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『舞い踊る季節の中で』 第6話

うたまるさん

『真・恋姫無双』の二次創作のSSです。

明命√の作品となります。
拙い文ですが温かく見守ってください

2010-02-12 22:04:15 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:29380   閲覧ユーザー数:21464

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』

  第6話 ~ 月夜に舞う想い(後編) ~

 

 

(はじめに)

 

 キャラ崩壊やセリフ間違いや設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

    姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

    武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :●●●●

    得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、天使の微笑み(ただし本人は無自覚)

    (今後順序公開)

 

★オリキャラ紹介:

諸葛瑾:

  姓 :諸葛    名 :瑾    字 :子瑜    真名:翡翠

  武器:"双天" 対の双剣

  武力:52(平均的な将を60とした場合)

  智力:81

  政治:89

  家事:92

  魅力:想像にお任せします(w

  焦った時の口癖:『 あうあう 』又は 『 ぁぅぁぅ 』等の類語です

  性格:基本的に温厚で、外見に反して大人の女性

     だが、焦ると地が出てしまう。(朱里と違って、自分を律しています)

     警戒心が強い性格だが、一度心を許されると、親身になってくれる。

     妹がいるため、基本的には面倒見が良く、放っておくと、食事を取るのを忘れる明命を心配してよく食事

     を差し入れていた。

     やはり、妹がいるためなのか、時折人をからかって、その反応を楽しんだり、とんでもない悪戯を仕掛け

     る悪癖もある、だが性質の悪い事に普段が完璧なだけに、周りは怒るに怒れないでいる。

     家事全般は人並み以上に出来、そこらのお店以上と自負していたが、丹陽で知り合った男性の腕を見て

     自信を喪失。 以降こっそり腕を磨いているが、全然敵わないと嘆く毎日を送っている。

     武術は好きではないが、妹達を変態共から守るため、必要最低限身に付けたもの。

     姉妹揃っての発育の悪さをコンプレックスに思いつつも、それを武器にする強かさを持っている。

     自分を子供扱いしない男性が好みだが、言い寄ってくるのは変な趣味の持ち主ばかりで、17の時、現実

     の男(変態の多さ)に愛想が付いた時に『八百一』と出会う。 以降のめり込み、妹達を洗脳するも、

     基本的には周りには秘密にしている。 そのうち執筆も行うようになり、掲載されるようになる。

     数年たった現在では、定期的な愛読者もつき『八百一』の主要作家の一人となっている。

     黄巾の乱後、作品が益々洗練され、世に愛読者を急増させる要因となった。

 

荊州南陽の街に着いて、三ヶ月の時が経とうとしていた。

そんな中、俺に落ち込む暇など無く、今日も日々の糧を得るために働いていた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

俺はそう言って、営業スマイルで、客を迎える。

客をいかにも自分の主であるかのように出迎え、席へ案内する。

余裕があれば談笑を、忙しければ店員と目と指で合図しながら、フォローしていく。

 

「行ってらっしゃいませ、奥様」

 

出かける主人を暖かく見送るように、笑顔で最後の客を見送り、息をつく

 

「弛んでるわよ」

 

そんな俺に、まるで人の悪戯を見つけたような、楽しげな声がかけられる。

店内にいたもう一人の客が・・・正確には客とは言えないけど

 

「翡翠、少しは息をつかせてよ」

 

そう言いながら、俺は後片付けをし、次の客をいつでも迎えれるように、店員に指示を出す。

荊州南陽についた俺は、いつまでも紐みたいに、女性の世話になるわけには行かないと思い、店を出したいと、

前々から、翡翠に相談していた。

俺の相談に、翡翠は賛成してくれて、小さいながらも現在の店を出す手続きをしてくれた。

正直、此方に赴任したばかりの翡翠に、無理を言った自覚はある。

だが、翡翠は、

 

「あら、紐みたいな男に明命や私が真名を許したなんて、言われても良いの?

