No.112572

真・恋姫無双 ~不動伝~ 閑話

本作品はオリキャラが主人公のために、以下の条件の下で大丈夫な方のみお読みください。

・オリキャラが中心となる物語
・北郷一刀は存在
・蜀√を軸に『三国志』『三国志演義』を交えていきます

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2009-12-16 16:35:52 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2807   閲覧ユーザー数:2478

孫策に助けられて三日が過ぎ、信也たちはまだ孫策の館に残っていた。

孔明と士元が周瑜から勧誘を受け、その返答を出すために留まっていたのだ。

信也からすれば孫策側は手を引いたと思っていたが、思い違いだったようだ。

要するに勧誘するが、二人の意見を尊重する。無理強いをさせない、とのこと。

もし二人が自ら孫策に仕えると言うのならば、信也が割り込む余地は無い。

史実とは違う結末を迎えることになるが、世界が違うのだ。

このような展開になっても、これがこの世界の流れと言うものだろう。

ならば、無理に史実通りに拘る必要はない。

これでこの国が良くなるのならば万々歳だし、無理だとしても二人が納得して決めた道なのだから後悔をしないはずだ。

 

信也は、館の中庭でのんびりと腰を下ろして寛いでいた。

元々用があるのは孔明と士元の方。信也は医者に診せるために連れられただけだ。

診察の結果、体の方も気分が優れなかっただけで別状はない。

となるとただの二人の付き添いで孫策の館にいる信也は、手持ち無沙汰なのだ。

 

移動出来る範囲も限られている。玉座の間も執務室も修練場も凡そ重要機密となり得る場所の出入りは禁止。

また、孫策と周愉に対して不遜な態度は勿論、対抗的な言動を見せた信也は、孫策軍の兵士からはいい思いをされていない。

孫策たちに対して忠信を捧げる彼らにとって、信也は忌むべき存在なのだ。

信也が彼らの視界に入る度に射抜かれる視線を浴びせられ、批難中傷の言葉が飛び通う。

そうなると動き回られる場所は自ずと絞られてしまう。宛てられた客室か人気の少ない中庭だ。

もっとも信也は、自身の言動がもたらした評価に後悔はしていない。

 

「二人は今日も孫策と周瑜と難しいお話か」

 

地べたに座って、庭を眺めるだけでぼーっとする。

孔明と士元は、孫策と周愉に呼ばれて執務室やら苑城の町中へ出かけたりしている。

水鏡の下で学んできたことを聞きたいらしい。色々と政略について語り合っている。

そうやって言葉を交わさない限りは仕えるか否か決められないだろうから仕方が無い。

二人が納得出来る結果が出るまで、信也は時間を無味に味わうだけだ。

 

そんな信也を見かけて立ち止まる人間が一人。

『美周郎』周瑜の愛弟子――陸遜だった。周瑜に代わって政務に励み、一息つこうと散歩に出ていた。

そして、だらけ切った信也を見かけると彼の許に歩を進める。

 

「不動さん、暇を持て余してますねぇ」

 

「げぇ、陸遜!?」

 

「女の子に対して、その反応は酷いですよ~」

 

陸遜の突然の登場に、信也は露骨なまでに嫌悪感を露わにした反応を見せる。

そのことに傷付いて、陸遜も抗議の声を挙げる。

 

「いや、悪かった。ぼーっとしてるところに声かけられたからさ」

 

「まあ、そういうことなら許してあげましょ~」

 

困惑気味の顔をして、信也は弁明してみる。

陸遜も軽い気持ちだったために、スマイル百パーセントと言える笑みを浮かべて許した。

 

「ところで~、不動さんはどうしてこの場所に?」

 

「暇だから自然の緑を見に来た」

 

「孔明ちゃんと士元ちゃんと一緒に呼ばれてなかったんですかぁ?」

 

「俺は二人のおまけだから」

 

「不動さんも水鏡塾で勉学をしてきたと聞きましたよ~?」

 

