日もとっぷりと落ち、このまま帰れば間違いなく、その首が危ない男。
即ち、一刀だが、城に帰った時のことを考えてかイマイチ表情が優れない。優れないどころか、蒼白である。
それに引き替え、彼の後ろを付いてくる三人の表情たるや、何と幸せそうなことか・・・
「な~もう遅いとは思うけど、なるたけ早く帰らないか?」
そう、振り返る一刀に、ツヤツヤとした表情の二人が答える。
「え~ そんな事言われても困っちゃうの~」
「せやせや、ウチら腰も立たんようしといて、よう言うわ~」
そして、助けを求めるようにもう一人の方に視線をむけて見るも、
「申し訳ありません、隊長・・・私も/////」
そう言って、恥ずかしそうに視線をそらすのをそらすのだ。それは、一刀のあふれる思いがそうさせたのか、はたまた、あの清流の魔力だったのか?それを見て、一刀は静かに、首と胴体が泣き別れることを心の中で覚悟したのだった。
と、その時、城の方からガラガラと何かが崩れる大きな物音とキャーー!と響く誰かの悲鳴が聞こえた。
「「「「!」」」」
四人は互いに視線を送ると、すぐに城へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一刀たちが城に付き、騒ぎの中心へとたどり着くとそこには、華琳ににじり寄るように立っている筋肉の化け物が立っており、それを囲むように春蘭達が武器を構え立っていた。
「あら~ん、こんなに熱烈な歓迎は驚いたわ~ん」
「何だ!貴様は!華琳様から離れろ!!」
「姉者!一人では危険だ!」
そしてそこでは、そんな事は気にしないとばかりのマイペースな化け物に、少し後ずさり気味な華琳という世にも珍しい光景が繰り広げられていた。
「あらら~ん?ご主人様、どうやら無事にたどり着いたみたいねぇ~ ドゥフフフ 」
「あっ!兄様!」
「ホントだ、兄ちゃんと凪ちゃん達も一緒だ。」
「え?」
着いて早々に、えらい無茶ブリが飛んできた気がする・・・そして、そこの少女たち二人には、是非とも気づかぬふりをお願いしたかった。だって・・・
「ああん?どう言うこっちゃ?一刀?」
ホラ・・・、さっきまであっちに向いていた殺気が、グリンとこちらに向いたその首と共にこっちに向けられる。
「“ご主人様”と言う事は、此方の方とお兄さんは、そう言う関係かと~」
「最低だわ!大きな胸が良いからって、男に走るなんて・・・そんなにおっぱいが好きなら乳牛と付き合えばいいのよ!!!」
いやいや、片方は明らかに楽しんでるし・・・ それにアレは胸とは言え筋肉だろうが!
「なっ何と・・・一刀殿は男色で、更には動物まで・・・ぶ、ぶぅぅぅ~!!」
「はいはい、稟ちゃん。トントンしますよ~ ふふふ、稟ちゃんの鼻血のおかげで二回目の発言ができたのです」
いや~!あらぬ誤解で一名が死にかけてるよ~!!!そう言えば、さっきから華琳は何も言わないな?
「お、おい!華琳!大丈夫か?」
「ひぃ!だだだ、大丈夫よ!何も問題はないわ!」
いや、ダメだ、明らかに腰が引けている・・・。
「あら、曹操ちゃん。一歩目は警戒、二歩目は用心、三歩目は恐れよぉん。」
『『いや、お前なら一歩目から恐れるわ!』』
そこに居た誰もが心の中で叫んだ。
「いやぁ~ん、そんなに見つめられちゃ照れちゃうわ~ん」
クネクネと気持ち悪く動く化け物は、頬を赤く染めて更なる境地の気持ち悪さを迎えていた。
「あ、貴方は、何者なのかしら?さっき、一刀がどうのとか言っていたわね?」
「ドゥフフフフ、私は貂蝉。ご主人様とは・・・アレな関係よ~ん」
ブチっ!
