scene-百貨店
「これなんて羞恥プレイ?」
一刀はさっきからずっとそう呟いていた。
結局、高級下着の店など知らない一刀は、皆を手近な百貨店に連れてきた。
店の規模やエスカレーター、エレベーターなどをひとしきり説明した後、目的地である下着売り場に到着。
皆は下着を選び始めた。
「これはどう?」
「え、ええと……」
華琳が下着を手に聞いてくる。
うかつに答えられない一刀は必死に言葉を探す。
「しゅ、秋蘭か沙和に見てもらうのじゃ駄目か? 周りの視線が凄くイタイんですが……」
「そう?」
一団はかなり目立っていた。
なにしろ、巫女姿の集団に男が一人。
それも下着売り場である。
客のみならず店員ですら注目していた。
「せめてもう少し人数が少ない時にしてくれ……」
「そうね。皆が一刀に聞いてたら日が暮れてしまうわね」
「スマン。俺、あっちのエスカレーターんとこのベンチにいるから」
「え~っ! 兄ちゃん選んでくれないの?」
「悪い、男には辛すぎるんだ」
「お兄さんは楽しみは後にとっとく方がいいのですね。楽しみにしてるといいのですよ」
一刀に見せるつもりだったのか黒い下着を手にした風の台詞に真っ赤になってそそくさと逃げ出す一刀。
「逃げられちゃったよぅ」
いくつかの下着を持ってきてた天和が嘆く。
「……ふん」
「ちーちゃんどうしちゃったの?」
「今、店員に胸のサイズ……大きさを計測してきてもらったから」
長姉の疑問に人和が答えた。
「え~と、とっぷとかあんだーっていうあれ?」
「長さや重さが統一されてるのは便利なのですが、具体的な数値が判明してしまうと辛いこともありますね」
稟が補足する。華琳の側にいかないのは鼻血防止のためだろうか?
「お、お猫様!」
同じくバストサイズの計測で真桜や紫苑を恨みがましい目で見ていた明命だったが、猫柄のプリントショーツを発見、怨念すら感じていた目に光がともった。
「ほう。下着に絵が描かれているとは」
春蘭もイチゴ柄のを手に感心する。
「春蘭さま、その柄はちょっと似合わないのでは?」
流琉がそう言い。
「にゃはは、子供っぽいのだ」
鈴々が笑う。
「くっ。……武人は下着などどうでもいいだろう」
言いつつも下着は手放さない春蘭。気に入ったのかもしれない。
ベンチに座り、ぐったりとして皆を待っている一刀。
「なんや隊長、もうへばったん?」
「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」
真桜が璃々を連れてやってきた。
「真桜、もう買ったのか?」
「それがな~、ウチの胸に合う大きさがあんまなくてな。選択肢少なくてすぐに決まったんや」
「そうか」
思わず胸に目が行きそうなのをこらえる一刀。
「んで、璃々も退屈そうにしてたさかい、いっしょに来たっちゅ~わけや」
「でも、紫苑さんも真桜並というか、もっとデカいというか、選べないんじゃないか?」
「お母さんは璃々のをえらんでたの」
璃々が一刀の隣に座りながら答えた。
「んで璃々の選び終えたから自分の選んどる」
「なるほど。……みんなまだかかりそうか?」
「せやな~。あと一時間で済めばええ方やないか?」
「……はぁ」
近くの自動販売機で買ったコーヒーやジュースを飲みながら待つこと三十分。
「兄ちゃん、お待たせ」
「お待たせなのだ」
「お待たせしました隊長」
「サラシでも充分なのに色々あるねんな~」
季衣、鈴々、凪、霞がきた。
「胸の形よくするのにはサラシよりもいいんじゃないか?」
「せやろか?」
「流琉ももう少し選びたいって」
「そうか。季衣はいいのか?」
「うん。なのにむこうにいるとみんながボクの選ぼうとするから、こっちきちゃった」