「勉学って言っても文字の読み書きだから。場所が場所だから孫子とか六韜とか使われたけど」

 

「孫子と六韜を文字の読み書きの教材に使うとは……司馬徽さんって凄い人なんですねぇ」

 

孫子も六韜も頭に超がつくほど有名な兵法書だ。

軍略を学ぶならともかく、読み書きの教材に使うと言うことは軍師である陸遜にとって突飛な考えだ。

水鏡に対して間違った認識を持とうとする陸遜にすぐさま訂正を入れる。

 

「いや、教えてくれたのは門下生の一人。あの二人の姉貴分」

 

「あのお二人の姉貴分ですかぁ。きっと可愛らしいんでしょうねぇ」

 

孔明と士元の姿から可愛らしい少女の姿を想像しているらしい。

 

「あー、うん、可愛いと言えば可愛い……か?」

 

信也も肯定しようと思ったが、言動は如何せん可愛らしいとは程遠いから語尾が曖昧になってしまった。

 

「じゃあ、そろそろ部屋に戻るわ」

 

「あ、もう部屋に戻られるんですか? 残念です~」

 

まだ話がしたかったのにと言った感じに落胆する陸遜を尻目に信也はさっさと中庭を後にする。

ぶっきらぼうに会話を続けていたが、もうこれ以上は信也の我慢の限界だった。

 

この三日間、何かと顔を合わせれば陸遜の方から話しかけれ、そして話もそこそこに信也が撤退するという繰り返しである。

陸遜とはどうも肌が合わない。というよりも、あの穏やかな雰囲気が苦手なのだ。

調子が狂ってしまい、やり難さを感じてしまう。そして、気持ちに余裕を持てなくなる。

孫策や周瑜のような相手を威圧するような人間が相手だと強気に出れる。

過酷な山登りで培ったバイタル精神が、彼女らを登り詰めてみせる山と勘違いしてか発動するのだ。

もっとも命の危機を感じると生存本能がそれを上回って、生きるべく道を模索し始めるが。

しかし、これだけだと理由は半分。残り半分は、男としての悲しき性だった。

 

(あんなもん目の前で見せられて、まともに話せるかぁぁぁぁ!)

 

言うまでもなく、陸遜のたわわに実った胸である。

思春期の信也からすれば、情欲を掻き立てるような格好は目の毒だ。

呉の人間には珍しい肌白に覗かせる胸の谷間。そして、動く度に揺れるのだ。

せめて後一枚服を着込んでくれれば、まだどうにかなる。

今の今まで恋らしい恋をしてきたことのない信也は、対処法を身につけてないために悶絶とするしかない。

女たらしの軟派野郎か、頑固なまでの硬派にでもなれるのなら苦労しないのだが。

 

 

 

 

 

 

          真・恋姫無双 ~不動伝~ 第五話 閑話

 

 

 

 

 

 

「親っさんが呼んでるって?」

 

陸遜と別れてから部屋に篭り、軽く筋肉トレーニングでリハビリをしていた信也の許に孔明と士元が帰ってくる。

二人が言うには、隊商の親方が先日の賊の襲撃に対する礼をしたいとのことだった。

三人が断る理由もないし、むしろ断れば失礼に当たるから親方が待つ城門に向かうことにした。

 

城門に到着し、親方を捜す。門の前に積荷を載せた馬車が並んでいたので、好々爺の親方はすぐに見つかった。

 

「おお、これはこれは不動様。ご無事でしたか。心配しましたぞ」

 

「すいません。心配をかけさせたようで。酔っていただけですのでもうこの通りですよ」

 

吐いて倒れたことを指していることに気付いた信也は、苦笑しつつ胸を張って健康ぶりをアピールする。

 

「ほう、そうですか。いや、若いというのは良いものですな。私は歳のせいか、滅法腰が痛くての」

 

「それなら八味地黄丸はどうでしょう。食前か食間にお湯に溶かして飲んでくださいね」

 

「流石でございますな。軍略だけでなく、薬学にも通じておられるとは。神童とは、諸葛亮様や鳳統様のことを言うのでしょうな」

 

