐一的には交渉によって情報を聞き出した。語る内容はにわかには信じられないものばかり。

 

 

 現在、後漢朝。

 

 現在地、幽州。

 

 

「幽州ってどこ?」と聞いたらアニキと呼ばれていたヤツがずっこけた。

 

後漢朝と言われたから中国の、三国時代あたりじゃないかとは思ったが、あいにく中国の古代史にはあまり興味を持っていなかったこともあり、そんな州の名前を言われた程度じゃ現在地がわからなかった。

 

自分が話しているのが日本語なのにちゃんと会話が成立していることも影響したのか、上海とか北京みたいな地名が来ると思っていたのも大きい。

 

チビに聞くと、漢の北の方ということはわかったので、今はそれ以上突っ込むことはしないでおいた。

 

ただ、彼はこんなのどかな結界なんて聞いたこともない。草壁操クラスの実力を持った三国志マニアの術士がその技術と数年単位の退屈をおしみなく使って作り上げた、と言われても納得できないくらいのものだった。

 

このやるせない思いはわきに置いておいて、命を奪わなかった時に決めていた質問をぶつけることにした。

 

「で、お前ら。何であんなことをしていた。」

 

「あんなこと?」

 

「盗賊行為。」

 

殺気と呼ぶには少し生ぬるい程度だが、確実に威圧を加えて聞く。

 

「そ、そうしないと、生きていくこともできないんだな!」

 

「俺たちは黄巾党に村をつぶされた。アニキが機転を利かせてこの黄巾を巻いたから殺されずにすんだんだ!」

 

「ああやって食いつなぐ以外にどう…っ!?」

 

アニキと呼ばれた男の言葉が、祐一の威圧が増したことで途切れる。

 

「お前たちに選択肢は二つある。」

 

「へ?」

 

「このままどこかの町で法律によって裁かれるか、善人として剣を持つ意味を知るか。」

 

法律にかけられれば彼ら三人は死罪だろうことは想像に難くない。なので、後者を選ぼうとするが、

 

「剣を持つ意味だと?」

 

「殺される覚悟の無いヤツが剣を握るヤツが俺は大嫌いなんだ。だから嫌でも死を覚悟する場所に出てもらう。」

 

相沢祐一は立ち上がり、既に視線は三人には向いていない。

 

「法律が怖いなら俺と一緒に戦場に来い。……今からな。」

 

「「「今から?」」」

 

「悲鳴が聞こえた。女の子の。……っとに見境なしかよ…時間がない。5秒で決めろ。」

 

「あっ!い、行きます!お頭!!」

 

呼び方を若干修正したかったがその時間も惜しいとばかりに駆け出した。

 

 

二人の幼めの美少女が十人くらいのむさい黄巾を巻いたおっさんに追いかけられていた。

 

あれは、後ろの三人とは違う。生きるためではない。欲求ではなく欲望に突き動かされて他人を襲っている。そして、こいつらもまた覚悟を持たない下種だった。

 

だから、彼は手にした鬼丸を使わない。先頭の男がトンガリハットの女の子の肩をつかもうとしたとき、

 

「待てぃ!」

 

高らかに呼びとめた。

 

「っ!だ、誰だ!」

 

「えっ!?お頭!?此処まで来て普通に呼び止めちゃうんですか!?」

 

当たり前だと内心呟く。これは、後ろの三人に剣を持つ意味を教えるためのものなんだから。不意打ちのなぶり殺しじゃあ意味がない。だいたい、殺すつもりもない。

 

そんな内心を隠して目の前で狼狽している賊を見据えて糾弾の言葉を続ける。

 

「丸腰の少女二人に自らの欲望の為だけに10人がかりで襲いかかるなど…その所行、言語道断!そんな外道の貴様らに名乗る名前など……無い!!」

 

「がっ!?」

「ぐふっ!」

「うおわあ!?」

 

一番近いヤツの首を飛び蹴りで狩り、着地と同時に呆然としたままの二人目に肘を入れて、三人目を一本背負いのようにして持った武器ごと投げ飛ばした。

 

その間、わずか2秒。

 

残りの7人と二人の追いかけられていた少女の間に立ち、鬼丸を担ぎあげ威圧する。

 

そして、

 

 

「うおおおぉぉぉーー!!」

 

 

祐一に気をとられた賊に三人が襲いかかる。

 

そして、三人には此処に来るまでにこう伝えてある。『剣を使わなかったときは、お前たちはひとりも殺すな』と。

 

だから、ここで死人は出ない。死ぬ覚悟を持たないヤツを殺しても、何一つ変化は起こらないのだから、それでいい。

 

そしてあの三人は剣を持つことの意味の、一端を知る。

 

己の剣は友を守り、傷つける相手の中に自分と同じものを見つけ、相手は自分を殺そうとして剣を振るう。それらのことを理解して初めて、真剣をもつものとしてのスタートラインに立つ。

 

逆に、友を思わず、傷つける相手は自分とは違うと思い込み、相手は自分に逆らわない無力なものだと思うものに、剣を握る資格はないというのが相沢祐一が築き上げた持論であった。

 

祐一に襲いかかってきた二人は足技で昏倒させ、最初の10人のうち6人ほどが倒れると残りの4人は逃げを選択した。忌々しいとばかりに顔を歪めるがさっさと指示を出す。

 