 借りと思ったなら、それをしただけの価値があったと、回りに思わせれば良いのです」

「えーと、それは失敗は許さないって事?」

「当たり前です。

 それとも一刀君は、明命の餞別や、私の心遣いを無駄にするつもりなんですか?」

 

そう言われては、こちらとしては頑張るしかない。

まぁ、元々手を抜くつもりは無かったので、翡翠の言葉は、俺を励ます激励と思う事にした。

問題は、店を出すにしても何をするかと言う事で、俺は執事喫茶にした。

幸い学祭で、執事喫茶の模擬店も出した事もある。

その時に及川の計らいで、短期ながらもお店でそのための修行もした事があったからだ。

俺の執事喫茶は、及川達に言わせると天職らしい。(まぁ、それは及川の冗談だろうが)

それに、女性優位のこの世界では、公職についている人間も女性が多く、疲れた心を癒す場を提供できると見込ん

だからだ。

まぁ、メイド喫茶も頭に浮かんだが、及川と一度行った事があるが、あれはいただけない。

確かにスタッフは可愛い、だが、それに集まる客が何と言うか・・・正直キモかった。

及川はあそこは例外と言っていたが、どうにもその印象が強すぎて、即刻却下した。

そんなわけで、店の準備が進み、明日開店という所まで漕ぎ着けた時、仕事帰りに、翡翠が顔を出したので、この

世界の人間の意見をもらおうと協力を願い出た。

そう言えば翡翠には、茶店と言ってはいたが、店のコンセプトは話していなかった。

まぁ、ちょうど良いや、先入観無しでの意見が取れるし

そうして、笑顔でお嬢様を迎え、日々の疲れを労い、また頑張れれるようにと温かい笑顔で見送る。

そんな接待を翡翠に行う。

正直身内に行うのは恥ずかしかったが、この祭贅沢は言っていられない。

店を出てしばらくして戻ってきた翡翠が、

(あれ、顔が赤い、なんか不味かったかな?)

 

「あうあう、・・・中止っ! こんな店中止ですっ!」

 

と、とんでもない事を言う。

 

「ちょ、ちょっとまった!

 何で? 何か不味かった?」

「あうあう・・・全部ですっ」

 

俺が狼狽しながら、何が不味いか翡翠に聞くと、翡翠は一言のもと斬り捨てた。

でも、此方も今更引き下がれない。

悪い所があれば、直せば良いだけだ。

そのためには悪い所を言ってもらわないと困る。

だから、俺は店のコンセプトを話して、理由を聞き出す。

 

「出迎えの仕方が不味かった?」

「丁寧なうえ、他店には無い対応は、新鮮な感じで良かったです」

「お茶の味や値段がつり合わなかった?」

「一刀君の淹れるお茶は、とても美味しくて、他店では数段上の茶葉を使わなければ出ない味です。

 茶葉の原価からしたら、高めの料金設定ですが、店の雰囲気を楽しむと言う付加価値がある以上、決して高いと

 は言えないでしょう」

「茶菓子が口に合わなかった?」

「今まで食べた事のない御菓子で、とても美味しいです」

「接客の仕方が不味いとか?」

「お客の心を癒す、と言う一刀君の案からすれば、とても素晴らしいものでした。

 実際、私も、今日一日の疲れが飛びました」

「えーと、じゃあ、店内が汚いとか雰囲気が悪いとかかな?」

「それこそまさかです。

 一刀君の設計した店は、とても清潔で、落ち着きます。

 店先にも席を設けて、穏やかな日は、そこで気軽に店の雰囲気を楽しんでもらおうと言うのは、高貴な身分の

 雰囲気を味わってみたい、と言う客層には堪らない物でしょうし、

 仕事に疲れた女性を癒したいと言う事なら、よい雰囲気を醸し出しています」

 

と、俺の問いに次々的確に答えてくれる。

うん、こう言われると、頑張って考えた甲斐があったと思う。

 

