対姫†無双、追姫†無双の続編です。
<前作のあらすじ>
魏√アフターで魏軍及び、鈴々、紫苑と璃々、明命が一刀を追って現代へ。
祭とも再会し、卑弥呼が神主をしている乙女神社で巫女となることに。
詳しくは対姫†無双、追姫†無双をお読み下さい。
scene-乙女神社社務所
「どうだった?」
一刀が本殿から戻ってきた卑弥呼達を出迎える。
「うむ。無事送り出せた。季衣と流琉にも手伝ってもらったしの、うまく向こうの季衣と流琉の元へ行けただろうて」
卑弥呼は弟子二人の頭をなでながら説明する。
「うん。もうちょっぴーの声は聞こえないのだ」
「私も同じです。……少し、寂しいですわね」
鈴々と紫苑は自分に憑いていた者がいなくなったと告げる。
「でもやっぱり自分たちの兄様に会えた方が嬉しいから……」
流琉の話の途中でぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅと大きな腹の音。
「安心したらボクおなかが……」
季衣が両手でお腹をおさえていた。
「そういやもう昼だな」
社務所の壁掛け時計を見て一刀が言う。
「昼飯どうする? って言ってもこの人数じゃファミレスぐらいしかないか」
「あれ? そういえば兄ちゃん学校は?」
昼時に学校に行ってない一刀に気づいた季衣。
「なんや隊長、サボりかい?」
「違うって。今日は祭日。学校は休み。だからずっとみんなに付き合える」
「昼飯ならばもう頼んでおるぞ」
卑弥呼がそう言った時、タイミングよく呼び鈴がなる。
「な、なんだこの音は!」
「落ち着け春蘭、ただのピンポン……呼び鈴だ」
「すごいな」
蕎麦屋の出前が持ってきた蕎麦を見てそう言うしかなかった一刀。
「この量でよく運べたなあ」
重ねられた蕎麦は人数分。グラグラさせながら運ぶ姿が頭に浮かんだ。
「これは?」
テーブルの上に並べられていく蕎麦を見て華琳が聞く。
「蕎麦だよ。日本の代表的な麺類の一つ」
「そう。楽しみね」
「うむ。あそこの蕎麦屋は美味いぞ。なによりも出前がいいオノコだしの! がはははは」
卑弥呼は笑いながら、皆の前に蕎麦が行き渡ったのを確認する。
「北郷殿も食べていかれるがよい」
「いいの? やった! 天ざるなんて久しぶりだな~♪」
「天ざる?」
喜ぶ一刀に、興味深そうに蕎麦と天麩羅を見ていた流琉が聞いた。
「天麩羅のついたざる蕎麦の略称、であってるのかな? 天麩羅ってのはその揚げ物のこと」
「から揚げとは衣が違うようね」
華琳も気になる様子。
「食べてみるのが早かろう。いただきます」
後は皆、卑弥呼にならい、いただきますと続いた。
「あ、蕎麦猪口につゆ入れて、それに麺をつけて食べるんだよ」
蕎麦に直接つゆをかけようとした春蘭を止めて説明する。
「天麩羅もつゆにつけて。こう、ちょっとだけ」
実演してみせる一刀。野菜天ではなく、いきなり海老天を選んだのは隣に季衣が座っているからだ。
「うん。少し濃い目の味付けだけれど悪くはないわね」
華琳の評価にほっと安心する。まあ、出前なんで店に指導することはできないのだが。
「こっちの味付けは濃いのが多くての」
祭が食べながら説明する。巫女服のまま蕎麦を食べているのが妙に様になっていた。
「あと、薬味でついてる緑色のは山葵。辛いから注意すること」
華琳はそう言われてほんの少し山葵を箸でとり、口に運んでからすぐにお茶を飲んでいた。
こりゃ寿司はサビ抜きかな、忘れないようにしないと、一刀は頭に叩き込む。
「た、隊長、この辛さは……」
凪も試したらしく、涙目になっていた。
「鼻にきたろ? ツーンて。麻と辣とちょっと違うんだよ」
「は、はい……でも、気に入りました」
凪以外にも涙目になっている者が多かった。
「あ、これって引越し蕎麦?」
茄子天を一刀から奪いながら季衣が聞く。
「うむ。最近は見なくなったのだがよく知っておったな」
卑弥呼がそう言うが。
「え、あれって引っ越してきた側が振舞うんじゃなかったっけ?」
「引越し蕎麦?」
「こっちの風習で、引っ越してきた挨拶に隣近所に蕎麦を配るんだよ。たしか、蕎麦は長いから、長くお世話になります。って意味じゃなかったかな」
「それに側にきたをかけておるのだ」
一刀の説明を卑弥呼が補足する。