「チビ、お前の名前は?」

 

「あっしですか?姓は唐、名は周、真名は太郎です。」

 

「……(真名ってなんだ?つーか太郎って…)じゃあ唐周、お前あいつら少し尾行してこい。」

 

不謹慎だと思い笑いをこらえながら命を飛ばす。

 

「へい、わかりやした!」

 

デブと髭が犬みたいな感じで何かを待っているような目で見てきたが、誰か来ないか見張ってろとだけ言って、襲われてた二人に目を移した。

 

「大丈夫だった?二人とも。」

 

「は、はひっ!ありがとうございましゅっ!」

 

「ま、ます、ですぅ…」

 

「俺は相沢祐一。君たちは?」

 

後ろの方でお頭のお名前だ!とか二人が騒いでいるが、無視させてもらうことにした。さっきのチビもそうだったが、なんか厄介なことになっている気がしてならない。

 

「わ、私はしょ、諸葛孔明でしゅ!」

 

「私はあの、その、えと、んと、ほ、ほと、ほーとうでしゅ!」

 

「ふ、二人とも、カミカミすぎなんだな」

 

祐一は空を仰ぎ、呟く。

 

「まて、あわてるな、これは孔明の罠だ。……か。」

 

何故、女の子になってるんだろう。孔明が。それに三国志に興味がないとはいえ、三顧の礼という故事を知らないわけじゃない。

 

黄巾党の時期に、漢の北側の街道ほっつき歩いているのが孔明だと言われて、どうして信じられようか。

 

「お前、お頭に何したんだ!」

 

「はわっ!?私何もしてないでしゅよ!?」

 

「おい、髭。うるさい。」

 

「す、すいません…」

 

どうせ、いつもの癖で脳内の思考が口から出たんだろうとあたりを付ける。

 

多分、孔明の罠だ、あたりが出たんだろーなーと思いつつとりあえず目の前の少女はウソをついているようでもないので、このベレー帽みたいなのを被った子は孔明という名前なんだと無理やり納得する。

 

「それで、君は、ほー…?」

 

「鳳統でしゅ!あぅ…」

 

孔明が本当にあの孔明だとするなら、多分、将来は蜀の軍師だろう。

 

このナリにこの気弱さで武人だとか言われた日には、多分俺はマジギレする。

 

 

太郎が追っていた黄巾の連中は馬で逃げたらしい。それほどたたずにしょぼくれて帰ってきた。

 

「で、君たちはなんでこんなところに?」

 

「あ、あのですね、私たち荊州にある水鏡塾っていう水鏡先生っていう方が開いている私塾で学んでいたんですけど、でも今この大陸を包み込んでいる危機的な状況を見るに見かねて、それで、えと……」

 

「力の無い人たちが悲しむのが許せなくて、その人たちを守るために私たちが学んだことを生かすべきだって考えて、でも自分たちの力だけじゃ何もできないから、誰かに協力してもらわなくちゃいけなくて」

 

「それでそれで、誰に協力してもらえばいいんだろうって考えた時に、劉玄徳という方が義勇兵を募集しているって噂をきいたんです!」

 

「それで色々と話を聞くうちに、玄徳様が考えていらっしゃることが、私たちの考えと同じだってわかって、協力してもらうならこの人だって思って…」

 

「道中に、あの連中に襲われたと。」

 

「……はい。ぐす…」

 

泣いてるけど、大丈夫かこの子。義勇兵の戦列に加わって。

 

「頭…俺は、決めました。」

 

「ん?」

 

「俺はこの子たちと一緒にその玄徳様という人の義勇兵に応募します。」

 

髭は本気とわかる真剣な目を向けてきていた。

 

「もう、あんな連中と同じには戻りたくない。」

 

「お、おでも、行くんだな!」

 

「あっしも、こんな子にばかり全部押し付けるなんて、したくないです!」

 

「そうか。」

 

どれだけの金を積んでも、どれだけの権力を用いても、どれだけ神に祈っても過去を変えることは誰にもできない。

 

だから人は過ちを犯すことを恐れ、自らに向けられうる凶刃に怯える。

 

だから、現代には犯罪者を何処までも追い詰める組織が組まれ、この時代には信念を持った行動が是とされる。

 

正しい思いを信念として抱いたものは、二度と過ちを繰り返さない。そう思うからこそ、止めずにほほ笑む。

 

「俺も行く当てないしな。孔明、鳳統。俺たちも一緒に行っていいか?」

 

「は、はい!わ、私はえと、姓は諸葛、名は亮、字は孔明で真名は朱里です!朱里って呼んでください!」

 

「んと、姓は鳳で名は統で字は士元で真名は雛里っていいます!あの、よろしくお願いします!!」

 

「おでは姓は唐、名は権、真名は次郎っていうんだな!」

 

「俺は姓は唐、名は香、真名は三郎といいます。」

 

(アニキが三郎~~~!?)と、内心もだえながら名乗る。

 

「それじゃあ俺も、姓は相沢、名は祐一。祐一さんでも祐ちゃんでもお兄ちゃんとでも好きなように呼んでくれ。

東の方の国から来たんだが字の風習はないから持ち合わせていない。それと……」

 

ここで、少しタメた。

 

 

「真名って……何?」

 

その場にいた祐一以外の5人は、例外なくずっこけた。

 


 
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