私の名はタマモ、九尾の妖狐のタマモ。
私は夜中にふと目を覚ました。私は子狐の姿でヨコシマの布団の中で寝ていた。
普段は『ロリじゃない!』とかいって抱きしめてくれないが子狐の姿なら抱いてくれる。
足元にすりよれば『しかたねーなー』と笑いながらその胸の中に招き入れてくれる。
あの駄犬は《犬じゃないもん!》……シロはずるい、差別でござる、と騒ぐがあの図体では無理だろうからこれは私だけの特権だ。
あっ、ひのめちゃんが居たか。
前世を含め、過去の記憶は未だはっきりしないが私は恋というものをした事が無い。
かつてはただ身を守る為に権力者達に頼っただけで恋をしていた訳じゃない。
人間達に滅ぼされ、殺生石から転生した途端にまたしても人間達は私を殺そうとしてきた。
轟く銃声、火薬の臭い、草木を踏みしめる追手の足音、今思い出してもぞっとする。
逃げている最中に捕縛結界に捕えられ、死を覚悟した時に見た男の顔、ヨコシマの顔。
ヨコシマとおキヌちゃんは私を助けてくれた。でもその時はまだ感謝より人間達への憎しみの方が強かった、復讐しようとしたが美神達も結局ヨコシマが私を助けた事に気付いてるようだった。こんな奴らも居るんだと思った。
それからしばらく一人で暮らしていたがきつねうどんのお揚げの味が忘れられなくてうどん屋で何度か食べた。すると食い逃げだと言って美神達を呼んできた、店の人は葉っぱを変えたあのお金でもいいと言ったのに。あの事は今でも納得がいかない。まあ、おかげでヨコシマにまた会えたからいいとしよう。
シロはヨコシマの事を先生と呼んで懐いていた、何か胸がムカムカした。
美神の事務所でシロと一緒に暮らすようになって友達も増えた。悪い感じじゃないがやはり、ヨコシマの近くが一番心地よかった。
私が熱に苦しめられている時にシロは天狗の所まで薬を取りに行ってくれた。
結局、毛の生え換わりがうまくいかなかっただけでシロが帰ってくる頃には落ち着いていたが正直嬉しかった、だから恋のライバルとして認めてやることにした。それにヨコシマも一緒に行ってくれた事の方が嬉しかった。
そう、もうその頃には私はヨコシマに恋をしていた。九尾の長い歴史の中での初めての恋だった。こんな穏やかな時間が何時までも続くと思っていた、続いてほしかった…
ある日、妙神山でヨコシマが修行をしていたら突然ヨコシマが苦しみだした、私は何が起きたのか理解できなかった。
ただシロと一緒に泣いているだけだった。魔族化、人で無くなる、そんな事はどうでもよかった、ヨコシマが居てくれるなら、あの温もりを失わずに済むのなら。
小竜姫達のおかげでヨコシマは助かったが代わりにヨコシマは大事なものを失った。
そして私とシロは初めて知った、ヨコシマの傷を、あの笑顔の裏にある深くて癒える事のない傷跡を。
私達は泣いた、抱き合って泣きじゃくった。ヨコシマはそんな深い傷を持ちながら笑顔を向けてくれた、あの温もりをくれた。だから今度は私が…私達がヨコシマに笑顔を向けよう、温もりをあげよう、少しでも傷が癒えるように。
私は人の姿になるとそっと愛しい人の唇に自分の唇を重ねた。もう離れない、離しはしない、一人占め出来ないのは分かってるけど長い九尾の歴史の中で初めての恋、絶対に叶えて見せる。
そして彼の心の傷も癒して見せる。私が…いえ、私達が絶対に。
そう誓いながらヨコシマの胸に顔を埋めながら私は眠りに付く。
「・・・・・・ところでタマモ」
「何?」
「俺の布団に入る時は狐の姿になれと言った筈だが」
「気にしなーい、気にしなーい♪」
「いいから早く出んかい、こんな所を誰かに見られたら……」
「タダくん朝ですよ、はy……」
「ふふーん♪」ゴロゴロ
「タ、タダくん…やっぱり……」
「ちゃうんやーー!!ワイはロリやないんやーー!!」
「ちゅっ♪」
「ふえーーーん!タダくんのロリペドーー!!」
「人聞きの悪い事を言うなーー!!」
「言わせときなさいよ♪」
歴史上、初めて九尾の心を奪った男。離さない、離しはしない。
たとえ一人占め出来なくとも叶えて見せる。
この想いを……
九尾の初恋を。
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ふと、頭の中に浮かんだタマモの話。
書きたくなったので書いてみた。
気に入ってもらえるといいなあ。
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