「なんや洒落かい。すると、この天麩羅っちゅうのがついとんのは」
「うむ。天にかけておるのだ。はははは」
霞の指摘に笑う卑弥呼。
scene-寄宿舎
「腹ごしらえも済んだところで皆の住居に案内する」
卑弥呼の案内で神社の奥へ向かう。
「え? 神社の中なのか?」
「この乙女神宮は古来より妖と戦う武者巫女や戦巫女を育成することを常としてきたのだ。まあ、最近は妖も減ってのう、お得意さんであった触手も魔法少女どもに奪われて寂れておるが……。育成中の未熟な巫女を神社の結界内に保護するのは当然なのだぞ」
一刀の疑問に答えながら進むとその建物が見えてきた。
「漢女塾?」
表札にはそう書かれていた。
「戦う巫女を育成すると言ったではないか。神に仕えるおとめを教育し、磨く場所。それが漢女塾だぞ」
「住むとこ案内する言うてたやんか」
真桜がツッコむ。
「まあ最近は一般教養程度は学校で覚えるでの、残っているのは教室一つと名前だけ。あとは寮設備という有様だ」
卑弥呼が寂しそうにその表札をなでた後、鍵束を取り出す。
「人数分の部屋はあるから安心するがよいぞ」
玄関の扉を開け、すぐ側の配電盤を操作する。
「ブレーカーを上げんとのう」
そして照明もスイッチを入れ、明るくなった辺りを見回す。
「くぅぅっ! ホコリだらけとは! 一通り案内して後は掃除だな」
「これが天の照明なのね」
蛍光灯の明かりに驚く皆。
「はよバラしたいわ~♪」
真桜の発言を止めるべき一刀に寄宿舎の中にはいなかった。
「にゃ? 兄ちゃん入ってこないの?」
玄関から入ってこない一刀を季衣が呼ぶ。
「巫女さんの宿舎って、女子寮みたいなもんだろ? 男子禁制じゃないか」
「いいオノコは細かいことを気にするでない。それに、いつ好いたオノコが訪ねてくるかという緊張感がな、乙女を磨くのだぞ」
卑弥呼にそう言われ、一刀もやっと中へ。
「まずはここが厨房。ふむ、冷蔵庫はまだ冷えておらぬが使えるな」
大型の冷蔵庫を開け、光が灯るのを確認する卑弥呼。
「空っぽ……」
冷凍室までも調べた季衣が残念そうにする。
「ここを使用するのは数年ぶりだからな」
「それはなんなの?」
「ああ、これは冷蔵庫。食品を冷やして保管できるんだ。寒い時の方が痛まないだろ? それに氷も作れる」
一刀の説明に。
「すごっ! バラしてええ?」
と真桜が聞いてくる。焦る一刀。
「駄目だって。こんなの戻せないぞ。バラすんならまず時計とかラジオからだろ」
「らじお?」
「……後で説明する」
厨房を見回しても見つからなかったのでそう誤魔化した。
「ここが食堂」
カウンターごしに繋がる隣へ。
大きなテーブルと椅子。それにテレビが設置された部屋。
「食事だけでなく皆の交流の場所として使用するがよいわ」
「ここが脱衣所で奥が浴場。……洗濯機はそろそろ代え時かのう?」
二層式の洗濯機を眺める卑弥呼。かなり古い型だ。
「風呂は……やはり掃除してからだな。ううむ、はやく皆を入浴させて清めねば巫女服を着せることもかなわぬぞ」
それを聞いて一刀がくいつく。
「やっぱりみんな巫女さんになるんだ! 早く見たいなあ」
「そんなにいい服か? たしかに華琳さまに似合いそうではあるが……」
にへらっと締まりのない顔になる春蘭。巫女装束の華琳を想像したのだろう。
「お風呂は週に何回ぐらいなの~?」
「毎日入るがよい。巫女、いや乙女たるもの身体は清潔にするべきだぞ」
沙和の質問にそう答える卑弥呼。途端に。
「おおっ、毎日ですか~。それはなんとも贅沢ですよ」
風も驚いたようだ。表情からは判別できなかったが。
「この国は水が豊富で、湯沸かし器も普及してるから、それが普通なんだ」
「ここが厠。各階にある。使用後はきちんと流すのだぞ」
「あれ? 和式じゃないんだ?」
「これ、そう乙女のトイレを調べるでないわ」
「あ、すまん」
女子トイレということに気づき赤面する一刀の指摘どおり洋式の便座だった。
個室は四つ。男子用の便器はもちろん無かった。
「そしてここが教室」
机と椅子が並べられ、黒板の設置された壁と教壇。まさに教室だった。
「明日から授業を行う。久々の漢女塾。楽しみだわい!」
感慨にひたる卑弥呼。
「え? フランチェスカ行くんじゃないのか?」