「えーと、翡翠じゃあ、何が不味かったか判らないんだけど」

「ぁぅぁぅ・・・じゃあ、なんで女性を標的にした店なんですか」

「女性客を標的にしたのは、翡翠や明命みたいな人達の力になれればと、思っただけだよ」

「ぁぅぁぅ・・・・ずるいです」

「え?」

「わかりました。 前言は取り消します。 明日から頑張ってください」

 

翡翠は、そう言うと、とっとと店を出て行ってしまう。

俺は、結局翡翠が何を怒っているか判らずに首を捻るしかなかった。

 

そんなわけで三ヶ月近くの月日が経った。

店は物珍しさもあってか、順調で半月も経たないうちに手一杯になり、急遽人を雇う事になった。

募ってみると結構な申し込みがあり、面接をしたうえで、二人を雇う事にした。

俺の考えで、顔ではなく、性格や表情の穏やかな人間を基準に選んだつもりだ。

むろん、すぐには使えないので、結局は最初の一ヶ月は俺一人で店を切り盛りする事になった。

二ヶ月目からは、教育を施した二人が戦力となり、余興に俺の舞を披露する等、多少の余裕も持てるようになった。

翡翠は、いつも仕事帰りに店に立ち寄り、俺が仕事を終えるまで待って、一緒に家に帰るという、なんと言うか、

急がしいのか、暇なのかわからない生活を送っている。

店員も、翡翠はこの店を出すのに、力になってくれた人で、店主みたいな人と説明してあるので、接客は俺に任

したようだ。

翡翠と言えば、仕事がら城に住む事も可能ではないかと思ったのだが、今は袁術の目があるので、城に住んで目を

付けられたくないとの事だ。

家は、二人で住むにはかなり大きな家だったが、ある程度見栄も必要だと言う事だ。

だと言うのに、密偵の危険があるので、まだ家に雇い入れたくないと言う事で、二人っきりの生活が続いている。

正直、その状況の中で、やたらと家が広いのは俺的には助かっている。

広いおかげで、翡翠の部屋と距離があるため、青少年の悩みを解消する助けになっている。

翡翠は、外見が幼いのに、やはりそこは大人の女性、妙に色気を感じる時があり、その度にドキリとさせられる。

そんなわけで、明命とは別の意味で、俺の青少年の部分を脅かす。

とにかく、相手は家主で、恩人で、真名を預けてくれる程、俺を信頼してくれた相手だ。

その信頼を決して裏切るわけには行かないため、毎日理性を総動員させている。

うーん、そのうち悟りが開けそうだ。

まぁ冗談はともかく、眠れない夜は、舞の練習をして、俺の中の色々を発散させていた。

そんな毎日だが、俺には正直ありがたかった。

こうして、いろんな意味で忙しいため、あの時の事を考えずに済んでいるからだ。

いや、考えない日は無い。

だけど無意味に塞ぎこむ事は無く、この三ヶ月で俺なりに整理が出来てきたつもりだ。

本当・・・・明命や翡翠に助けられてばかりだよな・・・俺・・・・

そう思い至ると、

俺は裏舞踊の練習をやめ、気持ちを切り替える。

今も、この月の下、どこかにいるであろう少女を想う。

せめて彼女の願いが叶うように、無事で生きている事を祈るように

月に舞を奉納する。

 

 

 

 

 

翡翠(諸葛瑾)視点:

 

