No.1119326

ふたつの澪の来し方行く末

【ネタバレ】 DQX3.4

【その他】 1ページ目がヒューザ、2ページ目がいわゆる「器」視点です
3.4クリアで、もうちょっと掘り下げたくなったテキスト。
いわゆる「器」に、両親の属性を付加してみています。

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2023-04-27 12:21:25 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:266   閲覧ユーザー数:264

レーンにいた頃のあいつの事で、よく覚えてんのは、

何か頼まれごとを持ちかけられた時のこと。

 

 

「裏の藪でマムシが出たらしいんだ。

 この辺のは毒はほとんどないから、ヒューザ、お前何とかしてくれ。」

「はあ? わざわざめんどくせえ。見かけた奴が捕ればいいだろ。」

 

「ヒューザ、ヒューザ。」

「あ?」

「これ。こんなこともあろうかと新しく捕獲用具作っといたんだ。

 使ってみて。安全だし速く動くしきっとばんばん捕れるよ!」

「……お前、人の話聞いてたか?」

 

オレが断ってんのに、あいつはとんだおせっかい病で、

オレも巻き込んで受ける前提の話をしてきやがる。

しかも妙な新作発明品つき。試したい感前面な表情つき。

あいつは、孤児院での生活当番や、オレとの剣の稽古の合間には

暇さえあればなんかアイテムいじって便利なもん作ったり、本読んだりしてたよな。

 

 

「あ、海に逃げたらこの槍使うといいよ! もちろん普通にも使えるけど。

 この前ジュレットに行ったとき、素材と交換してもらったんだ。

 槍先の金属が被膜を作るから、海水でも錆びないよ。銛がわりになるんだ^^」

「いや、そうじゃなくてだな、」

「うん、ほんとはこれじゃなくてプラチナ鉱石製だと一番いいんだけど、

 さすがにここらの素材と交換じゃ手が出なかったんだ。」

「そうじゃねえって。」

 

 

……あの事件のあとも、あいつは同じようにお人よしだったけど、

いつもマイペースに笑うあいつは、あのときどっかへ行っちまった。

 

死ぬか生きるかの経験をしたせいだ、と、最初は思った。

けど、たぶん、違う。

 

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村を出てからも、何度か会ったけど、

どう確認していいかもわからねえまま。

 

だけど、元のあいつが言うはずのことを、言わねえんだ。

 

『小さいと猫もかわいいなあ。あ、運ぶのにこの前改良したこの麻袋使えるね!

 首だけ袋から出してやればいいよ。さすがにそのまま運ぶのは怖いしなあ。』

 

『あ!王子の服そのまんま借りたら腕のタトゥーも隠れてる。

 ちょうどいいじゃないか。影武者のためにあつらえたみたいだ!』

 

そんなこと、言うだろうな。オレが乗り気かどうかなんてお構いなしに。

目の前のあいつが、なんて言ってたかは、……忘れた。

 

----------

 

海の底で死にかけて、フィナに助けられて、

ルシュカで説明したら「言葉がわかるのか!?」とか言われて。

 

面倒そうだと思ったとき、いるはずもないあいつの声が頭によぎったんだ。

 

『どういう理由で声が聞こえるのかなあ。わかれば他の人にも聞こえるかも。

 とりあえず側で助けてあげながら声のこと考えればいいよ。ね、ヒューザ!』

 

 

あいつが無事で、一緒に旅でもしていたら。

きっとそう言うだろう。オレはここで騎士になるんだろう。

 

……かなわないなら、せめて。

もしあいつが生きていたなら在るはずの世界と、同じ世界になればいい。

「……いくら聖職にある僕でも、そんなに負のオーラ出されてたら呪われそうですよ。」

虚空に向かって言ってみる。

 

ウェディの『彼』とは滅多に話せたことはない。自分の姿を取り戻せたときと、

冥王の城と、夢現の呪いのさなか彼の両親を見つけたときと……

そんなに頻繁に現世に意識を持ってはこられないんだろう、とは、思う。

 

けど。

「聞こえてたんでしょう、巫女フィナの部屋でヒューザの話したこと。

 ご存知の通りの『敬虔な』僧侶でよければ、話くらいはできますよ。

 解決の保証は、しませんけど。」

 

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水の領界で。

エテーネの彼と、彼を見守る僕は、ヒューザに会った。

 

最初は、ここに連れて来られて、水の領界にとらわれてるんでないといい、なんて

心配してたんだ。町の人は海上に出られないみたいだったしね。

 

だけどヒューザは、海のとらわれびとじゃなかった。

 

僕の、とらわれびとだった。

 

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「ヒューザに……縛られてほしくないって、思ってるだけ。」

現れたウェディの『彼』は、しばらくしてからそう言葉を紡いだ。

 

「ヒューザを僕が縛るなんて、いやだ。僕の分も、自由に生きて欲しいんだ。」

 

「君の立場なら、そう思うのは、わかるんですけど。

 同じように、ヒューザの……残される側の気持ちも、わかってあげては?

 例えば僕だって、君や君のご両親に申し訳ない気持ち、ありますよ。」

 

「だってヒューザには肉親……家族もいないし、

 もう何かをなくして、それにとらわれて生きてほしくないよ。」

 

「つぐないの時を生きようと思うのも、ヒューザの自由ですよ。」

 

「……。」

 

「ほんとはわかってるんでしょうけど。

 ヒューザが何も言わなくても察して、贖罪の旅をしてるのは、

 君が大事だったからですよ。」

 

「………っ!」

 

「家族がいない?

 そうやってつぐなおうとするくらい、大事な家族がいたんでしょ。

 君だ。」

 

「…………でも、どうすればいいんだろう……。

 僕にはだって、もう……何もできない。」

 

そうひとこと言い残して。

彼はまた、虚空に消えた。


 
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