「せめて一般常識くらいは叩き込んでおくのだ」
そう、一般常識とはかけ離れた衣装を得意とする卑弥呼が言った。
「あ~。それもそうか。いきなり行くんじゃ無理があるか。文字とかも覚えないと授業困るし」
「え~~~」
不満の声を上げたのは季衣。
「部活終わったらすぐに来るからさ」
一刀がなだめた。
二階に上がる。
「ここより上はあとは個人の部屋だ。人数分は足りておる」
鍵を渡す卑弥呼。
「おお、祭殿もこれを機にここで暮らすがよいぞ」
「え? 祭はこれまでどうしてたの?」
「神主殿の家にて世話になっておった」
そう祭が言うと祭と卑弥呼を交互に見る明命。
「勘違いするでない。わしにはだぁりんがおるのだ! しかし、ここは一人で暮らしてもらうには寂しかろう?」
部屋の一つを覗いてみると、扉のすぐ側に流し台。調度品はタンスのみで、あとは窓と押入れがあるだけだった。
「部屋によっては以前の使用者の机や寝台が残っておる。皆で相談して決めるがよいぞ」
相談の結果、三階が華琳、春蘭、秋蘭、桂花、季衣、流琉、稟、風。二階が凪、真桜、沙和、霞、鈴々、紫苑と璃々、明命、祭と決まった。
「掃除用具は廊下の突き当たりの部屋にある。各自、自分の部屋の掃除。それが終ったら共用部分の掃除をたのむぞ」
「そうね。たいして物がない今ならすぐに部屋は片付くでしょう」
華琳も頷く。
「祭殿と流琉は部屋の掃除が終ったら北郷殿と食料品他を買ってきてくれ」
財布を祭に渡す卑弥呼。
「うむ。しかしこの人数分となると人手がほしいの。明命、いっしょにこい」
「はいっ!」
「市に行くの? 私も行きたいところだけど……」
季衣の説明で動き出した掃除機の音に驚き騒ぐ一同を見て。
「監督する者が必要だから無理ね……霞、あなたも一刀たちと行きなさい」
「ええ~っ! ボクは~?」
「季衣はこちらの知識があるから残ってもらわないと困るわ」
「それになんか、気づかない内に買い物籠にお菓子を入れてそうなんだよな」
レジでそれに気づく光景を想像する一刀。
「わかっちゃった?」
scene-道路
「自動車いうんか。あれなら確かに馬はいらん思うけど」
もう何台も車を見て慣れたのか霞が不満そうに言う。
「あ、もっと速度は出るぞ。ここだと制限速度があるからそんなに早くないだけで」
不満の理由を感じ取った一刀が説明しながら目的地へ向かう。
「そうなん? なら見てみたいわ」
「結構早いと思うのです。あ、もう行ってしまいました……」
猫の印の宅配便の車を見送る明命。
「そう言えば、周泰はなんでこっちへ?」
「あ、あの……」
一刀に聞かれ真っ赤になりながら。
「……姓は周、名は泰、字は幼平、真名は明命! 一刀様、よろしくお願いします!」
「え? いいの俺に真名まで教えて」
「はい! 祭さまも教えていますし」
「そう? じゃ、北郷一刀ってのが俺の名前です」
言いながら手を差し出す一刀。
「……あ、えと」
「握手だよ。……ダメかな?」
「いえ! で、では僭越ながら……」
恐る恐る一刀の手を握る明命。
「これからよろしく」
「はいっ! 不束者ですがよろしくお願いします!」
そう真っ赤なまま元気に答えた明命に祭は。
「北郷をたらしこめ、と公謹に言われたんじゃろ?」
「い、いえ、公謹様にはなにも言われておりませんっ!」
焦りながら答えた。
「ならば伯言か? いや、あやつはそんなことは言わぬか。……もしや策殿か?」
「は、はい……て、天の御遣い様の血を孫呉に入れるため、子種をもらってこいと……」
そう明命が縮こまりながら言うと、流琉と霞が一刀を睨む。
「兄様、そのことは華琳さまも知っています」
「せや、華琳は一刀のこと信じてる言うたんや。どういう意味やろな? 魏の種馬やからきっちり仕込むか、それとも」
「け、けれど! 一番の任務は天の情報収集です!」
霞の言葉を明命が遮った。
恥ずかしさに耐え切れなくなったのかも知れない。
「孫策様が来たがったのですが公謹様に止められ、代わりにわたしが」
「ふむ。策殿らしいの。ならば報告書用にノートも買わねばのう」
そう祭が購入物品を再確認する。
「でも、授業やるって言ってたし筆記具くらいはあるんじゃないか? 聞いてみるか?」
携帯電話を取り出す。神社の電話番号は登録済みだ。
