一刀が目を覚ますと、そこは、よく手入れの行き届いた道場の中だった。
「あれ?ここ何所だよ?まったく・・・」
魏の面々に詰め寄られた揚句に、また知らぬ場所に投げ出された形になった一刀。ただ気になるのは、あちらから消える直前に貂蝉が口にした言葉・・・
『挨拶を済ませて、“また”いらっしゃい。』
「“また”ってどうゆう事だ?戻れるのか?・・・ん?誰か居るのかな?」
一刀が一人でウンウンと唸っていると、外に誰かが居る気配を感じたのだった。
恐る恐ると言う感じで、気配をたどって、一刀が道場を出てみると、そこには一人の老人が庭掃除をしている所だった。
「へ?現代・・・なのか?」
尚も混乱している一刀だが、あちらは一刀を知っているようだった。
「お?一刀じゃないか。どうした、筋肉のお化けにでも捕まったような顔をしおって?」
「お、俺の事、知っているんですか?」
「何を言っているんだ?孫の顔を忘れるほど、ボケたつもりはないぞ?と言うか、お前は何時、鹿児島まで来たんだ?連絡くらい寄こせばいいだろうに?」
「え?え?俺の爺さん?」
そう、老人は一刀の祖父であり、ここは一刀の鹿児島の実家の様だった。ここに来てやっと一刀は、貂蝉の言っていた意味を理解した。つまりは、こちらの家族に現状を報告しろという事らしい。
「う~ん、訳の分らんヤツだな?まあいい、東京からこっちじゃ、疲れただろ?早く入んなさい。」
「え、ええ、まあ、はい。」
一刀は、言われるがままに家の中に、招き入れられた。
「うわ~ すっげ~古民家だ~」
「一刀・・・お前、どうした。この間の春休みにも帰って来たばかりだろうに?」
頻りに辺りを見渡し、まるで初めて訪れた様に振る舞う一刀を見て、爺さんも不思議に思ったのだろう。
「・・・実は。」
一刀は、今まで自分の身に起こった事に全て、記憶の事、もう一つの世界の事・・・全てを爺さんに打ち明けた。
一刀が、全てを打ち明けると、爺さんは奥から酒を持ってきて一杯だけ付き合えと言うと、ニカっと笑った。
記憶のない一刀を全く疑おうともせずに、その頭を乱暴になでると、爺さんは昔の話を聞かせてくれた。
爺さんは、何でも若いころは、兎に角モテたらしい・・・。
だがその割に、高校時代から一人の女性のみと付き合い、その彼女と一緒になったと聞いたので、本当にモテたかは疑わしいが・・・
そして、今、爺さんの本日30回目の、「お前の婆さんは本当に美人だった。」が始まったのだが、更には「それに嫉妬深くてな・・・」とコンボを繋ぐ。少し酔っ払ったのであろうか?
まぁ、とにかく愛して居たのだろう、婆さんの事を語る爺さんは、照れているようでもあり、誇らしいようでもあった。
そんな爺さんと婆さんの間に生まれたのは、一人娘。これが一刀の母親である。それは正に婆さんの生き写しだったそうで、町でも評判の美人に成長し巷では“美髪公”なんて呼ばれていたらしい。
そんな母親の、数ある有名なエピソード中でも強烈なのは「嫁ぎ」である。これは街の中でも知らない人のいない位の強烈さだという。
実は、婆さんは、早くに亡くなったらしい、それでも、爺さんは婆さんの生き写しである母を心の支えにして、立派に母を育て上げたと言う。また、その頃には母の有名さにも負けないくらいに、爺さんも子煩悩で有名だったらしい。
そんな母でも時が経てば、人並みに恋をして一緒になりたい人が出来るもの当然だったが・・・ しかし、子煩悩な爺さんが、ハイそうですかなどと簡単に許すはずも無く・・・、言うまでも無く、二人は衝突した。
また、今まで本当に仲の良い親子として、辺りでも有名だった為に、その騒動を聞きつけて相当な人が集まったとも言う。そして母は、周りを驚かせる行動に出る。
『父上!どうしても、お止になると言うのならば、私は貴方を打倒してでも、あの人の元へ参ります!』
『ああ!そんなに言うのなら俺を倒して出て行け!』
母は、爺さんに挑んだのだ。爺さんは子煩悩で有名になる以前から、武の世界では“その人有り”と言われた人であり、集まった人たちもその姿に度肝を抜かれていた。
バキっ!ドゴっ!
