―――悔いはない。
勢いを増す業火の中、敵将に射られた矢が胸を刺していても。
―――嘆きはない。
愛しい教え子たちが、泣きそうな目をしていたとしても。
あの子らがいれば、我が祈りは残るだろうから。もう遠くなってしまったかつての日々に、共に駆けた彼の人の願いも、彼女たちの中で生き続けると信じているから。
「負けて…しまいましたなあ、策殿よ。…お前もがんばったのになあ、冥琳……。」
――だのに。悔いはないと、思っているのに。
「もう少し、だったのになあ…。儂がもう少し上手くやれば……。…いや…曹操めにかかれば同じか…?」
口から漏れるのは、紛れもない、悔恨の念ではあるまいか。
もう、あの子らの姿は見えない。この身は長江にたゆたう、多くの屍のひとつとなったから。
あの子らは、例え負けたとしても…心まで折れはしまい。あの子らは強い。この自分が鍛えてやったのだから。
……折れそうなのは、儂。情けなくも涙を目にため、今にも零さんとしているのは、呉にこの人ありとまで言われたはずの、儂。
親を亡くしたときも、夢を託した主が死ぬときも、背中を鞭で打たれようとも出なかった涙。
「……もう、会えんのじゃなあ…」
愛しい教え子たちの顔が、浮かんでは消えてゆく。
「―――…………………………………………………………………」
もう、熱いのか冷たいのかすら、わからない。
なにも…なにも、わからない。
ただ、残るのは。
愛しい子らにまた会いたいと、ただそれだけ…。
「うわ…また流れてきたぞ。ったく、上流で戦なんかしてくれるなよなあ」
「ん?……あれ、こいつ…」
「…!お、おい!おおい!生きている人がいたぞ!医者を呼んでくれ!まだ息があるんだ!」
「さようなら……愛していたよ、華琳…」
外史の突端が開かれる。
数多の者を巻き込んで、その物語は紡がれる。
彼と、
彼女が、
出会う日は、近い――。
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はじめまして!
これから始まる外史は、分類としては魏√アフターとなります。
ひとつだけ注意事項としましては、このお話は祭さんが生き延びていたら、という外史ですので、
「バカヤロー!祭さんはあの死に様がいいんだよ!」という方は回れ右することをお勧めいたします。
それでもよい、という方はどうぞ。
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