今日も美しく雪が降る。いつ降り止むのか、ずっと雪だ。そんな雪の中で屋根の上に人影がある。その人影は言う。
「あぁ」
それはこの雪の美しさに目を魅かれたのかもしれない。一軒一軒の軒並に吊るされた提灯の灯りに雪が一層美しく光っている。その光景は何度見ても飽きない。どこまでもどこまでも優しい雪はそうっと提灯にあたり溶け消える。その光景は儚く、なぜか心をひどく奪われる光景であった。
「今日も雪……」
路地裏。消え入りそうな声で、けれど愛が溢れんばかりに詰まった声で桶に入った少女は呟く。もとより彼女は暗く、湿ったところの方が好きである。明るいのは苦手だ。だからこそ、この地下世界 は大切なのだ。また湿り気もこの雪がもたらしてくれる。
「もう少しだけ、雪に近い所へ行こうかな」
彼女は手を空にあげ、ふわりと笑った。
「雪だね」
また一人。小道を歩いていた女性は上を見つめ言う。上。それは、地上があるところだ。地上、というのは自分の中でひどく曖昧である。なぜなら、この地下世界から出た事がないからだ。出る気もないが。
「あぁ、雪。雪。」
歌のように節をつけながら彼女は歩いてゆく。
「雪」
簡潔に彼女は呟く。
「綺麗ね」
何か妬ましいわ。彼女はそんな事を思いながら、しかし、空を見上げる。
「綺麗なものは好き。あぁ、なんだか暖かい」
人前では決して見せない笑顔を顔いっぱいに浮かべた。
「勇儀!」
道を鼻歌を歌いながらゆっくりと歩いていた彼女は、屋根にいた一人の女性に明るく声をかける。
屋根にいた女性もそれにならい「ヤマメ!」と明るく、少しばかりろれつが回っていない声でそう言った。
「ヤマメもこっちに来な!雪が綺麗だ!」
少しばかりテンションが上がっているのが歌っていた彼女――ヤマメにも分かる。
「勇儀~また飲んでるの~?」
「おぅ!」
ヒックと喉をならしながら答える彼女に笑いかける。
「今そっち行くよ!」
ヤマメはその笑みを崩すことなく屋根へと上がっていった。
屋根の上で2人でちびちびやっていると、また下から声。
「今日は客が多いな」
勇儀は笑って言う。
「誰もあんたの客じゃないよ」
ははは、とこちらも少々酔いが回っているのだろうか、快活に笑う。
ヤマメが下を覗き込むと、見覚えのある顔。
「パルスィ!あんたもこっちに来な!」
「ぇ、あ、分かったわ、今行く。にしても、もう飲んでるのね。あぁ、妬ましい」
パルスィと呼ばれた嫉妬心の強い彼女もまた、屋根へと上がっていく。
「ねぇ、あそこにいるのキスメじゃない?」
ヤマメの肩を軽くたたき、パルスィは言う。
「あぁ、本当だ。キスメがあんなところにいるなんて珍しい」
屋根の上にポン、と桶がのっていてその桶から特徴的なツインテールが出ている。
常に路地裏のような暗く、じめじめした場所にしかいない彼女が今日はどうしたのだろう、6つ隣りの屋根に登って空を見上げている。
「おーい!キスメ―!」
ヤマメが叫ぶと大きく肩をびくっと揺らして彼女が振り返る。
小動物のようで、可愛らしい。
「ぁ」
知り合いだと気付いたのだろう。身構えた表情を少しだけ崩した。
「キスメもこっちに来なよ!」
これは勇儀の声。
何を言っているかは聞き取れないが小さく口が動いているのが見て取れる。きっと、分かった、とでもいったのだろう。
「あんなに可愛いなんて妬ましい」
パルスィの声も聞こえる。
キスメが来て4人そろうと何故だか凄く心が和んでいる自分がいることに勇儀は気付いた。
たまには人と飲むのも悪くないな、そんな事を思いながら口に酒を含む。
そして、一番近くにいたパルスィの肩を無理やり抱き寄せ彼女の唇に自分の唇を押しあてた。
彼女の体が硬直する。
そして無理矢理その口に酒を少し入れる。
「それは奢りだよ!」
硬直したまま何も言えないでいるパルスィに、口に酒を含んだまま器用にいう。
「ほら、ヤマメも」
笑いながらまた少量の酒をヤマメの口にキスしながら入れる。
「ふふっ」
ヤマメはくすぐったそうに笑う。
「ほら、キスメも」
勇儀は桶ごと抱き寄せてその小さな唇に自分の唇を押しあてた。キスメは酒が苦手である。そんな事は勇儀も知っている。けれど、体が止まらなかった。そして離した時に
「うぅ、苦手だと知ってて……」
とちょっぴり恨めしく睨まれて、ははは、と笑う。
「でもさ」
勇儀はそんな彼女に悪びれた様子もなく笑いかけていう。
「今日はこんな見事な雪なんだ。せっかく4人そろったんだしさ、飲もう飲もう」
その言葉にキスメも表情を和らげて可愛らしく、にっこりと笑う。
「そうだね。今日くらいは飲む……」
「あはははっ」
勇儀は一層声を大きくして笑う。
だからこの地下は自分の大切な場所なんだ!
そんなふうに。
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地霊殿の1面から3面のキャラクターたち出演。多少百合ってます。