「隊長、あまり退屈なようなら、少し他に行っててもいいと華琳さまが」
そう凪から聞いてベンチから立ち上がる一刀。
「そうか。そりゃ助かる」
「でも、見つからなかったら迷子の呼び出しだって、兄ちゃん」
「げ。よくそんなこと知ってるな」
「さっきボクが説明したから」
「……はやくみんなの携帯買ってもらわないとダメだな、こりゃ」
「で、どこ行くんや?」
「そうだな、なんか食うか」
「ボク、たい焼き食べたい!」
季衣の提案で百貨店内の軽食のコーナーへ向かう。
「こらイケる」
「ウマっ。これも昨日のと同じタコなんか?」
一刀のすすめでたこ焼きを買った霞と真桜は、一刀の予想通りに気に入ったようだった。
「同じ種類かは知らないけど、蛸は確かだよ」
「羅馬やなくてこっちきて良かったわ」
「そんなにか!?」
はふはふと冷めるのも待たずに完食する二人。
「で、そっちは?」
「たい焼き。って言っても、こっちは鯛は入ってない。形が鯛なだけ」
「おいしい~」
璃々が両手で持って食べている。
「あんこが入ってるのだ」
鈴々も、こちらは片手に一つずつ持ちながら食べている。
「ほら、汚れてる」
ハンカチで璃々と鈴々の口元を交互に拭く凪。
「霞ちゃんたちも食べる?」
かなりの数が入っているであろう、膨れた紙袋からたい焼きを取り出して二人に渡す季衣。
「ほんなら……これもええな」
霞と真桜は季衣を見習い、頭からがぶりといった。
「けど、なんで鯛なん?」
「さあ? 鯛はめで鯛だから縁起物ってのもあるだろうけど、なんでなんだろうな?」
まだ時間がありそうだということで玩具売り場に向かった一刀たち。
主に璃々のため……だったはずだが。
「うわ! なんやこれ!」
真桜のことを忘れていた一刀だった。
「りぼるてっ……こんな種類あるんか!?」
「百貨店のおもちゃ屋にしちゃ、品揃えいいな」
「な~、たいちょ、これ!」
今にも箱を開けそうな真桜に焦る一刀。
「開けるのは買ってからな。あと、荷物になるからそんなに買うな」
帰りはどうせ華琳たちの荷物を持たされると覚悟している一刀。余計な荷物は少ない方がいい。
「え~、ほんなら隊長オススメなんはドレや?」
「むう、俺が選ぶのか? まあ下着よりマシか。超合金……はロケットパンチとかデカいの作りそうで気になるけど、箱でかいしな」
「超合金……なんや硬そうで気になるけど今度なんか……」
手にしていた箱をそっと売り場に戻した。
「完成品のフィギュアもいいけど……前に真桜の説明書で組み立てしたことあったよな。あんな感じで役に立つかもしれないから、プラモデルがいいかもな」
「ぷらもでる? それどれ?」
「あっちの棚だな」
プラモデルのコーナーを指差す一刀。
「けっこう数あるやん」
「うん。で、あれ組み立て式だから工具もいるな。まあ、ニッパあれば足りるか」
付近に並んでいたニッパを真桜に持たせ、プラモデルを選び始める。
「これだな」
適当に選んだのを真桜に渡す。
「じゃ、買うてくるわ」
真桜がレジへ向かってすぐに放送が流れた。
「北郷一刀さま、北郷一刀さま、お連れの巫女さま方がお待ちです。北郷一刀さま、お近くのサービスセンターまで……」
「やられた……」
辺りの客や店員が「巫女さま方」に失笑するのを聞きながら、真っ赤になった一刀はがっくりと膝をつくのだった。
<あとがき>
ボクっ子なのでたい焼きです。
でも、お金はちゃんと払ってます。
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対姫†無双、追姫†無双の続編です。
五話目です。
だらだら進行継続中です。