願い。
幻想。
全て無駄だと貴方は言いました。
何で?
私の純粋な問いに貴方は答えました。
お前も知る時が来るさ。
貴方の言葉は当時の私には理解できませんでした。
そして、今。
私は知る事が出来ました。
そう、あの言葉は――
桜の花びらが降り注ぐ。
私は、私の前に降りてきたカミサマの言葉を思い出した。
傲慢で、身勝手で、神様っぽくないカミサマの言葉。
"願いも幻想も全部無駄だよ"
いつもは悪戯っぽくキラキラ光っている目が微かにうるんでいたなぁ、なんて思いだす。
カミサマは勝手だ。
あの後、私の前から忽然と姿を消したかっこいいカミサマ。
あんな目見せて、気にならないとでも思ってるのかな。
早く、また、顔でも見せてくれないかな。
これも、無駄な感情なの?カミサマ……。
私はそんな事を思っている自分に少しだけ苦笑する。
(暇になるとすぐ貴方の事を考えちゃうよ。やだな、依存しすぎ。自分でも笑えちゃう)
桜は私目がけて去年と変わらず降るけれどあのとき隣にいた貴方はもういない。
それが、寂しい。
今、私は待ち合わせしている。
カミサマがいなくなってしばらくしてやっと傷も癒えてきたかなというころに私は告られた。
彼は優しかった。
けれど、この気持ちは本当に、好き、なのかな?
一緒にいても突然カミサマの言動が脳内に拡がる。
それは、水が染み込むように。
自然で。
静かだった。
たたたた、という足音。
「おーい、待った?」
隣で彼が少しだけ申し訳なさそうに笑う。
何故か、幻のようにはかなく感じる。
きっと、カミサマの事考えていたせいだ。
けれど、その幻想めいたものを現実に近づけるべく私はその幻想に笑いかけた。
「そんなことないよ」
「そっか、よかった。行こっか」
私の手を彼は握る。
小さくひかえめに。
フラッシュバック。
カミサマはあのとき、私の手をがっちりつかんでた。
あれ、そうそう。
あのときカミサマは走って私を河原の小さく咲いているたんぽぽの所まで引っ張って行ったんだっけ。
"な?綺麗だろ?俺、神様ってのに誓ってこの小さな花の命守るって決めたんだ"
彼とは正反対の貴方のすっごい華やかな笑み。
どうしよう、何故だろう。
――忘れられない。
「どうかした?」
私の手をつかんだ彼が振り返る。
ぁ、ごめん、なんでもない。
そういう私の声は少しばかりかすれていた。
ねぇ、カミサマ。
会いたいよ。
神様なら私の願い叶えてよ。
神様のくせに、無駄なんて、そんなこと言わないでよ。
私の願いを、友達のよしみで叶えてよ。
あぁ、会いたい。
あって話がしたい。
貴方に話すこと、たくさんあるのに。
彼とのデートは失敗だった。
映画の内容すら頭に入らない始末。
彼の言動はいちいちカミサマと反対だった。
だからこそ、想起させた。
彼は最後まで笑っていたけれど。
けれど、私は決心がついた。
待ち合わた桜の木の下に戻ってきた。
そして、決心したまんまの事を唇から紡いだ。
「やっぱり別れよっか」
彼はひどく落ち込んだ顔をしている。
「何がいけなかったの?」
「私を救う神様は……カミサマは、貴方じゃなくて……」
その時だった。
桜の上でがさり、という音。
私たちはつられて上を見る。
いや、もう私は予想していた。
それはきっと――
「よぅ!」
カミサマだって。
彼には見えていない。
私には見える。
「カミサマは、貴方じゃなくて、この子だから」
彼は、私を見て唖然としている。
そりゃあ、そうだ。
けれど、傍にいる。
カミサマは私の隣にいる。
貴方と私が分かれても。
ずっとずっと隣にいる。
そう、願う事は無駄ではありませんでした。
貴方に届けばそれは、願いから叫びへと変わるのです。
魂の叫び。
貴方は前と変わらない気さくな表情で言いました。
願え。
馬鹿みたいに妄想して夢でも見てろ。
うん。
そう頷いた私が見る夢はカミサマと一緒にいる夢でした。
カミサマと一緒にいたいという願いでした。
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――カミサマ。私は、貴方が忘れられません。カミサマは私に願いも幻想も無駄だ、と言葉を残して去りました。いつもは悪戯っぽく輝く瞳はうるんでいました。息苦しくって切なかった。けれど、私は、やはり、貴方を忘れられませんでした。