「春蘭!」
「ハッ!」
「待って!待って下さい!俺は無実だ!こんな化け物、記憶に無いって!秋蘭も無言で腕を抑えないで!」
「・・・・。」
いや、迅速過ぎるだろう・・・常識的に考えよう!と言うか、俺の記憶にこんなヤツ存在しない。・・・いや、待て。
「な、なぁ。貂蝉とか言ったか?・・・もしかして、お前は俺の記憶に関係が有るのか?」
「そうね、関係有ると言えば有るわん。だって、ご主人様をここへ送ったのは私ですもの。」
「何だって!おま、貴方が俺を送ってくれたのか?」
「そうよん。詳しくはこれを読んでちょうだ~い」
「「?」」
そう言って貂蝉が差しだしたのは、「今日から“覇”のつく自由業-今日から覇王-上と中の間の巻」だった。それを読み終えた一同は、再び貂蝉に尋ねた。
「それで、今回貴方はどうして此処へ来たのかしら?」
「そうねぇ・・・ココからはまた、退屈な説明の話よ」
そう言うと、貂蝉は一人語り始めた。
「この間の話には続きがあったのよ・・・・・・」
記憶の一切を犠牲とする事で、世界の崩壊を繋ぎとめた一刀では有るが、その存在は現在、空っぽの器の状態なのだと言う。
また、世界を固定する“つなぎ”として使われた一刀の記憶はもう、完全に世界と一体化しており世界の一部であるらしい。
「・・・つまり、一刀殿の記憶は戻らないと言うことなのですか?」
「そうね、“完全”にと言う意味では、そうなるわね。」
「・・・その言い方だと何か有るようですねぇ~」
その内容から、いち早く何かを感じ取ったのは軍師組みの二人だった。ドゥフフフフと貂蝉は微笑むと話を核心部へと進める。
「この世界には、思いが溢れているわん。世界のあちこちに記憶や思いが溢れているの。そんな世界に空っぽの器が有れば、自然と器は満たされると言うものよ。」
「う~ん。何だっけか?前に兄ちゃんの世界にあるって言ってた・・・」
「あっ!分かった、兄様が言っていた“すぽんじ”です!」
「え?・・・俺って、今スポンジなの?何か情けない・・・。」
「フン!アンタなんか情けないくらいが丁度いいのよ!」
中々に酷い言われようだが、要はこう言うことである。
一刀自身は空っぽであるが、この世界には一刀の記憶、一刀への思い、そう言ったモノが多く存在するという。そして、そういったものを段々と吸収していくことが出来ると言うことで、季衣たちが言うスポンジと言うのも、あながち間違いでは無いのだ。
「それでも、記憶が完全に戻るかと言えばそう言う訳でもない。と言うことね。」
華琳は荒れた場を制すように、簡潔に尋ねた。
「そうねぇ、いくら乾いたスポンジでも、零れた水を元通りに戻せないのと同様に、記憶を完全に取り戻すことは、不可能だわ。」
「俺、もう、スポンジでいいや・・・」
「ちょっと、一刀は黙っとき!今、大事な話やねんから!」
余りにスポンジを連発され、少し拗ねた一刀など、今はどうでもいいのだ。
霞に怒られて、シュンとしてしまった一刀も気になった事を尋ねてみた。
「御免なさい…俺も聞いていいかな?」
「何でも聞いていいわよ~ん」
「じゃあ、ええと、最近、皆と会ったり、俺と縁のあるって場所に行ったりした時に、心臓がバクバク言ったり、倒れたりしたのは何でだろう?」
その質問を聞いた貂蝉は少し面倒くさそうにして答えた。
「も~ん。ご主人様ったら、そんなの私の口から言わせるつもり~ もう、妬けてきちゃうじゃ無い!でも、そう言うイケズな所もス・テ・キ!」
一刀は、背筋がブルルと震え、軽い吐き気のようなものを感じた。
「それはね~ん。その場所の思い出や、皆の気持ちが一気に流れ込んできた所謂、LOVEよ!それが急激に来たから体の方がビックリしちゃったのよん。」
そう言うと貂蝉は、ズビシっ!と親指を立てて見せた。
「まぁ、説明はこんなところよん・・・・・・・・それに、・・・大事なことは、もう思い出せたようだしね?」
そういって貂蝉は凪たち三人に向けて、バチン!と力強いウィンクを投げかけた。
すると、さっきから黙っていた三人組は真っ赤になり俯いてしまった。その事が意味するものは?
「「「一刀(兄ちゃん/様)!!!!!」」」
三人以外の全員が向ける殺気が一気に一刀に向けられる。
「えっ、いや・・・俺が悪いの?」
そう言いながら後ずさる一刀・・・、ジリジリと距離を詰めていく面々についに追い詰められ、その背中に壁が・・・
「ん?壁か?ギャ~!!!!」
「いらぁ~っしゃ~い!ご主人様ぁぁ~。そして、いってらっしゃ~い!」
いつの間にか、一刀の後ろに回り込んでいた貂蝉、その手に持っていた銅鏡に一刀の背中が付くと同時に強い光がその体を包むと、一刀はスーッと消えていった。
「一刀!」「兄様!」「兄ちゃん!」「「「隊長!」」」
「貴様!一刀を何所へやった!!!
