我々は?
アーリンくん……いや、オズバーン団長と言ったほうがいいのかな。
この後、どんなことを言うのか。
その言葉で、世界の命運が決まるかも知れない。
心臓が高鳴ってくる。
周りの人たちをみてみる。顔が引きしまっていた。
みんな、固唾をのんでるんだ。
果たして、朱墨ちゃんが望み、選んだ答えとは。
オズバーン団長は、神妙な面持ちだ。
なぜか、その鼻がひくひくと動いている。
ケースから、こん棒をあらためて取りだした。
そしてじっと見ている。
鼻を近づける。
においを嗅いでいるんだ。
塗りたてのウルシのさわやかな香りが、こっちまできた。
「このマシンがもっと見たいです!」
そう言うと、こん棒とケースをおじさまに渡した。
というか、押し付けた!?
「リッチーさんもオーガもモリーも、そう思いますよね!?」
おじさまは、あっけにとられてすぐ手を動かすことができなかった。
団長の言葉からすると、この人がリッチーさんなのかな。
渡されたこん棒を、なんとか落とさずにすんだ。
さすがプロ。なのかな?
一方のオズバーン団長は、全自動こん棒修理マシンに情熱的にかけより、ピタッ! とくっついた。
……え?
自棄になったり、おかしくなった感じはない。
彼の眼はキラキラと輝き、喜びに見開かれている!
再び周りを見てみる。
全ての顔から引きしめがとけて、口がカクンと開いていた。
みんな、アゴが外れたんだ。
私も。
アゴを、そっと手で押し戻したよ。
「これは。基本構造はオリハルコンではないですよね。
こちらの世界で多く使われる、鉄ですか?!」
団長、興味シンシンだね。
朱墨ちゃん、本当にこれでいいの?
そう思って目をむけると。
胸に手を当てていた。
彼の言葉を、真剣に受け止めてるように見えた。
もしかしたら、いいコンビ、でなくても、いい関係は築けるかな。
だったらいいな。
オリハルコンとは、とっても硬くて異能力を強化してくれる金属だ。
地球では古い伝説にしかほぼ登場しないけど、実在するんだよ。
「ほとんどはね」
朱墨ちゃんが言った。
「でも、部品ごとにいろんな金属やプラスチックなどのいろんな物質を使ってるよ」
「それを電力で動かしているのですか?!
ボルケーニウムの維持にも使えるのですか!?」
ボルケーニウムとは、ボルケーナ先輩の体を作る変な……超常物質。
どんなエネルギーも吸収するし、自分の性質を変えられる。
硬くなったり柔らかくなったり、暑さや冷たさも変えられる。
「主な機械は電力ね。
でもボルケーニウムの維持には、無限炉心て魔法的技術が使われてるはずだよ」
そう言って、朱墨ちゃんは私を見てきた。
「その辺は、うさぎ先輩の方がくわしいはずだよ」
かっこいい!
ここは答えないと。って気持ちになる。
「じゃあ、機密に接触しない範囲で……」
えーと。
「無限炉心とは、私のウイークエンダー・ラビットなどに使われエネルギー源です。
この地球でもっとも小型で、高いエネルギーを発生させる生体部品です。
ボルケーニウムは、機械では維持できません。
必ず生命とつながらなければならないのです」
もうちょっと解説するかな。
「もとは、地球で生まれた技術ではありません。
ルークスという別の星で生まれた知的生命体、タイリナルの生態をまねして作られました」
厳密には、我が特務機関プロウォカトルの長官、落人 魂呼さんの体をね。
あの人は、地球人のお父さんとタイリナルのお母さんの生体情報を混ぜ合わせて作られた。
それは、決して愛と幸せに包まれた関係じゃなかったらしいけど。
私は、あの人のことが好きだよ。
「超高温プラズマ発電の一種です。
太陽と同じような力を使い、少しですが、物理法則を曲げることもできます」
オズバーン団長の目が、ますます輝いた。
本当に、心の底から今の立場を喜んでいる目だ。
なんだか、こっちまで、うれしくなるような……。
「ま、待ってください!」
突然、男の声が引き裂いた。
あの、落ち着いていればイケメンとしか言えない、リッチーおじさまが。
「そういう扱いでいいのですか!?