薬学に精通している孔明が一案を示すと、親方は孫を見るような柔和な笑みで褒め称える。

水鏡塾以外の人に褒められた経験が少ない二人は、顔を赤くしてはわはわあわあわとどぎまぎしていた。

 

「さて、お三方には先日の礼を受け取ってもらいたくて、来て頂きましての」

 

親方が手を二度叩くと近くにいた召使いが隊商の列に飛んでいく。

そして、戻ってくる時には一台の馬車を引いてきた。

よく見れば、荷台を引く馬は、信也たちが乗っていた馬車の馬だった。

 

「親っさん。これは?」

 

信也が三人を代表して、召使いに引かれている馬車を指差しながら訊ねる。

 

「先の賊の襲撃で、ここまで無事で済みましたのもお三方のお陰でございます。

 そして聞けば、そちらのお二方の仕える君主を探す旅に出ておられると。

 足としてこの馬車を進呈させてくださいまし」

 

手を前に指し示す親方に合わせて、召使いが馬車を信也の横まで引いていく。

信也もまさか馬車をもらうことになるとは思ってもいなかったので、後ろの二人に視線を投げ掛ける。

 

「私は、いいと思いますよ。旅の道中も馬がいれば、楽になることは確かですし」

 

「私も朱里ちゃんに賛成です」

 

孔明も士元もさほど気にした様子はなく、素直に受け入れていた。

馬車が信也の横まで来た時、馬が信也に鼻を摺り寄せてくる。

 

「うわっ。どうしたんだ、お前」

 

「ほっほっほ。馬は頭のよう動物でございます。不動様に世話されたことを覚えておいてなのでしょうな」

 

隊商に同伴するお返しとして、信也は馬の世話を見ていた。その中に信也たちが乗っていた馬車の馬も含まれていた。

 

「この馬は私と同じ様に若くはないですが、人に従順な馬です。必ずや、お三方の旅の助けになるでしょう」

 

信也は、鼻を摺り寄せる馬の頭を撫でながら頭を下げる親方を見る。

大きな贈呈を頂くことになるが、二人が問題ないと言っている以上断る理由は無い。

決心した信也は、拱手の構えを取る。

 

「親っさん。確かに受け取った。親っさんたちの商運を祈る」

 

「ありがとうございます。これにて私も次の商用地に向かいます。それと……」

 

すっと親方が近づき、信也に耳打ちする。

 

「昨今の洛陽は、危のうございまする。今は避けられるべきかと」

 

信也たちの行き先を知っているからこその警告。耳の早い商人の情報故に信憑性がある。

 

「では……」

 

そして、親方は行列の中に戻っていくと隊商は歩み始めた。

隊商が城門を出ていく頃合を計って、孔明と士元が信也に問う。

 

「さっき、親方さんに何を言われたんですか?」

 

「洛陽は危ないだとよ」

 

「やはり……」

 

信也の返答に神妙な顔つきになる二人。

 

「やはりって何か知ってるのか?」

 

「は、はい。孫策さんと周瑜さんから色々と話をしていたんですが、やっぱり今の洛陽には何の意味も為さないと」

 

「ですので洛陽から変更して、陳留に向かおうと思っていたんです」

 

士元の言葉を聞き、信也は疑問に思う。言葉通りの意味ならば、それは孫策に仕えないと言う回答だった。

 

「それは、孫策には仕えないってことか?」

 

「はい。この三日間孫策さんと話してましたが、私たちが思う君主像とは違っていまして」

 

「それでこの町で集めた情報の中で、陳留は優秀な太守が治めているようです」

 

「それって誰?」

 

「はい。曹操さんという人ですね」

 

「……孫策の次は、曹操と来たか」

 

『三国志』の真の主人公とも言える曹操の名を聞いた信也は、なんとも言えぬ心境になっていた。

曹操が黄巾の乱が起こる前に陳留を治めていた話は聞いたことがないが、陳留は曹家縁の地だから十分にあり得る。

 