「いや、戻ってからでいいじゃろ」
「そうか。……明命レポート……まさか、明命書房っ?」
「ふむ。天のことを記した書か。伯言がさぞ喜ぶじゃろうて」
「はぅあ! わたしの名をつけるのですか?」
かなりうさんくさい無茶苦茶な事をもっともらしく書くんじゃないかと、一刀は心配になった。
scene-スーパー
「すごい……」
「ここは何屋なんや……」
近所のスーパーに買出しにやってきた一刀たち。
霞、流琉、明命は一店舗内に多量の品揃えに驚く。
祭は慣れた感じでカートに買い物籠を載せ。
「ほれ、一つでは足らんじゃろ」
言われてすぐに明命が同じようにカートと籠を用意した。
「えっ?」
「うわっ! 野菜の棚、冷えてんで」
見慣れぬ野菜を手にとってみようとした流琉の動きが止まったので、自分も手を出してみた霞。
「ああ、冷蔵庫の説明したろ? それと一緒だよ」
「凄いのです!」
明命も目を丸くする。
流琉と祭が相談しながら食料品を買っていく。
「な~一刀」
「ん?」
霞が甘えた声で聞く。
「ここ、酒はないんか~?」
「霞……」
一刀は真剣な顔をつくる。
「この国じゃお酒は二十歳になってからって法律で決まってるんだ」
「なんやて!」
霞が悲鳴を上げた。
「そんなん殺生や~」
「ふむ。しかし北郷よ、儂らはもう何百年も前の人間じゃぞ。二十歳などとうに超えておるのじゃ。気にすることもあるまい」
祭がそうフォローする。
「ちょっ、そんなの……けど、今は買えないでしょ。荷物多いから」
「ちっ、もう五、六人連れてくるんやったか」
恨めしそうに霞が嘆く。
「どんだけ飲む気なんだよ……」
「あら、佐藤さん」
「おお、今日は非番か?」
突然、祭が女性に声をかけられた。
祭ではなく、佐藤と。
「ううん、夜勤明け。帰ろうとしたら若い子に捕まってね。相談聞いてたらこんな時間になっちゃったわ」
欠伸まじりにそう言った。
「そうか、看護婦というのも大変じゃのう」
「調子はどう? あんまり無理しちゃダメよ。重い物は彼氏に持ってもらいなさい」
「今日は荷物持ちなら多いのでの」
後ろにいる流琉たちを指す。
「あら、娘さん?」
「はぅわ!?」
驚いた明命が誤解をとくよりも先にタイムセール開始の放送が流れた。
「こうしちゃいらんないわ! それじゃ、また」
女性は本日の目玉、1パック10円の卵を求めてダッシュで去っていった。
「今のは?」
気をとりなおした流琉が聞く。
「儂がこっちの世界に来た時、世話になった病院の看護婦殿じゃ」
「看護婦ってのは医者の手伝いをする人のことだよ」
「いや、あんたんこと、佐藤言うてたやないか」
霞の問に祭は笑う。
「はははは。こっちでの儂の名前ぞ。佐藤祭じゃ。神主殿が用意してくれたのじゃて」
「祭さんはこの国の人間てことになってるんだ。じゃないと色々不便だから。病院代とかも保険あるのとないのじゃ全然違うしね」
「なるほど。では紫苑さんと璃々ちゃんも同じ姓ですから、佐藤さんということになりますね」
調味料の説明を読むのを諦めた流琉が言った。
「あ~、そうなるのか。まあ、佐藤さんてこっちじゃ多い姓だしいいのかな?」
「んじゃウチは?」
「え? ん~、神主さんが用意してくれるんじゃないか?」
「一刀に決めてもらうのがええ! 考えてな」
霞がねだるので一刀は悩む。
「え~と、天和たちも同じ姓になるんだよな」
「鈴々さんもですよ、兄様」
「じゃ、鈴木霞でどうだ? 鈴木さんもこっちじゃ多い姓なんだ」
悩んだ割に安易に決めた一刀だった。
「かすみ?」
霞が聞きなおす。
「こっちじゃ同じ字をそう読むんだ。別にしあでもいいと思うけど」
「かすみでええ。一刀が考えてくれたんや♪」
「きっとみんな兄様に考えてくれって言いますよ」
喜ぶ霞を眺めながらそう流琉は予言した。
<あとがき>
お待たせしました。
……待ってくれてる方、いますよね?
なんとか松の内に投稿ができました。
タイトルは『魁!! 漢女塾』と本気で悩みました。
明命書房はその名残です。
名前に関しては鈴々が鈴木鈴々になって鈴が多くて面白いんじゃないかと、こう決めました。
他のみんなの姓も考えないと。
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