もっとこう、二つの世界の未来に資するような……」
あまりのセッパ詰まった様子に、絶句してしまった。
一方リッチーおじさまも、何も考えずに叫んだのか、絶句している。
「……そうだ。もとはボルケーナ様に忖度し、勝手にロボルケーナの使用を変えた者たちがいた。
それは上位貴族系と聖職者系だ。その団員をすべて解雇するとか!」
……は?
「「そんなことをしたら、騎士団が3分の1になります!」」
二つの声がハーモニーになった。
思わず見つめあう、朱墨ちゃんとオズバーン団長が。
「そもそも、僕も上位貴族なのに……」
オズバーン団長が困っている。
それを見て、リッキーおじさまは「ああっ」とうめいた。
深い後悔を感じたのか、頭を抱えてうずくまってしまう。
なに、どういうこと?
訳が分からないけど、こっちまで罪悪感に飲み込まれてしまうような、落ち込み方……。
「り、リッチー副団長!」
悲痛な声が聞こえてきた。
あの、朱墨パパにどなり付けられていた店員が。
凍り付いたようなノドを、無理やり使ったようなひび割れた声が。
「よ、よせ!」
たちまち、ほかのお店の人たちに囲まれる。
思わず、暴力的なことが起こるんじゃないか、そんな想像に身を震わせる。
「彼らを怒らせてどうする!」
でも、そんなことはなかった。
あちらはあちらで、共感がお互いを守っているらしい。
でも、代わりにさみしさがやってくる。
私たちって、そんなに孤独なのかな……。
「わかってる。わかってるんです。分かったからぁ!」
うつむき、固く硬く体をこわばらせ、リッチー副団長がうめいた。
「ボルケーナ様は、生まれはこの宇宙だが、育ったのははるかに高次元の神々の世界。
そこで教育を受けた本物の女神!」
そう。あの人の本質はそれ。
時空をつかさどる女神。
でも……その先は私でも知っている。
「その神の最終試験は、異なる世界で時を過ごし、学ぶこと。
し、しかしながら……」
そういえば、この人はなんでその事を今さら言い始めてるんだろう……。
「ボルケーナ様のお体は、大変目立つ!
ボルケーニウムのあらゆるエネルギーに反応する性質によって!
我々はそれにより、事の重大さもわからず、攻撃した!
我々の世界への、未知の脅威として……」
まずい! 止めなきゃ!
「あの、ボルケーナ先輩はそのことを許してますよ。
ほかの神とは性質が違うことは、本人が一番よくわかってるって、言ってましたし」
でもリッチー副団長は、私の言葉を振り払うように体を左右に振った。
「いや、我々の世界だけじゃない!
その前も、その次も、幾多の世界で同じことが繰り返されたぁ」
そして憎しみを込めた目をあげた。
「あんたも!あんたも、あんたの世界もそうだろ!?」
そういって指さした先には、たくさんの暗号世界の人が。
指さされた人たちは、誰も平穏ではいられない。
泣きそうになるか、罪悪感を浮かべてうつむくだけだ。
「結局彼女を受け入れたのは、まったく奇跡の力を使えないこの星だぁ。
そして、こんな世界を標準だと思うようになったぁ
ボルケーナ様は、認識が狂ってしまったんだぁ!」
それを聞いた時、私は全身が震え、火の中に投げ込まれたような熱と、不快感に襲われた。
朱墨ちゃんのロボルケーナの使用を勝手に変えたのも、機械系装備無視して異能力系ばかり持ってくるのも。
今更、先輩の気を引きたいからだ。
私たちのことなんて、ちっとも考えてないんだ!
強い怒りが、私の右手を振り上げさせる!
揺れすげて尻もちをついた男の頭に、振り下ろすハンマーになるよう望みながら。
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今日は、また大地震があった日
皆さん、家具は固定しましょう