賊に襲われた後

私達は何とか、街に入ることが出来た。

街に入った私達は、商隊長さんの計らいで宿で休む事になりました。

商隊長さんは、目的地まで、護衛を引く受けて欲しいと依頼してきましたが、私はそれを丁寧に断りました。

今頃きっと、代わりの護衛を探している事でしょう。

申し訳ないと思いますが、一刀君はいくら強くても経験がありません。

それに、とてもそんなものを引き受けれる状態じゃないからです。

別に怪我をしているわけではありませんが・・・・あれは一刀君じゃありません。

私が一刀君の胸で泣いてしまった後、一刀君はいつものように、商隊を手伝い、移動中は私から知識を学びました。

話せば普通に話し、街に付いた後も、商隊の荷物を はきはき と降ろしていました。

だけど、一刀君の笑顔は、とても空ろでした。

いいえ、違います。

一刀君そのものが空ろなのです。

其処に確かにいるのに、生きているのに、まるで抜け殻のようです。

正直、そんな一刀君を見たくありません。

だけど、それは出来ません。

一刀君をそんなにしたのは、私なのですから・・・・

一刀君の姿を見るのは辛いです。

逃げ出したくなります。

でも、そんな一刀君から眼を逸らすなんて、決して許されないことです。

分かってはいます。

分かってはいるんです。

一刀君はたぶん、心配かけまいと、体を動かしているだけです。

心は、まだあの賊と戦ったままなのだと思います。

一刀君は、賊を殺すたびに、きっと自分も殺したのでしょう。

そして、それが一刀君の中で繰り返されているのです。

私も、最初に人を斬った時は、辛かったです。

でも、私の時と一刀君の時とでは違います。

一刀君は殺し合いとは無縁な国にいたと言います。

そんな人が、あれだけの人数を一度に殺したのです。

きっと私の時とは比べ物にならないくらい、辛いのだと思います。

一刀君のために何かしたい・・・・でも、何も思いつきません。

ただ、時間が無為に流れていきます。

 

 

 

 

夜遅く、私は、一刀君が心配でどうしても寝付けなくて、一刀君の部屋の前まで来ていました。

 

「・・・・欺瞞ですね」

 

分かっている。

一刀君を心配していると言って、寝付けないなんて言うのは、

一刀君を心配する事で、何も出来ない自分を誤魔化しているだけ、

私の自己満足に過ぎない。

本当に心配しているなら、

何とかしたいと思っているなら、

一刀君を立ち直らせるため、頭を働かせるべきなのです。

でも、今の私は、その頭を働かせることすら出来ない。

一刀君をあんな風にしてしまったという、悲しみが、

私の頭を働かせるのを、邪魔します。

 

「・・・・なんて醜いのかしら」

 

自分で自分が嫌になる。・・・・情けなくなる。

もはやそんな自分に、怒りすら沸いてこないなんて、我ながら、本当に度し難いです。

 

「うわぁぁぁぁぁっ! やめろーーーっ!」

 

自分に呆れ果てていた時、部屋の中から一刀君の悲鳴が聞こえました。

私は、その声に驚き

 

バンッ

 

「一刀君っ!」

 

声をあげながら、部屋の中に飛び込むと、

一刀君が寝台の上で、もがき苦しんでいた。

 

「一刀君っ、どうしたのっ」

 

寝台に駆け寄り、彼を抱き起こそうとする。

暴れる一刀君を抑えるには、私の体は小さく、軽い

私は、寝台の上で暴れる一刀君に巻き込まれる様に寝台の中に引き込まれる。

 

(い゛っ)

 

一刀君の手が足首を掴み、爪を深く喰い込ませました。

皮膚が裂け、血が出ている感じがします。

それでも私は、せめてもと、一刀君の頭を体一杯を使って押さえ込みます。

やがて・・・

 

「・・・・ひ・翡翠?」

 

そんな呟きと共に、一刀君の体が落ち着きを取り戻してくれます。

どうやら、何も覚えていないようです。

私のほうも、いつの間にか、うつ伏せの一刀君を、頭を抱えるように寝台の上に座り込んでいました。

そんな状況に、少し気恥ずかしさを感じた時、

 

「・・・翡翠・・・俺、殺したくないのに、何度も何度も・・・」

「・・・・」

「・・・殺されれば、もう殺さなくても済むと思っても・・・だめなんだ、体が勝手に・・・」

「・・・・」

 

 