(それ以上に孫堅が死んで、孫策が袁術の客将なんだ。就いてる地位は違うかもしれんな)

 

信也の持つ歴史知識と大きく乖離しているが、目下の問題は黄巾の乱。

いかなる地位に就いていようとも必ず黄巾党征伐に乗り出してくるだろうし、今の地位は然程問題ではない。

三国志の主役級を巡り歩く旅になってきているが、むしろその方が新しい発見があって楽しめるものだろう。

こうして信也たちの次の目的地は、兗州陳留郡を目指すことになった。

 

 

旅の目的地を変更した後、孔明と士元は孫策たちに仕官の話に断りを入れた。

現在もまだ残念がっているが、権力や武力を行使してまで引き留めたりはしない。

信也の睨みが効いた訳ではないだろうが、衝突し合うことにはならないようだ。

 

孫策の館の門前に信也たち三人に賜った馬車、孫策がいる。

後から周瑜も来る予定だ。陸遜と黄蓋は、それぞれ仕事があるために見送りには来れなかった。

信也と孔明は馬車の方に荷物を載せたり、備品の確認をし合っている。

手持ち無沙汰の士元を見て、孫策はちょっとばかり悪戯をしてみる。

 

「あ~あ、結局行っちゃうんだぁ」

 

「あわわっ! しゅ、しゅみましぇん」

 

「あー、いいのよ。強制で仕えさせることに意味はないし。それに私も嫌だからね」

 

がっくりと肩を落として落胆する孫策に士元が慌てる。

根が素直なだけに冗談とは思えなかった士元を、子を宥めるように言い直す。

 

「う~ん、せっかく可愛い部下が出来ると思ったのにな~。蓮華やシャオにはない可愛さだし」

 

「孫策殿。気持ちは分かるが、別れの挨拶に来たのだからな」

 

あわあわと慌てる士元の様を愛玩用のペットのように思えてきて、抱きつきたい衝動に駆られていた孫策に周瑜が制止をかける。

周瑜自身も相当忙しいが、この地に留めた責任感なのか時間を作り、見送りにやってきた。

そして、信也も孔明も馬車の準備を終えて、士元の傍まで戻ってくる。

 

「もう、冥琳ったら固いわね~。まあいいわ。貴女たちの理想が叶うといいわね」

 

「「は、はい!」」

 

髪をかきあげて激励する孫策に、二人は元気に声を揃えて返事をする。

 

「お世話になった。じゃあ、行くか」

 

信也は頭を下げ、一言だけ礼を述べると再び馬車の方に戻っていく。

今更態度を和らげる気はないし、孫策たちも信也の態度に目くじらを立てるほど狭量ではない。

むしろ、最後の最後まで貫いた信也の信義には幾許かの感嘆を覚えていた。

 

孔明と士元も拱手して、深く頭を下げると信也の許に走っていく。

そして、馬車に乗り込むと信也が馬の手綱を握って、城の外へと馬を歩かせた。

 

「これでせっかくの有望な人材が零れ落ちたか」

 

孫策の館から抜けて見えなくなった頃に周瑜が残念そうに呟く。

 

「でも、いい話を聞けたじゃない。まさか、あそこまで深く考えているとは思ってもいなかったけど」

 

「もし、あの二人がどこかに仕官したとならば面倒になることは確かだ」

 

「あら? 面倒になっても勝つ自信があるんでしょ?」

 

周瑜のらしくない弱音に対して、孫策は目を細めて挑発する。

 

「当然だ。なんのためのお前の軍師なんだ?」

 

その挑発に、周瑜は瞼を閉じながらも自信に満ち足りた微笑を浮かばせて答える。

 

「やっぱり、我が軍の軍師様は冥琳に決まりね」

 

周瑜の言葉に満足したのか、孫策はからからと人懐っこい笑みを返す。

 

「それにしても……あの不動という少年。穏が警戒していたが、雪蓮はどう思う?」

 