全員が貂蝉に詰め寄った。中には目に涙を浮かべる者もいた。
「さぁ、ココからは皆の問題よ。このまま、またご主人様が戻ってこないと言ったら、どうするのかしら?」
いかにも余裕を見せながら、今度は真剣さを滲ませながら貂蝉が皆を見渡した。
一番最初に立ち向かったのは春蘭だった。
「なっ!言うまでも無い!キサマを殺し、その鏡を奪い取る!」
続いて秋蘭、
「ああ、姉者の言う通りだ!」
そう言うと、自慢の弓に矢をつがえる。
「そうですね、どうやらその鏡は一刀殿の世界と此方を繋ぐ何かの様ですし」
「う~風もかなり怒っているのですよ~」
そう言いながらも、冷静に事態を把握している稟と風。
それでも一向に怯まない貂蝉は続ける、
「でも、あなたたちは、記憶のないご主人様を受け入れられるのかしら?今、この鏡を割れば、世界は閉ざされ、作者は話の続きを書かなくて済むわよ?」
「何を言っとんねん!一刀は記憶なくしてまでウチらん所に帰ってきとんねんぞ!!!ウチらが離したる筋合いなんぞあらへん!」
「そうや!姉さんの言う通りや!隊長が嫌や言うたって絶対に離れたらん!!決めたんや!」
「そうなの~覚えてないって言っても、隊長は隊長なの~!」
「隊長はお変わりなく、私たちを愛して下さった!!!」
霞に北郷隊の三人も立ちはだかる。
「そうだよ!兄ちゃんは、全部忘れちゃってたけどボクたちが大好きだって、戻って来てくれたんだもん!!!」
「兄様の記憶が戻らないからって、私たちが離れる理由にはなりません!」
「わ、わたしだって・・・いや、華琳様が悲しむんだから、あんなヤツでも必要なのよ!」
そして、華琳が満足そうに貂蝉に向けて言い放つ。
「さぁ、これが私たちの答えよ?その鏡を渡して貰おうかしら・・・」
そして、貂蝉も・・・
「ドゥフフフフ、そんな事しなくてもご主人様は戻ってくるわよん。これはちょっと試しただけよん。あんな思いをして戻ってきたのに、あなた達が中途半端な気持ちで居るのなら、ご主人様もあっちの世界で普通に暮らした方が幸せでしょうからね・・・」
そう言うと、さっきまでの雰囲気は落ち着きを取り戻した。そして、
「それで、私たちは合格かしら?」
さも、自信あり、という様子の華琳たちに貂蝉は、バチン!と力強いウィンクを投げかけたのだった。
そして、場面は移る。
「それじゃあ、一刀はすぐに帰ってくるのね?」
「ええ。ご主人様は今回の崩壊を止める為の手段を通して、この世界に無理やり自分の席を作ったようなものだけれども、でも、ご主人様は元々、あちらの世界の住人なのよん。だから、どちらの世界にも席が有る。だから、どちらにでもハマる万能ピースみたいに成っちゃったのよ~ん」
「つまり、世界を自由に行き来できるようになったというの?」
「ええ、あくまで結果的になっちゃっただけなのだけどね、でも、世界の崩壊を止めたんだもの~それくらいの“おまけ”があっても良いわよね~ん」
「ん~?どう言うことなのかサッパリ分からんぞ?」
「姉者はそれで良い。」
そんな事を話していると・・・遠くの方で、流れ星が落ちてくるのが見えた。それを確認すると華琳が力強く言った、
「今度こそ、此処から始めるの!さぁ、皆で、一刀を迎えに行きましょう!」
「「「おう!」」」
全員が声を揃えて準備に取り掛かると、ふと華琳は辺りを見渡した。しかし、何処にも貂蝉の姿は見当たらなかった。
「華琳様、準備が整いました。」
そう、桂花が告げるまで放心して居た華琳だったが、「さぁ、行きましょう!」という華琳の一声で、一行は城を後にした。
誰も居なくなった城では、「もう、妬けちゃうんだから~~~~ん!」と言う気持ちの悪い声が聞こえたとか、聞こえないとか・・・
よ~し!終わったぞ!これで、後は気ままに日常の話でも書きまっせ~
その前に、外伝も一話、UPするよ~
終わった~!!!! 無理やり感も漂うけど、終わった~!!!
さ~てと、今度は誰の拠点でも書きましょうかねぇ~ リクエスト有ればどうぞ~
コメント、有れば喜びます。頑張ります。
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やっと、終わったよ~
これでやっと、枕を高くして眠れます。
後は、この作品に関係有るけど、時系列とかぶっ飛んでるような拠点ネタ、日常ネタ何かを書いていこうかなと思います。
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