どうやら、悪夢に魘されたようです。

ここで、夢だと言って安心させてあげることは出来ます。

でも、それは一時凌ぎにすぎません。

また繰り返されるだけ・・・

もし、このまま時間が流れるままに任せても、きっと一刀君は悪夢を見続けるでしょう。

もしくは・・・・一刀君に限ってそれは無いと思いつつ、最悪の状況を想像をしてしまいます。

それは、闇に堕ちてしまう事。

人を殺す事に付いて何も考えなければ、殺す事に何も感じなくなれば、一刀君は苦しみから解放されます。

でも、それはもう一刀君じゃありません。

私は一刀君に、そんな風になってほしくありません。

一刀君の苦しみの一端を、感じる事の出来た私は、覚悟を決めました。

一刀君に、今の一刀君では、最悪壊れてしまうかもしれませんが、この苦しみを乗り越えさせる事を。

 

「そうですね。

 一刀君は、獣に落ちたとはいえ、たくさんの人を殺してしまいました」

 

ピクッ

 

一刀君の体が震え、目が、

 

(何でそんな事を言うのか)

 

そう訴えます。

でも私は、やめません。

 

「一刀君に殺された人は、痛かったでしょうね。 苦しかったでしょうね」

「・・・翡・・翠・・?」

「一刀君、駄目ですよ。

 いくら逃げても、それからは逃げ切れません。

 立ち向かわなければ、喰われてしまうだけです」

「・・・・どうしたら・・」

「これは、一刀君が自分の力で乗り越えなければ、いけないことです」

「・・・そんな、俺・・」

 

私の言葉に、言い淀む一刀君の言葉を遮って、私は続けます。

せめて、少しでも楽になるように、一刀君の頭を優しく撫でながら、

 

「一刀君のおかげで、私は助かりました。 本当に感謝しています」

「・・・それは、俺が助けたかったから・・・」

「ぁぅぁぅ・・ありがとうございます。

 でも助けられたのは、私だけじゃないのですよ」

「・・・えっ・・・」

「一刀君は、そんな余裕が無かったから、気がついていなかったでしょうけど、商隊の人達が物凄く、感謝をして

 いました。

 それだけじゃないです。

 あのまま、あの賊の人達を放っておけば、あの人達は、もっと沢山の人を襲ったでしょうね。

 それこそ、女子供関係なく、欲望のまま、奪い続けたでしょうね。

 一刀君は、そんな沢山の人達を守ったんです。

 平和に暮らしたいと望む人達の生活を守ったんです。

 それだけは、決して忘れないで下さい」

「・・・・・」

「返事し辛いですか?

 では、想像してみてください。

 一刀君が、あのまま賊に殺されていたら、あの人達はどうしてたでしょうね。

 少なくとも、商隊の人達は殺され、荷を奪われ、私を散々、慰み者にしたでしょうね。

 そのあと同じ事を繰り返すのでしょうか、それとも村を襲うのでしょうか、どちらにしろ、襲われる方は

 私や商隊の方と同じ目にあうのでしょうね。

 一刀君、私があの人達に、慰み者にされるのを、想像してみてください」

「そんな事させないっ!」

 

そんな叫びが、私の中に染み込む。

本当に、心の底からの叫びだったんでしょう。

一刀君は、叫ぶと一緒に私の腕を掴みました。

こんなに、苦しんでいると言うのに、一刀君は・・・・本当に優しい子です。

でも、これなら望みはあります。

だから私は、その手を解き、軽く手を握ってあげます。

少しでも勇気が持てるように

 

「はい、一刀君なら、そう言ってくれると思いました」

「一刀君が、あの人達を殺す事で、守れたものです。

 殺した事で自分を責めるのはやめなさい。

 責めるなら、そういう世の中を責めるべきです。

 私や明命ちゃんは、そういう世の中を何とかしたいと思って頑張っています。

 これでも、呉の重臣なんですよ。

 その二人が認めた一刀君が、こんな所でいつまでも立止まるなんて許しません。

 明日には、いつもの一刀君に戻ってください」

「・・そんな・・急に・・」

「別に今すぐやれ、と言っている訳ではありません。

 朝までに、やれば良いのです。

 一刀君、女の娘の前だからって、無理に我慢する必要は無いんですよ。

 苦しいなら、悲しいなら、泣いても良いのです。 と言うか泣きなさい。

 これはお姉さんの命令です」

「・・・翡翠言ってる事、むちゃくちゃだよ」

「知らなかったんですか? 姉と言うのは無茶を言う者なんですよ。

 その代わり、弟や妹の心の支えになってあげるんです。

 だから一刀君泣いても良いのですよ」

 