「うーん、放っていても大丈夫かと思うけど……ただ、どこかの勢力について好き勝手に動くとなれば厄介な気はするわ」

 

周瑜の問いに最初はうーんと唸っていたが、面白くなさそうに答える。

 

「それは、勘?」

 

「ええ、勘よ」

 

畏れ、慕われはすれど、信也みたいに反骨の感情を剥き出しにされたのは初めてだった。

孫呉の王に対して一度も引かず、己が信義を武器に立ち塞がった人間に興味を持たないのが無理と言える。

だが、同時に信也を従わせることは無理だとも分かっていた。

 

ああいう人種は、人の下に就くことが出来ない人種だ。引き込めてみせたとしても扱い切れない気がした。

信也と言う人間は籠の中で飼うのではなく、大空を自由に飛び交わせて初めて活きていけるだろう。

だからこそ安心していた。孫策自身のように覇権の野望を持つ人種は、得てして人を従わせようとする。

そのような人間が相手ならば、信也の持ち味を生かし切れない。

もっとも諸侯の全てを把握し切っていなかったためにその目論見は外れてしまうのだが。

 

 

ここは、幽州涿郡太守公孫賛の居城の一室――公孫賛の執務室である。

 

「白蓮ちゃん。今日も政務?」

 

「桃香……か」

 

その部屋に顔を見せに来たのは、かつて盧植の下で机を並べて学び合った学友の劉備、字は玄徳と言う。

劉備の声に気付いて、執務机の脇に高々と積み重ねられた竹簡の影から顔を見せる。

韓紅花(からくれない)色の髪を短くポニーテイルに束ねた、影の薄「待て。それはどういうことだ?」……利発そうな少女こそが、公孫賛伯珪。

 

お茶の誘いにでも来た劉備だったのだが、公孫賛の沈んだ声を聞いて不安になる。

執務机の向かいまで歩き、親友の様子を見に行く。間近で顔を見れば、凛々しい顔なのに目の下に隈が出来ていた。

 

「ねえ、白蓮ちゃん。ちゃんと寝てる?」

 

「いや、ここのところは徹夜続きだ……」

 

ぐったりとした様子で公孫賛はうな垂れる。そろそろ精根尽き果てそうである。

 

幽州は漢帝国の東北端に位置する。その位置関係で北方の騎馬民族――鮮卑、烏桓が長城を越えて侵攻してくる土地柄だ。

劉備たちが客将として迎える前にも鮮卑族の侵攻があり、その討伐に当たっていた。

その功績を認められ、幽州涿郡太守と言う立派な地位に就けたのだが、今度は散発する賊の退治に追われる。

そのためにすっかり政務が滞ってしまっていた。

 

「他に任せられる人はいないの?」

 

「うちは年がら年中人手不足なんだよ。麗羽――袁紹が冀州を治めてるから、こっちまでいい人材が来ないんだ」

 

幽州の南に位置する冀州は、四世三公の袁家の出身である袁紹が治めている。

有望な人材は、皆四世三公の光栄にあやかろうと袁紹の下に集うのだ。

だから他方の人材が、幽州までやって来ない。公孫賛自ら人材を探したいが、政務に賊退治に異民族討伐に忙しい。

 

「あははは……大変そうだねぇ」

 

そんな公孫賛の鬱憤とした雰囲気に劉備は苦笑いする。

 

「大変ってもんじゃないさ。というよりも桃香も盧植先生から学問を習ったから政務の一つや二つ、出来るんじゃないか?」

 

「ぎくっ」

 

「……先に聞いておく。その『ぎくっ』ってなんだ?」

 

公孫賛の学友であると言うことは、学問に覚えがあると言うことだ。

すっかり忘れていた公孫賛も公孫賛だが、劉備は劉備でまるで気付かれたくなかったのか冷や汗を掻いている。

しかも態々擬音まで口にする辺り、どうしようもなく嫌な予感が公孫賛の頭に過ぎった。

 