大切な我が子を、爺さんは自らの手で容赦なく打ちすえ続けた。その容赦のない姿勢は、集まった人たちも視線をそらすほどだったと言う。
しかし、母は何度も何度も立ち向かっては叩きつけられていた。
しかし、
『そんなものか!お前の気持ちは!』
爺さんがそう叫びながら、終りにしようと最後の一撃を振り上げた時だった。
『私は!あの人の元へ参ります!』
そう叫んだ、母は自ら右腕で、その一撃を受け止めたのだった。
それに驚いたのは、寧ろ、爺さんの方だった。無意識にその一撃は勢いを失っていた。
母も武人の子である、その隙を逃さずに左手一本で薙ぎ払ったのだった。
『かはっ!うぅ・・・』
いくら達人とは言え、容赦なく叩きつけられた、爺さんはそのまま道場の床に倒れていた。
決着はついたのだ。母は何も言わず背を向けると、『今まで有り難う御座いました。』と一言だけ残し、肩を震わせて出ていったそうだ。
それ以来、爺さんは一気に老けこんだらしい。
今も目の前で、「この白髪は全部アイツのせいだ。」とそう言いながら、自分の真っ白になったその頭をなでて、カラカラと笑う。
そして、手酌で注いだ酒をクイッと飲み干すと、思いだすように呟くのだ。
「あの時のあの子は、まるで婆さんが乗り移ったかと思うぐらいに強かった・・・。もしかしたら、死んだ婆さんに叱られたのかもしれんな“良いかげんに子離れしなさい”って。しかし、何を振り払ってでも愛する人の元へ突き進んでいく、あの後ろ姿を見て、やっぱり俺と婆さんの子だと思った。」
そう言っては、また目を細めるのだった。
「その後はどうなったの?」
「おお?聞きたいか?じゃあ、お前も飲め、はっはっは」
続きを聞きたがる一刀のコップに、照れ隠しなの為なのかダパダパと酒を注ぐ爺さんは、年相応とは言い難い無邪気な笑顔をしていた。
爺さんの元を出ていってから何年かしたある日、ある二人が小さな男の赤ちゃんを連れて爺さんを訪ねてきたらしい。
それは言うまでもなく一刀の両親だった。一刀の父親に当たる人は、とても人当たりの良さそうな人で、爺さんの目の前でいきなり土下座するとこう言ったという。
『自分は、あなたの大切な娘を奪ってしまった。自分が恨まれるのは仕方がない事だ。けれど、二人の間には新たな命が生まれた。どうかこの子を愛してやって欲しい。』
それを聞いた爺さんは驚いてしまい、何も言えずじまいだったらしい。
その時が来れば、いっそ殴り倒してやろうと、秘かに目論んでいたと言う爺さんも、これには毒気を抜かれてしまい、二人を許したと言う。
二人を屋敷の中に招きいれると、爺さんは二人の子供を抱かせてもらった、そして、その子名前を聞くと、二人の顔を二度見した。
『お、おい。今何と言った?この子の名前は・・・』
爺さんが驚いたのも訳が有った、一刀の父親は、親一人、娘一人の母気持ちを知って、北郷家に婿入りした。母も、男手一人で自分に愛情を注いでくれた爺さんを深く尊敬していた。
そこで、二人は相談し自分たちの子にも爺さんの様な人間に育ってほしいと、その名を貰い“一刀”と名付けたのだった。
そう、爺さんの名前は「北郷一刀」だ。
この事は話してくれた爺さんは、「やっぱりヤメだ!」といってそっぽを向いてしまった。そして、
「アイツも婆さんに似て強情だからな、どうせ、お前を怒鳴りつけている時は、ワシと重ね合わせてほくそ笑んでいるに違いない。災難だったな。」
そう言って、また、一刀(孫)の頭をグシャグシャと乱暴に撫で付けた。その時、一刀は何故か『お前は紛れも無くワシの孫だ。』そう言われた気がした。
「さぁ、お前もそろそろ帰れ。皆も待っているんじゃろ?娘たちにはワシから言っておく。また時間のある時にでも顔を見せれば良いだろう?どうせ此方じゃ一瞬しか経っておらん。彼女たちの時間を大事にしてやるんじゃぞ・・・」
そう言うと、爺さんは道場の床の間に掛けられた埃の被った銅鏡を指をさした。
「え?これって、貂蝉が持ってたヤツじゃ!?」
色々と聞きたい事が一気に増え、驚いている一刀が、爺さんの方を振り返えろうとした時、
「ほれ!これも持って行け!向こうには酒飲みも多いじゃろ?」
「え!なんで?うわっと」
投げてよこされたのは、さっきまで爺さんが飲んでいた芋焼酎だった。そのまま、バランスを崩した一刀は鏡の発した光に吸い込まれるように消えていった。
一刀の意識が反転するその時、最後に目にしたのは、イタズラを成功させた悪ガキの様な爺さんの顔だった。
そして、大陸ではまた、白昼に一筋の流れ星が落ちてくる。
だって、無印も好きなんだもん!
そんなの言い訳にならないけど、この抑えきれないリビドーが暴走してしまった・・・
たぶん、この一刀の母親は若い時にグレて塩の密売とかしてたと思う。
そんな訳で、今日から“覇”のつく自由業-今日から覇王-は終わりです。
このタイトルを思いついたばかりに、大変面倒な事になっちゃいましたね・・・、それも、やっと終わりました。まぁ、好きで書いてるんですが・・・
ところで、最近、TINAMI内でも、恋姫が落ち着きを見せてきた様に感じます。
何か、色んな作家さんたち皆でお祭りみたいなことやりたいなぁ、なんて勝手に妄想しています。
例えば、共通のテーマやキーワードを一つ出して、それを基に、小説、イラスト、漫画、何でもアリの一発ネタ祭りみたいなのやってみたいなぁとか・・・
まぁ、勝手な妄想です・・・
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今日から“覇”のつく自由業-今日から覇王-外伝の巻です。
外伝です。前の話で、飛ばされた一刀が何をしていたかって言う話です。