私は、うつ伏せのまま顔を上げる一刀君に、

優しく諭すように、

想いが届けと、

ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

静かな時間が過ぎた後、

一刀君は、静かに、

やがて声をあげて、

私の膝の上で、

子供のように、

私の服を握りしめて、

涙を流す。

 

私は、そんな一刀君の頭を優しく撫で続ける。

こんなに、苦しんだのですね。

一人で頑張ったのですね。

涙を流し、心を押し潰されそうだと泣く姿、

今は泣く事で、苦しみを吐き出しているだけです。

立ち直るのは、それからです。

きっと一刀君のような優しい子には、

それを乗り越えるのは、とても苦しい事だと思います。

私に出来るのは、その背中を軽く押してあげる事だけです。

その後は、一刀君の意思で、乗り越えるしかないのです。

そのために、勇気がいるのなら、

勇気になるのなら、

私が一刀君に、勇気をあげます。

書物の中には、こういう時、女性が男性に勇気をづけるには、

ぁぅぁぅ・・・恥ずかしいです。

でも、一刀君が立ち直れるのなら、

一刀君が相手なら・・・ぁぅぁぅ

私は、服を止める紐を、自らの手で解き、

 

「ぁぅぁぅ・・・・一刀君、私の勇気をあげます」

 

顔が、頭が、とっても熱いです。

心臓が破裂しそうです。

それでも、精一杯の勇気を出して、

私は一刀君に・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信じられません。

この人は、私が必死に勇気を搾り出したと言うのに、寝てしまいました。

本当なら、双天でその頭を叩き割りたい所ですけど、そういうわけには行きませんね。

それだけ一刀君にとって苦しくて、精神的に負担がかかっていたんだと思います。

そこに、泣く事で、一時的に苦しみを吐き出せた事で、負担がなくなり、心が楽になった所に、蓄積した疲労が

睡魔となって襲ったのでしょう。

でも、一刀君の寝顔は安らかな表情を、浮かべていました。

その表情を見て、私は少し安心しました。

これなら、きっと大丈夫です。

まだ、時間はかかるでしょうが、きっと一刀君なら乗り越えてくれます。

そう思い、一刀君の髪を優しく梳きます。

結局、一刀君は私が勇気を分け与えなくても、自分の力で乗り越えてしまいました。

自分でさせておいてなんですが、無理をさせてしまいました。

本当に優しくて、心の強い人です。

今夜は、このまま一緒にいてあげます。

足が痺れてしまうでしょうが、かまいません。

私の膝の温もりで、一刀君が安心して眠れるなら、

いくらでも、してあげます。

一刀君の髪を弄りながら、彼の安らかな寝顔を見ていると、

心が優しい気持ちに満たされます。

でも、やはり少しだけ文句が言いたいです。

 

 

「・・・ばか」

 

 

 

 

 