「だ、だって、魯植先生の下から卒業してから、ずっとあちこちで人助けしてたから勉強する暇なんてなかったんだもん!」

 

劉備は、ぷんぷんと憤懣やるかたないと言った感じに頬を膨らませる。

三年もの間、定住の地を持たずに人助けに精を出してきたために学問なんて頭からかなり抜けていた。

孔明や士元のような天才と呼ばれる人種ならいざ知らず、凡才止まりの劉備が三年間記憶に留め切れるというのは酷というものだ。

秀才と言われた公孫賛も卒業後は孝廉に推挙されて、官職を得たことで忘れる暇がなかっただけなのだから。

もっともその旅の途中で義妹になった関羽、張飛の二人に出会えたのだから抜き差ししてもお釣りが十二分に余る。

さらには自称大陸一の占い師、管輅が予言してみせた『天の御使い』を拾う辺り、どう転んでもただでは起きない体質と言える。

 

「でもそれじゃあ、一国一城の主になった時にどうすんだ?」

 

「うっ。そ、その辺は、ほら! 皆で力を合わせれば大丈夫だって! うん!」

 

太守と言う役職に就いているだけに鋭い突っ込みがすかさず飛び、劉備はうろたえる。

そして、出てくる言葉はまるで『赤信号、皆で渡れば怖くない』的なノリだった。

流石にそれには公孫賛も溜め息を吐きたくなる。今のうちに矯正せねばならない気持ちが沸々と湧いてくる。

 

「はあ。桃香、城にある書庫から本を持ち出していいから勉強した方がいいぞ」

 

「えぇ~。大丈夫だから! 私ってほら、いざと言う時にどうにかなるから」

 

今までは上手く行ってもその次もあるとは限らない。むしろ、長だからこそやらねばならぬこともある。

親友の将来を考えれば、今ここでどうにかすべきだ。なので、実力行使に出る。

 

「ったく。関羽辺りにでも言って、無理矢理にでも勉強させようか」

 

「う~。愛紗ちゃんまで引っ張り出すなんて酷いよ」

 

関羽の名前を出されると受けざるを得ない。義妹には常日頃耳が痛くなるほど言われてきたからだ。

公孫賛の許可を得たとなれば、間違いなく張り切って勉強を見ようとする。

そんな光景がありありと脳裏に浮かんだ劉備は、深く溜め息をついた。

 

「桃香を思ってのこそだ。いいか、しっかり勉強しろよ?」

 

「はぁ~い」

 

渋々と了承とする劉備は、とぼとぼと公孫賛の執務室を後にする。

素直な劉備のことだ。嫌々としてても、なんだかんだと勉強を始めるだろう。

そして、その時に北郷から勉強を見てもらうことでその気持ちも吹っ飛んでしまうことになる。

 

しかし、他人の身を案じるよりも己の身を案じるべきなのだが、ここは劉備の親友と言ったところか。

大徳の劉備に負けず劣らず人が良い公孫賛だった。

果たして、彼女が日の出を見ることを叶う日が来るだろうか。

 

 

 

 

 

          第五話、完

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

久々に前回投稿から一週間以内に投稿出来て嬉しい、もちら真央です。

 

今回は、題目通りにぶっちゃけなくてもおk。

ダイジェストにして陳留に到着してもよかったんだけどね。

ただ、時機がそろそろ近づいてきているので色々と込み入った話を加えるために合間を。

それに主役の二人を同じ一話に纏めるのもバランスが悪いし。

おかげで拠点フェイズ並の短さになってしまいましたが。

 

そして、桃香と白蓮の学友コンビを短編で書いてみましたが、どうでしょう?

二人の雰囲気を上手く出せていたら、満足なんですけどねー。

ちなみに桃香・愛紗の拠点フェイズ二番目をネタにしてます。

桃香が勉強する前にこういうやり取りがあってもいいんじゃない?

って思って書きましたー。

 

さて、次回は華琳の登場ではあるが、ぶっちゃけ出番はわきy(∩゚д゚)アーアーきこえなーい

 


 
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