クリスマスプレゼント
「寒いね。」
と彼女が呟く。その息は冷たく僕も肌寒さを感じる。
「うん、寒いよ」
何気ない会話を交わせながら僕らは活気あふれる街を歩く。
クリスマス前とあってあちこちからクリスマスソングが流れている。
今の時間は僕と彼女が二人だけで出会える時間。
この時間だけが僕と彼女に許された自由。
だから、僕らは手をつないだ。
この寒い空の下、僕らは手をつなぎ暖かさを分かち合う。
過ぎゆく時間が惜しくて、時間の流れが遅く感じる。
「もうそろそろ時間だね」
そう言って彼女は僕の元を離れる。
わずかな時間に取り残されたのは小さな彼女のぬくもり。
「じゃあね、また明日」
その言葉を残し彼女は後姿を見せる。
また、明日……か、どれだけこの言葉に救われただろうか?
きっと、数えることなどできない。
いつもと同じ時間に分かれる彼女を見ると僕は目から涙があふれそうになる
何故だろう?
この気持ちに嘘はつけないはずなのに。
僕は彼女が好きだ。
彼女も僕のことは好きだと思う。
でも、僕と彼女は別に付き合っているわけではない。
俗に言う友達以上恋人未満という関係だ。
「寒いね」
「うん、寒いよ」
会話はその言葉の繰り返しだけ。
言葉は通じなくとも、相手の気持ちはわかる。
繋がれた手からはぬくもりが伝わる。
そう、僕らはただ歩いているだけでも伝わるのだ、想いが。
これがずっと続けば幸せなのに。
「じゃあね、また明日」
でも、それはただの夢であり希望。
そんなこと適うはずがない。
だって僕は、彼女が好きだから。
彼女が好きだから、僕は彼女が嫌がることや悲しむことは絶対にしない。
だから、僕の見ている夢や希望は適うはずなんてない。
僕は毎日ただずっと彼女の後姿を見ながらそれとない切なさを感じる。
「寒いね」
「うん、寒いよ」
いつもと同じような会話を続ける。
事務的で機械的な会話。それでも僕には伝わる。
そんないつもと変わらぬ日だと思ったが次の瞬間、僕は呟いた。
「雪だ」
それは雪だった。空から降ってくる白はクリスマスソングと合わさってクリ
スマス前だと言うことを教えてくれる。
「綺麗ね」
彼女も呟く。その言葉にはどんな意味が含まれているのか。
僕は空を見つめた。白の雪と灰色の空が美しさをかもし出している。
「ちょっと、いつもより歩こうよ」
と彼女が言う。
久しぶりの言葉。彼女はきまぐれにこういうことを言い出すことがある。
勿論、僕は賛成だ。
いつも違う道に入り、彼女と歩く。
不思議と足取りが軽くなり徐々に体がぽかぽかしてきた。
その所為で彼女との散歩を堪能できなかったが。
それでもいいと思った。
今の幸せがつかめるならそれでもいいと。
「ねぇ、明日も歩こうよ」
と彼女が言う。明日は何も予定が入っていない。
僕は笑顔で答えた。
「ああ、歩こう」
次の日。
僕と彼女は人の少ない公園を歩いていた。
昨日降った雪は今も続いており雪が積もっている。
「見てっ足跡。私が一番乗りっ」
久しぶりに彼女のはしゃぐ姿を見れたかもしれない。
昔から僕と彼女は一緒だった。
同じ幼稚園にも通ったし小学校も同じだった、中学校は違ったけど高校でま
た会うことができた。
僕は彼女のその姿に小さく微笑んだ。
そして、決意した。
言おう、今までの全てを。
「ねぇ」
「ん?何?」
「僕は君が好きだった。」
「…だった?」
「うん、ついさっきまで」
「なんで……」
「その先は言ってはだめだよ、だって僕は気付いたときには遅れていたんだ
から」
「もし、ここで僕が君に告白したら君は絶対悲しむ。」
「……」
「じゃあ、ね。ハッピークリスマスには間に合わなかったけど。プレゼント
」
最後の最後まで彼女は何も言わなかった。
僕はその場を早足で過ぎ去りいやな自分を振り払う。
腕時計をチラッと見て時間を確認した。
最後の日くらいゆっくりしたかったけどもう時間がない。
僕の自由な時間の終わりだ。
白くて簡素な部屋に戻ると同じように白い服を着た男と女が出迎えた。
彼らは僕の体を心配したが意味のないことだ。
しばらくすると家族がやってきた。
家族は泣きながら僕にいろいろと言った。
頑張れとかそんなことを。
やがて、家族は出て行き僕の最後の夜が終わった。
僕の体はずいぶん前から壊れていた。
生まれたときから壊れていた。
主に心臓が壊れていた。
今まで、何度も手術をしたけどもう持たないかもしれない。
最後の手術を受ける前に僕は一つだけわがままを言った。
数週間でいいから外出許可を出して欲しいと。
無論、彼女に会うためだ。
許可は簡単には下りなかった。
そのため、いくつもの条件がついていた。
時間と場所。そして、天候など。
そんな厳しい条件でも僕は彼女と手をつなぎたかった。
そして、普通に街を歩いて見たかった。
この手術で僕の命運が決まる。
でも、もう大丈夫。僕は今死んでも大丈夫。
彼女にちゃんといえたから。素直にその気持ちを。
そんなときだった。
誰もいないの病室に人が入ってきた。
その人は走ってきたようで息が荒い。
男の医師が異常に気付きその人を止めるがその人は僕の元にやってきた。
「こんな……こんな、プレゼントなんかいるかぁっ!!」
彼女だった。彼女は僕にさっきあげたプレゼントを投げつけた。
「私は欲しいプレゼントが他にあるのよ!!」
と泣きながら言ってきた。
なんて、奴だよ。まったく、最後の手術前にそんなことを言う奴がいるなん
て。
半ばあきれていると彼女は言葉を続けた。
「私の欲しいプレゼントは”あんた”だよっ!!こんな手術なんてラクに突破しちまえ!!私は待っているからな。クリスマスの夜にあの公園で!!」
彼女はそのまま医師に取り押さえられどこかに連れて行かれた。
何故だろう。さっきまで死んでもいいやって思っていたのに。
気付いたら泣いていた。
「あんなこと言われたら、もう、がんばるしかないじゃないか」
僕は再び生きる気力を思い出した。
私は待っていた。
あの公園で。彼を。今までずっと一緒に歩いてきて私は本当に彼が好きだと
わかった。緊張してあまり、話せなかったけど心に残るいい思い出だ。
私はずっと待ち続けた。
まだ、夜にはきっと遠い。でも、彼は必ずやってくる。
病院を抜け出してでも。
私には彼の病状は一切聞かされていない。
ただ手術が終わったとだけ聞かされた。
彼はまだ生きているのだろうか?
こうやって一人で待つ時間がもどかしい。
そして、夜になった。
夜になっても彼は現れない。
病状が安定しないのだろうか?
それとも、見張られているのかな?
時間はやがて11時をさした。
さすがにもう遅いので母からの電話が何通も携帯にかかってきている。
私は諦めて帰ろうと思った。
その時、空から缶が降って来た。
いきなりなので落としてしまう。
「よぉ、それは遅れた侘びだ」
彼がいた。
彼の声を聞いた。私は彼をみた。
彼はこの前と変わらない姿で私に笑顔を見せている。
そして、彼はいった。
「ハッピークリスマス」
Tweet |
|
|
2
|
0
|
追加するフォルダを選択
冬の創作祭用の作品です。面白かったら支援をお願いします。