一刀君は、私の言いつけどおり、朝には笑顔を見せてくれました。

まだ少し、無理をしているのが判りましたが、峠は越えてくれたようです。

荊州南陽につくと、まず最初にやった仕事は、一刀君のお店の手続きです。

完全に職権乱用ですが、この際そんな物は無視です。

家も、用意しました。

一刀君は驚いていましたが、私の立場からしたら、これでも小さい方なんです。

実際袁術の目もあるので、あまり露骨なことはできません。

適当に安心させて、おかねばならないからです。

とにかく、無事到着と、これからへの景気づけにと、腕を振るう事にしました。

今まで道中と言うこともあって、そんな機会がありませんでしたが、私の料理で、一刀君を元気付けてあげようと

思いました。

これでも腕には自身があります。

宮廷料理人とまでは行きませんが、お城の料理人より、腕は良いつもりです。

そう思って気合を入れて帰宅すると、一刀君も同じことを思ったのか、すでに料理が出来上がっていました。

・・・・時折、この人は分かってて、意地悪をしているのではないかと、疑いたくなってしまいます。

まぁ良いです。

それだけ一刀君が立ち直った証でもありますし、後日私の腕を見せ付けてあげるのも一計でしょう。

今日は大人しく、一刀君の料理を楽しむ事にしてあげます。

明命ちゃんが美味しいと、言っていただけあって、見た目は美味しそうです。

一刀君の国の料理でしょうか、見たことのないものもあります。

少し楽しみです。

 

「・・・・・・」

「・・・翡翠・・・口に合わなかった?」

「・・・・・・」

「えーと、なんで、そんなに睨まれないといけないのか、教えてくれると助かるんですけど・・・」

 

・・・悔しいです。

私の作る料理など、比べ物にならないくらい美味しいです。

なんと言うか、素材の味が完全に引き出されている感じです。

味付けも、素材其の物の味を殺さない、ぎりぎりの所で均衡を保っています。

これ以上味が濃くては、素材の味を殺し下品になる。

これ以上味が薄くては、物足りなくなる。

火加減も、あく抜きも、そう全てが、均衡が保てる ぎりぎり の所まで引き上げているのです。

おそらく、宮廷料理人程の実力がなければ、この味は出せないのではないでしょうか。

まぁ、最もあちらは、材料も最高の物を使っているのでしょうけど

とにかく、これでは、私の腕を見せてあげるという計画は、中止にせざるえません。

 

結局、家事は全部一刀君の方が上でした。

この事実に、少しだけ一刀君に殺意が沸きましたが、いつまでも負けっぱなしと言うわけにはいけません。

こっそり腕をあげて、いつか見返してあげます。

あと下着の洗濯だけは、私が自分でやっています。

一刀君は、明命ちゃんのもやっていたから、大丈夫だと言っていましたが、私の方が大丈夫ではありません。

明命ちゃんには帰ってきたら、義姉として、お説教をしてあげねばなりませんね。

 

そんな中、一刀君のお店の準備が終わり、明日開店と言うので、お祝いを兼ねて顔を見せると、

お店の模擬練習と言って、お客役をさせられました。

まぁ、一刀君のためになるのならと、客を装ってもう一度店に入ると、

 

「ぁぅぁぅ・・・」

 

気がつくと、お店を出て、顔を熱くさせて、ひたすら『ぁぅぁぅ』言っていました。

とんでもない破壊力です。

こんな事はさせられないと、お店に急いで戻り、中止を訴えました。

でも一刀君は受け入れてくれません。

理由を説明して欲しいと言ってきます。

一刀君は、明命ちゃん一筋じゃないと、いけないのです。

こんなお店を開いたら、一刀君の笑顔に魅せられた女の娘が、押しかけてくるに決まっています。

でも、そんなこと言えるわけありません。

そうしているうちに、一刀君は具体的な説明を求めてきました。

まだ、さっきの余韻で上手く働かない私の頭は、一刀君の質問に的確に答えてしまいました。

しかも、私や明命ちゃんみたいな女性を、応援したいなんて言われたら

あうあう・・・これでは説得できません。

でも、落ち着いて考えれば、お店が忙しくなれば、一刀君は余分な事を無為に考えなくてすみます。

今の一刀君には、考える暇が無いくらい忙しい方が良いくらいなのです。

悪い虫も、毎日、私が迎えに来てあげれば、幾らか防げるでしょう。

そうして、一刀君は無事店を開けれる事になりました。

結果は予想以上でした。

目新しいのもあって、最初は一刀君の案に反して騒がしかっただけでしたが、次第に安定した客が付くようになり

ました。

むろん、殆どが女性客です。

一刀君の案どおり、癒しを求めての客も多くいますが、あきらかに一刀君目当ての客が大半です。

一刀君が時折、舞を見せるため、純粋にそれを目的とした客もいます。

中には、一刀君が雇った店員を目的とした客もいます。

とりあえず安心したのが(と言うか驚いたのが)一刀君に言い寄る女性の件です。

あれだけ露骨に迫られていても、一刀君は全然気がつきません。

もしかして、気がついていて、態とそうしているのかと、試した事がありましたが、

本当に気がついていないようです。

なんで、あれだけ細かいことに気がつく人が、こと乙女心にだけは、あんなに鈍感なんでしょうか?

もはや、呪いとしか思えません。

そうなると私は、安心して、一刀君を応援する事が出来ました。

まだ時々、私の部屋に聞こえるほど、うなされていますが、何とか乗り越えようとしています。

うなされる一刀君の手を握ってあげると、彼は落ち着き安らかな寝顔を見せます。

やがて、その頻度も減り、顔色も良くなってきました。

一刀君の笑顔も、まだ悲しみの色が残っていますが、それでも、戻りつつあります。

その証拠が、この店の繁盛具合と言うのは、苦笑しか出ませんが・・・

とにかく、一刀君の事が問題ないと判ると、落ち着いてこの店を見る事が出来ます。

一刀君の案が功を成したのか、基本的に落ち着いた客が多いです。

そこに、一刀君が執事と呼んでいる店員達、色々創作意欲が沸きます。

女性客を少年、青年、壮年と変えてみるのも悪くありません。

今度は少し、作風を変えて書いてみましょう。

 

 

 

そうして、三ヶ月が経った頃、雪蓮様達が凱旋されました。

私は、後片付けを終えた頃を見計らって、明命ちゃんに会いに行きます。

よかった、元気そうです。

明命ちゃんなら、大丈夫とは思っていましたが、やはり顔を見るまで、安心は出来ませんでした。

私は早速、明命ちゃんを引き連れて、一刀君のお店に行きます。

一刀君は、明命ちゃんに気がつくなり、接客中のお客を手短に切り上げて、

嬉しそうに、此方に歩いてきます。

そして

 

「明命、おかえり」

 

と、いつか見た丹陽の街での笑顔

いえ、それ以上の笑顔で明命ちゃんを、出迎えました。

 

ズキンッ

 

胸が痛いです。

 

一刀君に、前のような笑顔が戻るのは、

 

私にとっても嬉しい事のはずです。

 

一刀君は明命ちゃんを見て、あの笑顔をしました。

 

私が望んだ笑顔を、

 

息が苦しいです。

 

やはり、一刀君は、

 

明命ちゃんの事が・・・・

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

こんにちは、うたまるです。

  第6話 ~ 月夜に舞う想い(後編) ~を此処におおくりしました。

いかん、またキャラが暴走して、翡翠が目立ってしまいました。

5話は、一刀が大量殺戮のショックから、立ち直る話しを目的としていたのですが、結果は見ての通りです。

翡翠視点を1/3書いた時点で、先に明命視点を書いた方が、お互いが生きると思い、明命視点を5話にしました。

そうすれば、4話で出番が無かった分、よけい映えるかなーと言う目論見もあったのですが、やってしまいました。

内容が内容だけに、またもや、翡翠が明命を喰ってしまうような、話しになってしまいました。

明命を喰うのは一刀の役のはずなのに(違w

 

とりあえず、一刀君の執事喫茶は皆さん読めていられた様で、さすが恋姫ファンという所ですね。

あと、一刀君の戦闘形態ですが、残念ながら、もとネタは、うたわれ○もの ではありません。

原型は昔の●●●●●●ですが、まだネタバラシをしたくないので、今後をお楽しみください。

 

さぁ、これで、明命が堂々と復活する事が出来ます。

明命ファン皆様どうかお楽しみください。

 

では、頑張りますので、どうか最後までお付き合いの程お願いいたします。


 
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